テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
──土蜘蛛によって荒らされた道中。そこにはバイクの走行に邪魔な物がいくつも散乱していた。
それらは全て俺が走りながら、風や炎の術で蹴散らした。ただ全速力で環の後を追う。前を見ながら秘策を考える。
前方の上空にはちかちかと光る星のような輝き。
その下には土煙をあげながら、ガリガリと道を削りながら巨大な戦車のごとく、光に突進する土蜘蛛がいた。
ずっと視界に捉えていたが、距離は縮まっているのか怪しい。
幸いといえば、土蜘蛛が後方に俺が追って来ていると全く気が付いてないこと。
荒れた道を走れば、バイクが跳ね上がり。車輪が浮く。それをハンドルを強く握り締めて、力尽くで抑えるように体重を後ろや前へと調整する。
術を使いながらの走行は実に骨が折れるが、愚痴など言ってられない。
「なにか、なにかっ……! 環だけを救う方法ないのかっ」
向かい風に立ち向かうように言葉を吐き出すが、冷たい風が俺の言葉を散らすだけ。
色んな術を習得しているが、一撃で土蜘蛛を葬れるのは黒洞の術しか思い浮かばなかった。
黒洞は強力な術だが、|広域型殲滅術式《こういきがたせんめつじゅつしき》。
細かな指示を実行するならば、俺への負担──脳への負荷が大き過ぎた。
「それでも黒洞で、環だけを避けて土蜘蛛を斃すしかない」
そんなことをしたら、きっと俺の脳は術の暴走を遥かに越えて、負担で焼き切れるだろう。
──それでもいい。
環が死ぬよりよっぽどいい。
「妻を守って死ねるなら本望だ」
ふっと笑うと自然と心が軽くなり、肩に入っていた力が抜けた。
秘策とは言い難いが、やることが明瞭になった。それでいいと自分に言い聞かせる。
神経を集中させて、さらに速度を上げて夜を駆けて行った。
そうして土蜘蛛が壊した道をバイクで走り続けると、相変わらず道は爆撃でもされたのかと思うほどに、舗装が壊れてはいたが皇宮へと続く大通りはとても静かだった。
嘘のように、いつもの帝都の真夜中の静けさを保っている。
病院からかなり離れたが、人がひょっこりと道に現れることもない。
「真守達が人払いをしっかりと、やってくれているからだろうな」
俺の耳にはバイクが駆けるエンジンの音と、タイヤが荒れた道を走る音しか聞こえない。
前方からずっと続いていた、土蜘蛛が動く地鳴りのような音はいつしか絶えていた。
きっと環と土蜘蛛は皇宮に着いたのだろう。
ちらりと横を見れば道なりに皇宮へと示す石柱があった。
「ここからだと、あと十分ほどか」
皇宮は五角形を築いている。城のように周囲に堀があり、その中心に帝が棲まう御所がある。
その御所は強力な結界に守られている。
いくら大妖の土蜘蛛とはいえ、すぐにはその結界を突破出来ない。
土蜘蛛が皇宮へと向かっていると言うことも宇津木隊員二人のテレパスにより、周知の事実のはず。
既に帝はもちろん、皇宮に務める人達も御所へと避難をしているだろう。
環が土蜘蛛から吸収した人達を助け出すと、どこにも行かないように、土蜘蛛が新たに人質を取らないように、環が今まさに足留めをしていると思った。
たった一人で戦っている。
九尾の力は万全ではないと言っていた。何か不測の事態に陥ってはないか、泣いていないか、痛い目に遭ってないか──そう思うと胸が掻き乱される。
「いますぐに行くから、どうか無事でいてくれ」
またハンドルを強く握りしめて、皇宮へと急ぐのだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!