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「堅治ー、アイス食べたいから買ってきてよ」

「面倒くせーからヤダ」

「いじわる!」



🌸は昔のドラマの再放送、俺は持って帰ってきた書類に目を通していた。

壁掛け時計は午後五時を指していて、そろそろ腹も空になる頃だ。


俺もアイスは食べたいが、🌸にパシリにされるのには少しばかり腹が立つので先程の頼みは軽くあしらった。


高校の頃、昼休みにジャンケンで負け続けて購買までよくパシらされたな、なんて目に映る書類の内容とは似ても似つかない思い出が脳内を満たしていた。



「まず、お前飯食えるの」

「食えるよ!昨日クッキー食べてたじゃん!」

「いやでも、あれはお供物じゃん。俺の手から与えたものって食えるのかなーって」

「見てみたい?」

「…まぁ、普段は見れないし」

「じゃあ見せてあげるから、アイス買ってきてよ」







まんまと手玉に取られてしまった俺は、家から歩いて三分のコンビニまでアイスを買いに来ていた。


アイスならなんでも良いらしいので、俺が最近ハマっているアイスを二つ購入して帰路につく。



最初は🌸が生前に良く食べていたアイスにしようと考えたのだが、それが何だったのかもう思い出せなくなっていた。

徐々に🌸の記憶が俺の中で薄れていく感覚が胸をチクリと刺激する。


忘れたく無い事は、お盆の間に聞いておこう。

今は家に帰れば🌸がいるのだから。






「ただいま」

「おかえりー、堅治ありがと!」

「俺が最近ハマってるアイス買ってきた」

「激アツ堅治セレクトですか!?」


欲していたアイスの登場に腕を上げて喜び、もう浮いている足を更に浮かせた🌸はビニール袋から雑に己の分のアイスを取り出した。


相変わらず遠慮を知らない🌸の態度に、先程までチクチクと刺激されていた胸の痛みは姿を消してしまった。




隣同士でローテーブルに座り、同じタイミングでアイスを一口ぱくり。

瞬間、口内がひんやりとしてバニラの甘みが広がった。


最近は専らこのアイスだ。美味すぎる。

俺は美味しさと誇らしさに鼻を鳴らし、どうだ美味いだろと🌸に視線を向ける。



「おぇ、何これまずい」

「そんな訳ねぇだろ、クソ美味いじゃん」


🌸は眉を顰めて舌をちょろりと出してそう言ったが、もう一度味を確かめる様にアイスを口に入れた。

そんで、その後また顔を歪めて舌を出している。


「堅治味覚のセンス無いわ、これ甘ったる過ぎるもん」

「お前の方がセンス無いわ。この美味さが分からんとは」



予想から百八十度外れた回答に、思わず親指を下にして感情的に言い返してしまった。

🌸ってバニラ系好きじゃなかったっけか?なんて、消えかけている記憶に問いかける。



「死人に向かってくたばれってポーズするな」

「うわめちゃ無意識だった、ごめん。

てか、お前どんなアイスが好きなんだっけ?」

「シャキシャキ系!いつも食べてたじゃん!」


忘れちゃったの?と口を尖らせてぷりぷりと怒る🌸を見ながら、子供時代の夏の思い出が脳裏を駆け巡る。


あー、そういえばそうだったかも。一緒によく食ってたな、なんて思い出が胸を暖かくした。



「あの頃…子供の頃さ、家族ぐるみでバーベキューよく行ってたよな」

「あー!あれかぁ、あの堅治がクソダサフォント厨二Tシャツきてきたやつ…」

「違うわ!いや違く無いけど!それずっと揶揄うな!」


思い出したく無い黒歴史というやつを無理やり掘り起こされ紅くなる俺を見て、🌸はローテーブルを叩きながらゲラゲラと笑っている。


「蘇ってもなお意地悪いこと言うな!」

「えーいいじゃん!面白いんだし!」


八の字眉のままヒーヒー笑う🌸は、表面に幾つか穴を開けた溶けかけのアイスをスプーンでつついていた。


あれから全くアイスに手を付けないので、相当お気に召さなかったのだろう。



「アイス食わねぇなら解ける前に冷凍庫入れとけよ」

「分かったよママ〜」


誰がお前のママなんかするか!と🌸の背に向けてツッコミを入れ、じっと見つめる。

昨日からずっと、🌸が何故俺のところに帰還って来たのか不思議で仕方がないのだ。



普通に浮遊して移動するし葬式の時遺体見てるし、あいつは本当に幽霊なのだろうけど、今こうして冷凍庫に食べかけのアイスしまって俺と談笑して、今朝は朝食まで作っていた。


一体なんで今になってこんな事が起きるんだ。

お盆だからか?七回忌だからか?

これが神の目論見だとしたら、何を理由にしているのか全く見当がつかない。


いやまぁ幸せだからそれでいいのだが、気になるものは気になる訳で。



「なぁ、🌸。お前神とかと話したことあるの?」

「え、何急に宗教?」


俺はもう一度、🌸の背に向けて言葉を発した。


「宗教は入ってない。🌸が俺のとこに来た本当の理由が知りたい。

人って死んだら天界に行けるって言うじゃん?だからここの社会の摂理みたいな感じでさ、上の命令に従って俺のとこに来たのかなって」

「つまり、堅治の言う上ってのが神ってこと?」


喉を大きく鳴らして真剣に頷く俺とは対照的に、平常運転の様子で首を傾ける🌸は目線を左上にやりながら「んー」と唸っている。



「…堅治ってさ、

案外ファンタジー好きって言うか、ロマンチストって言うの?それだよね」

「俺は至って真剣なんだ!答えろよ!」


そう言うと🌸はケラケラと戯けながら軽い謝罪をして、そのまま笑顔を見せながら言葉を繋いだ。


「昨日も言ったと思うけど、本当に分かんないんだよ。神とか見たことも無いし、他の死者とも出会ったことない。

…案外、天界っていうのは死者に冷たいんだよ」


目を伏せて少し口角を上げた🌸に少し切なさを感じて、俺は自分が聞いたことを後悔した。

もしかしてこいつ、六年間ずっと一人で誰とも会話する事なく過ごしていたのか。


「ごめん。死ぬってそんな、孤独になる事だと思ってなかった」

「堅治気負いすぎ!今こうして堅治と話せてるんだし、私は大満足ですよ」


己の膝に置いていた手は🌸によってローテーブルに上げられ、そのまま俺の手の甲を🌸は自分の頬にピタリとつける。


伏せていた目がこちらに向けられて、口角がさらに吊り上げられた。



🌸と付き合っているような状況に恥ずかしくなったのを隠すために目を逸らしたのを、🌸はまたチェリーボーイと揶揄って、俺もまた赤面になりながらツッコミを入れた。



「もうちょうどいい時間だし、夕飯にしよっか」


🌸はカーペットが敷かれてあるフローリングに大の字で横たわった。…正確に言えば浮いているのだが。


「…そうだな、何食べたい?」

「え!堅治が作ってくれるの!?」

「いや、ウーバー」

「はぁ、これだから独身は…じゃあ私が作るよ」

「お前も独身だろ」


そう言ってのそのそと起き上がりキッチンに向かって料理を始めた🌸を、リビングから眺める。


あぁ、もし🌸が生きていたら。

ずっとこうやって、暮らしていけていたのかな。


永遠に続くことの無いこの夢の中でずっと二人で暮らせたらと、柄でもないフィクションを想像した。


「…俺も一緒にやる」

「ゲテモノ作らないでよ?」

「つくらねぇよ」


二人入るには少々狭すぎるキッチンに並んでお互いが違う作業をする。

俺が米を洗って、🌸は野菜を切って。

俺が炒めて、🌸は味付けして。

🌸がスプーンを俺の口まで持ってきて、俺が味見して。


…これってカップルじゃん。

こういう未来が、あったのかなぁ。


「なんか結婚してるみたいだね」


そうやってまだ生きているかのように無垢に笑うから、俺の心臓がまた締め付けられて苦しくなって。


「…そうだな」


また、恋をしてしまう。

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