夏休みが終わりを告げ、新学期が始まった。
あっという間に季節が流れ、無事に東京の大学に合格した涼架は、上京し大学生活をスタートさせていた。
「離れてもちゃんと連絡は取りあおうね」と約束して
「東京の生活って大変そうだけど、のんびりしたりょうちゃんでも大丈夫なの?ちゃんとやれてる?」
「ちょっと、ひどいなぁ元貴。ちゃんとやってるよ?
居酒屋でアルバイトも始めたけど、今のところ怒られてはいないから・・・大丈夫だと思う・・・」
話しているうちに急に自信を無くしたのか、声が小さくなっていく涼架がかわいくて思わず笑ったら
「もうっ、何で笑うの!?」と怒られた。
最初はこんな風に、長い時間電話で話をしていた。
だが涼架は大学とアルバイト、元貴は大学受験の準備、と互いに忙しい日々を送る中で二人の連絡は少しずつ減っていった。
「レポートが大変なんだよね」
「俺はこの間のテスト最悪だったよ」
そんな日常の出来事を報告し合うだけのほんの数分の電話。
それでも元貴は、涼架の声を聞くだけで胸の奥が温かくなるのを感じた。
それから地元の大学を出た元貴は、そのまま地元に残って働き始めた。
涼架は東京で大学を卒業し、念願だった外資系の大手企業に就職して、出張で国内や海外を飛び回っているらしい。
たまに送られてくる”元気にしてる?”だけの短いメッセージ。
元々少なくなっていた連絡の頻度は、涼架が忙しすぎて時間が合わなくなったこということもあり、ほぼ無いに等しいほどの頻度に落ちていた。
大学で若井滉斗という、やっと親友と呼べるほどの友人ができた元貴は仕事に就いた後も一緒に遊んだり、飲みに行ったりとそれなりに充実した日々を送っていた。
親友ができて仕事も順調で充実しているはずなのに、元貴は心のどこかにぽっかりと穴が開いているような、ふいに泣きたくなるような感情を覚えることが多くなった。
そんな毎日を送っていたある日、元貴は会社の帰り道、駅のホームで人混みに紛れた後ろ姿を見つけた。
スーツを着こなし、少し大人びた雰囲気をまとっている。しかし、その肩幅や背丈、にじみ出る優し気な雰囲気は間違いなく涼架のものだった。
どれだけ長い間離れていても、間違えるはずのないその姿。
「りょうちゃん…?」
声をかけると、その人物はゆっくりと振り返った。久しぶりに見る涼架の顔は、忙しさのためか少し疲れているように見えた。
涼架は少しの間視線をさまよわせ、困ったように眉を下げて微笑んだ。
「元貴…久しぶり」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!