話を日記に移そう。字こそ殴り書きのような印象を受けるが、日付や天候、その時の場所など細かく記されており、持ち主の几帳面な正確が見てとれた。私は出来るだけ簡潔に1日ごとの内容をまとめていこうと手を着けたが、自分の体験していない戦争に関わる内容も多く、激動の時代を生きたその人となりに興味が湧いた。そして暫くすると、まるで受験生に戻ったように普段なら気が付かないようなことも、辞書や翻訳ソフトを使いながら微妙なニュアンスや触れられていない心情まで読み取ろうとしていた。今は長期休暇中であり、部活の指導からは一線を退いているため時間があったのもあるが、気が付けば私の傍らには常にその日記があった。そしてあの写真も。未だ写真に言及するような記述はない。日記もまだ二割程度しか進んでいないが、この聡明な書き手の人生にあの、人の心を惑わす写真がどう関わってくるのか、まるで初めて秀逸な推理小説を読み進めているような感覚をおぼえていた。
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