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「侍レベルーーまあこれはこの”時代”に合わせた強さの指標を現す数値だが、お前の侍レベルは臨界突破“第一マックスオーバーレベル”推定『150%』以上と云った処か。仮にまだ隠しているものを併せても、第二マックスオーバー迄は届かないだろう」
“……何を言っている?”
アザミはその現実のみならず、この“時代”という不明瞭な言葉を紡いだ。勿論、ユキにはそれが何を意味するのか分かる筈も無いが。
「まあ、これでも驚異的な数値だが……。ちなみに俺のレベルは臨界突破第二マックスオーバーレベル『215%』だ。これで解っただろう? 仮にお前が万全状態でも、俺には僅かに及ばない事が」
アザミの言っている事に全ては理解出来ないが、少なくともアザミが自身より強いであろう事を、ユキも最初に見た時から感じ取っていた。
事実アザミの臨界突破レベルは狂座に於いて、冥王に次ぐものを持っていた。レベルだけなら直属の中でも最強を誇る。
その他、臨界突破レベルが『200%』を超えている者は、四死刀と呼ばれた者達のみだった。だからこそ狂座は四死刀を、類を見ない脅威の存在として認知している。
「二つ目、冥王様のレベルは“臨界突破第三マックスオーバーレベル『300%』を軽く超えているーー」
それは埋め様の無い実力差。レベル差という現実を、アザミは冷酷に口にするのであった。
「これで少しは解ったかな? 我等から見れば、お前はちっぽけな存在でしかない」
一人で喋り続けるアザミを尻目にユキは思う。
“大分動悸も治まってきた。後、もう少し……”
僅かながらも体力の回復を実感するユキに、アザミは強者の余裕とも云える雰囲気で続ける。
まだアザミに戦闘の意志は感じられない。
ユキにとっては好都合だが、敢えて多少の回復を許しているとも思えるアザミの余裕が不気味だった。
「そういえば自己紹介が遅れたな。俺は当主直属部隊のアザミ。お前も知っていると思うが、俺達狂座はこの世界の住人とは異なる存在。そしてお前も特異点として、この世に存在してはならない存在として、そういう意味では俺達と同じ存在ーー」
そう、この世に於いては両者共同じ。人類にとって危険な存在で在る事に変わりは無い事を。
だから次にアザミがユキに投げ掛けた一言は、驚愕に値するものであった。
「お前……狂座、俺達と共に来い」
“何を言っている? 私を狂座に……だと?
アザミの予想外の一言に、さすがにユキも戸惑いを隠せなかった。
「別に冗談を言っている訳じゃない」
ユキの心を見透かした様に、アザミは話を続ける。
「単純にお前に興味が有るんだよ。人間共に加担した所で無駄死するだけだ。それにお前はまだ幼過ぎる。だからこそ、その強さは驚異的で無限の可能性がある。此処で殺してしまうのは、少し惜しいと思ってな。俺達の下で更に実戦を積めば、いずれ俺をも凌ぎ、狂座でも最強の剣士になれるだろう。もしかしたら冥王様にも匹敵する程のな」
「…………」
考えあぐねている様にも見えるユキに、アザミは右手を伸ばしていた。
「お前達特異点はこの世界に居場所なんて無い。自分でも分かっているだろ? その人知を超えた力と姿のせいで迫害されてきた筈だ。だが俺はお前の力を、存在を認めてやる。他の者には俺が話をつけといてやる。どうだ? 俺と共に来い」
アザミのその歓迎の意に、まるで時が止まったかの様に、その場の空気が変わっていた。
「そうですね……。確かにこの世はくだらない権力争いや貧困による差別、異質な者への迫害。アナタの言う通り、この世界に私の居場所は無いでしょうね。しかも人は脆弱なのに殺し合うのが大好きときて、そんな連中を救う義理もありません。全員死に絶えた処で構いはしませんよ」
ユキはアザミの意見に同調する様に、その思いを綴る。
この世に存在してはならない特異点として。殺される為だけに生まれて来た様なものだったから。
「理解力はあるみたいだな。それでいい。ならば俺と共に歩む証として、まずは夜摩一族を共に殲滅する。行くぞ!」
“……もし少し前の私なら、その誘いに乗る考えもあったかもしれない。でも不思議ですね……。何を無いと思っていた世界。自分が必要じゃない世界”
だがユキには、もう一片の迷いも無いーー
“そんな世界でしか見つけられない大切なものが、確かに在るのですからーー”
「何を寝呆けているんですか?」
ユキの否定とも云える一言に、アザミの顔色が僅かに変わる。
それもその筈。アザミとしては彼を此方側に引き入れたと思った矢先の、意外な一言だったからだ。
「どういう意味だ?」
アザミの瞳には困惑と怒りさえ篭っているかの様に、ユキを見据え聞き返した。
「どういう意味もこういう意味も。確かにこの世がどうなろうと、私の知った事ではありませんがね。とはいえ私が狂座側に? 冗談じゃない。私はアミを護る、その為だけに存在する刀なんですよ」
ユキは雪一文字をアザミに向け、双流葬舞の構えを取る。
それは交渉決裂を意味していた。
「アナタが長々と喋ってくれたおかげで、多少の時間稼ぎは出来ました。では、死んで貰いましょうか」