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TENGAを立ち上げた時、僕がいつも無茶をしがちだから、少しでも休めるようにと秘書を買って出てくれたので、彼を雇うことにした。僕のよき理解者である。
そして初恋を拗らせ、未だに先生に片想いしていることまで知っている。だから小平の情報をいち早くキャッチして僕に教えてくれたのだ。
まだ僕を見てニヤニヤ笑っている彼を無視し、迎えに来てくれた車に乗り込んだ。
今日はフジノ商社が地元密着型のスーパー事業とM&A(※エムアンドエーとは、英語の「Mergers(合併)」と「Acquisitions(買収)」の略で、企業の合併や買収、またはそれらを含む企業提携の総称を指す)の展開を考えているので、フジノへ視察に行くのだ。
「惚れた女が隣で寝てるのに、手を出さないとかバカか?」
含み笑いをされた。くっ……!
15歳も年上のこの男は、女性を掌で転がすのには長けている。経験もたっぷりあるのだろう。知らないけど。僕なんか佑里香先生とイタす夢想ばかりで、一回もソッチ(本番)の経験がない。だからどうやってすればいいのか、ぜんぜんわからないのだ。
「ねっ……眠っているところを襲うなんて、そんな、卑怯なことできないって……」
「くっくっく。小学生か」
やっぱお子様じゃん、と笑われた。
「~~~~~っ! ほっといて!」
ぷい、とそっぽを向いた。
「睦月、拗ねるな拗ねるな。相手は年上の先生なんだから、恋愛問題やセックス指南頼めって俺が入れ知恵したやつは、彼女に伝えたんだろ?」
「言ったけど……」
「夜は豪華な料理やケーキ用意してちゃんと口説けって言ったのに、実践しなかったのか」
「先生がお酒に弱くて寝ちゃったんだ」
そうなのだ。どうせだったら年下の小悪魔御曹司になって彼女を翻弄してやれと言われて、セックス指南を名目に夫婦の仲を深めろ、とアドバイスを受けたのだ。頑張って実践してみたけれど、なんか、僕の柄じゃなかった!!
あれで正解だったのかどうかもわからない。潤に言ったらまた笑われそうだ。
あと、愛が重すぎて幼少期からストーカーのように先生を想っていると言えば、きっと彼女はドン引きするだろうから、徐々に打ち明けていけ、と言われている。それは確かに。
急に『小学生の時から好きでした! 1日もあなたのことを忘れたことはありません、結婚してください!!』なんて言ったらキモいと思われてしまうだろう。それは…だめだ!!
だから、先生への愛は少しずつ出していこうと思う。
そして僕がヘタレなのは事実だと思う。
だって、先生にキスをするのがせいいっぱいだったから……!
今朝はあれでも頑張ったんだ。というか、思い出が溢れすぎて先生への愛が堪えられなかったというか…。でもそれ以上はどう踏み込んでいいのか、ぜんぜんわかんない!
僕のファーストキスはさっき先生に捧げたところだが、先生はどうだったのだろうか。
もしかしてさっきのアレがファーストキス…やめよう、夢を見るのは。そんなわけない。
あれだけ綺麗な女性――顔は純日本人といった瓜実顔。肩まで延ばされた美しい黒髪、それと同じような黒く大きな瞳、ぷるっとした桜色の唇。そして愛らしい笑顔が似合うひと。
とにかく! 先生の美しさは日本……いや世界……いやいや、宇宙一だ!!
彼女に勝る女性はこの世にいない。
そんな女性を他の男が放っておかないだろう。恐らく、とっくの昔に済ませているはず。きっと、あの、花束を贈ったえくぼの笑顔の男――確か水島とか言っていた、あいつとか……。
ああっ! そんなの考えただけで苦しいッ!!
先生とハジメテをイタしたの男の話なんて、聞いたら多分血を吐いて僕は倒れる自信がある!
初体験話なんて聞いたら、ショックで死んでしまうかもしれないから、怖くて聞けない。だからそれには触れず、封印していくのだ。
それに、結婚してまっさらな状態になったわけだから、過去の男なんて振り返らない!
なかったことにする。
僕はずっと佑里香先生に片想いしていたから、他の誰とも恋愛したことないし、小悪魔風に恋愛やセックスについて指南してくれとか言ったけれど、あれはホントのことで。
自分で言うのもなんだけど、超ド級の恋愛オンチなんだッ!
先生とイタすには、どうすればいいんだろ。できればシタい。先生と……合体……アアッ。甘美な響きに、ぞくりと背筋が寒くなる。
でも、イタす時に緊張しすぎて倒れないか心配。
「恋愛もチャートがあったらなぁ……」
指標を読み解く技術はお手の物だ。どこかに掲載されていないものか。
「そんなの無いし、経験だって。せっかく結婚したんだから、早くヤればいいだろ」
「ヤッ……どうやって?」
それは聞いておきたい!(ドキドキ)
「”佑里香、ずっと好きだった。抱きたい、いいだろ?”ってこんな感じ。シンプルにいこう。はい、俺が初恋先生だと思ってやってみ? ごちゃごちゃ重い話はやめろよ?」
そう言い放ち、涼しい顔をして運転している潤を見た。いかつく鋭い目をしたオールバックのヤサ男を横目に、僕は佑里香先生だと思って一生懸命シミュレーションした。
「ゆ……ゆ、ゆゆゆりかせ、先生ッ…あ、ああああのですね、きょ、きょ、今日、ぼ、ぼぼぼくのものにな、なって、いただけませんかああああああむりむりむりッ!!!!」
潤と同じように言おうと思ったが、まったく別の言葉になり、そして最後は無茶苦茶になってしまった。先生に”抱きたい”とか言うなんて無理すぎる……!
顔から火が出た。そして頭が爆発していろいろ狂った。
「ぶわっはっは。ヘタれすぎんだろ。伝説の億トレーダーの中身がこんなんだって、みんな知らないんだろうなぁ」
彼に大笑いされた。
「笑いすぎ! こっちは真剣なんだよッ」
ほんとこの男だけは……! 僕をおもちゃにして遊んでいるのがわかるからむかつく!!
「お手本見せるために、初恋先生を俺が口説いてやろうか?」
「潤。×すよ?」
ひゅっとその場が凍り付いた。いくら潤でも僕の先生に手を出したりしたら許さない!