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「片思い」がテーマの、雑多短編つめつめ定期です。
ヤンデレ風味ですのでご注意ください。なぜかセンシが付きました。
「宝箱」🇺🇸🇯🇵
「あ、アメリカさん忘れてる。」
棚の上に置き忘れられたサングラスがあった。
テーブルの上になるのならわかるが、なんでまたこんな所に。
首を傾げながらも、思わぬご褒美に口元が緩む。
手に取ってみると、重厚な黒に反して存外軽かった。
艶やかなフレームをなぞったり、角度を変えては光を反射させてみたり。
手の中で彼の置き土産を弄んでいるうちに、むくむくとひとつの衝動が芽を出した。
「いいですよね……ちょっとくらい……。」
破損していないかの確認だ、と自分に言い訳をしながらつるを左右に開く。
かちゃり。
そんな音がして、視界が鈍い色に沈んだ。
鈍い色に染まった視界の中顔を上げると、棚の上の鏡に奇妙な人物が映っている。
彼とは正反対の貧相な体格に、頼りない下がり眉。
そこに場違いなサングラスが鎮座するのだから、滑稽を通り越して最早シュールだ。
「似合わないなぁ……。」
苦笑と共に黒のレンズを目から離す。
それにしても、取りに戻ってこない。
スマホを確認してみても、何の連絡も入っていない。
彼のマストアイテムだと思っていたのだが。
それとも僕の家だから安心してるのかな。
頭に浮かんだ都合のいい妄想を振り払うと、別の考えが忍び込んできた。
案外、バレないのかも。
そう思うと同時に、小さな鍵を取り出していた。
棚の1番左の引き出し。
この部屋で唯一鍵穴のついたそれは、僕の宝箱。
軽い音を響かせて開いた直方体の中には、宝石のように光る彼のかけらたち。
これは、資料に貼ってくれた付箋。
これは、会議の時くれたメモ。
これは、この間くれたキャンディーの包み紙。
これは、彼が落としたボールペン。
これは、1番写りのいい集合写真の切り抜き。
ひとつずつ数え上げて、作り出したスペースに今日の収穫品を収める。
うっとりと彼の影を眺めながら、どこか虚しい気分に浸る。
推しのグッズといい漫画といい、自分に収集癖があることはわかっていた。
でもそれは、誰にも迷惑をかけないからこそ得られる栄養なのだ。
他人様、ましてや好きな人を困らせるようなやり方はやっぱりダメだ。
「やっぱりアメリカさんじゃないと。……明日返そう。」
僕は漆黒の輝きを掬い上げて、惜しむようにブリッジの合間に軽く口付けた。
***
脳が焼き切れそうなほど煌々と輝くブルーライト。
液晶に表示された光景を眺める男は、ひとつ息を吐いた。
全く。たったあれだけで踏みとどまるなんて、可愛らしいものだ。
彼と同じように、鍵をつけた引き出しを開く。
キャリーケースでも入ってしまいそうな大きさのそれには、いっぱいに彼の破片が押し込まれていた。
彼と同じく付箋やメモはもちろん、ハンカチや筆記具。果てにはかなり際どい写真。
やっていることは同じなのに、日本からは自分と同程度の温度は感じられない。
「俺たち、両思いなんじゃねぇの?」
画質の粗いモニターの中で眠る日本を見つめ、男は拗ねたように唇を尖らせる。
「せっかくもう1個買ったってのに。」
そう呟いて大きな影は、画面越しの安らかな寝顔をひと撫でした。
「次の犠牲者」🇨🇳→🇯🇵、一応🇬🇧🇯🇵のつもり
様々なものを踏みにじってきた、美しく磨き上げられた革靴。
その隣にいつからかあの子が並んだ。
あの寡黙な巨漢と親密になっているようだったが、お互いに国を閉じあっていたのだし、と目こぼしをしてやったばかりなのに。
あの騒々しいガキに引き摺り出されたようだったが、脅されたのなら仕方がない、と目をつぶってやったばかりなのに。
それなのに。
うっすらとした笑みに、都合の悪い出来ごとを隠すように手袋で覆われた手。
値踏みするよう常に細められた気味の悪い灰緑の眼。
あの子は、そんな怪物の手を取ったのだ。
奴はあの子には甘い顔を見せているようだった。
まやかしのような新しい物を見せて。
あやかしのようにぴったりと寄り添って。
ああ、反吐が出る。
とはいえ、あの男が見返りもなしにそんなことをするはずがない。
可哀想に。
あの子もじきに踏み躙られるのだ。
地位も名誉も何もかもを奪われるのだ。
我のように。
***
安堵と心配をないまぜにした心を抱いているうち、あの子は次第に我の知らない顔つきをするようになっていった。
誤魔化しのように新しい服を着て。
道化師のように突然表舞台に現れて。
そしてあの子は、こともあろうか我に向かって牙を剥くようになった。
それなのに、あの男の手は離すどころか固く握り合っているようだった。
すっかりみすぼらしい靴を脱ぎ捨てたあの子は、隣の陽を受けて煌めいていた。
まるでそこが、自分の居場所だとでも言うように。
そんな2人を見て、胸の内に噴き上がった不快感を握りつぶす。
「いつかお前も、その子に牙を剥かれるんアルよ。」
我のように。
それだけは止められない。
あの子はそういう子なのだから。
貴方以外の誰もいらないと言わんばかりの顔をして。
恋する乙女のような顔をして。
身につけるものや仕草。
果てには言葉までをも相手の好みに合わせて作り変えて。
そんな風に微笑みながらも、いつしか心変わりして突然こちらに牙を剥く。
全てを手に入れたように笑う奴は、きっと昔の我と同じ。
何もかもが思い通りになると思い込むからこそ、その衝撃はきっと心を抉るだろう。
その時までに、我はあの子に選ばれるような力を持てるだろうか。
それとも、一度落ちぶれた我の所にはもう、戻ってきてはくれないのだろうか。
わからない。
わからないけれど。
「どうぞお幸せに。」
どうかどうか、できるだけお幸せに。
近い未来あの子の牙が、深く深く。それはもう手酷く。
奴のことを、幸福で血みどろにしますように。
「熱視線」🇫🇮🇯🇵
大事なものはちゃんと見る。守る。慈しむ。
この気持ちは、誰でも持っているもの。
俺にとってそれは日本だった。
日本が笑えば幸せ。
そうでなければ不幸せ。
でも、それだけ。
言葉にも変えられず。行動にも乗せられず。
どうしようもなく、想いだけが膨らんでいく。
夏に置いてけぼりになった入道雲を眺めつつ、柄にもなくそんな感傷に浸る。
夕景を一瞬にして覆った鉛色。
雨で慌ただしくなる周囲の足音に不安を増幅させられる。
こんな暗いままじゃだめだ。
ため息を吐いて、今月の家計簿を赤字にすることを決断した。
***
残暑の日差しが降り注ぐ、窓際のカフェテーブル。
手元のグラスをガシャンと鳴らしながらスウェーデンは眉を跳ね上げた。
「進展させらんないって何!?俺一ヶ月前にも同じ相談されてんだけど!?」
「うるせぇ叫ぶな。」
はーい、と頬杖をつき直したスウェーデンがこちらを見やる。
今度は顔がうるさい。
「見てるだけでいいか、って…………………。」
観念してそう呟く。
「俺がいなくても普通にしてるし………なんか………嫌だけど日本がいいならいいかと……………。」
視線を外し、カップの縁を指でなぞる。
深いため息が聞こえた。
「さっさと選びなよヘタレ。誰かに取られちゃうかもよ〜?あ!何なら俺が貰おうか?」
「そしたらフィンが寝取ってさ〜俺がコミケ用のやつのネタにすんの!」
実録BLは資産価値高い、と拳を握り出したスウェーデンのケーキを勝手に切り取り口に放る。
放っておけばすぐ行動に移してしまいそうな顔つきに眉を顰めながら、負けじと明日日本にあった時のことを考える。
戯言を聞き流している内勇気が湧いてくるのはいつものこと。
その点においてはいい友人だ。
「実録BLは資産価値高いぞ〜〜!r18越えてr三十路くらいで!どちゃくそキタコレなやつで!お願い!!」
「………帰る。」
「えっ、ちょっ、奢ってくれるんでしょ!」
***
スウェーデンに手を振ると、聞き慣れた声に呼び止められた。
「フィンランドさん。」
凛とした立ち姿、遠慮がちに光る瞳。
「日本!……何でここに?」
「夕飯の買い出し帰りです。」
提げられたエコバックから大根の葉がのぞいている。
細い腕からそれを奪い取って横に並ぶ。
「スウェーデンさんとはよく遊んでいらっしゃるんですか?」
「うーん………ちょくちょく。」
大体ロクでもないこと言われて終わるけど、と心の中で付け足す。
隣を見ると、日本が拗ねたように少し唇を尖らせていた。
「僕と遊んでくれたことないのに。」
笑い混じりの軽い言葉。
冗談だとわかっていても、胸が酷くひりついた。
『誰かに取られちゃうかもよ?』
そんな言葉がやけにリアルに頭に響く。
こういうことを、他の誰かにも言うんだろうか。
「日本。」
気が付けば名前を呼んでいた。
堰を切ったように、言葉が次々溢れ出してくる。
「俺、ずっと前から日本のこと好きだよ。」
大きな瞳が真ん丸に収縮する。一瞬、息を呑む音が聞こえた。
日本がためらうように顔を伏せる。
「……その……実は僕も、で……僕でいいなら……よろしくお願いします………?」
***
ピーンポーン。
昨日は久々に外出したから昼頃まで寝てやろうと思っていたのに、インターホンの音で目が覚める。
「あーはいはいー………」
寝ぼけ眼を擦りながらドアを開けると、見慣れた仏頂面が立っている。
「え、何?」
「付き合うことになった。」
フィンランドはいつも通り、淡々とした声で言った。
「…………何が?」
「なしです!今のなしで!スウェーデンさん!」
まっすぐ下ろされた長い腕に手が伸ばされる。
フィンランドの隣から、ひょっこりと真っ赤になった日本が現れた。
「………フィン。昨晩はどこで何を?」
「15くらいまでだ。」
「何の話ですか!?」
平然とそう言ってのけられた言葉に、日本が焦ったように何かを釈明してくる。
「そっか。おめでと〜2人とも〜!」
ぽわりと笑顔を引き出され、そんな言葉を投げかける。
口元に幸せそうな笑みをたたえたフィンランドに、意外と満更でもなさそうな顔の日本。
あくびが出てしまうほどありふれた、それでいて幸せな2人の幕引き。
しかし、胸のざわめきは消えない。
だって俺は知っているから。
『でもヘタレの割にはさ、お世話的なことしてるよね。』
『てか日本に甘えられてるってことじゃん?絶対脈アリだしさっさと告れ〜〜!』
そうせっついた俺に、フィンランドは言った。
『いや……それは……俺のいない記憶があって欲しくないだけだから……』
その一言が、やけに鮮やかに蘇る。
一見、自傷のための自己犠牲のように見えた、意味の通らないほどの献身。
見返りはあなたの存在とでも言わんばかりの熱視線。
恋は盲目。
そんな言葉で片付けていた行動の数々が、今になって像を結ぶ。
眼前に広がるフリー素材のように完璧な幸せ。
これは、俺が共犯になるのだろうか。
「末長く、お幸せにね。」
これは祝福なんかじゃない。
もっと切実で、恐ろしくて、叶わないといけないもの。
2人が本当に、ずっとずっと幸せでいられますように。
彼の「一途」がずっとずっとまっすぐでありますように。
神様、どうか彼らにあなたの息吹を。