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夏休みが終わり、新学期が始まった。夏休みの宿題はマナの分も俺がやったので何の問題もなく新学期を迎えられた。
一方、夏期講習を終えたマナは、平常通りに予備校に通ってはいたけど、夏休み中のようには山崎とは会わなくなっていた。山崎から会おうとは言わなくなったようだ。マナは寂しかったようで、執拗に電話をしたりメールを送っていた。でも、山崎からの返事は素っ気なかったようで、いつも悲しそうな顔をしていた。見ていられなかった。遊ばれていたと周りから言われた方がいいのか、それとも自分で気付かせた方がいいのか迷った。結局、何も言い出せないまま、俺は普段通りにマナに接し、遠くから見守るだけの状態が続いた。また、ガリベンや周りの人の情報だと、山崎はまた他に女ができたらしい。いつものことのようだが〝あぁそうか〟と納得も許すことも出来るハズはなかった。今は山崎のことを考えただけで腹が煮えくり返って、今にも爆発しそうになる。
そして新学期が始まって2週間が経ったある日の放課後、俺とマナはいつものように一緒に帰ろうとしていた。
「ちょっといいですか?」
校門を抜けたところで突然後ろから声を掛けられた。黒髪のロングヘアーがとても似合う、キレイな女性だった。
「はい?」
「あなた五十嵐マナさん?」
「そうですけど、何か?」
パシッ!?
「キャッ」
「どうして殴られたのか、あなたにわかりますか?」
その女性は突然マナに平手打ちすると、意外に冷静な声でそう言った。
「何するのっ!」
「ちょ、ちょっと、どうしてマナを殴るんですか?」
放っておくと、その女性が再び殴りかかってきそうなので、マナを俺の背後に隠れさせた。
「私の夫なんです」
「夫?」
「許さない!」
その女性が再びマナに殴りかかってきたので、振り下ろす手を慌てて掴んで止めに入った。
「離して!」
「落ち着いて下さい! どうしてこんなことを?」
「山崎は私の旦那です。夫の不倫相手を見ようとここに来てしまいました。本当は直ぐに帰るつもりだったけど、あなたを見たら無性に腹が立って気付いたら話しかけて、手をあげてしまったの――」
その女性は、マナを睨みつけてそう言った。
「先生の奥さん――どういうこと? 先生に奥さんがいるなんて――」
「もしかして知らなかったの?」
「先生、そんなこと一言も言ってなかった」
やっぱりマナは聞かされていなかった。予想以上にショックを受けた様子だった。
「例えそうだとしても、ただで済むと思わないで!」
そう強く言い放った山崎の奥さんを見ると、胸の前で握りしめた手は震えていた。怒りからくる震えかと思って見ていると、彼女は震える手を必死に抑えていた。また、気付かれないように冷静さを装ってはいるけど、その態度はどこか落ち着きがなかった。
「あのぉ――俺と2人切りで話をしませんか?」
「あなたと?」
「はい、俺で良ければ詳しいことを聞かせて下さい」
「私は構いませんけど」
「ありがとうございます」
それから、山崎の奥さんと2人で話すために彼女の車に乗り込んだ。マナには先に帰ってもらった。学校の近くはマズイので少し離れた場所にあるコンビニに車を停めてもらった。