「こんにちは」
「…こんにちは」
なんてことのないバス停。学校の帰りで私はバスを待っていた。
ベンチに座り暇なためスマホを弄っていたら、隣にいたお婆ちゃんに話を掛けられた。
「今日はいい天気ね」
「そうですね」
素っ気なく返事を返す。
そこからは別に話はなく、静かな中しばらくしているとバスがやって来た。
私はスマホをカバンに仕舞い、バスに乗ったが…
話を掛けてきたあのお婆ちゃんがバスに乗ることはなかった。
ー次の日ー
学校の帰りバス停へと向かうと前の日の時と同じようにお婆ちゃんがベンチに座っていた。
そして前の日のように同じ会話と挨拶をして、バスがやって来てもお婆ちゃんは乗ることはなかった。
ーその次の日ー
気になった私はお婆ちゃんに話し掛けた。
「あの…」
「はい?」
「いつもここに居ますよね?」
「そうね…」
私がいるこの町は田舎で、バスは1日に周回して1~2回来る程度。
つまり、私の帰りでバスは最終バスになるのだ。これを逃してしまえば歩きで帰るはめになってしまう。
このバス停の周りは殆どが田んぼや林だらけ。この近くに家があるようにも見えないし…
まさかずっとここに居るんじゃないかと思い心配になってしまい、話をかけたということだ。
静かな中お婆ちゃんの様子を見ていると、ゆっくりと重々しげに口を動かした。
「…待っているの」
「でも、もう…来ないのかもね」
そう話すお婆ちゃんはどこか寂しそうだった。
するとバスがやって来た。あれ?いつもよりバスが来るのが早いような…
不思議に思っていると隣にいたお婆ちゃんがベンチから立ち上がり、バスにへと向かって行った。
なんだ結局はバスに乗るんじゃん。心配して損した。
まあいいッか。私も遅れないように乗らなきゃ。
そう思いバスに乗ろうとしたらバスの入り口前でお婆ちゃんに止められた。
「このバスに乗っちゃダメ」
「え…」
「行き先が違うから」
お婆ちゃんの手が私の頭に置かれ、ゆっくりと優しく撫でる。
私を見つめる瞳は優しく細めいていたが、やっぱりどこか哀愁さが拭いきれていなかった。
「あなたのバスはこの後来るはずよ」
「…心配かけさせちゃってごめんなさいね、今までこんな老婆の相手をしてくれてありがとう」
「それじゃ、元気でね」
ニコリと笑い、ゆっくりとおじきをした後バスの入り口は閉まりバスはお婆ちゃんを乗せて去ってしまった。
残された私はただ去っていくバスが小さくなって消えていくまでずっと、見つめていた。
そしてそれ以降、このバス停でお婆ちゃんに会うことはなかった。
ー別の日ー
いつもの帰りにバス停に行くと、ベンチにお爺さんが座っていた。
私はお爺さんの隣に座り、声をかけた。
「こんにちは」
「…こんにちは」
少し遅れてたが、返事をくれた。
隣にいるお爺さんは顔を俯いたままボーッとしていた。
私は気になり、こう聞いた。
「誰かを待ってるんですか?」
そういうとお爺さんは顔を上げ、驚いた顔を私にへと向けた。
だがその顔も変わり、悲しい顔にへと変わる。
お爺さんは視線を私からベンチに向け、懐かしそうに色褪せた青色のベンチを触りながら話してくれた。
「ああ…でも、もう帰って来ないのだけどね」
「このバス停はね、私にとって思い出深い場所でね…亡き妻との思い出の一つなんですよ」
「でもそれも消えてなくなるんだろうね…最近物忘れが多くなってしまってね」
「はは…歳をとると不便でしかないですな」
「おじいちゃーん!」
遠くから幼い子供の声がした。
バスが来る反対方向から一般自動車が来て、その後頭部座席の方から子供が窓から顔を出して手をこちらに向けて振っているのが見える。
一般自動車は一定の距離まで来ると停車し、運転席からその子供の母親らしき人が降りてきて慌てた様子でお爺さんにへと駆け寄った。
「もう心配しましたよお義父さん!何処へ行くつもりです?探したんですよ?」
「…はて?どうして私はここに居るんかの?」
「みんなが待ってますよ、さあ帰りましょう」
その母親らしき人はお爺さんの手を取り、車にへと歩いて行きお爺さんを助手席に乗せて帰って行った。
交差するように待っていたバスがやって来た。
私はバスに乗り込んだ。
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