テラーノベル
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スポットライトの残像が、楽屋の白い壁にチカチカと焼き付いている。
ライブを終えたばかりのM!LKの楽屋は、熱気と興奮、そして微かな汗の匂いに満ちていた。
🩷「いやー!今日も最高だったね!みんなお疲れ!」
大きな声を張り上げながら、ソファーに勢いよく体を沈めたのは佐野勇斗だ。
持ち前の端正なルックスと、誰からも愛される天真爛漫なキャラクター。
しかし、その肉体が放つ空気は、どこか周囲を圧倒する特有の威圧感を孕んでいる。
それもそのはずだった。
勇斗は、社会の頂点に立つとされる遺伝子――『α(アルファ)』だった。
しかも、その中でも特に強力なフェロモンと高い身体能力を持つ、希少な優性αである。
しかし、表舞台に立つアイドルとしての彼は、その鋭利な牙を完璧な笑顔という仮面で隠し、親しみやすい『佐野勇斗』を演じきっていた。
💛「勇斗、うるさい。声のボリューム落として。他の楽屋に響くでしょ」
少し呆れたような、しかし芯のある声を出したのはグループのリーダーである吉田仁人だ。
汗で濡れた前髪を無造作に上げ、衣装の片付けをテキパキとこなしている。
その姿は、いつもの「しっかり者のリーダー」そのものだった。
🩷「えー、いいじゃん仁人。今日、仁人のダンスもキレキレでさ、俺、後ろから見ててマジで鳥肌立ったんだけど」
💛「はいはい、ありがとう。でも、次の現場の時間が迫ってるから。ほら、早く着替えて」
仁人は振り返ることもなく、淡々と荷物をバッグに詰めていく。
その背中はいつも通り小さく、しかし頼もしかった。
勇斗はソファーに寝そべったまま、そんな仁人の後ろ姿をじっと見つめる。
🩷(……なんだろう)
ここ数日、勇斗の鋭いαの嗅覚が、妙な違和感を捉えていた。
仁人からはいつも、彼が愛用しているお気に入りの紅茶のような、少しビターで落ち着いた香水の匂いがする。
だが最近、その香水の奥底から、信じられないほど微かではあるが、脳の奥を痺れさせるような「別の匂い」が混ざっている気がしてならないのだ。
それは、果実が熟しきったような、あるいは酷く甘い蜜のような
――αの本能を猛烈に刺激する、危険な香り。
🩷(まさかな。仁人は『β(ベータ)』だし、そんなわけないか)
オメガバースの世界において、人口の大多数を占めるのはβだ。
M!LKの他のメンバーも全員βとして登録されているし、仁人もそう公表している。
もし、この芸能界で『Ω(オメガ)』であることが発覚すれば、その時点でアイドル生命は絶たれると言っても過言ではない。
定期的に訪れる発情期(ヒート)は、周囲のαを狂わせ、理性的な活動を不可能にするからだ。
勇斗は自分の頭を軽く振って、湧き上がった不吉な思考を追い出した。
comi
633
桃紫 さく🌸
3
ゆゆ

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コーヒーが飲めません🥛
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仁人はプロだ。
誰よりもM!LKを愛し、グループのために人生を捧げている男が、そんな重大な秘密を隠しているはずがない――そう自分に言い聞かせた。
💛「……っ」
その時、衣装をハンガーに掛けようとした仁人の指先が、小さく震えた。
仁人は一瞬だけ動きを止め、胸元を強く押さえるようにして深く息を吸い込んだ。
その顔から、血の気がスッと引いていくのを勇斗は見逃さなかった。
🩷「仁人?どうかした?」
勇斗はソファーから跳ね起き、仁人に近づこうとした。
その瞬間、仁人は弾かれたように一歩後ろへ下がり、勇斗を鋭い目で見据えた。
💛「来るな……っ!」
拒絶の籠もった、ひび割れた声。
普段の仁人からは想像もつかないほど、張り詰めた、そして怯えたような声だった。
🩷「え……?」
勇斗はその場に足止めを食らったように立ち尽くす。
仁人の瞳は、小刻みに揺れていた。
額にはじんわりと不自然な汗が浮かび、白い肌が異様な熱を帯びて微かに赤みを帯びている。
そして、勇斗の鼻腔を突いたのは、先ほどまで香水の裏に隠れていた、あの「甘い匂い」だった。
今度は気のせいではない。楽屋の空気の密度が、一瞬にして変わるほどの濃厚なフェロモン。
🩷(この匂い……嘘だろ。これって、まさか――)
勇斗の体内のαの血が、ドクンと激しく脈打った。
目の前の存在を「番」として組み敷きたいという、野生の本能が牙を剥きかける。
💛「なんでもない、ちょっと眩暈がしただけ。……先に車に行ってるね」
仁人はカバンをひったくるように持つと、勇斗と視線を合わせないまま、逃げるように楽屋を飛び出していった。
バタン、と閉まったドアの音だけが、静まり返った室内に響く。
残された勇斗は、自分の手のひらを見つめた。
じわりと汗ばんだ手が、本能の昂ぶりを証明している。
あいつは、吉田仁人は、本当にただのβなのか。それとも――。
動き出した運命の秒針の音が、勇斗の耳の奥で、確かにカチリと鳴り響いていた。
コメント
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わあ、もう続きが気になりすぎる…!仁人のフェロモンの匂いに勇斗が気づいていく展開、すごくドキドキしました。普段は頼りになるβのリーダーが、実はΩの秘密を抱えてるかもしれないっていう緊張感が、めっちゃ伝わってきた。「来るな…!」のセリフに震えました🥀 仁人の紅茶の香水の比喩もおしゃれで好き。この運命的な始まり、本当に胸が締め付けられます…次が待ち遠しいです( ; ; )💔