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サメが悠然と泳ぐ、深い青に包まれた回廊。人影のないその場所で、遥は私を壁に押しつけたまま、逃げ場を塞ぐように両手を突いた。
「……紗南。兄貴、お前に触れただろ」
その瞳に宿っているのは、ガキっぽい意地っ張りな光じゃない。真っ直ぐに私だけを射抜く、ひりつくような独占欲。
「……そんなこと……」
「隠すなよ。顔見れば分かんだよ」
遥の顔が、心臓が跳ねるほど近くまで降りてくる。凌先輩の時は、どこか夢の中にいるような感覚だった。でも、目の前の遥から伝わってくるのは、圧倒的な現実の熱量だ。
「……俺、ずーっと紗南が好きだったから」
遥の声が、低く熱を帯びて響く。
「どんな紗南も見てきた。泣き虫なところも、ちょっとドジなところも……兄貴に夢中になって、たまに空回りしてたとこも。……全部、俺が一番近くで見てきたんだよ」
心臓が、痛いくらいに音を立てる。遥がこれまで、どんな想いで私の隣にいてくれたのか。その積み重ねてきた時間の重さが、言葉の一つひとつから溢れ出していた。
「……なんで、そんなに私のこと……」
視界がじわじわと滲んでくる。そんな私を、遥は逃がさないと言わんばかりに、さらに強く見つめた。
「理由なんてねーよ。……お前じゃなきゃ、ダメなんだ」
泣きそうになっている私の頬を、遥の手が強く包み込み、そのまま強引に上を向かせる。
「ずっと好き。これからも、ずっとそばにいたい」
言い切ると同時に、遥の唇が重なった。
それは驚くほど真っ直ぐで、凌先輩への嫉妬も、私への執着も、すべてをぶつけるような熱い、熱い口づけだった。