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ちゃん
163
仁人が楽屋を飛び出していってから、わずか数分。
勇斗は激しく脈打つ鼓動をなだめるように、深く長い息を吐き出した。
まだ鼻の奥に残る、あの甘く、狂おしいほどの残香。
それが何よりの証拠だった。
🩷(仁人が、オメガ……?)
信じられなかった。
じたくなかった、というのが本音かもしれない。
いつも誰よりも冷静で、グループの舵を取り、頼りない自分を支えてくれるリーダー。
その彼が、この社会で最も過酷な運命を背負う「Ω(オメガ)』だなんて。
🩷「……いや、考えてる暇はねえわ」
勇斗はジャケットをひったくるように掴むと、楽屋を後にした。
今すぐ彼を追いかけなければならない。
もしあのフェロモンを漂わせたまま、他のaの芸能人やスタッフに遭遇でもしたら、取り返しのつかない事態になる。
地下の駐車場へ続く薄暗い階段を駆け下りると、MILKの送迎用ワンボックスカーが見えた。
すでに他のメンバのの3人は後部座席に乗り込み、スマホをいじったり談笑したりしている。
そして仁人は、助手席のシートを深く倒し、窓の外をじっと見つめていた。
💙「お、勇斗遅い!何してたの?」
太智が能天気な声を上げる。
🩷「わりぃ、忘れ物しちゃって」
勇斗は極めて自然なトーンを装いながら、助手席の仁人の様子を伺った。
仁人はこちらを振り向こうともしない。
しかし、心なしか肩が小さく震えているように見えた。
「じゃあ、出発しますね」
マネージャーの運転で、車が静かに走り出す。
車内はいつも通りの賑やかさだった。
今日のライブの反省点や、ケータリングの美味さについて、後ろの3人がわいわいと盛り上がっている。
しかし、勇斗の神経は完全に助手席の仁人に集中していた。
車内のエアコンの風に乗って、微かに、本当に微かに、あの甘い匂いが漂ってくる。
それは、仁人が必死に振り撒いたであろう紅茶の香水で強引に上書きされていたが、優性αである勇斗の鼻をくことはできなかった。
🩷(やっぱり、そうだ。間違いない…..)
後ろの3人はβだから気づいていない。
マネージャーもβだ。
だから、この車内で仁人の異変に気づけるのは、αである自分しかいないのだ。
勇斗はわざと大きなあくびをして、「あー、今日マジで疲れたわ。俺、ちょっと寝る」と言い残し、目を閉じた。
頭の中で、最悪のシナリオがいくつも渦巻く。
アイドル界において、オメガの存在は完全にタブーだ。
もし発覚すれば、本人の安全だけでなく、グループの活動休止、あるいは解散にまで追い込まれる可能性がある。
仁人がそれを知らないはずがない。
知っていてなお、彼は一人でこの秘密を抱え、MILKのリーダーとしてステージに立ち続けてきたのだ。
どれほどの恐怖だっただろう。
どれほどの孤独だっただろう。
αたちの欲望の視線に晒されながら、いつ破裂するかわからない爆弾を抱えて踊るような毎日。
🩷(なんで、言ってくれなかったんだよ……)
悔しさと、彼をそこまで追い詰めていた自分自身の不甲斐なさに、勇斗はシートの下で拳を強く握りしめた。
やがて車は、メンバーそれぞれの自宅前を経由していく。
一人、また一人と「お疲れー」と言いながら降りていき、最後に車内に残ったのは、いつも通り同じ方向のマンションに住む勇斗と仁人だけになった。
「吉田くん、顔色悪いけど大丈夫?次の現場まで少し時間あるから、家でしっかり休んでね」
送り届けてくれたマネージャーが、バックミラー越しに心配そうな声をかける。
💛「はい、大丈夫です。ただの裏不足なので。ありがとうございました」
仁人は掠れた声でそう答え、車を降りた。
夜の帳が下りた高級マンションのエントランス。
二人はふらつく足取りで自動ドアをくぐり、エレベーターのボタンを押した。
その後ろを、勇斗は無言でピタリとついていく。
💛「……ついてこないで」
エレベーターの鏡越しに、仁人が勇斗を睨みつけた。
その瞳は、涙の膜で潤んでいる。
必死に理性を保とうとしているが、ハア、ハア、と荒い呼吸が静かな空間に響いていた。
🩷「ついていく。今の仁人を一人にできるわけないだろ」
💛「関係ないでしょ。僕は、ただのβだよ。疲れてるだけ……つ」
🩷「嘘つくな!!」
勇斗の怒鳴り声が、エレベーター内に響いた。
同時に、勇斗の体から、威圧的なαのフェロモンがほんの少しだけれ出す。
💛「ひっ……!?」
仁人は悲鳴のような息を漏らし、その場にへたり込みそうになった。
強力なαの圧に、オメガの肉体が本能的な恐怖と、それ以上の「昂ぶり」を感じて激しく反応してしまったのだ。
仁人の首筋から、ドクドクと甘い匂いが溢れ出す。
もはや香水では隠しきれない、濃厚なヒートの兆候。
エレベーターが目的の階に到着し、ピン、と電子音が鳴った。
勇斗はへたり込む仁人の細い腕を掴み、半ば強引に彼を引っ張って廊下へと連れ出した。
💛「離して、勇斗、お願いだから……離して…..!」
拒絶の言葉とは裏腹に、仁人の体は熱く、勇斗の手のひらにすがりつくように震えていた。
二人の運命が、完全に噛み合ってしまった瞬間だった。
もう一度更新しましたどうでしょうか
コメント
6件

他国から来たCPファンが美味しいものを味わいに来て、先生は本当にすごいです

内容、変わってないですね…私だけでしょうか…😭