テラーノベル
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休日の午後。人通りの多いショッピングモールの中、蓮司は相変わらず無駄に整った顔で歩きながら、半歩前を進んでいた。
遥はその後ろを、距離を詰めすぎないように、無言でついていく。
「で、何がいいと思う? 沙耶香のやつ、意外と“可愛い系”は嫌いじゃないよね。
ああ見えて、猫耳のついたルームウェアとか持ってるし」
蓮司が軽く笑いながら振り返る。
遥は目を逸らした。
「知らねぇよ、そんなの」
投げやりな言葉に、蓮司は「ふーん」と鼻を鳴らしながらエスカレーターを降りていく。
「おまえさ、こういう時、ちゃんと“恋人の顔”できないんだね。……まあ、無理か。
最初っから、そっちの役は期待してないし」
遥は一瞬、足を止めかけた。
だが何も言わず、また歩き出す。
胸の奥で、薄く爪を立てられるような感覚が残ったまま。
蓮司は雑貨店に入ると、やたらとカラフルなガラスのアクセサリー棚の前で足を止めた。
「ね、これとかどう? “おそろい”ってことにしてさ。
俺が沙耶香に、で──おまえには……そうだな、“余りもの”ってことで」
遥は黙っていた。
蓮司の言葉が冗談か本気かも、いまさら測る気にもならない。
けれど、その“おそろい”という言葉だけが妙に胸の内側に引っかかった。
(──なんで、俺だけ、いつも“どっちでもない”んだろ)
「黙ってると、ほんとに“いい子”に見えるよ」
蓮司がふと振り向いて言った。
その顔には、笑っているのか、見下しているのかもわからない色が浮かんでいた。
「沙耶香、言ってたよ。“あの子、本当に壊れるの上手だよね”って」
遥の喉奥が、ひくりと動く。
「──あいつ、そう言ってたのかよ」
「あー、ごめん。内緒だった?」
そう言いながら、蓮司はまた歩き出す。
その背中を見つめながら、遥は歯を噛んだ。
怒りでも、悲しみでもなく、ただ……なぜか“無力感”のようなものだけが、静かに腹の底を濁していった。
「……なんで、おまえ、そんなに笑ってられんの」
ぼそりと、呟くように遥が言った。
蓮司は振り返らなかった。
「笑ってるだけだよ。俺、感情ないからさ」
言葉が軽い。
でも、その軽さこそが、遥には何より残酷だった。
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