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それは、気づいたら始まっていた。
朝、出社すると、
僕のデスクの上の資料がずれている。
保存したはずのデータが、消えている。
共有フォルダの編集履歴に、見覚えのない名前。
「……あれ?」
独り言みたいに呟くと、
少し離れた席から、視線を感じた。
あの同僚だった。
目が合うと、にやっと笑う。
背中が、ぞわっとする。
決定的だったのは、その日の午後。
取引先に提出するはずの資料に、
明らかなミスが見つかった。
「これ、誰が作った?」
会議室で、課長の声が響く。
「……僕です」
震える声で答えると、
同僚が口を挟んだ。
「さっき見たとき、先輩が手直ししてましたよね」
一瞬、空気が止まる。
「でも、結局ミス残ってたってことですよね。
やっぱり、実力不足じゃ……」
頭の中が、真っ白になった。
そんなはず、ない。
この部分は、今朝まで正しかった。
「……違います」
そう言うのが、精一杯だった。
会議は一旦中断になったけど、
僕の評価だけが、置き去りにされた気がした。
席に戻る途中、
倉庫前で、同僚に呼び止められた。
「焦ってる?」
低い声。
「先輩に守られてるって言っても、
証拠残したら意味ないよね」
心臓が、どくんと鳴った。
「……何をしたんですか」
「さあ?」
肩をすくめる。
「新人って、失敗しやすいもんだよ」
その言葉で、
ようやく分かった。
わざとだ。
「……やめてください」
「何が?」
「僕に、そんなことしても……」
声が、震える。
「先輩が困るだけですよ」
その瞬間。
「――それ以上、言うな」
低く、鋭い声。
振り向くと、先輩が立っていた。
顔は冷静なのに、
目だけが、はっきり怒っていた。
「データの履歴、全部確認しました」
静かな声が、逆に怖い。
「編集したの、あなたですよね」
同僚の顔色が変わる。
「俺が手直しした後に、
上書きされてるログも残ってます」
一歩、前に出る先輩。
「後輩を陥れる行為、
業務妨害です」
周囲に、人が集まり始める。
「……冗談だと思って」
「冗談で済む話じゃない」
先輩は、僕の前に立った。
完全に、庇う位置。
「この件、
上司と人事に正式に報告します」
同僚は、何も言えなくなった。
そのあと、僕は会議室に呼ばれた。
事情を説明して、
ログも確認されて。
「今回は、君の責任じゃない」
課長の言葉に、
ようやく、息ができた。
でも、
心はもう限界だった。
帰り道、
先輩の家に着いた途端、
僕は立っていられなくなった。
「……ごめんなさい」
玄関で、しゃがみ込む。
「迷惑、かけてばっかりで……」
先輩は何も言わず、
僕を抱きしめた。
強くて、でも優しい腕。
「もういい」
耳元で、低く言われる。
「こえ君は、よく耐えた」
肩が、震えた。
「俺が、もっと早く気づくべきだった」
先輩の声も、少し揺れていた。
「二度と、あんなことさせない」
僕の頭に、手を置いて。
「こえ君に触れる権利があるのは、
君が許した人間だけだ」
独占欲が、
怒りと一緒に、はっきり滲んでいた。
「会社でも、外でも」
ぎゅっと、抱きしめられる。
「俺の恋人を、
壊そうとするなら、容赦しない」
怖いはずなのに、
その腕の中は、あまりにも安心だった。
「……先輩」
「なに」
「……離れないでください」
先輩は、少しだけ力を緩めて、
でも、離さなかった。
「離すわけないだろ」
額に、そっと触れる。
「選んだんだ。
一生、守るって」
その言葉で、
ようやく、涙が落ちた。
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