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#怖い話
辛い壁 〝からいかべ〟
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その晩、帰ってきた夫に再度確認をお願いして視てもらうと、三箇所の見落としがあったらしい。
一つは、娘が緩くなって外してしまったミサンガ。
強く願いを込めていたようだ。すぐ処分しなかったことで、変な思念体のようなものが宿っていた。
もう一つは、本家で飼っていた猫にそっくりのぬいぐるみ。
この中に宿っていた奴は人の霊魂とはかけ離れた容姿で、何故か娘が近寄ると無数の手を伸ばしてしがみつこうとしていた。
どうやらこの猫のぬいぐるみに入った黒い髪の毛の束のような奴が、色々と悪い物を引き寄せていたらしい。
これに関しては私が敵う相手ではないようで、夫が処理してくれた。
そして最後の一つが、どうも分からなかった。とても弱い気配なので、媒体になっている物の位置が不明瞭だった。
衣類の収納ケース付近から薄ら気配はあるのだが、どれを依代にしているのかさっぱり分からない。
夫は「弱いから放置でも悪さはできないと思う」と言うので、今晩はこれで完了ということにした。
……数日後にふと、娘の部屋のキャリーケースの中にぬいぐるみをしまっていたのを思い出し、確認すると最後の弱い一体が見付かった。
一段落ついた頃、改めてゴミ袋にシュートした黒い下駄を袋越しに見返す。
初日に感じた怪奇現象のオンパレードは、絶対にこの下駄が原因だと思う。
気配がまさにこれとそっくりだった。
(創作かは不明だが)某オカルト掲示板で有名な話に、ある箱の中に地獄が広がっていた、という話がある。
黒い下駄に触れた時、一人の女の笑い声と大勢の苦悶の声が聞こえた。中には炎の轟ぐような音と一緒に、「ぎゃあああ!!熱い!熱い!」という壮絶な断末魔もあった。
まるで地獄の炎で焼かれているような、そんな怨恨の声だった。
私はこの黒い下駄が、その手の物なのではないかと思う。
しかも誰に貰ったのかも分からず、いつの間にか娘の部屋に紛れるようにしてあった。
娘の記憶では幼い頃からあったと言っていたが、それは絶対にない。
今までも定期的に、娘の私物の簡単な断捨離に私も手を加えてきたのだから。
そもそも、下駄なんてあったらオモチャ箱には放置しない。ワンシーズンしか使わないのだから、玄関のシューズボックスの上段に保管する。
だからオモチャ箱の中に混ざっていること自体がおかしいのだ。
……では、誰が持ち込んだのかという話になるのだが、実はここ一週間程前に不可思議なことがあったのを思い出した。
因果関係があるかどうかは分からない。
一週間程前、娘がいつも仲良くしている近所の歳下の女の子と遊んでくると言い残して放課後遊びに行った。
しかし猛暑の中での外遊びが辛くなったのか、一時間後にキッズケータイから『暑いからうちで遊んでもいい?』と連絡を寄越した。
熱中症になるくらいならいいよ、と返す。
今のところうちの中に招いていいよと伝えてあるのは、今回の近所の歳下の女の子と、超絶に娘と仲の良い同級生の女の子のみ。
基本的に私は娘が友達を呼んだ時、あまり関与しない。
金銭的な物だけリビングから撤去し寝室に隠して、あとは黒兎の部屋んぽや掃除をしたり、家事をしたり映画を観たり、好きに過ごす。
あまり招いた友達のことをジロジロ見ることもない。
どうせ遊んでいる声は聞こえてくるから、トラブルがあったら隣の部屋にいても大体すぐ分かる。
やがて歳下の友達が「お邪魔します」とやって来て、娘の寝室にオモチャを広げて遊び始めた。
シールブームはとっくに去り、今はもう家にあるオモチャでのごっこ遊びに切り替わったようだ。
私はいつも通り黒兎を部屋んぽさせていた。
十七時に差しかかろうとした頃、そろそろ夕飯の支度をしなきゃとリビングに向かう。
その時、ちらっと娘の部屋が視界に入る。三人の女の子がシルバニアで遊んでいた。
床にシルバニアを広げて、各々寝そべってごっこ遊びをしている。
ほんの一瞬、あれ?と引っかかったが、いつもうちに招く同級生も一緒だったんだなと、あまり深く考えなかった。
三人とも黒っぽい服装だったのだが、そのうちの一人はなんとなくシルエットが全体的に和風な気がした。
ただ、楽しく遊んでいるところに水を差すのはアレなので、そのまま素通りして料理を始めた。
やがて門限が迫り、ある程度片付けを終えた娘がいつも通り「送っていく!」と言った。
「お邪魔しましたぁ」と歳下の女の子の声が聞こえて「はーい、気を付けてねー」と返す。
料理中で然程気にならなかったが、改めて後から考えたら、もう一人が帰ったところを私は見ていない。
娘はすぐに帰宅した。それはそのはず、歳下の女の子の家は目と鼻の先にある。三分もかからない。
あの和服のようなボブヘアの女の子は誰だったのか。同級生の女の子は髪が長い。先程来ていた歳下の女の子も髪が長いのでポニーテールだった。
その日の夜ふと、夕飯を食べながら娘に「今日〇〇ちゃん(同級生)もいたんだね」と何気なく言ったら、娘は変な顔で「え?今日は〇〇〇(歳下の女の子)だけだよ」と返してきた。
なんだ見間違いか、と思った。何せ一瞬しか見ていない。
ーーー思い返せばあれからだ。娘の部屋の空気がやたらと重くなったのは。
元々娘は汚部屋気質で、床にも物を散乱させては定期的に私が雷を落としていた。
物を捨てることが好きではないのか、断捨離自体やりたがらない。
物を溜め込むせいか、娘の部屋に入ると無数の視線と気配を感じるようになっていた。
私は落ち着かないが、娘は視える気質ではないので気にならなかったのだろう。
でもそこまで重苦しい空気ではなかった。
今回の大きな断捨離で、オモチャ箱三つ分くらい手放した。
一つずつ丁寧に霊視までして、何か気配が宿っている物は徹底的に捨てた。
その中に混ざっていたあの下駄。
もしかしたら持ち主は、誰も認識していなかった、あの和服のような女の子だったのではないか……なんて今になって思う。
少なくとも歳下の女の子の守護霊が視えたとか、そんな感じではなかった。
でも確実に部屋を覗いた時、三人いた。ごく自然に遊んでいた。
どんな経緯でうちの中に入ったのか、私には分からない。
ただ現物として下駄が出てきたことに、正直驚きを隠せない。
娘には改めて、今後しっかり私物の管理を行い、定期的に断捨離すると約束させた。
そうすれば余計な念は宿らず、ずっと部屋の空気は綺麗なままだ。
コメント
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ああ、もう背筋がぞわぞわしました…。特に黒い下駄から地獄の断末魔が聞こえたっていう描写、本当に怖かったです。あと、一瞬だけ視界に入った和服の女の子が実は誰の友達でもなかったっていう伏線の回収の仕方、すごく巧いなと思いました。日常にひっそりと異質なものが混ざる感じ、ぞっとしますね。断捨離で部屋の空気がきれいになったラストは少しほっとしました。続き、めっちゃ気になります…!