テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
――とりあえず私に何ができるかと言えば、もちろん錬金術である。
いくら英雄を倒そうが、迷宮を創ろうが、そんなものはあくまでも例外だ。
従って、私はまず物資補給の仕事を引き受けることにした。
……ちなみにルークとエミリアさんは、戦力として遊撃部隊の方に組み込まれることになった。
神器持ちの剣士と、光魔法を使いこなすプリースト。
戦力の補強としては申し分なく、きっと大活躍をしてくれるはずだ。
離れ離れになるのは少し寂しいけど、今は自分の得意分野から攻めていくことにしよう。
……そんなわけで朝の10時頃、私は一人の兵士に連れられて、とある建物を訪れた。
「アイナ様、こちらが錬金術の工房となります。
他にも錬金術師の方がおりますので、分からないことがあればそちらに聞いてください」
「はい、ありがとうございます」
「それでは、私はこれにて」
兵士はそう挨拶をすると、さっさとどこかに行ってしまった。
……案外、私の扱いも適当である。
まぁ街の外では戦いが始まっているらしいから、こんなところでのんびりもしていられないのだろう。
私もボヤいてないで、たくさん手を動かすことにしよう。
……っていうか、私の場合、別に錬金術の工房に来なくても大丈夫なんだよね。
素材さえあればどこでも何でも作れるわけだし、容量がほぼ無制限のアイテムボックスまであるわけだし。
「――ねぇ?」
「え? あ、こんにちは」
気が付くと、私の側には同い年くらいの女の子が立っていた。
赤髪のポニーテールで、そこはかとなく活発な印象を受ける。
……加えて、見るからに錬金術師といった服装をしていた。
「あなたも錬金術師なんだよね? 人手が足りなくて困っていたの。
ポーションとか、最近は消費がすっごく激しくてね~」
「そうなんですか。ポーション作りなら得意なので、たくさんお手伝いできますよ!」
「それは助かるわ。
今は何よりも量ってことで、ここでは初級ポーションを大量に作っているの。
私の作業場の隣が空いてるから、一緒に作業しない?」
彼女の誘いに、私は学校生活を思い出してしまった。
友達と声を掛け合って一緒に作業をする……それはとても、懐かしい感覚だ。
「はい、ありがとうございます。
私のことは気軽に、アイナって呼んでくださいね」
「アイナ……さん……? ……うわぁ」
私が自己紹介をすると、彼女は何故か悲しい視線を向けてくれた。
……これは予想外の反応だ。
「えーっと……、どうしましたか……?」
「……今話題の魔女さんと同じ名前なんだなぁ、って。
それに錬金術師っていうのも同じだから、間違われちゃわない?」
「いやいや、私は――」
「いいのいいの、大丈夫。間違われそうになったら、私が説明してあげるから。
だからほら、安心して作業をしようね!」
私、その本人なんだけどー?
……やっぱりまだ、『魔女』としての貫録が無いのかな? ……無いんだろうなぁ。
「と、ところであなたのお名前は?」
「あっと、ごめんね。
私の名前はレティシア。よろしくね、アイナさん♪」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――って、アイナさん!? ちょっと持ってきすぎじゃない!?」
倉庫から初級ポーションの素材を大量に運んでいると、レティシアさんが驚いて声を掛けてきた。
「え? たくさん作るんですよね?」
「そうなんだけど、そんなに持ってきても一度には作れないよね?
作業台も塞がっちゃうよ?」
……そう言われて、私はようやく気が付いた。
確かに手作業でやるなら、素材ばかり並べていても邪魔になってしまう。
しかし私は、一瞬で何でも作ることが出来るし――
……それに『魔女』としての名声を広めたい今、自分の力を隠すつもりは無くなっているのだ。
「レティシアさん。実は私……例の魔女なんですよ!
ほら、巷で噂の『神器の魔女』!!」
「えー? あはは♪ 名前が同じだから、持ちネタにしてるの?
でもクレントスはこんな状況だし、あんまり変な冗談は言わない方が良いよ~?」
……ぐぬぬ。
言葉だけでは信じてくれない……?
「いやいや、本当です。本当に。
だから、私は初級ポーションくらいなら一気に大量に作ることができるんです!」
「も~、アイナさんったら。
もしそれが本当なら、私はアイナさんの弟子にでも何でもなってあげるわ!
こんなにとっつきやすい魔女さんなら、大歓迎だからね」
「え? 本当ですか?」
「でも、嘘だったら今日の昼食は奢ってもらうわよ!
ほらほらー。持ちネタを引っ込めるなら、今のうちだよ~?」
ふむ……。
レティシアさんはきっと、冗談で言っているのだろうけど――
「持ちネタでは無いので引っ込めません!
では、賭けに参りましょう。本当に良いですか?」
「ふふ、分かったわ。
でも、そんなことをしなくても昼食くらいは一緒に行くのに……。良いお店を知っているから、あとで行こうね」
「一緒に行くのであれば、師匠として、弟子に昼食を奢るのも悪くはありませんね。
それじゃ、初級ポーションを一気に作りますよー」
そう言いながら、私は素材に向かって手をわきわきと動かした。
レティシアさんはそんな私を見ながら、適当な感じの声援を掛けてくれる。
「はいはい、頑張って~♪」
うん、頑張る~♪
それじゃ、れんきーんっ。
バチッ
いつもの音が響くと、私たちの目の前の素材が一瞬で初級ポーションになった。
薬草類が一気に消えて、20本ほどの空のポーション瓶に液体が突然満たされる――そんな現象が目の前で起こったのだ。
「え……?」
「はい、できました」
「えぇ……?」
「できましたよ?」
「え? え? え? ……な、何をしたの? え、手品? 魔法?
……え? もしかして、本物の……魔女さん……?」
そう言いながら、レティシアさんは声と身体を震わせながら、恐る恐るといった感じで私を指差した。
これだけのことで信じてくれて良かった良かった。……『これだけのこと』というには、少し超能力掛かって見えるけど。
「――改めまして。
神器の魔女、アイナ・バートランド・クリスティアです。
今後ともよろしくね、弟子のレティシアさん」
「う、うひゃぁ~~……」
レティシアさんは変な声を上げると、そのままそこにへたり込んでしまった。
ふふふ、私にもようやく弟子ができたね!
……ようやくっていうか、別に弟子なんて求めていなかったけど。
でもまぁここはノリということで、そんなことがあってもたまには良いだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
気が付くと、他の錬金術師たちがこちらを見ながら、ざわつき始めていた。
話し声は全部聞こえていなかっただろうけど、一気に初級ポーションを作ったりしてしまったから……異常なことには気付いたのだろう。
……何よりも、レティシアさんが突然へたり込んでしまったわけだし。
自分たちがざわつきの原因であることを察すると、レティシアさんは何とか立ち上がって、他の錬金術師に向かって説明を始めた。
「……み、みなさん!
こちらの方は、アイナさんと言って……今をときめく、『神器の錬金術師』様です!
見ましたか!? 一瞬でポーションをこんなにたくさん作ったんですよ……!!」
「え……? あの娘が……?」
「神器を作ったっていう……?」
「指名手配中の……? え、この娘が?」
「お婆さんじゃなかったんだ?」
「そういえば、この街に来たっていう噂が……」
「いやいや。それなら何でこっちに?」
レティシアさんの言葉に、錬金術師たちは思い思いに呟いた。
ほとんどの人は信じられないような眼差しで私を見ていたけど――
……そりゃ、急に言われてもね。
「『神器の錬金術師』よりも『神器の魔女』の方を定着させたいので、そちらで是非お呼びください。
突然では信じられないと思いますので、これからの仕事っぷりを見て、そして信じてください。
あと、教えられることは教えますので、何でも聞いてくださいね」
私の錬金術はスキル頼みとは言え、それを使うことで知識を引っ張ってこれるのは以前に確認済みだ。
ちょっと頭を捻る必要はあるけど、捻ればそれなりに知識が出てきてくれる。
私の名声を広める対価としてなら、それくらいは何でもないことだから……ひとまず今日は、そんな感じで頑張ってみようかな!
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!