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城プル
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ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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FORSAKENの神殿には、誰も近寄りたがらない場所がある。
地下深く。
古代ローマ風大浴場。
巨大な温泉。
巨大なプール。
巨大な水柱が立つ場所。
そして――
猫には危険地帯である。
◇
夜。
静まり返った浴場。
水面には満月が揺れ、
その前に一匹の紳士が立っていた。
黒ハチワレの猫頭。
茶色のマント。
黄色いリボン。
そして、
モノクル。
Mowlである。
「……ふむ。」
スッ。
モノクルを直す。
「本日の毛並みも実に良好。」
胸毛を撫でる。
ふわっ。
もふっ。
「この豊かな胸毛こそ。」
「紳士の品格。」
「重厚感。」
「知性。」
「そして威厳。」
満足そうに頷く。
「完璧ですな。」
その時だった。
◇
「Mowーーーl!!」
遠くから元気な声。
ドドドドドドド!!
廊下を全力疾走してくるホスフォラス。
「いたーー!!」
「ホスフォラス殿?」
曲がり角を曲がる。
巨大な尻尾が、
ブォン!!
「……あ。」
ドスッ。
「ぬぁ。」
ポチャン。
……
では済まなかった。
ドッッッッパァァァァァン!!!
巨大な水柱。
ホスフォラスは真っ青になる。
「えっ。」
「えっ。」
「Mowl殿?」
「沈んだ。」
「僕。」
「殺った?」
「スペクター様に殺される。」
「人生終わった。」
◇
ザバァァァ……
水面が割れる。
そこから這い上がってきた影。
「……。」
「……。」
ホスフォラスは固まった。
「……ゴホッ。」
低い声。
聞き慣れた声。
だが、
姿が違う。
マントはぺったんこ。
リボンはしなしな。
耳は寝ている。
顔は小さい。
そして――
「…………。」
細い。
異常に細い。
「…………え?」
ホスフォラスが二度見する。
「Mowl殿?」
「はい。」
「細くない?」
「……。」
Mowlも自分を見る。
腕。
「細い。」
胸。
「細い。」
足。
「細い。」
鏡代わりの水面。
そこに映っていたのは、
いつものモフモフ紳士ではない。
濡れた長毛猫そのもの。
「…………。」
「………………。」
「…………………。」
「し。」
「し?」
「紳士のシルエットがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
絶叫。
浴場に響き渡る。
◇
「これは違う!!」
「違います!!」
「これは私めではありません!!」
「毛が!!」
「全部!!」
「潰れております!!」
必死に胸毛を膨らませようとする。
ふぉっ。
……
戻らない。
「ふくらみなさい!!」
モミモミ。
「戻れ!!」
モミモミ。
「紳士になれ!!」
ぺたん。
「戻らぁぁぁぁぁん!!」
◇
「どうしたの?」
聞き覚えのある声。
赤いシルクハット。
スペクターだった。
「悲鳴が聞こえたけど――」
一瞬止まる。
「……。」
Mowlも固まる。
(終わった。)
(見られた。)
(捨てられる。)
(今日から私は。)
(ただ細い猫。)
静かに頭を下げる。
「……スペクター様。」
「申し訳ございません。」
「私め。」
「現在。」
「濡れネズミにございます。」
「どうぞ。」
「お好きな処分を。」
沈黙。
一秒。
二秒。
三秒。
そして。
「~~~~~~~~~~~~~~!!!!」
無音。
しかし顔だけで分かる。
大歓喜。
「ぎゃわいい!!!!」
「……え?」
「細い!!」
「めちゃくちゃ細い!!」
「脚ほっそ!!」
「顔ちっちゃ!!」
「儚い!!」
「守りたい!!」
「かわいいの新境地だよ!!」
「え。」
Mowlは理解できなかった。
「モフモフも最高!」
「でも!」
「この!」
「濡れネズミ感!!」
「最高ーーーー!!」
「えぇぇぇぇ!?」
ひょい。
抱っこ。
「にゃぁぁ!!」
「軽い!」
「Mowl軽い!!」
「いつもの半分くらい!!」
「違います!」
「軽くありません!」
「毛が!!」
「潰れているだけです!!」
「可愛い!」
「違います!」
「守ってあげたい!」
「違います!」
「折れそう!」
「折れません!!」
メリメリメリ……
「折れそうになってます!!」
◇
そのまま、
スペクターは巨大なバスタオルを持ってきた。
くるくる。
ぐるぐる。
すっぽり。
「はい。」
「Mowl巻き。」
「……。」
「可愛い。」
「……。」
「寿司みたい。」
「私めは寿司ではございません。」
◇
数分後。
アズールの温風魔法。
ブォォォォォッ!!
「風量強くない!?」
「ご、ごめん!」
さらに、
スペクターの業務用ドライヤー。
ゴォォォォォォ!!
「飛ぶ飛ぶ飛ぶ!!」
「Mowlが飛ぶ!!」
「ちゃんと押さえてるから!」
「握力が強すぎます!!」
◇
十分後。
ふわぁ……
モフッ。
もふもふっ。
元通り。
「あぁ……。」
Mowlは胸毛を撫でる。
「帰ってきました。」
「私めの。」
「紳士。」
モノクルを直す。
リボンを整える。
マントを払う。
「やはり。」
「この重厚感。」
「これこそ。」
「真の――」
シュッ。
「?」
スペクターが、
霧吹きを構えていた。
シュッシュッ。
「……。」
「Mowl。」
「はい?」
「もう一回濡らしていい?」
「嫌です。」
「一日交代で。」
「嫌です。」
「今日はモフモフ。」
「嫌です。」
「明日は濡れネズミ。」
「もっと嫌です。」
「可愛いよ?」
「断固 拒否 いたします。」
その瞬間。
Mowlはマントを翻し、
人生最速の速度で神殿の奥へ逃走。
「待ってよMowーーl!」
「追わないでください!!」
「霧吹きしまってください!!」
「一回だけ!」
「半回でも嫌です!!」
「耳だけ!」
「却下です!!」
廊下には、
必死に逃げるモフモフ紳士と、
霧吹きを片手に追い掛ける支配者の姿。
それを見送るホスフォラスは、小さく手を合わせた。
「……僕が落としたのに、なんで最後はMowl殿が追われる側なんだろう。」