テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
⚠️最後の方センシティブグレーゾーンあり朝。
まだカーテンの隙間からうっすら光が入るくらいの時間。
北斗が先に目を覚ます。
北斗「……」
天井をぼんやり見て、
少しだけ瞬きをする。
静かすぎる部屋。
隣を見ると、
〇〇はまだ寝てる。
小さく丸まって、布団に半分埋もれてる。
北斗「……」
少しだけ視線が止まる。
昨日のことが、なんとなく頭に残ってる。
香水、外出、帰ってきて、ご飯。
全部が普通で、
でも少しだけ長く残る感じ。
北斗「……」
視線を外す。
ゆっくり体を起こす。
ベッドが少しだけ揺れる。
〇〇「……ん」
小さく動くけど、起きない。
北斗はそのまま静かに立ち上がる。
足音を抑えて部屋を出る。
リビング。
まだ静か。
北斗はキッチンに向かう。
コーヒーの準備をしながら、
北斗「……」
ふと、
「今日、弟来るかも」
って昨日の会話が頭に浮かぶ。
北斗「……」
カップにお湯を注ぐ。
湯気が上がる。
北斗「……来るのか」
ぽつり。
別に気にしてないはずなのに、
なんとなく意識に残る。
北斗はコーヒーを一口飲む。
まだ〇〇は起きてこない。
北斗はそのまま一人で、
少しだけゆっくりした時間を過ごしていた
コーヒーの湯気がゆっくり上がる中で、
北斗のスマホが震える。
北斗「……ん」
画面を見る。
〇〇のマネ。
北斗「……」
一瞬だけ寝室の方を見る。
(まだ寝てる)
そのまま通話に出る。
北斗「もしもし」
マネ『あ、北斗?』
北斗「はい」
マネ『〇〇いる?』
北斗「寝てます」
マネ『あーやっぱり』
少しだけ笑う気配。
マネ『起こすのもあれだからさ』
北斗「はい」
マネ『今日、弟くん来るって話あったじゃん』
北斗「聞いてます」
マネ『今ちょうど近くまで来てて』
北斗「……はい」
マネ『このまま連れて行ってもいい?』
北斗「……今からですか」
マネ『うん』
マネ『急でごめんね』
北斗は少しだけ黙る。
寝室のドアを見る。
北斗「……大丈夫です」
マネ『助かる』
マネ『あとで〇〇にも伝えといてくれる?』
北斗「はい」
マネ『じゃあ5分くらいで着くから』
北斗「わかりました」
通話が切れる。
静寂。
北斗「……」
カップを置く。
寝室の方を見る。
北斗「……起こすか」
少しだけ考える。
でも——
北斗「……いや」
そのまま玄関の方へ向かう。
軽く部屋を見渡す。
北斗「……」
最低限だけ整える。
#timelesz
いちごみるく
15,086
#菊池風磨
いちごみるく
2,465
#紅一点
いちごみるく
1,365
1,910
数分後。
インターホンが鳴る。
ピンポーン。
北斗は一瞬だけ息を吐いて、
玄関に向かう。
ドアを開けると——
弟「……どうも」
北斗「……おう」
マネ「ごめんね朝から」
北斗「大丈夫です」
マネ「〇〇まだ寝てる?」
北斗「はい」
マネ「起きたら伝えといて」
北斗「わかりました」
マネは軽く手を振って去っていく。
玄関に残る二人。
弟と北斗。
少しだけ間。
弟「……入っていいですか」
北斗「どうぞ」
ドアを開ける。
弟が中に入る。
静かな家。
寝てる〇〇。
そして——
少しだけ気まずい空気。
玄関からリビングへ。
弟が靴を脱いで上がる。
北斗はその後ろを少しだけ距離を取って歩く。
リビングに入って、
改めてちゃんと顔が見える。
北斗「……」
一瞬だけ視線が止まる。
(……似てる)
雰囲気は違うのに、
どこか〇〇と同じ輪郭。
目元とか、表情の抜け方とか。
弟「……どうも」
軽く頭を下げる。
北斗「おう」
短く返す。
でも内心は少しだけ納得してる。
(そりゃ目立つわ)
弟はそのままソファに座る。
スマホをテーブルに置く。
画面が一瞬見える。
北斗「……」
見覚えある投稿。
〇〇とのツーショット。
弟のアカウント。
最近ちょっと話題になってるやつ。
北斗「……」
思い出す。
〇〇が映ってる投稿がバズって、
そこから弟も顔出しして、
普通に注目されてる流れ。
弟「なんか飲みます?」
北斗「いや、いい」
弟「そうですか」
自然な会話。
でも空気はまだ少しだけ探り合い。
弟「……北斗さんですよね」
北斗「まぁ」
弟「話は聞いてます」
北斗「何を」
弟「普通に」
曖昧に笑う。
北斗「……」
それ以上は聞かない。
弟「なんかさ」
北斗「ん」
弟「最近フォロワー増えすぎてびびってます」
北斗「だろうな」
弟「〇〇のせいで」
北斗「否定できねぇな」
弟「ですよね」
軽く笑う。
でも嫌そうじゃない。
弟「でもまぁ」
弟「顔出ししたのも自分なんで」
北斗「へぇ」
弟「なんか流れで」
肩すくめる。
北斗「……似てるって言われるだろ」
弟「めっちゃ言われます」
弟「逆にそれしか言われないです」
北斗「だろうな」
少しだけ空気が緩む。
弟「でも姉ちゃんの方がすごいんで」
北斗「……まぁな」
そこは否定しない。
その時——
寝室の方から微かに物音。
弟「……起きた?」
北斗「かもな」
二人ともそっちを見る。
少しして、
〇〇「……んー」
寝ぼけた声。
弟「来た」
北斗「……」
さっきまでの静けさが、
少しだけ動き出す。
寝室のドアが少しだけ開く。
〇〇「……んー……」
髪ぼさぼさのまま、半分目を閉じた状態で顔だけ出す。
弟「おはよ」
〇〇「……ん」
反応はするけど、
完全に寝てる。
北斗「起きろよ」
〇〇「……むり」
即答。
弟「はや」
〇〇「……あと5分」
北斗「絶対起きねぇやつ」
〇〇「……起きる……」
声がどんどん小さくなる。
そのままドアに寄りかかったまま、
一瞬止まって——
〇〇「……」
ふらっと戻る。
弟「え、戻った」
北斗「おい」
〇〇はそのままベッドに倒れ込む音。
ボフッ。
数秒後。
〇〇「……すー……」
完全に寝た。
弟「早すぎでしょ」
北斗「いつもああ」
弟「自由すぎる」
少し笑う。
北斗「起こしても無駄」
弟「だろうね」
リビングに戻る静けさ。
さっきより少しだけ空気が柔らかい。
弟「……あれでよく仕事してるよね」
北斗「してるからな」
弟「すごいわ」
北斗「まぁな」
短く返す。
でも、
二人ともさっきの様子を思い出して、
少しだけ笑ってた。
〇〇は寝室で二度寝。
静かな空気の中で、弟がふとソファにもたれる。
弟「昔からあんな感じでした?」
北斗「どういう」
弟「マイペース」
北斗「……まぁな」
弟「やっぱり」
少し笑う。
弟「歳、二つしか離れてないじゃないですか」
北斗「らしいな」
弟「だからほぼ一緒に育ってるんですけど」
北斗「うん」
弟「小さい頃からああなんですよ」
北斗「へぇ」
弟「自由っていうか」
弟「自分のペース崩さないっていうか」
北斗「……今と同じだな」
弟「ですよね」
少しだけ嬉しそうに笑う。
弟「でも昔の方がもっとひどかったですよ」
北斗「ひどいのかよ」
弟「急にどっか行くし」
弟「遊んでても途中で違うこと始めるし」
北斗「……想像つく」
弟「あと寝るのも自由すぎて」
弟「今みたいに急に落ちます」
北斗「さっきのな」
弟「そうです」
二人で少し笑う。
弟「でも」
少しだけ声が落ちる。
弟「昔から変わんないんですよね」
北斗「……何が」
弟「ちゃんとやるときはやるところ」
北斗「……」
弟「普段あんななのに」
弟「仕事とかになると別人みたいになる」
北斗「……まぁな」
短く頷く。
弟「なんかそれ見てると」
弟「すごいなって普通に思います」
北斗「……」
少しだけ沈黙。
弟「あと」
北斗「ん」
弟「人といるの好きなんですよ、あの人」
北斗「……知ってる」
弟「でも」
弟「誰でもいいわけじゃないんですよね」
北斗「……」
弟はちらっと北斗を見る。
弟「ちゃんと安心できる相手じゃないとダメで」
北斗「……」
弟「だから今日も来たんですけど」
北斗「……そうかよ」
少しだけ視線を外す。
弟「まぁでも」
弟「こうやって普通に家にいるの見てると」
弟「安心してるんだなってわかります」
北斗「……」
その言葉に、
ほんの少しだけ間ができる。
弟はそれ以上は言わない。
ただ軽く笑って、
弟「相変わらずだなーって感じです」
って、柔らかく締める。
北斗は何も返さない。
でも、
さっきまでより少しだけ静かに、
その言葉をそのまま受け取っていた。
弟「姉ちゃんの秘密、教えましょうか」
北斗「……ろくでもなさそう」
弟「大したことじゃないです」
北斗「信用できねぇ」
弟「いやほんとに」
少し笑う。
弟「昔からなんですけど」
北斗「ん」
弟「人前だと絶対弱いとこ見せないんですよ」
北斗「……」
弟「どんだけしんどくても普通にしてるし」
弟「むしろテンション上げるときもある」
北斗「……まぁな」
弟「でも」
少しだけ間。
弟「一人になると一気に止まります」
北斗「……止まる?」
弟「何もできなくなるっていうか」
弟「スイッチ切れたみたいに」
北斗「……」
弟「だから急に寝たりするんですよ」
北斗「……あぁ」
思い当たる顔。
弟「あと」
北斗「まだあんのか」
弟「これの方がそれっぽいです」
北斗「やめろ」
弟「やめないです」
軽く笑う。
弟「安心してる人の前だと」
北斗「……」
弟「ちょっと子供っぽくなるんですよ」
北斗「……」
弟「さっきみたいに」
弟「何も考えずに寝たり」
弟「素でしゃべったり」
北斗「……」
弟「逆に言うと」
弟「そうじゃないときはちゃんと気張ってるってことなんですけど」
少しだけ間。
弟「だからまぁ」
北斗「……」
弟「ここであんな風に寝てるってことは」
北斗「……」
弟はそれ以上言わない。
ただ少しだけ笑う。
弟「っていう話です」
北斗「……秘密でもなんでもねぇな」
弟「本人は隠してるつもりなんで」
北斗「……だろうな」
短く返す。
弟「まぁでも」
北斗「ん」
弟「ちゃんと安心できてる場所があるなら、それでいいと思ってます」
北斗「……」
北斗は何も言わない。
ただ少しだけ視線を落として、
小さく息を吐いた。
弟「これ、子供の頃の〇〇」
北斗「……は?」
弟がスマホを差し出す。
画面に映ってるのは、小さい頃の〇〇。
無邪気に笑ってる写真。
北斗「……」
一瞬、言葉が止まる。
弟「めっちゃ昔のやつです」
北斗「……面影あるな」
弟「でしょ」
少し嬉しそう。
北斗「そのまんまじゃん」
弟「変わってないんですよ、ほんと」
次の写真にスライドする。
弟「これとか」
北斗「……」
今度は寝てる写真。
変な体勢で、完全に無防備。
北斗「……今と同じだな」
弟「ですよね」
笑う。
弟「どこでも寝るんです」
北斗「知ってる」
さらにもう一枚。
弟「これお気に入り」
北斗「……」
ちょっと拗ねた顔の〇〇。
腕組んでそっぽ向いてる。
北斗「……」
北斗「めんどくさそう」
弟「めんどくさいですよ昔から」
二人で少し笑う。
弟「でも」
少しだけ指を止める。
弟「これが一番“素”なんですよね」
北斗「……」
北斗はスマホをもう一度見る。
小さい頃の〇〇。
無防備で、感情がそのまま出てる顔。
北斗「……」
弟「今はああいう顔、あんまりしないんで」
北斗「……まぁな」
短く返す。
弟「でもさっきみたいに寝てる時は」
弟「ちょっと近いですよ」
北斗「……」
北斗は何も言わない。
ただ、ほんの少しだけ視線を長く止める。
弟「懐かしいなって思って」
北斗「……」
北斗「消せよそれ」
弟「なんでですか」
北斗「見られたら怒るだろ」
弟「確かに」
少し笑う。
でも消さない。
弟「まぁ秘密ってことで」
北斗「……」
北斗は小さく息を吐いて、
視線を外す。
でも、
さっき見た写真が、
頭から離れなかった。
弟「……北斗さんさ」
北斗「ん」
弟「さっきから、姉ちゃんの話めっちゃ食いつきますね」
北斗「……別に」
弟「いや、別にじゃないでしょ」
北斗「普通に聞いてるだけだろ」
弟「普通のテンションじゃないです」
北斗「……」
少しだけ黙る。
弟「写真もめっちゃ見てたし」
北斗「見てねぇよ」
弟「見てました」
即答。
北斗「……」
言い返さない。
弟「なんか意外です」
北斗「何が」
弟「もっと興味ないタイプかと思ってたんで」
北斗「……」
少しだけ視線を外す。
北斗「別に」
北斗「興味ないわけじゃねぇだろ」
弟「へぇ」
少しだけニヤッとする。
弟「じゃああるんですね」
北斗「……」
北斗「話の流れだろ」
弟「それであそこまで見るのすごいですよ」
北斗「……うるせぇ」
小さく吐き捨てる。
弟「でもまぁ」
北斗「ん」
弟「なんか安心しました」
北斗「……何が」
弟「ちゃんと見てくれてる人なんだなって」
北斗「……」
その言葉に少しだけ間ができる。
北斗「見てねぇよ別に」
弟「いや見てますよ」
北斗「……」
弟「姉ちゃんのこと」
北斗「……」
北斗は何も返さない。
弟「まぁでも」
弟「それならいいです」
軽く笑う。
弟「安心して任せられる」
北斗「……任せるな」
弟「任せますよ」
北斗「……勝手にしろ」
弟「……好きなんでしょ」
北斗「……は?」
一瞬で空気が変わる。
弟「いや、普通に」
北斗「普通じゃねぇだろ」
弟「だって見てればわかりますよ」
北斗「何が」
弟「さっきからの反応」
北斗「……」
弟「興味ない人にあんな食いつかないでしょ」
北斗「……」
北斗は一瞬黙る。
弟「違うんですか」
北斗「……違う」
少しだけ間を置いて言う。
弟「へぇ」
北斗「……」
弟「じゃあなんでそんな見てるんですか」
北斗「見てねぇって言ってんだろ」
弟「見てます」
北斗「……」
言い返さない。
弟「まぁでも」
少しだけ笑う。
弟「そういう顔する人、だいたいそうなんですよね」
北斗「……どんな顔だよ」
弟「自分で気づいてないやつ」
北斗「……」
北斗は小さく息を吐く。
北斗「……関係ねぇだろ」
弟「まぁそうですけど」
少し間。
弟「でも」
北斗「ん」
弟「嫌じゃないです」
北斗「……何が」
弟「姉ちゃんのこと、ちゃんと見てくれてる人がいるの」
北斗「……」
弟「さっきも言いましたけど」
弟「安心します」
北斗「……」
北斗は視線を外す。
北斗「……勝手にしろ」
弟「はい」
軽く返す。
弟「でも一応言っときますね」
北斗「何」
弟「姉ちゃん、気づくの遅いんで」
北斗「……」
弟「もしそうだったら」
弟「ちゃんとしないと、たぶんずっとそのままですよ」
北斗「……」
北斗は何も言わない。
ただその言葉だけが、
静かに残った。
弟「……じゃあもう一個、北斗さんのために教えます」
北斗「いらねぇ」
弟「いります」
即答。
北斗「……何だよ」
弟「これ、姉ちゃん絶対自分から言わないやつなんで」
北斗「……」
少しだけ黙って聞く体勢。
弟「姉ちゃんって」
北斗「ん」
弟「好きな人できると、めっちゃわかりやすいんですよ」
北斗「……は?」
弟「いやほんとに」
北斗「何がだよ」
弟「まず」
指を軽く立てる。
弟「その人の話、ちょっとだけ増える」
北斗「……」
弟「でも本人は隠してるつもりなんで」
弟「さりげなく混ぜてくる感じ」
北斗「……」
弟「あと」
弟「その人の前だとちょっとテンション変わる」
北斗「どう変わる」
弟「いつもより素っぽくなる」
弟「変に作らないっていうか」
北斗「……」
弟「で、一番わかりやすいのが」
少しだけ笑う。
弟「距離感」
北斗「……距離?」
弟「普段はちゃんと人との距離取るんですけど」
弟「好きな人だと」
弟「無意識で近くなるんですよ」
北斗「……」
一瞬、あの店での距離が頭に浮かぶ。
弟「あと」
北斗「まだあんのか」
弟「これ最後」
弟「その人といるときだけ、ちょっと子供っぽくなる」
北斗「……」
弟「安心してるのもあるんですけど」
弟「それとはちょっと違って」
弟「甘えてるっていうか」
北斗「……」
少し沈黙。
弟「まぁ」
軽く肩をすくめる。
弟「わかりやすいんですよ、昔から」
北斗「……」
北斗は何も言わない。
弟「だから」
北斗「……」
弟「もし気になるなら」
弟「見てればすぐわかりますよ」
北斗「……」
北斗は小さく息を吐く。
北斗「……余計なこと言うな」
弟「でも事実なんで」
北斗「……」
弟はそれ以上何も言わない。
ただ少しだけ意味ありげに笑う。
北斗は視線を落としたまま、
さっきまでの記憶が少しずつ繋がっていくのを、
何も言わずに受け止めていた。
〇〇「……ん……」
小さく声が漏れる。
〇〇「……」
ゆっくり目を開ける。
ぼんやりしたまま天井を見る。
〇〇「……あれ」
体を少し起こす。
〇〇「……なんか声する」
寝ぼけたまま耳を澄ます。
リビングの方から、かすかに話し声。
〇〇「……」
少しだけ考えて、
〇〇「……弟?」
ベッドから降りる。
まだ完全に起きてない足取りでドアへ。
〇〇「……」
ドアを少し開ける。
リビングが見える。
北斗と弟。
普通に話してる。
〇〇「……来てたんだ」
ぽつり。
そのままドアにもたれて、
ぼーっと二人を見る。
〇〇「……おはよ」
小さめの声。
弟「お、起きた」
北斗「遅ぇ」
〇〇「……起きてたもん」
全然説得力ない。
弟「さっき二度寝したでしょ」
〇〇「……した」
素直。
北斗「だろうな」
〇〇はそのままふらっと近づく。
まだ眠そうな顔のまま。
〇〇「……コーヒーある?」
北斗「ある」
〇〇「ちょうだい」
ソファに座りながら言う。
完全に自然な流れ。
弟はその様子を見て、
ちょっとだけ笑う。
弟「相変わらずだね」
〇〇「なにが」
〇〇「……あ」
少ししてやっと気づく。
〇〇「来てたの?」
弟「来てるよ」
〇〇「はや」
弟「さっき言ったじゃん」
〇〇「……記憶ない」
北斗「だろうな」
コーヒーを置く。
〇〇「ありがと」
受け取って一口。
〇〇「……おいしい」
一口飲んで、
〇〇「……」
止まる。
北斗「……何その顔」
〇〇「……にがい」
北斗「だろうな」
即答。
弟「飲めないんだ」
〇〇「飲めるよ」
もう一口。
〇〇「……」
固まる。
〇〇「……やっぱ無理」
素直にカップを少し遠ざける。
北斗「だから言っただろ」
〇〇「でもちょっといけると思った」
弟「無理して飲むやつじゃないでしょそれ」
〇〇「なんか大人っぽいじゃん」
北斗「形から入るな」
〇〇「いいじゃん」
少し拗ねた顔。
〇〇「でもほんと苦い」
北斗「砂糖入れろ」
〇〇「どれくらい」
北斗「適当」
〇〇「それ一番困る」
弟「昔から甘いやつしか飲まないよ」
〇〇「うん」
あっさり認める。
〇〇「甘いのがいい」
北斗「子供かよ」
〇〇「いいじゃん」
砂糖を入れて混ぜる。
〇〇「……これならいけるかも」
一口。
〇〇「……あ、いける」
少しだけ顔が明るくなる。
弟「単純」
〇〇「うるさい」
北斗はその様子を見ながら、
小さく息を吐く。
北斗「最初からそうしろ」
〇〇「次からそうする」
素直に頷く。
そのやり取りがあまりに自然で、
弟はまた少しだけ笑って、
何も言わずにその空気を見ていた。
弟「……そろそろ行くわ」
〇〇「え、もう?」
弟「昼までって言ったじゃん」
〇〇「もうちょいいればいいのに」
弟「仕事あるし」
〇〇「……そっか」
ちょっとだけしゅんとする。
北斗「ちゃんと時間守るタイプなんだな」
弟「普通です」
〇〇「えー」
〇〇「久しぶりなのに」
弟「昨日も会うって言ったでしょ」
〇〇「でもさ」
〇〇「もうちょっと話したかった」
小さめの声。
弟「……」
少しだけ間。
弟「また来るって」
〇〇「ほんと?」
弟「うん」
〇〇「絶対ね」
弟「はいはい」
軽く流す。
でも少しだけ柔らかい。
〇〇はそのまま玄関までついていく。
〇〇「ちゃんとご飯食べなよ」
弟「そっちがな」
〇〇「食べてるもん」
弟「嘘つけ」
〇〇「食べてる!」
弟「はいはい」
靴を履きながら軽く笑う。
〇〇「あとさ」
弟「ん」
〇〇「無理しないでね」
弟「……」
一瞬だけ止まる。
弟「それ、そっちに言えよ」
〇〇「言ってる」
弟「言ってない」
〇〇「言ってる」
ちょっとした言い合い。
でもどっちも強くない。
弟「……まぁいいや」
〇〇「何それ」
弟「ちゃんとやってるならそれでいい」
〇〇「やってる」
弟「ならいい」
短く言う。
〇〇「……また来てね」
弟「気が向いたら」
〇〇「絶対ね」
弟「はいはい」
ドアを開ける。
弟「じゃあな」
〇〇「うん」
一歩出て、
少しだけ振り返る。
弟「……ちゃんと寝ろよ」
〇〇「寝てるもん」
弟「さっき二度寝してたじゃん」
〇〇「それはいいの」
弟「よくねぇよ」
少しだけ笑う。
弟「じゃあな」
〇〇「ばいばい」
ドアが閉まる。
静かになる玄関。
〇〇「……帰っちゃった」
ぽつり。
少しだけ寂しそう。
でもどこか満足した顔。
そのままゆっくり振り返ると、
リビングにいる北斗と目が合う。
〇〇「……」
〇〇「コーヒー、まだある?」
さっきと同じトーンで言う。
北斗「あるけど」
〇〇「砂糖多めで」
北斗「最初からそうしろ」
〇〇「だって挑戦したかったんだもん」
軽く笑いながらソファに戻る。
さっきまでの賑やかさが嘘みたいに、
部屋は少し静かになる。
北斗はキッチンでコーヒーを入れ直しながら、
ちらっと〇〇を見る。
さっきまでより、
少しだけ落ち着いた顔。
でもどこか満たされてる感じ。
北斗「ほら」
カップを置く。
〇〇「ありがと」
今度はちゃんと砂糖入り。
一口飲んで、
〇〇「……うん、これ」
満足そうに頷く。
少し間。
〇〇「帰っちゃったね」
北斗「まぁな」
〇〇「久しぶりだったからさ」
〇〇「ちょっと寂しいかも」
北斗「……」
短く沈黙。
北斗「また来るって言ってただろ」
〇〇「うん」
〇〇「でもさ」
〇〇「こういうのって、来てる時の方が楽しいじゃん」
北斗「……まぁな」
〇〇はカップを持ったまま、
少しだけぼーっとする。
〇〇「なんかさ」
北斗「ん」
〇〇「今日、普通でよかった」
北斗「……何が」
〇〇「全部」
〇〇「こういう日」
北斗「……」
北斗は何も言わない。
〇〇はふっと笑う。
〇〇「変に気使わなくていい感じ」
北斗「……使ってるつもりねぇよ」
〇〇「だからいいの」
さらっと言う。
その言葉に、
北斗は一瞬だけ視線を止める。
〇〇は気づかないまま、
コーヒーを飲む。
〇〇「ねぇ」
北斗「ん」
〇〇「今日さ」
〇〇「このあとどうする?」
北斗「仕事」
〇〇「そっか」
〇〇「じゃあその前にちょっとだけさ」
北斗「何」
〇〇「ゆっくりしていい?」
北斗「……してるだろ」
〇〇「そうだけど」
〇〇「なんかちゃんと」
北斗「……」
少しだけ間。
北斗「好きにしろ」
〇〇「やった」
小さく笑う。
そのままソファに寄りかかって、
少しだけ距離を詰める。
無意識に。
北斗「……」
何も言わない。
ただその距離をそのままにして、
同じ方向を見る。
テレビもついてない、
音もない、
ただ静かな時間。
でも——
さっきより、
少しだけ近い空気だった。
〇〇「……最近さ」
北斗「ん」
〇〇「仕事、また戻ってきた感じする」
北斗「……あぁ」
〇〇「前みたいに普通に忙しい」
北斗「いいことだろ」
〇〇「うん」
少しだけ間。
〇〇「でもちょっと怖い」
北斗「……何が」
〇〇「またさ」
〇〇「ちゃんとできるかなって」
北斗「……」
〇〇はカップを両手で持ったまま、
少しだけ視線を落とす。
〇〇「前みたいに、ずっと余裕あるわけじゃないし」
〇〇「でも求められるのは変わらないじゃん」
北斗「……まぁな」
〇〇「だからさ」
〇〇「ちゃんとやらなきゃって思うほど」
〇〇「ちょっとだけ怖くなる」
静かな声。
北斗「……」
北斗は少しだけ考える。
北斗「でもやってきたんだろ」
〇〇「……」
〇〇「まぁね」
北斗「なら同じことやるだけだろ」
〇〇「簡単に言うね」
北斗「簡単だろ」
〇〇「いや難しいよ」
少しだけ笑う。
でもその笑いは弱くない。
〇〇「でもさ」
〇〇「やっぱ好きなんだよね」
北斗「……何が」
〇〇「仕事」
北斗「……」
〇〇「大変でも、結局戻りたくなる」
北斗「……」
北斗は何も言わずに聞く。
〇〇「だからやるけど」
〇〇「ちゃんとやりたい」
北斗「……」
少し間。
北斗「ならやればいい」
〇〇「それだけ?」
北斗「それだけ」
〇〇「雑」
北斗「余計なこと考えすぎなんだよ」
〇〇「それ言われたの今日2回目」
北斗「誰に」
〇〇「廉」
北斗「……」
一瞬だけ空気が止まる。
〇〇は気にせず続ける。
〇〇「でもさ」
〇〇「ちょっと楽になった」
北斗「何が」
〇〇「普通に話せたから」
北斗「……」
北斗は小さく息を吐く。
北斗「ならいいだろ」
〇〇「うん」
少しだけ柔らかく笑う。
〇〇「ありがとう」
北斗「……別に」
そっけない返事。
でもその空気は、
さっきより少しだけ軽くなっていた。
〇〇「ねぇ」
北斗「ん」
〇〇「シンガポール行きたい」
北斗「……急だな」
〇〇「うん、今思った」
北斗「なんでシンガポール」
〇〇「なんかさ」
〇〇「あったかいとこ行きたい」
北斗「日本でもあるだろ」
〇〇「海外がいいの」
北斗「ざっくりだな」
〇〇「あと夜景きれいじゃん」
北斗「まぁな」
〇〇「あとさ」
〇〇「ちょっと現実離れした感じする」
北斗「……」
〇〇「仕事とか一回全部置いてさ」
〇〇「ぼーっとしたい」
北斗「……」
少し間。
北斗「無理だろ今」
〇〇「わかってる」
〇〇「でも行きたいって思うのは自由じゃん」
北斗「まぁな」
〇〇「行けたらさ」
〇〇「何したいと思う?」
北斗「……知らねぇ」
〇〇「考えてよ」
北斗「考えるほどでもねぇだろ」
〇〇「えー」
少しだけ笑う。
〇〇「私ね」
北斗「ん」
〇〇「夜に外歩きたい」
北斗「……」
〇〇「暑い中じゃなくて」
〇〇「ちょっと涼しくなった夜に」
北斗「……」
〇〇「で、なんか甘いの飲みながら」
北斗「また甘いのかよ」
〇〇「いいじゃん」
〇〇「コーヒー無理だし」
北斗「知ってる」
〇〇「でさ」
〇〇「なんも考えずに歩きたい」
北斗「……」
少しだけ沈黙。
北斗「仕事の合間にやればいいだろ」
〇〇「できないの」
北斗「なんで」
〇〇「頭切り替えられない」
北斗「……」
〇〇「だからちゃんと離れたい」
北斗「……」
北斗は少しだけ考えて、
北斗「……行けばいいだろ、そのうち」
〇〇「そのうちね」
〇〇「いつだろ」
北斗「知らねぇよ」
〇〇「でもさ」
〇〇「ちょっと楽しみできた」
北斗「……」
〇〇「行けるかどうかは置いといて」
〇〇「“行きたい”って思えるのいいじゃん」
北斗「……まぁな」
〇〇は満足そうに笑う。
〇〇「じゃあいつかね」
北斗「……あぁ」
軽い約束みたいな言葉。
でも、
その空気は不思議と悪くなかった。
北斗「……そろそろ行くわ」
〇〇「もう?」
北斗「仕事だろ」
〇〇「そっか」
カップをテーブルに置く。
〇〇「いってらっしゃい」
北斗「おう」
立ち上がって、軽く準備を整える。
〇〇はソファに座ったまま見てる。
〇〇「ねぇ」
北斗「ん」
〇〇「今日さ」
北斗「何」
〇〇「シンガポールのこと考えといて」
北斗「……なんで」
〇〇「行くかもしれないじゃん」
北斗「“そのうち”だろ」
〇〇「でもいいじゃん」
北斗「……」
小さく息を吐く。
北斗「暇あったらな」
〇〇「絶対ね」
北斗「約束してねぇ」
〇〇「してる」
北斗「してねぇよ」
軽いやり取り。
〇〇は少し笑う。
〇〇「じゃあさ」
北斗「ん」
〇〇「今日もがんばって」
北斗「……お前もな」
〇〇「私はあとで」
北斗「寝んなよ」
〇〇「寝ない」
一瞬の間。
〇〇「……たぶん」
北斗「寝るなそれ」
〇〇「寝ないって」
少し笑う。
北斗はドアの方へ向かう。
〇〇「ねぇ北斗」
北斗「ん」
〇〇「いってらっしゃい」
さっきより少しだけ柔らかい声。
北斗「……おう」
短く返す。
ドアを開けて外へ。
パタンと閉まる音。
部屋に静けさが戻る。
〇〇はそのままソファに倒れ込む。
〇〇「……」
少しだけ天井を見る。
さっきの会話とか、
弟との時間とか、
全部がまだ少し残ってる。
〇〇「……がんばろ」
小さく呟いて、
ゆっくり体を起こした。
スマホが震える。
〇〇「……ん?」
画面を見る。
〇〇「樹」
少しだけ首をかしげる。
〇〇「もしもし?」
樹『おはよ』
〇〇「おはよ」
樹『起きてたんだ』
〇〇「うん、さっき」
樹『珍し』
〇〇「失礼」
少し笑う。
樹『昨日ぶりだな』
〇〇「だね」
樹『今日仕事?』
〇〇「あるよ」
樹『そっか』
少し間。
樹『昨日さ』
〇〇「ん」
樹『楽しかった?』
〇〇「うん」
〇〇「めっちゃ」
素直に答える。
樹『ならよかった』
〇〇「ありがとね、誘ってくれて」
樹『いや別に』
軽く流す。
樹『でさ』
〇〇「ん」
樹『今日空いてる時間ある?』
〇〇「え、なんで」
樹『ちょっとだけさ』
樹『みんなで軽く集まろうって話してて』
〇〇「また?」
樹『また』
〇〇「元気だね」
樹『お前もだろ』
〇〇「私は今日仕事ある」
樹『終わりでいいよ』
〇〇「うーん」
少し考える。
〇〇「時間による」
樹『合わせるって』
〇〇「ほんと?」
樹『うん』
〇〇「じゃあ行けたら行く」
樹『それ来るやつじゃん』
〇〇「わかんない」
少し笑う。
樹『まぁいいや』
樹『また連絡する』
〇〇「はーい」
通話が切れる。
〇〇「……」
スマホを見ながら、
〇〇「また集まるんだ」
小さく呟く。
昨日の楽しさが少しよみがえる。
〇〇「……」
ふっと笑う。
〇〇「ほんと元気だなみんな」
でもその顔は、
ちょっとだけ嬉しそうだった。
そっからは一気に時間が流れる。
・スタジオ入りしてCM撮影
ライトに囲まれて、監督の細かい指示。
〇〇はスイッチを切り替えて、一瞬で“役”の顔になる。
大人っぽい表情、落ち着いた仕草。
さっきまでコーヒーに砂糖入れてた人とは別人みたい。
・カットがかかる
〇〇「今のどうですか?」
スタッフと確認しながら微調整。
何回も撮り直して、納得いくまでやる。
・移動中の車
台本チェック。
セリフを小さく口に出して確認。
少し眠そうなのに、集中は切れない。
・収録現場
共演者と軽く挨拶。
笑顔で会話しながらも、頭の中は完全に仕事モード。
・本番前
〇〇「……よし」
小さく一言。
空気が変わる。
・カメラが回る
また違う顔。
落ち着いたトーン、色気のある視線。
求められてるものをちゃんと理解して出してくる。
・休憩
椅子に座った瞬間、少しだけ力が抜ける。
マネと次のスケジュール確認。
〇〇「次これか」
すぐ切り替え。
・次の現場へ
移動、準備、収録、確認。
同じ流れを何度も繰り返す。
気づけばもう夕方。
〇〇「……つかれた」
ぽつり。
でもその顔は、
ちゃんとやり切ってる顔だった。
スマホを見る。
通知がいくつか。
その中に——
樹からのメッセージ。
通知を開く。
樹から。
樹『今日どうする?』
樹『夜メシ行くぞ』
樹『終わり何時?』
〇〇「……」
少しだけ画面見たまま考える。
〇〇『もうすぐ終わる』
送信。
すぐ既読。
樹『じゃあ決まりな』
樹『迎え行くわ』
〇〇『え、いいの?』
樹『いいよ』
樹『どうせ近くいるし』
〇〇「……はや」
少し笑う。
〇〇『ありがと』
樹『何食う?』
〇〇『甘いのあるとこ』
樹『飯な』
〇〇『じゃあ美味しいとこ』
樹『雑』
〇〇『任せる』
樹『はいはい』
やり取りが終わる。
〇〇「……」
スマホを閉じる。
さっきまでの疲れが少しだけ軽くなる。
〇〇「……行くか」
小さく呟く。
仕事モードから少しだけ抜けて、
いつもの空気に戻る準備をするみたいに、
ゆっくり立ち上がった。
メイクを軽く直す。
鏡の中の自分は、さっきまでの“役”のまま少し大人っぽい。
〇〇「……このままでいいか」
わざわざ戻さない。
バッグを持って外に出る。
少しだけ夜の空気。
スマホが震える。
樹『着いた』
〇〇「はや」
小さく笑う。
外に出ると、車が止まってる。
助手席の窓が下がる。
樹「おつかれ」
〇〇「おつかれ」
ドアを開けて乗り込む。
〇〇「ありがとね迎え」
樹「いいよ」
〇〇「助かる」
シートに体を預ける。
一気に力が抜ける。
樹「顔、仕事のままじゃん」
〇〇「そう?」
樹「いつもより大人っぽい」
〇〇「役のまま」
樹「そのまま飯行くの?」
〇〇「いいじゃん別に」
樹「まぁいいけど」
エンジンがかかる。
車がゆっくり動き出す。
〇〇「で、どこ行くの」
樹「まだ決めてない」
〇〇「え」
樹「今から決める」
〇〇「計画性なさすぎ」
樹「任せるって言ったのお前」
〇〇「言ったけど」
少し笑う。
〇〇「じゃあさ」
樹「ん」
〇〇「落ち着けるとこがいい」
樹「珍し」
〇〇「今日ちょっと疲れた」
樹「見りゃわかる」
〇〇「ひど」
樹「いい意味でな」
〇〇「それずるい」
軽く笑う。
車の中はゆるい空気。
〇〇は窓の外をぼーっと見る。
流れる夜の景色。
〇〇「……なんか今日長かった」
樹「仕事詰まってたんだろ」
〇〇「うん」
少し間。
〇〇「でも終わった」
樹「おつかれ」
〇〇「ありがと」
小さく答える。
〇〇「こういうのいいね」
樹「何が」
〇〇「仕事終わりにご飯行くの」
樹「普通だろ」
〇〇「普通がいいの」
樹「……」
樹は少しだけ横目で〇〇を見る。
何も言わない。
〇〇はそのまま外を見てる。
力が抜けたまま。
さっきまでの緊張が全部ほどけたみたいに。
車はそのまま、
夜の街の中へ進んでいった。
スマホが震える。
〇〇「……ん」
画面を見る。
マネから。
〇〇『今からご飯行く』
〇〇『場所〇〇、樹と』
〇〇『一応警備お願いしていい?』
少しして返信。
マネ『了解』
マネ『外と店内つける』
マネ『到着したら一回連絡して』
〇〇『わかった』
スマホを閉じる。
樹「ちゃんとしてるな」
〇〇「一応ね」
車が止まる。
樹「ここ」
〇〇「うん、いい感じ」
外に出る。
少しひんやりした夜の空気。
〇〇は軽く周りを見る。
少し離れた位置にそれっぽい人影。
〇〇「……」
小さく頷く。
安心したようにそのまま店に入る。
席に案内される。
まだ二人だけ。
〇〇「静か」
樹「だな」
〇〇は少しだけ背もたれに寄りかかる。
力が抜けたまま。
数分後——
ガチャ
慎太郎「おつかれー!」
〇〇「はや」
樹「早すぎだろ」
慎太郎「近かった」
その後すぐ、
ジェシー「ヘーイ!」
高地「おつかれー」
少し遅れて、
きょも「おつかれ」
いつもより少し落ち着いたトーン。
〇〇「きょも元気じゃん」
きょも「元気だよ普通に」
軽く笑う。
でもテンションは少し抑えめ。
きょも「〇〇今日なんか違うね」
〇〇「役のまま」
きょも「いいじゃん、それ」
近づきすぎない距離で座る。
きょも「ちゃんと疲れてる顔もしてる」
〇〇「それ言う?」
きょも「いい意味でね」
少し笑う。
慎太郎「何頼む?」
ジェシー「肉いこ肉!」
高地「バランス考えよ?」
〇〇「任せる」
樹「珍しいな」
〇〇「今日ちょっと疲れてる」
きょも「だろうね」
さらっと言う。
〇〇「バレてる」
きょも「顔見ればわかる」
静かに笑う。
料理を待つ間も、
ゆるく会話が続く。
外にはちゃんと警備。
中はいつものメンバー。
〇〇はその空気の中で、
少しずつ肩の力が抜けていく。
きょも「でもさ」
〇〇「ん」
きょも「今日来てくれてよかった」
〇〇「なんで」
きょも「こういう時の〇〇、わりと好き」
〇〇「軽い」
きょも「軽くないよ」
小さく笑う。
樹「まぁでも」
樹「普通に楽しそうだしな」
〇〇「うん」
素直に頷く。
〇〇「こういうの、いい」
きょも「でしょ」
控えめだけど、ちゃんと嬉しそうに笑う。
にぎやかすぎない、
でもちゃんと温度のある空気。
その中で〇〇は、
自然に笑っていた。
ガチャ
少し遅れてドアが開く。
北斗「……おつかれ」
〇〇「遅い」
北斗「仕事だよ」
樹「はいはい」
慎太郎「やっと来たじゃん」
ジェシー「待ってたよ〜」
高地「おつかれ」
きょも「おつかれ」
それぞれ軽く声をかける中、
北斗の視線が一瞬だけ〇〇に向く。
北斗「……」
〇〇「なに」
北斗「別に」
〇〇「絶対なんか思ったでしょ」
北斗「思ってねぇよ」
きょも「いや思ってる顔してる」
北斗「うるせぇ」
軽く流す。
席に座る。
自然と〇〇の近く。
樹「今日〇〇仕事ハードだったらしいぞ」
北斗「らしいな」
〇〇「らしいってなに」
北斗「顔でわかる」
〇〇「またそれ」
きょも「さっきも言った」
〇〇「みんな同じこと言う」
慎太郎「だってわかるもん」
〇〇「そんな出てる?」
ジェシー「ちょっとね〜」
〇〇「やだ」
少し笑う。
北斗はそのやり取りを聞きながら、
〇〇の方をもう一度だけ見る。
大人っぽい雰囲気のまま、
でも力は抜けてる。
北斗「……」
きょも「でもさ」
〇〇「ん」
きょも「今はいい感じ」
〇〇「なにそれ」
きょも「ちゃんと楽しんでる顔してる」
〇〇「……そう?」
北斗「してる」
ぼそっと入る。
〇〇「え」
北斗「さっきよりな」
〇〇「……」
少しだけ間。
〇〇「なにそれ」
ちょっとだけ照れたように笑う。
樹「珍しく褒めてるじゃん」
北斗「別に褒めてねぇ」
慎太郎「出ました」
ジェシー「ツンツン〜」
北斗「うるせぇ」
軽く流す。
料理が運ばれてくる。
高地「はい取り分けるね」
〇〇「ありがと」
箸を取る。
〇〇「……いただきます」
一口食べて、
〇〇「……おいしい」
素直な反応。
北斗「だろ」
〇〇「なんでドヤるの」
北斗「知らねぇ」
きょも「何それ」
少し笑う。
空気がまた少し和らぐ。
遅れてきた北斗も加わって、
いつものバランスが戻る。
〇〇はその中で、
さっきより自然に笑っていた。
グラスが何度も重なる。
料理もどんどん減っていく。
ジェシー「もう一杯いく?」
慎太郎「いくいく!」
高地「飲みすぎ注意ね〜」
樹「お前が言うな」
笑い声が重なる。
〇〇も少しだけ頬が赤い。
〇〇「……なんか今日いいね」
きょも「でしょ」
〇〇「楽しい」
きょも「それはよかった」
ゆるい空気。
みんな少しずつ気が抜けてる。
その時——
〇〇「ねぇ」
樹「ん?」
〇〇「言っていい?」
慎太郎「なに?」
〇〇「北斗さ」
北斗「……」
〇〇「好きな人いるんだって!」
一瞬で空気が止まる。
「……え?」
高地「ほんとに!?」
樹「お前そんなこと言ってたの?」
きょも「……いつ?」
全員、一斉に“驚いた顔”。
でもほんのわずかに、
芝居っぽい間。
北斗「……」
その違和感には誰も触れない。
〇〇「え、なにその反応」
慎太郎「いや普通にびっくりなんだけど!」
ジェシー「聞いてないよ〜!?」
樹「隠してたな?」
北斗「……うるせぇ」
短く返す。
否定しない。
その時点で、
全員“はい確定”って顔になる。
でも—
誰もそれは言わない。
高地「えー気になる」
慎太郎「誰だよ!」
ジェシー「教えてよ〜!」
きょもは少しだけ笑って、
きょも「まぁまぁ」
軽く流す。
〇〇「え、ほんとにいるんでしょ?」
北斗「……」
一瞬だけ間。
北斗「……いるよ」
その一言。
慎太郎「うわー!!」
ジェシー「まじかー!!」
樹「ついにかよ」
高地「そっかぁ」
全員ちゃんと盛り上がる。
でも、
誰も“名前”には踏み込まない。
〇〇「え、誰なの?」
北斗「言うわけねぇだろ」
〇〇「えー!」
普通に不満そう。
何も気づいてない。
きょもはその様子を見て、
少しだけ視線を逸らす。
樹はグラスを口に運びながら、
小さく息を吐く。
慎太郎とジェシーは騒ぎながらも、
どこか様子を見てる。
高地は優しく空気を保つ。
北斗は——
一瞬だけ〇〇を見る。
〇〇は笑ってる。
ただ楽しそうに。
北斗「……」
すぐ視線を外す。
〇〇「絶対教えてよ!」
北斗「無理」
〇〇「ケチ」
北斗「うるせぇ」
いつものやり取り。
でもその裏で、
全員が同じことを知ってる。
ずっと前から。
だからこそ、
それ以上は誰も踏み込まない。
ただ、
何も知らない〇〇と、
何も言えない北斗の間にある距離を、
それぞれ静かに見守っていた。
慎太郎「え、ちょっと待って北斗に好きな人!?」
ジェシー「うわ〜聞いてないよ〜!大事件じゃん!」
樹「いつからだよそれ」
高地「全然気づかなかったなぁ〜」
きょも「……ね」
わざとらしいくらいの驚き。
でもテンポよく被せていく。
〇〇「え、なにその反応」
慎太郎「いや普通びっくりするでしょ!」
ジェシー「ね!北斗だよ!?」
北斗「どういう意味だよ」
樹「いやイメージ的にさ」
きょも「確かに」
軽く笑う。
〇〇「えー絶対前言ってたじゃん」
北斗「……」
ジェシー「言ってたの!?俺聞いてない!」
慎太郎「俺も初耳!」
高地「どこで言ってたの?」
〇〇「普通に前」
樹「“普通に前”が一番わかんねぇよ」
笑いが起きる。
北斗「……だから言うわけねぇだろ」
〇〇「えー教えてよ!」
慎太郎「そうだよ!」
ジェシー「気になる〜!」
きょも「まぁまぁ」
少しだけ抑える。
きょも「本人が言いたくないならさ」
〇〇「えー」
樹「でもヒントくらいは?」
北斗「ねぇよ」
慎太郎「冷たっ!」
ジェシー「塩対応〜!」
高地「でもなんかいいね」
〇〇「なにが」
高地「そういうのあるんだって思うと」
〇〇「たしかに」
納得する。
きょもはその会話を聞きながら、
静かにグラスを持つ。
きょも「……」
少しだけ視線を上げて、
北斗と一瞬だけ目が合う。
すぐ逸らす。
何も言わない。
そのまま会話は別の話題へ。
慎太郎「てか今日のこれうまくない?」
ジェシー「それな!」
樹「追加する?」
〇〇「する」
高地「頼むね」
また笑いが広がる。
仕事の話、くだらない話、
昨日の話、昔の話。
どんどん話題が変わっていく。
〇〇も普通に笑ってる。
さっきの話なんてもう流れてるみたいに。
北斗は時々相槌を打ちながら、
その空気の中にいる。
何も言わないまま。
——
気づけば、
時計は23:30。
慎太郎「え、もうこんな時間!?」
ジェシー「はやっ!」
樹「そろそろだな」
高地「明日もあるしね」
〇〇「ほんとだ」
スマホを見る。
〇〇「早かった」
きょも「だね」
〇〇「なんか一瞬だった」
慎太郎「楽しいと早いよな」
〇〇「うん」
素直に頷く。
さっきまでの疲れなんて、
もうどこにもないみたいに。
でも——
楽しい時間が終わる気配が、
少しだけ混ざり始めていた。
樹「そろそろ出るか」
慎太郎「だなー」
ジェシー「楽しかったね〜!」
高地「また集まろうね」
きょも「おつかれ」
〇〇「おつかれ」
席を立つ。
店を出ると、夜の空気が少し冷たい。
さっきまでの熱が一気に落ち着く。
慎太郎「気をつけて帰れよー」
ジェシー「またね〜!」
樹「連絡するわ」
〇〇「うん」
それぞれ別れる流れ。
その中で——
少し離れた位置に止まってる車。
〇〇はちらっと見る。
〇〇「……あ、来てる」
北斗も気づく。
北斗「だな」
スタッフが軽く合図する。
〇〇「じゃあ先帰るね」
樹「おう」
高地「おやすみ」
きょも「おつかれ」
慎太郎「ゆっくり休めよー!」
ジェシー「ばいばーい!」
〇〇「ばいばい」
北斗「おつかれ」
短く言って、
二人で車の方へ向かう。
ドアが開く。
〇〇が先に乗る。
少し遅れて北斗も乗る。
ドアが閉まる。
外の音が一気に遠くなる。
車が静かに動き出す。
〇〇「……楽しかった」
ぽつり。
北斗「……だな」
短く返す。
〇〇は窓の外を見る。
流れていく夜の景色。
〇〇「なんかさ」
北斗「ん」
〇〇「今日いい日だった」
北斗「……」
北斗は少しだけ視線を落とす。
〇〇「仕事もちゃんと終わったし」
〇〇「みんなとも会えたし」
北斗「……」
〇〇「あと」
少しだけ間。
〇〇「北斗の好きな人の話も聞けたし」
北斗「……」
一瞬だけ空気が変わる。
北斗「……それ、まだ言う?」
〇〇「だって気になるじゃん」
北斗「言わねぇよ」
〇〇「えー」
少し笑う。
〇〇「でもいいや」
北斗「なんで」
〇〇「なんか安心した」
北斗「……何が」
〇〇「ちゃんとそういうのあるんだって」
北斗「……」
〇〇「なんかさ」
〇〇「ずっと仕事ばっかりなイメージだったから」
北斗「……余計なお世話だろ」
〇〇「いいじゃん別に」
軽く笑う。
少し間。
車の中は静か。
〇〇「……ねぇ」
北斗「ん」
〇〇「いい恋だといいね」
その言葉。
北斗「……」
返事が一瞬遅れる。
北斗「……まぁな」
短く返す。
〇〇はそれ以上聞かない。
ただ外を見たまま。
北斗は前を見たまま。
同じ車の中。
でも少しだけ、
さっきより距離を感じる静けさ。
車はそのまま、
夜の中を走り続けていった。
車が止まる。
〇〇「着いた」
北斗「……おつかれ」
ドアが開いて、夜の空気がふっと入ってくる。
外に出ると、さっきまでの熱が少しずつ落ちていく感じがする。
〇〇は伸びをひとつしてから歩き出す。
〇〇「なんか今日さ、ずっと楽しかった」
北斗「……そうだな」
短い返事。
玄関までの道は静かで、会話も少し落ち着く。
〇〇「でもさ」
北斗「ん」
〇〇「お腹は別に空いてない」
北斗「さっきまであんな食ってたのに?」
〇〇「雰囲気で食べてただけ」
北斗「意味わかんねぇ」
〇〇「あるの、そういうの」
軽く笑って鍵を開ける。
ただいま、と同時に家の空気に戻る。
少しだけ肩の力が抜ける。
〇〇は靴を脱ぎながらソファに座る。
〇〇「……やっぱ落ち着く」
北斗「だろ」
北斗も後から入ってくる。
〇〇はそのまま背もたれに寄りかかる。
〇〇「お腹空いてないし、もういいかな」
北斗「作る気なかっただけだろ」
〇〇「バレた?」
北斗「顔でわかる」
〇〇「便利だねそれ」
軽く笑う。
少し間。
〇〇「お風呂入ってくる」
北斗「ん」
〇〇「全部リセットしたい気分」
北斗「何をだよ」
〇〇「全部」
さらっと言って立ち上がる。
タオルを持ってバスルームへ向かう。
〇〇「先入るね」
北斗「はいはい」
ドアが閉まる。
静かな家の中。
北斗はソファに座ったまま、
少しだけ天井を見る。
北斗「……疲れてんのどっちだよ」
ぽつり。
でも表情は少しだけ緩んでいる。
バスルームから水の音がし始める。
湯船に浸かると、じんわりと疲れがほどけていく。
〇〇「……はぁ」
あったかいお湯に肩まで沈めると、さっきまでの外の空気も、笑い声も、全部遠くなる。
楽しかった夜の残りだけが、ふわっと浮いている感じ。
〇〇「……楽しかったな」
ぽつりと声に出すと、それだけで満足みたいに息が抜ける。
目を閉じる。
静か。
お湯の音だけがゆっくり揺れている。
〇〇「……ちょっとだけ」
そう呟いたまま、頭が少しずつ重くなる。
まぶたが落ちていく。
最初は「ちょっとだけ」のつもりだったのに、
気づけば呼吸がゆっくりになっていく。
お湯の温かさが心地よすぎて、
考えることが全部止まっていく。
〇〇「……ん……」
小さく漏れた声のあと、
そのまま静かに眠気に引っ張られていく。
お風呂の中で、完全に力が抜ける。
外のリビングでは、
北斗がスマホを見ながらふと顔を上げる。
北斗「……長くねぇか」
少しだけ沈黙。
北斗「……」
立ち上がる。
バスルームの方へ歩いていく足音。
ドアの前で止まる。
北斗「おい」
返事はない。
もう一度。
北斗「……〇〇?」
北斗はドアの前で一瞬止まる。
北斗「……おい」
中からは返事なし。
水の音だけがゆっくり揺れている。
北斗「……マジかよ」
小さくため息をつく。
ドアに手をかける。
でも、そこで止まる。
北斗「……いや」
一回手を離す。
北斗「……さすがに」
独り言みたいに呟いて、視線を落とす。
少しだけ間。
北斗「……いやでも」
もう一度ドアに手をかける。
でもまた止まる。
北斗「……いや、無理だろ」
誰に言ってるのか分からないまま、眉を寄せる。
風呂場。
中には〇〇がいる。
しかも寝てる可能性がある。
北斗「……なんでこうなるんだよ」
軽く頭をかく。
数秒の葛藤。
入るべきか、呼ぶべきか、待つべきか。
北斗「……」
結論が出ないまま、もう一度ドアを見る。
北斗「……はぁ」
観念したように息を吐く。
そして、ドアを少しだけ開ける。
蒸気がふわっと出てくる。
北斗「……おい」
小さめの声。
北斗「〇〇」
返事はない。
北斗「……ほんとに寝てんのかよ」
一歩、中へ入る。
視線を逸らし気味にしながら、状況を確認する。
北斗「……」
小さく固まる。
北斗「……やめろよこういうの」
誰に言うでもなく呟いて、
もう一度ため息。
北斗「……起きろ」
今度は少しだけ声を強くする。
でもその声は、怒っているというより、
完全に困っているだけだった。
北斗は一瞬固まったまま、湯船の中を確認する。
北斗「……」
視線が止まる。
お湯はしっかり入浴剤の色で満たされていて、湯気もあって中はほとんど見えない。
北斗「……」
もう一回見る。
北斗「……あ、これ」
小さく息を吐く。
北斗「セーフか……」
肩の力が少し抜ける。
それでも視線はそらしたまま、軽く眉をひそめる。
北斗「いやセーフでもないだろ普通に」
誰に言ってるのか分からない独り言。
ゆっくり近づいて、もう一度声をかける。
北斗「おい、〇〇」
返事はない。
北斗「……」
もう一度。
北斗「起きろ」
静か。
湯気の向こう、入浴剤で色のついた湯船の中。
〇〇は完全に沈むように、ゆるく力が抜けている。
北斗「……」
一歩近づく。
北斗「……マジかよ」
呆れ半分、焦り半分。
北斗「おい、起きろって」
少し声を強くする。
それでも——
〇〇「……」
反応なし。
完全に爆睡。
北斗「……は?」
一瞬、本気で固まる。
北斗「いや寝る場所じゃねぇだろ」
独り言が増える。
北斗「普通に危ねぇってこれ」
でも声は大きくはならない。
むしろ落ち着こうとしてる感じ。
北斗「……」
もう一度名前を呼ぶ。
北斗「〇〇」
……沈黙。
北斗「……はぁ」
深くため息。
額に手を当てる。
北斗「ほんと何してんだよ」
呆れながらも、動きは早い。
ドアを少し開けたまま外に向かって声を出す。
北斗「……なぁ、マジで」
誰に言ってるのか分からない独り言。
北斗「風呂で寝るなよ普通に」
もう一度中を見る。
〇〇は変わらず、ゆるく沈んだまま。
北斗「……」
数秒止まる。
北斗「……仕方ねぇな」
小さく呟く。
北斗「起きないなら出すぞ」
返事はない。
北斗は一瞬だけ天井を見る。
北斗「……ほんと勘弁してくれ」
そう言いながら、ようやく行動に移ろうとしていた。
北斗は一度だけ大きく息を吐く。
北斗「……ほんと何してんだよ」
呆れ半分のまま視線を外して、脱衣所へ戻る。
そこに掛かっているバスタオルを手に取る。
北斗「……」
一瞬止まる。
北斗「いや、冷静にこれ何の状況だよ」
誰にも聞こえない声でつぶやく。
それでも手は止めない。
タオルをしっかり持って、もう一度浴室へ戻る。
北斗「おい」
返事なし。
湯気の中、〇〇は相変わらず静かに沈んでいる。
北斗「……マジで爆睡かよ」
軽く頭をかく。
北斗「ほんと危ねぇからな」
そう言いながら、視線はきっちりそらしたまま。
一歩近づく。
北斗「……起きろ」
沈黙。
北斗「……」
もう一回呼ぶ。
北斗「〇〇」
それでも動かない。
北斗「はぁ……」
観念したように息を吐く。
北斗「……出すぞ」
返事はない。
北斗は少しだけ間を置いて、
持ってきたバスタオルを広げる。
視線はできるだけ湯船から外したまま。
北斗「……ほんと、何やってんだよ」
小さくぼやきながら、
慎重に状況を整えようとしていく。
いつもの軽口はもう出ない。
代わりにあるのは、完全に呆れたため息と、
少しだけ真剣な静けさだった。
北斗は一度、動きを止める。
水の音だけが静かに響いている。
北斗「……」
バスタオルを握ったまま、目線を逸らしたまま。
北斗「いや……」
小さく息を吐く。
北斗「無理だろこれ」
声はほぼ独り言。
状況を理解してるのに、理解したくない感じの沈黙。
〇〇は相変わらず湯船で完全に力が抜けていて、起きる気配がない。
北斗「……おい」
もう一度呼ぶ。
反応なし。
北斗「……ほんとに寝てんのかよ」
呆れが強くなるはずなのに、なぜか声は小さい。
視線は徹底して外しているのに、意識だけはどうしてもそこに引っ張られる。
北斗「……っ」
一瞬、呼吸が詰まる。
北斗「やめろってこういうの……」
誰に向けた言葉かも曖昧なまま。
一歩引く。
北斗「……落ち着け俺」
バスタオルを握り直す。
北斗「普通に出すだけ」
自分に言い聞かせるように繰り返す。
北斗「見ない、考えない、出すだけ」
なのに、
水の音と静かな気配だけで、妙に意識が揺れる。
北斗「……ほんと最悪だろ」
小さく吐き捨てる。
それでも、動くしかない。
北斗はもう一度息を整えて、
視線を完全にそらしたまま、
慎重に一歩、近づいた。
北斗は一歩踏み出したところで、また止まる。
北斗「……」
静かなはずの浴室なのに、自分の心臓の音だけがやけにうるさい。
ドクン、ドクン、と耳の奥で響く。
北斗「……なんでだよ」
小さく吐き出す。
ただ起こして出すだけ。
それだけのはずなのに、妙に呼吸が浅くなる。
北斗「……落ち着け」
もう一度自分に言い聞かせる。
でも、湯船の水の揺れと、〇〇の静かな寝息が混ざって、
余計に意識が散る。
北斗「……」
視線を徹底的に外す。
それでも頭の中だけが妙に冴えている。
北斗「……ほんと、やめろって」
誰に向けたのか分からない言葉。
一歩、また近づく。
北斗「〇〇」
呼ぶ。
返事はない。
北斗「……」
短く息を吸って、吐く。
北斗「出すぞ」
それだけはっきり言って、
動こうとした、その瞬間。
北斗の中で、心臓の音が一段と大きくなる。
ドクン。
北斗「……っ」
思わず息が詰まる。
北斗「……ほんとに」
声が少し掠れる。
北斗「……やめろよこういうの」
小さく呟いて、もう一度視線を逸らす。
でも手は止めない。
ただひたすら、
“起こす”という目的だけに集中しようとしている。
それなのに、
意識だけが妙に揺れて、
北斗は自分の心臓の音に一番振り回されていた。
北斗は一度目を閉じる。
北斗「……出すだけ」
小さくそう呟いて、呼吸を整える。
ドクン、ドクンと鳴っていた心臓の音を無理やり落ち着かせるみたいに、ゆっくり息を吐く。
北斗「……よし」
もう一度目を開ける。
視線は絶対に湯船に向けない。
北斗「おい、〇〇」
呼ぶ。
北斗「起きろ」
反応なし。
北斗「……ほんとに」
少しだけ眉を寄せる。
でも声はさっきより冷静になっている。
北斗「出すからな」
そう言って、バスタオルをしっかり広げる。
北斗は湯船の縁に手をかけて、慎重に距離を測るように動く。
北斗「……」
一瞬だけ止まる。
北斗「見ない」
自分に言い聞かせてから、動く。
必要な動作だけを丁寧に。
余計なことは考えないように、頭の中を真っ白にする。
北斗「……ほんとにさ」
ぼそっと独り言。
北斗「何してんだよお前」
少しだけ呆れた声。
それでも動きは止めない。
ゆっくり、慎重に。
ただ「起こす」「出す」という目的だけに集中していく。
北斗「……ほら」
小さく声をかけながら、
バスタオルをそっと近づける。
外の世界は静かで、
聞こえるのは水の音と、自分の呼吸だけだった。
北斗は最後まで視線を徹底して外したまま、慎重に動く。
北斗「……よし」
小さく息を吐く。
北斗「出すだけ、出すだけ……」
独り言みたいに繰り返しながら、必要な動作だけを終える。
水音が少し揺れて、空気が落ち着く。
北斗「……はい終わり」
ようやく肩の力が少し抜ける。
すぐにバスタオルをしっかり巻き直して、濡れたままの〇〇を包む。
北斗「……ったく」
軽くため息。
北斗「ほんと自由すぎんだろ」
返事はない。
完全に安心しきったように眠ったまま。
北斗は一瞬だけその顔を見る。
北斗「……」
すぐ視線を外す。
北斗「寝るなっての」
ぼそっと言いながら、体を支える。
そのまま、そっと抱き上げる。
お姫様抱っこ。
北斗「……重くはねぇな」
小さく呟く。
北斗「てかさ」
北斗「風呂で寝るやつが一番やばいだろ」
言いながらも、動きは丁寧で乱暴さは一切ない。
浴室を出て、脱衣所へ。
北斗「ほら、ちゃんと寝ろ」
ソファではなく、寝室へ向かう。
〇〇は相変わらず静かに眠ったまま。
北斗はその顔を見ないようにしながらも、
落とさないようにしっかり支える。
北斗「……ほんとさ」
小さく息を吐く。
北斗「心臓に悪いんだよこういうの」
誰に言うでもなく呟いて、
そのまま寝室へ運んでいった。
ベッドにそっと下ろす。
北斗「……よし」
慎重に、崩れないように体勢を整えてから手を離す。
〇〇は相変わらず静かに寝ている。
北斗「……ほんと危なっかしいな」
小さくため息をついて、毛布を引っ張る。
肩まできちんと掛けて、少しだけ位置を直す。
北斗「……」
一瞬だけ止まる。
寝顔を見るつもりはなかったのに、視線が自然に落ちる。
静かで、無防備で、さっきまでの騒がしさが嘘みたいな顔。
北斗「……」
喉の奥で何かが詰まるみたいに、言葉が出ない。
北斗「……やめろってこういうの」
誰に言ってるのか分からないまま、小さく呟く。
それでも視線は外せない。
ほんの数秒。
北斗「……」
息を一度だけ整える。
そして——
少しだけ身をかがめて、
そっと、おでこに触れるだけの軽いキスを落とす。
一瞬。
本当に、ただそれだけ。
北斗「……」
すぐに離れる。
北斗「……何やってんだろ」
小さく自嘲するように呟いて、視線を逸らす。
耳まで少しだけ熱い。
北斗「……寝ろよ」
それだけ言って、部屋の明かりを少し落とす。
静かな夜の中で、
〇〇は変わらず穏やかに眠ったまま。
北斗はそのまま少しだけ立ち尽くしてから、
ようやく部屋を出ていった。
時計の針は0:00を指す。
家の中はすっかり静かで、さっきまでの気配が全部落ち着いている。
北斗「……寝るか」
小さく呟いて、リビングの明かりを落とす。
シャワーを軽く浴びて、寝る準備だけ整える。
そのまま寝室へ向かう足取りは静かで、いつもより少しゆっくり。
ドアを開けると、薄暗い部屋の中に〇〇の寝息だけがある。
北斗「……」
一瞬止まる。
北斗「ほんとよく寝るな」
呆れたように言いながらも、声は小さい。
ベッドの横に座る。
毛布が少しずれていたのを直してやる。
北斗「……風呂で寝るとかやめろよ普通に」
返事はもちろんない。
それでも、どこか安心したように呼吸が落ち着く。
北斗はそのまま横に寝転ぶ。
少し距離はあるけど、同じ空間。
北斗「……」
天井を見上げる。
静かすぎて、自分の呼吸だけがよく聞こえる。
北斗「……疲れた」
ぽつり。
でもその声は嫌そうじゃない。
横を見ると、〇〇は変わらず眠っている。
北斗「……」
少しだけ間。
北斗「ほんと自由だな、お前」
小さく笑って、目を閉じる。
部屋は静かで、
夜はゆっくりと深くなっていった。
3:00。
部屋は完全に真っ暗で、時計の光だけがぼんやり浮かんでいる。
北斗は浅い眠りのまま、ふと違和感で目を開ける。
北斗「……ん」
静かすぎる気配。
横を見ると、さっきまでちゃんと巻かれていたはずのバスタオルが少しずれている。
というか——ほとんど外れている。
北斗「……は?」
一瞬固まる。
北斗「おい……」
小さく声を出すけど、当然返事はない。
〇〇は寝相のまま、少しだけ布団の中で動いた跡がある。
北斗「……またかよ」
呆れたように息を吐く。
北斗は体を起こして、目をこすりながら状況を確認する。
北斗「ほんと落ち着きねぇな」
ぼそっと言いながら、乱れたタオルを拾う。
ちゃんと体が冷えないように、そっと掛け直す。
北斗「……」
一瞬だけ手が止まる。
でもすぐに視線を逸らして作業みたいに整える。
北斗「これでいいだろ」
小さく呟く。
〇〇は相変わらずぐっすりで、全く起きる気配がない。
北斗「……はぁ」
ため息。
でもどこか怒っている感じではない。
北斗「寝相まで自由って何」
軽く呆れたまま、布団の位置も少し直す。
北斗「……風邪ひくぞ」
ぽつり。
それだけ言って、北斗はまた自分の位置に戻る。
横になると、部屋は再び静かになる。
〇〇の寝息だけが一定に続いている。
北斗は天井を見ながら小さく目を閉じる。
北斗「……ほんと世話かかるな」
でもその声は、さっきより少しだけ優しかった。
北斗は一度目を閉じる。
北斗「……このままだと普通に無理だな」
小さく呟いて、体を起こす。
部屋は真っ暗で、時計の光だけがぼんやりしている。
〇〇は相変わらずぐっすりで、さっき直したタオルもまた少しずれている。
北斗「……ほんと自由すぎ」
軽くため息をついて、ベッド脇に置いてあったバスローブを手に取る。
北斗「……起きるなよ」
誰に言うでもなく小さく声をかける。
動きは慎重で、できるだけ音を立てない。
北斗は視線をほとんど落とさず、暗闇の中で手探りみたいに位置を確認する。
北斗「……」
一瞬止まる。
北斗「落ち着け俺」
小さく自分に言い聞かせて、呼吸を整える。
余計なことは考えない。
ただ“着替えさせるだけ”。
それだけ。
北斗「……よし」
静かに動く。
布団を少しずらして、バスローブをそっと掛けるようにして着せ替える。
必要最低限の動きだけで、手早く、でも丁寧に。
北斗「……はい終わり」
小さく息を吐く。
ちゃんと整ったのを確認してから、もう一度毛布も軽くかけ直す。
北斗「ほんと手間かかるな」
ぼそっと言いながらも、声はもうほとんど優しい。
〇〇は一度も起きないまま、静かに眠っている。
北斗は少しだけその顔を見て、すぐ視線を外す。
北斗「……寝ろよ、ちゃんと」
それだけ言って、元の位置に戻る。
ベッドに横になると、また静けさが戻ってくる。
北斗は天井を見ながら小さく息を吐いた。
北斗「……まじで落ち着かない夜だな」
北斗はしばらく天井を見たまま動かない。
静かすぎて、逆に頭だけ冴えてる感じ。
北斗「……」
横を見る。
〇〇はバスローブのまま、完全に安心しきった顔で寝ている。
北斗「……ほんと、無防備すぎ」
小さくため息をつく。
視線を外そうとするのに、なぜか一瞬だけ戻ってしまう。
北斗「……」
間。
北斗「……やめとけって」
誰に言ってるのか分からないまま呟く。
でも体はもう動いていた。
ほんの少しだけ身を起こして、
静かに、近づきすぎない距離で止まる。
北斗「……」
息を一度整える。
そして——
ほんの一瞬だけ、
ほっぺに軽く触れるだけのキスを落とす。
すぐ離れる。
北斗「……」
何もなかったみたいに、すぐ視線を天井へ戻す。
北斗「……何やってんだろ」
小さく呟いて、手で顔を覆う。
でもそのまま少しだけ黙ると、
ため息の中にわずかな柔らかさが混ざる。
北斗「……ほんと調子狂う」
そう言って、今度こそ静かに目を閉じた。
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弟くん、いい仕事するじゃ〜ん!! あと、メンバーのあのリアクション、ナイス連携プレーなんだけど笑
お疲れ、いちごみるく。第93話読んだわ。 今回のエピソード、めちゃくちゃ良かった。特に弟・廉との掛け合いが自然で、彼を通して見える幼い頃の〇〇のエピソードとか、北斗の「ちゃんと見てる」感がじわじわ伝わってくるのがすごく刺さった。「好きな人できるとわかりやすい」って廉に言われて黙り込む北斗、あそこ最高だった。あと風呂場のシーンはドキドキしたわ…焦りつつも優しさが滲み出てて、北斗の本心がにじみ出てる感じがたまらん。心臓に悪いよほんと(笑)。 〇〇が仕事終わりに完全に力抜けて、みんなとの夕飯でゆるゆる笑ってる日常の脆さみたいなものも好き。あの距離感、すごくリアル。次回も普通に待ってるからな🔥