テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
268
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
38 ◇マナー違反
昨日、結局、庭の草花の手入れもせず自宅に帰ったので、今日は定時で帰社をし、
私は急いで祖父の家へと足を運んだ。
草花が気になっていたのも確かだけれど、実のところ、気を引かれていたのは
別のことだった。
昨日、美代志くんが踊っていたあの楽曲のこと。
あのCDには、私の知らない彼の一面につながる手がかりが隠れている気がして……。
普段、この家に来ても美代志くんが留守の時は、私が部屋に上がることは
ない。
家主だからと言って、それはマナー違反だと思うから。
庭の植物に触れるだけでいつもは済ませている。
今回は特別だと自分に言い聞かせ、マナー違反をすることにした。
ラジカセは、昨日と同じ部屋に鎮座していた。
私は途中で美代志くんが帰宅しても何かしら言い訳できるよう、庭に面して
背中を向けた格好でラジカセを開けた。
そして、急いでCDをカメラに収め、急いでまたラジカセに戻し……。
そのまま、足早に家屋から出た。
庭に出ると、ようやく緊張を解いてほっとした。
ジョウロに水を入れ、予定通り草花に水をやり、そして我が家に向かった。
自宅に帰ると、私は急いで自分の部屋に入り画像をパソコンに送り、画面
いっぱいに大きくして、写っている人とグループ名や個人名などを見た。
なんと、美代志くんはアイドルだったのだ。
うそっ、何度も何度も彼の顔を穴のあくほど見た。
当時から4年ほど過ぎていて年齢を重ねているので、まったく同じじゃないけど、
たぶんこれに映っているのは美代志くんではないとか思われた。
事務所は有名どころの大きな事務所で、アイドルを何人も排出しているような会社だった。
どうしてそんな煌びやかな世界にいたアイドルが――――
ホームレスにまで転落したのか。
きっと、言うに言えぬ事情があったのだろうけれど……。
『アイドルと知り合いになった』んだ、私。
いや、元アイドルだけど。
そんなどうでもいいようなチャラいことを思った。