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真夏の太陽がじりじりと照りつける中、元貴は自転車のペダルを漕いでいた。
風は生ぬるく、アスファルトからは陽炎が立ち上っている。目的地は、夏になるといつも通っている秘密の場所。
海に突き出た小さな岬の、さらに奥にある、誰も知らない入り江だ。
「元貴、遅いよ!」
入り江に着くと、涼架が、白いTシャツをひざまでまくり上げて、透き通った海の中に立っていた。
彼の白い肌が、太陽の光を浴びてきらきらと輝いている。
「ごめん、ちょっと道が混んでてさ」
嘘をつきながら元貴は自転車を停め、Tシャツを脱いで海に飛び込んだ。
水はひんやりと冷たく、火照った体に心地よい。
涼架が楽しそうに水をかけてくる。その飛沫が、虹色の光を放ちながら宙を舞う。
「ねぇ、この夏が終わったら、どうなるのかな」
涼架が、突然、真剣な顔で尋ねた。
「どうって?」
元貴は、涼架の言葉に胸が締め付けられるような気持ちになった。
涼架にとってこの夏は、元貴と同じくらい特別な時間だったのだろうか。
高校3年生になった涼架は外資系の商社に入るのが目標だと、東京の大学を受けて上京する予定になっていた。
二人がこんな風に無邪気に笑い合える夏は、これが最後になるのかもしれない。
「さあね。でも、この夏は、この夏だけだよ。だから、目一杯楽しもう」
あの夏祭りで覚えた感情。
元貴の中でもう答えは出ていた。
”りょうちゃんのことが好きだ”
「行かないで、そばにいて」
そう言いたくなるのを必死に抑え、元貴は精一杯の強がりを言って涼架にもう一度水をかけた。
涼架は、少し寂しそうな顔をしたが、すぐにいつもの屈託のない向日葵のような笑顔に戻った。
その夏のような明るくて優しい笑顔に、元貴の心が再び締め付けられる。
やがて太陽が少しずつ傾き始め、海面をオレンジ色に染めていく。
小さな入り江で、まるで世界に二人だけになったかのように、過ぎ去る夏を惜しむように、夢中で遊び続けた。