──────Hれいまり視点──────
深い森の中。私達が来る前にこの地には雨が降ったらしい。濡れた草木の匂いと、湿った土の匂いが嗅覚を刺激する。
まだ固まっていない地面の上を歩く感触が好きになれないが、慣れてきたおかげで不快感は無くなった。
「…にしても、どこまで歩くんです?これ」
たまらず文句を言う。私達が歩き始めてもう3日は経っている。今まで大した運動も食事も取っていなかった子供がいきなりここまでの長距離を移動するのはなかなかに酷なものではないか。いや、ちょくちょく休憩は取っているし、魔法?みたいなので補助してもらえてるし、食事も満足に食べられている。だけど…!!
「きっつい…!!」
本音が漏れる。どんなことがあろうと本音は隠し通そうと思っていたがさすがに無理である。逆にいえもんさんがここまで体力があることに驚きを隠せない。本当に人間なのか怪しい、とさえ思ってしまう。私が思ったよりも、金色の瞳持ちは特異な存在なのかもしれない。
「ううん…今日はもう休みますか。そこら辺で獣狩ってきますので休んでおいてください。」
「すみません…。うぅ、面目ない…。」
自分で休みたいといいながら実際休むとなるとやはり胸が痛む。申し訳なさと不甲斐なさで胸がいっぱいになる。
そんな時だった。私の下に突然強い光と爆音とともに魔法陣が急速に展開され、刹那の間に私は檻に閉じ込められる。
「へ!?」
「れいまりさッ───!!」
ガキンッ
金属音が白い煙の中から聞こえた。煙幕だ。ワンテンポ遅れて事態を把握する。
敵襲である。
モワモワとした煙が一気に広がり、私の視界を覆い隠す。その間にも金属がぶつかり合う音と、魔法陣の強い光が何回もピカピカと光り続ける。それに伴って肌が焼け付くような熱さや、息が凍るほどの寒け、視界の端で弾ける雷。様々な魔法が展開される。檻の中に監禁された私は遠くから眺めることしかできなかった。
疾風が刃のごとく放たれると、その煙は晴れ、敵の姿があらわになる。
そこにいるのは、剣と槍を交えお互いの喉を、心臓を狙う直前で止まっていた。
いえもんさんは剣を悠に構え、息一つ乱さず敵の瞳を興味深げに覗いていた。
そして、槍を構えているのは黒髪に青のメッシュがある短髪の女性。その強さからはうかがえない身軽な服装に口元には挑発的な笑みを浮かべている。そしてその両目は金色を宿していた。そして、その人物を私は知っている。───八幡宮。八幡さんだ。いつも飄々としていて掴みどころがなく、何を考えているかあまりわからない人。そんな人物像が脳裏を過ったがすぐに振り払う。
私の知っている八幡さんは戦闘狂なんかじゃないからだ。この世界では初対面だと言うのに、こちら側が認識する前に攻撃を仕掛けてくるなんて正気じゃない。
そんな不信感を抱いていると、八幡さんは槍を捨て、両手をあげる。───あっさりと降参した。
「ははっ。あなた強いね。さすが両目金色持ち。」
口元は笑っているのに、その声音はどこか感情を感じられない。この状況を面白がっているのか、はたまた私たちの弱さを嘲笑っているのか、皮肉を言っているのか…。思考を広げ、八幡さんの考えていることについて分析してみたがどの結果もピンと来ない。正真正銘の───
「んじゃ、招待してあげるよ。私たちの王国に。」
「…なるほど。今のは試練ってことですか?」
私はやっと八幡さんの不可解な行動について納得がいった。つまり、この戦いは金色の村…ではなく王国に入るための試練らしい。突然行われるのは不意打ちに対する抵抗ができるかどうかの確認ということだろうか。段々と行動に対しての理屈と筋が通されていき、納得が生まれる。
八幡さん、勘違いして申し訳ない。
「いや?単純に両目金持ち久しぶりに見たから実力を知りたかっただけですよ?」
前言撤回。こいつ頭おかしい。私の中で八幡さんに対する印象が上塗りされていく気がする。いや、もしかしたら私がおかしいのかもしれない。この世界は戦闘狂が多い世界なのかもしれない。そういうことにする。そうでもしないと目の前の現実を受け入れられなくなる。
「…そうなんですね。」
いえもんさんがやや不信気味に八幡さんの言葉に相槌を打つ。
八幡さんはそんな態度を取られてもなんも感じていないようで、そのまま「んまっ」と言って詠唱を始める。
「『金色の光の元に照らされた王国よ 神の導きを そしてあらたな仲間に祝福を 金色の瞳を持つ我が祈る 我々の故郷への道を繋げ』」
そう八幡さんが詠唱すると暖かな光が八幡さんの真下に魔法陣をゆっくりと描き、天から落ちてくる光が新たな地面を作りだす。今まで見えなかった閉ざされた道が光が集まることで見ることができるようになる。
───神の力の一端。それが魔法だ。人知を超え、我々には理解し難い天災を巻き起こし、時に概念すらも捻じ曲げる。
そう、金色の瞳を持つものは神の代弁者。この世を好き勝手にできるプレイヤー。魔法に対抗するためには同じく魔法で、もしくは能力で。
「ああ、自己紹介を忘れてたね。私の名前は『八幡宮』。この王国に来るなら私の名を忘れないことだ。」
金色の瞳を両目に宿した彼女を見る。
彼女もまた、神の使いなのである。
ここで切ります!今回は魔法について少し深堀してみました。あまり異世界ものの作品を私は読まないので、確かとは言えませんが、どの作品も魔法を軽く見ているような気がします。使えて当たり前であり、使えないやつは弱い。そんなものをよく見かけます。けれど、そんな魔法に剣ひとつで対抗出来る、最強だから魔法無効化、みたいな、悪く言えば魔法を軽視しているような表現をよく見かけます。私は魔法を神様からの贈り物、人知を超えた、人外に対抗する手段。概念の超越ex…。まあ、簡潔にいいます。魔法は強い。人間でも人外のような再生力や耐久力、はたまた飛ぶことすらできちゃう(これらは全て一部のみ)常識をぶち壊す力!強い!
まあ、これはあくまで私の考えであり、キャラによって変わると思いますけど…。あ、れいまりさんがさらりと言った『プレイヤー』という言葉。これは私たちの世界を認知し始めた影響ですね。そのうち後書きにも出てくるかも…?
それでは!おつはる!
コメント
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やっぱ八幡さん強そう 何故か弱いキャラになるのが想像できないわ〜(個人の意見)
やっぱり八幡さんはよく分からない人になるよね