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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第35話 〚ナビ担当という危うさ〛
――海翔視点――
修学旅行の担当が決まったあと、
俺は一人で少し遅れて教室に戻った。
廊下を歩きながら、
頭の中はずっと同じことを考えていた。
(……ナビ、か)
真壁恒一。
悪いやつじゃない。
少なくとも、本人はそう思ってる。
でも——
“ナビ”という役割が、
妙に引っかかっていた。
教室に入ると、
ちょうどルートの話をしていた。
地図を広げて、
みんなで覗き込んでいる。
真壁は、
地図の中心に陣取っていた。
「ここ曲がって〜、
次はこっち行って〜」
楽しそうだ。
正直、
その姿だけ見れば問題ない。
……でも。
「澪、こっちの方が近いよね?」
「澪、これ食べたいって言ってたよな?」
「澪、迷ったら俺が一緒に行くからさ!」
——また、澪。
俺は、
無意識に拳を握っていた。
(ナビって、
班全体を見る役割だろ)
一人にだけ、
視線が集中しすぎている。
しかも——
それに気づいていない。
玲央が、
俺の視線に気づいて小声で言った。
「……ちょっと、な」
「ああ」
短い会話で、
全部伝わった。
りあは、
澪の隣にさりげなく座っている。
えまも、
話題を広げようとしている。
みんな、
気づいている。
気づいているけど——
止め方が分からない。
真壁は、
“悪意がない”から。
そこが、
一番厄介だった。
(もし、
修学旅行中に——)
人混み。
迷子。
班行動。
「澪、俺と一緒に行こう」
そう言われたら。
澪は、
断れない。
嫌な顔をしない。
誰かを傷つけないために、
自分を後回しにする。
……知ってる。
俺は、
それを一番近くで見てきた。
(ナビって役割、
自由に動ける)
(先導できる)
(誘導できる)
——近づこうと思えば、
いくらでも。
俺は、
深く息を吸った。
(……守るって、
前に立つことだけじゃない)
見張る。
制限する。
距離を保つ。
それも、
“守る”だ。
「海翔?」
澪が、
不思議そうに俺を見た。
「……大丈夫」
そう言って、
俺は笑った。
でも、
心の中では決めていた。
修学旅行中——
真壁恒一の“ナビ”は、
一人にさせない。
必ず、
俺か玲央が横に立つ。
ルート決めも、
移動も、
常に複数で。
澪を、
一対一にしない。
(……巻き込ませない)
それが、
俺の役割だ。
ナビ担当が決まった日、
俺は初めて——
この修学旅行が、
楽しいだけのイベントじゃないと
はっきり理解した。
そして同時に、
覚悟も決めた。
澪が、
安心して笑えるように。
俺は、
目を離さない。
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