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「ほんとうに? 契約してくれるの?」
私は震える手で差し出した小さな魔法陣の紙を見つめた。真珠のように輝くイルカは私の指先から放たれる微かな魔力の気配を感じ取ったのか、目を細めながら首を傾げた。
海辺の小さな洞窟。潮の満ち引きによって生まれる神秘的な青い光の中で、私は契約の儀式を始めた。古代の海神信仰を継ぐ一族として育てられた私にとって、これは初めての本格的な契約だった。
「古き海の守護者よ、我と共に歩まんとする者よ」
詠唱とともに魔法陣が水面に広がり、イルカの体が淡く光り始めた。三回目の詠唱で光が爆発的に強まり、私とイルカの間に見えない絆が形成されたことを感じた。イルカは嬉しそうにくるりと一回転し、私の頬に鼻先を押し付けてきた。
「よろしくね。今日からあなたは私の相棒だ」
名前を決めなければ。彼の瞳をじっと見つめながら考えていたその時、突然、沖の方から不穏な唸り声が聞こえてきた。洞窟の入り口から見える海面が異様に泡立ち始める。
「まさか……黒潮海竜!」
伝説上の巨大な海洋モンスターが姿を現したのだ。黒曜石のような鱗を持ち、その巨体は島一つ分にも及ぶと言われている。
「逃げる時間はない。私たちで倒さないと!」
契約したばかりのイルカ(私は彼をアクアと呼ぶことにした)は勇猛果敢に前に出た。私も杖を構え、魔力を集中させる。
「アクア! 合わせて!」
彼が高速で渦を巻きながら飛び出すと同時に、私は水の魔法で巨大な魚群を召喚した。それは黒潮海竜に向かって突進していき、注意を引きつける。
「今だ!」
アクアは大きくジャンプすると、身体全体を使って強烈な衝撃波を放った。水と空気が激しく振動し、黒潮海竜の巨体が一瞬揺らぐ。
私は最後の仕上げに取り掛かった。
「深海の静寂よ、我が言葉に従え!」
杖から放たれた青白い光が海竜の動きを封じ込め、アクアの追撃を受けた怪物はついに崩れ落ちるように沈んでいった。
波の音だけが残る静寂の中、私とアクアは見つめ合った。勝利の喜びと安堵が胸を満たす。
「ありがとう……本当にありがとう」私は涙ぐみながら相棒の頭を撫でた。
これが私とアクアの最初の冒険。そしてこれからも続く、海と友情の物語の始まりだった。
黒潮海竜を倒したことで、私とアクアの絆はさらに強まった。そしてこの功績が知られると、村の人々から感謝されただけでなく、「伝説の海姫」とまで呼ばれるようになった。
しかし平和な日々は長く続かなかった。数日後、遠く離れた海辺の町から助けを求める使者がやってきた。彼らによれば、最近になって沿岸部で凶暴な海の魔獣たちが頻繁に出没するようになり、漁業や交易に深刻な影響が出ているという。
「海の生態系が乱れている兆候がある」と年老いた長老が語る。
私とアクアは調査に向かうことになった。船着き場から小型ボートに乗って出港し、南の海域を目指す。途中で出会ったのは巨大なクラーケンや凶暴なサメ型モンスターたち。アクアの素早い身のこなしと私の魔法で難なく撃退していく。
「こんなにも多くのモンスターが活発化しているなんて……」
目的地である珊瑚礁の島に到着すると、そこには驚愕の光景が広がっていた。美しい珊瑚礁が一部壊滅状態になっており、その中心に大きな黒い岩のようなものが鎮座していた。
「あれが原因だわ……!」
近づくにつれて黒い岩から放たれる邪悪な魔力を感じ取った。それは以前の黒潮海竜とは比較にならないほど強大なものだった。
「アクア、準備はいい?」
「クィッ!」
相棒は鋭い鳴き声で答えた。
戦闘は熾烈を極めた。黒い岩から触手のような黒い根が伸びてきて私たちを襲う。アクアは巧みに避けて触手を噛み千切りながら攻撃し、私は魔法で防御壁を作ってその隙に強力な浄化魔法を練り上げる。
「海よ、清き波の力よ! 邪悪な呪縛を解き放て!」
私の全身全霊を込めた魔法が放たれると、黒い岩が苦悶の叫びをあげるように振動し始めた。そしてその中心から眩しい光が溢れ出す。
光の中に浮かび上がってきたのは—なんと古代の女神像だった。
「これは……海神様!?」
封印されていた伝説の女神像が邪悪な力に汚染されて変貌していたのだ。私が清めたことで本来の姿を取り戻し、周囲の海が瞬時に澄み渡っていく。
「ありがとう……若き巫女よ。あなたの勇敢さと純粋な心が我を解放してくれた」女神の優しい声が直接頭の中に響いてくる。
「これで海の均衡は保たれるだろう。だが新たな脅威が迫っている。そなたらに託そう—」
女神から特別な能力を与えられた私たちは、新しい使命を背負うこととなった。それは「大海原の支配者」と呼ばれるさらなる強敵を討伐すること。
「さあ、新たな冒険の始まりだね」私はアクアの頭を撫でながら言った。
この出会いと試練を乗り越えたことで、私たちの絆はさらに強固なものとなった。そして海を愛する全ての人々のために、次なる戦いへ向かう決意を新たにするのだった。