彼女と目が合ってしまい、俺のことは見えんだろうと思いはしたもののまるで、彼女は俺が見えとるかのように優しく微笑んだ。その笑顔があまりにも綺麗で、吸い込まれそうになるほどに見惚れてしまう自分がいた。
今この静かな空間の中で、俺と彼女だけが世界の片隅にいるように思えてしまい….
風が吹いたと同時に彼女の前から姿を消した。
それでも彼女は毎日来てくれた….
五年後の春彼女は旦那さんと一緒に参拝しに来てくれた、手を合わせ心の中で祈りを始めた。
神様、私達夫婦をいつも見守ってくださりありがとうございます。
嬉しい報告をさせてください。 実は、子供を育てることが出来るんです!特別養子縁組という制度を使って。
「ほ〜、よかったな二人ならきっと大丈夫だろうおめでとうさん」
私今すごく幸せです。
「ほんまよかったな茉莉子さん」
顔を上げ旦那さんの手を取り本殿に満面の笑顔を向けた。星が降りそそぐような愛らしく桜の花がふわりふわりと宙を舞う。 二人の背中を包み込むように淡い光のようだ。
それから17年後
その日は雨が降ったり止んだりでとても寒い日だ。こんな寒い日に参拝に来る人間はまずいない。
もし、こんな日に来る人間がいたらどうかしてるとしか思えない。腰を上げゆっくりと本殿を出て屋敷の方へと歩き出した。
神様
「えっ、」俺は不思議に思いすぐに本殿の中から外を覗いた。 「なんで….こんな雪も降りそうな寒い日に、しかも濡れてるやん。風邪引いてしまう….」
彼女は、息を乱し頬を赤くし寒いのだろう手を震わせ賽銭箱にお金を入れ震える手で手を合わせた。
お願い神様。あの子が急に連絡も取れなくなってしまい、前に会った時顔がものすごく悪くて…….なんだか嫌な予感がするんです。 なにがあったのか、どうして会えないのか知りたいんです。
神様どうかあの子を守ってください。
頬に大粒の雫が流れ落ちる、まるで視界が水浸しになるかのように何度も何度も祈っている。
その聲(こえ)はあまりにも脆く壊れてしまいそうで、祈りから伝わってくる思いはとても悲しく母親が子供を本気で心配するのは、血が繋がっていようといなかろうと関係のないことだ。 と彼女を見て改めて痛感した。