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#一次創作
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夜中の牢。薄暗いその中で、アリアはギデオンと座って対峙していた。
ザインはその横で、背中をさすりながら状況を見ている。
「――まぁ、そもそもだ。
そっちから何か聞いて、それに反応する……。それはある意味、そこである程度は探られているわけなんだよ」
「確かに、そういう側面はありますね」
「おう、話が分かるじゃないか」
アリアの即答に、ギデオンは見直したように笑った。
それに対して、ザインが不満を漏らす。
「いやいや、分かりすぎじゃないか……? 交渉というのは、もっとだな……」
「まぁまぁ。人それぞれ、良いペースがあるんだよ。あたしは、あなたの真似はできないわけだし」
「ふふんっ。それなら仕方ないな」
「大概、人を誘導するのが上手い嬢ちゃんだな……。
――それじゃ、お言葉に甘えさせてもらおうか。本題の前に、俺が困っていることの相談をするぜェ?」
「承知しました。余計な手間が掛かる分、そのあとのことは期待していますからねぇ」
「おうおう、これだよこれ。兄ちゃん、これだよ!」
「そうですね!」
ザインの即答に、ギデオンは微妙な表情を浮かべた。
このふたりは元々の知り合いのようだが、ずいぶんと違う……と。
しばらく沈黙が流れたが、アリアはその沈黙を破ろうとしなかった。ザインも、何もしなかった。
「――ふぅ。
……実はな、この牢獄にはもうひとり、厄介な奴がいてよォ。デリック、っていうヤツなんだが」
「もうひとり……ですか。
あなたは自分が厄介な奴、っていう自覚があったんですね」
「はっはっはっ、言いやがるぜ! ……まぁ、どう考えても俺は厄介な奴だろォ?」
「あはは、そうですねぇ♪」
ギデオンとアリアは楽しそうに笑ったが、ザインは引きつった笑いをしていた。
どこまでぶちこんでいいのか、どこが怒りの一線なのか……。それがどうにも読めなかったのだ。
「おっと、話が逸れたな。んで、俺としてはコイツが邪魔なわけよ。だから、殺してきてくれねェか?」
「ああ、それは受けられません」
「ほう? 嬢ちゃんのよく分からん実力があれば、簡単に殺せると思うんだがなァ……」
「実現する方法はいくつも持っていますが、信条的にNG、ということですね」
「ふむ……、そこは線を引いているのか。
まぁ、ひとまずのところはアイツの影響力を軽く削いでくれれば大丈夫だよ」
「おお! やることが軽くなって良かったな!」
ザインは喜んだが、アリアは彼を見ながら、一息ついた。
「はぁ。本当に軽く削ぐ……だけだと、交渉材料としては弱いよ?」
「ふふふ、そうかもなァ。それじゃ、アイツをどうにかしたら教えてくれ。
そのときの連絡手段だが、嬢ちゃんならまたここまで来れるよなァ?」
「そうですね。またすぐに来ますから、待っててくださいね。
それじゃ情報屋も、あんまりいじめられないようにね!」
「ん? お前、情報屋なんてやってるのか?」
ギデオンがそう聞くと、ザインは大いに焦った。
「ば、ばか! アリア! このアリア!!」
「やば、ごめん! すぐ来るからねーっ!!」
アリアは軽い身のこなしで牢から出ると、倒れていた看守の頬を叩いてから去っていった。
逞しいヤツだな……と思いながら、ザインは眠りに付くことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
噂話は、女の常である。
アリアは女性用の牢で、上手いこと立ち回って絶妙なポジションを確立していた。
最初は敵対的だった囚人も、いつの間にか懐に入り込まれている。
詳しくいえば、その人間が興味のあること、語りたいことに対して、深い造詣を以って話を合わせていく――アリアはそんな手法が得意だった。
「――あはは、お嬢ちゃんも話が分かるねぇ♪」
「いえいえ、それほどでも~♪
ところでこの牢獄に詳しいとお見受けしましたが、デリックさんって知ってますか?」
「うん? お嬢ちゃん、あんなのが好きなの?
ずいぶんと下品な人らしいよ。裏ではまだ、牢獄の中から色々やってるみたい」
「ほうほう?」
「そのせいもあって、毎日悪夢を見ているそうね。
そのうなり声や悲鳴が、看守の人たちを夜な夜な怖がらせているとか……!!」
「きゃーっ♪」
「まったく、迷惑な話よねぇ。
本人は教会に行けないから、神職者をここまで呼んで、懺悔してるみたい」
「牢獄の中で、懺悔ですかぁ。
教団って、そういうサービスもやってるんですね?」
「いや、特別らしいよ。神職者にも看守にも賄賂を渡してる、って話。
あー、やだやだ。結局は世の中、お金なんだよねー」
「お金はパワー、ですからねぇ」
その後はお金の話になり、宝石の話になり。
最近流行りのデザインについても聞けたので、どこかで話のネタにするために覚えておく。
アリアはこんな会話を積み重ねて、幅広い会話をできるように、日々話術を磨いているのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――数日後、牢獄内の特別室。
デリックがいつもの神職者を待っていると、そこにアリアが現れた。
彼女は囚人服ではなく、神職者の服を着ている。
「ん? お前は誰だ?」
「あたしはアストリア・S・ノクス。
いつもの方が、暴漢に襲われて亡くなってしまって」
「ほう、それは残念なことだ。しかし、すぐに代理の方が来てくれて助かったよ。
それに……名前に職位を持つ者が、私に理解を示してくれるなんてな。教団というやつは、やはり金、なのだねぇ」
デリックはアリアの名前に注目した。
基本的に人名は、最初のファーストネームと、最後のファミリーネームに大別される。
ただし一部で例外があり、セカンドネームが入る場合がある。
アリアの場合はセカンドネームが『S』で、これは職位として教団から授けられているのだ。
「……ふふふ。まぁ、同じ穴のムジナ、というやつですよ」
ちなみに、本来ここに来るはずだった神職者は、アリアの手によって牢獄のある場所に閉じ込められている。
最低限の情報を聞き出してから、行動の邪魔にならないように眠らせているのだ。
「それにしても、アイツを襲ったのは誰なんだ……?
もしかして、ギデオンの一派か……?」
「そう言われていますが、今は調査中ですね」
アリアはしれっと嘘をついた。
とりあえず、ギデオンとデリックの関係は悪くしておいた方が良いという判断だ。
……さて、牢獄でのデリックの影響力を削ぐには、どうすれば良いのだろう。
デリックの影響力は、何よりも牢獄の外と繋がっていることが大きい。
外と繋がって配下を動かし、その影響を牢獄に伝えていく――
……つまり、現時点としては単純に、外との繋がりを断ってしまえば良い。
その上で、どこかのタイミングで教団に通報したり、他の場所の牢獄に移ってもらえば良いのだ。
「――ところで、あたしとは今日が初めてですよね。
前任者には相談できなかったこととか、ありませんか?」
「早速、自分の価値を見せようというわけかな? うーん……そうだねぇ」
アリアの言葉に、デリックは少し考えて見せる。
「今までの彼は、牢獄内のことには関心が無かったからね。
……ああ、そうだ。ギデオンの影響力を削ぐ、ということは可能かね?」
ギデオンもデリックも、まずはそこからなのか……。
どちらも同じことを言うものだ、とアリアは思った。
「あはは。さすがにそこまでは手を突っ込めませんよ。
そういうのよりは神職者らしく、もっと些細な悩み事を解決する……とかでしょうか」
「それなら、私の悪夢を何とかしたくはあるが……そういうのは大丈夫かな?」
「あれ? 悪夢って、本当に見るんですか?」
「……ああ、もちろんだ。私が悪夢なんて、と思う者もいるようだがね」
「うーん、なるほど……。
それなら、本当に何とかしましょうか?」
「ははは、冗談だよ。
金に目がくらんだ神職者が、そんなことを出来るはずがない」
過去がどうあれ、悪夢に囚われるのはつらいことだ。
それがひとつの償い、という見方もあるが……。
これから彼自身、神職者との不正な繋がりで、さらなる刑が課されるかもしれない。
今はこの牢獄で一定の影響を持っているが、他の牢獄に移動となれば――
……それならまぁ、今回はひと時の癒しということで、逃げになるような祝福を与えるのもひとつか。
「――ならば祝福を与えよう。
汝は神に身を委ね、欲する力を祈るべし――」
アリアはデリックの額に、心持ち優しく触れた。
デリックは突然のことながら……悪態をついたにも関わらず、素直に従ってしまう。
「――神の祝福はここに在り。
望みと共に、その魂から発芽せよ――」
デリックは額に一瞬の熱さを感じたあと、心の底が温かくなるのを感じた。
優しく包み込まれるそれは、まるで上質なベッドのようで――
「あなたが手に入れたギフト――才能は、『昼寝の才能』……。
えぇっと……あれ、ちょっと? 話の最中に眠らないでくださいよーっ!?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――というわけで。最近は毎日、ぐっすりのようです」
後日の夜、男性用の牢で、ギデオンに説明をする。
悩みを上手く解決してあげた……という触れ込みだったが、実のところ、アリアとしては結果オーライの形だった。
とはいえ、これでみんな、一旦はしあわせな形だ。
「はぁ……。眠っていれば、影響力は下がる……かァ?」
「情報をやり取りする機会が減ると、その分、指示出しのことも考えなければいけませんからね!
たくさん眠っているのでは、上手くまわすことは出来ないでしょう!」
「おうおう、そうか。そういうことだな。
さすが、お前は情報屋をやってるだけあるなァ!」
「いえいえ、ありがとうございます!」
情報屋というより、子分みたいに見えるなぁ……と、アリアは思った。
アリアは囚人服の裾を整えてから、言葉を続ける。
「……あと、神職者が関与していた部分がありました。
街に出れたら、あたしの知り合いの神職者に通報しておきますね。
他の牢獄に引っ越してもらえば、あなたも嬉しいでしょう?」
不正を働いていた神職者は、裸にしてから牢獄の敷地内に放置しておいた。
彼の身分は控えておいたので、神職者としていられるのは、アリアが教団に通報するまでだろう。
「――ふむ。
確かに嬢ちゃんはアイツを殺さなかったが、この牢獄からいなくなるのであれば、俺としては最高だなァ」
「そうですね! そうしたらギデオンさんの狙い通りですね!」
ギデオンは、ザインの言葉に満足そうに微笑んだ。
そんな彼の死角で、ザインは親指を立ててドヤ顔をする。
……計算ずくの、子分ムーブかぁ。この場での振る舞いとしては、一番良いのかもしれない。
ギデオンは少し考えてから、アリアに向き直った。
「――よし、嬢ちゃんの力は分かった。不思議な力も持っているし、外での影響力も持っているんだな。
約束は守ろう。お前の話を言ってみろ」
「では、単刀直入に。
あなたは『異能の天球儀』という魔導具を知っていますか?」
「……ほう?」
「あたしはそれを探しています。あなたが持っている、という話を聞いたのですが……」
「ふむ……」
……ちなみにザインも、同じ魔導具を探していた。
信頼できるルートから聞いてはいたのだが、まさかアリアも同じものを探していたとは。
不運なのか、幸運なのか。この時点で、何となく手に入りそうな気はした……が、美味しいところだけ持っていかれる未来も見えてしまった。
「はっはっはっ、アレのことなら話が早い。
確かに俺が持っている――いや、以前は持っていた、というのが正しいか」
「……ということは、今は?」
「俺は今、牢獄にいるだろう? だからアレは、昔の仲間に預けていたんだよ」
「なるほど。それなら、その場所は――」
「まぁまぁ、話を焦るな。そこでな、俺からの依頼があるんだァ」
「ふむ……」
「実はな、あの魔導具は……まぁ、『異能を付与する』という力があるだろう?
だから、動かすにはもともとパスワードが必要なんだ」
「え、そうなの?」
「そうだよ?」
とりあえず、アリアはザインの言葉に素直に反応した。
ちなみに、アリアもそのことは知らなかった。ただのノリである。
「幸いなことに、俺が奪ったときにはパスワードが設定されていなかったんだ。
おそらく、研究中に移送しているところを奪ったからだと思うんだが」
「パスワードって、そういうときにこそ掛けるべきなんですけどね……」
「で、一緒に奪った研究資料にもパスワードのことが書いてあってよォ。
それでな、俺と仲間でそれぞれパスワードを作ったんだ」
「パスワードを2つ、作った?」
「いや、前半と後半、って意味だ。ひとつに繋げると、それが正真正銘のパスワードになる」
「ははぁ……。面倒なことをしましたねぇ」
「そのあと、ケンカ別れになっちまってなァ……。それで今は、俺のパスワードを狙われているんだよ」
「面倒なことになってますねぇ」
「だから、嬢ちゃんはアイツを何とかしてくれねェか?
もちろん、『異能の天球儀』とアイツのパスワードも持ち帰ってくれ!」
「面倒すぎますねぇ」
想像以上に面倒な展開に、アリアは本当に面倒になってきてしまった。
そこにザインの冷静な指摘が入る。
「……そもそもの話なんだが、アリアの目的はその魔導具なんだろ?
実物とパスワードをギデオンさんに渡したら、本来の目的を達成できないんじゃないか?」
「そうなんだよねぇ」
困ったな、というようにアリアは軽く腕を組んだ。
「おいおい、忘れては困るぞ!
アイツのパスワードだけ分かったとしても、俺のパスワードが無いと使えないんだからなァ!?
だから、まずは入手しようぜ? 他の財宝でいいなら、すげぇモンもいっぱいあるからよォ」
「……んー。まぁ、そうですね。どう転ぶか分かりませんし、そうしますか……」
「よーし、話はまとまったな!」
ギデオンは満足そうに笑い、ザインも従うように笑っている。
いろいろと話して決めたものの、まずは動くのが自分だけというのが少し――
「それじゃ、アイツの情報を書いた地図を渡しておこう。
『異能の天球儀』と、アイツの持ってるパスワード。必ず両方、手に入れるんだぞ!!」
「はぁ、わかりました」
「その前に、まずは脱獄をしなきゃァな!!」
大きな声で笑うギデオンとザイン。
それを横目で見るアリア。
『まず』のハードルが高すぎる――
アリアはついつい、肩を落としてしまうのだった。