ほんの数分後、店長が晴れ晴れとした顔で戻ってきた。
「いやぁー、よかったよかった。急だったからどこも空いてなかったけど、何とか見つかったよ。」
何のことだかさっぱり分からない。無言で見上げる私に、店長は晴れやかな笑顔を浮かべた。
「よし。行こっか。」
「行くって…どこに。」
「あ、そっか。何も説明してなかったよね…ごめんごめん。君が泊まれそうなホテル、手配しといたから。」
「は…?」
何の迷いもなく言われ、思わず間抜けな声が出てしまう。
「ち、ちょっと待ってください…私…」
「心配しなくても大丈夫さ。ベッドもお風呂もあるからね。」
それは魅力的な響きだった。それならいいか…
「じゃなくて!!私…お金持ってないですから…!!」
そんな私を、店長は軽く笑い飛ばした。
「ああ、それも大丈夫!!はい。これで足りると思うんだ。」
躊躇なく、財布から一万円札を私に差し出してくる。
もう訳が分からなかった。
「…何が目的なんですか。」
俯きながら、それを受け取る。
「目的なんてないよ。ただ、君を安全な場所にと思ってね。俺は藤塚さんにこれ以上傷付いてほしくないんだ…。」
心が、小さく震えた。その言葉には重みがあり、どこか自分の家庭と重ね合わせているようにも聞こえた。
「ご、ごめんよ。勝手なことして…もし迷惑だったら…」
「いえ…迷惑なんかじゃありません。ありがとう…ございます。」
野宿して死んでも構わないと思っていた私に手を差し伸べてくれたことが何より嬉しかった。
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