藍Side
 ‥出ない。さっきからずっと鳴らしているのに‥。
時刻は22時を過ぎている。寝てしまったのだろうか。それとも‥。
 
 
 「さっきから泣きそうな顔してるやん?どうしたん?」
 
 電話を諦め、部屋に戻るが‥それでも携帯が気になり画面を見つめる俺に対し、隣に座る塁が声を掛けてくる。
 
 「いや‥何でもない‥」
 「嘘つくん下手やねん、さっきから出たり入ったりしとるくせに、笑。電話かけてるんやろ?」
 今夜は塁との打ち合わせだった。打ち合わせの合間を見つけては部屋を出て、祐希さんの携帯を鳴らしていた。
 塁の言葉に少し考え、コクリと頷く。
 「向こうは寝てるだけやろ?大丈夫っ、また明日連絡来るって!」
 そう言いながら、頭をポンポンと撫でられる。
誰に掛けているのか‥そんな事は1つも聞くことはなかった。
 「そう‥やな、うん、ありがと‥」
 
 連絡が取れない不安の一つに、智さんの存在があったが‥心配してくれる塁にはとてもじゃないが言えるはずもなく‥。
それでも、隣で大丈夫と笑う顔に少しだけ元気づけられ、礼を伝える。
 
 不安が消えるわけではなかったが、何でもないと思い込みたかった。
 第一、智さんには小川さんがいる。裏切るはずはないと‥。
 
 
 
 しかし、
 
 結局この日、祐希さんから連絡が来ることはなかった。
鳴らない電話を見つめながら‥一晩を過ごした‥。
 
 
 
 
 
 
 
 早朝‥携帯が鳴った瞬間にハッと目が覚めた。連絡が来るかも‥と携帯を握りしめていたから‥
 相手は祐希さんだ。
 
 「もしもしっ、!?」
 「藍‥?ごめん‥朝早くから。寝てたよね?」
 「うん‥でも、全然大丈夫。寝たんもさっきやから‥」
 携帯越しの祐希さんの申し訳なさそうに話す声は、酷く枯れているような気がした。
 「祐希さん?‥‥どしたん?声、枯れてない?風邪引いたん?」
 「そう?ああ‥昨夜ちょっと呑んだからかな‥でも、大丈夫。それより、昨夜電話くれたのに出れなくてごめん、気付かなかった‥ 」
 
 「‥‥‥」
 
 迷惑になるかもと思いながらも‥何回も掛けてしまった電話。なのに気付かなかったなんて‥。
 
 「ええよ、寝てたんやない?」
 「ごめん、昨日は疲れてたから‥」
 
 
 
 
 「‥‥‥智さんも来てたのに早く寝たんすね?」
 「えっ‥?」
 
 思わずその名前を口にする。鈍い俺でも分かる。寝てたなんて嘘だ。
 
 「智さん、昨夜来たんでしょ?本人が言ってたから‥」
 
 「‥そか、智君が‥」
 
 「祐希さん‥なんで嘘‥つくん?昨夜、何してたん?」
 
 「何してたって、お酒呑んでただけだよ。ただ、それだけだから智君が来たって言う必要ないかと思って‥ごめん」
 
 「ほんまに‥それだけ?」
 
 「そうだよ、何?気になるの?」
 「‥気になるに決まってる。だって、智さんは‥」
 言いかけて途中で止めた。携帯の向こうから、祐希さんじゃない声が‥聞こえる。
気怠そうな少し上擦った声。
 まさか‥
 
 「えっ?もしかして‥智さん‥おるん?」
 
 「あっ‥‥」
 
 俺の問いに酷く慌てる声で、確信した。智さんが近くにいるんや‥
 
 『ん‥も‥あさ?‥ゆう‥き、まだ寝てようよ‥』
 微かに聞こえる声は確かに智さんだ。寝起き特有の気怠そうな声に甘えるような響きも感じられる。
 
 「智さんやん!なんでおるん?お酒呑んで‥2人で寝てたん!?」
 信じられない。まさか泊まっているなんて‥。それで一晩何もなかったなんて‥信じるやつがいるんだろうか。
 
 「藍‥昨日は遅かったから智君、泊まっただけだよ、」
 「!!なんで早く教えてくれないんすか?最初からそう言えばええのに‥」
 
 
 「言わなくてもいいかと思ったんだよ‥っていうか、言う必要ある?」
 智さんがいると言う事実に感情が高まり、興奮して喋る俺とは対照的に祐希さんの声は段々と冷たいものになっていく。
 
 言う必要ある?
 その言葉は悲しかった‥
 
 
 
 
 突き放されたような気持ちにさせられる。
 
 
 ジワリと視界が滲んだ。
 「‥昨夜、いっぱい‥電話した‥んは、智さんおるん‥知ってたから‥不安やったから‥聞いたら‥あかんの‥?なん‥で‥そんな‥冷たい‥ん?‥」
 
 途中からは声にならなかった。泣きたくなかったのに。だが、溢れる涙を抑えることは不可能だった。
 
 
 「藍‥?ごめん‥言い過ぎたっ、」
 
 
 泣いてるのが伝わったのか、祐希さんの声が慌てる。それと同時に、智さんが何かを話すのも微かにだが、聞こえる。
 
 『藍でしょ?俺と代わって‥』
 
 『えっ?いや、それは‥』
 『いいから‥俺の言う通りにして‥大丈夫』
 
 そんなやり取りの後に‥携帯から聞こえてきたのは‥
 
 智さんだった。
 
 
 「ごめん、藍‥早朝から電話してきたの?凄いね‥」
 
 「掛けてきたんは祐希さんなんやけど‥」
 「ああ‥そうなの?それは、ごめん」
 「そんなん、どうでもいいっす。それより、泊まるなんて聞いてない!どういうつもりなん?」
 
 「どういうつもりって‥えっ?俺、昨日、話したよね?聞いてなかった?」
 
 「‥確かめるって言ってたけど‥」
 「ねっ?ちゃんと伝えて行ったんだから、言われる必要なくね?」
 
 「言う、言わんやないでしょ!そもそも、祐希さんは俺と付き合ってるんやから‥」
 「だからなに?決めるのは祐希って言ったでしょ!」
 「なっ‥!!」
 強い口調に言葉に詰まる。どうして向こうが強気なのか。全く理解できない。
 少しでも智さんを信じようと思った自分自身にも腹が立ってくる。
 
 「智さんとは埒が明かん、祐希さんに代わって!」
 
 「同じ事、祐希にも聞くんだろ?一緒じゃん‥じゃあさ‥てっとり早く教えてあげるよ、昨日何があったのか‥」
 
 「えっ‥‥‥」
 
 ドクンと心臓が高鳴る。一番に聞きたかった事。
なのに‥
 
 何故だろう。
身体中が拒否反応を起こす。
 
 聞きたくない。
 
 だが‥智さんの言葉が無情にも発せられる。
 
 
 
 
 「藍が想像してる事をしたよ‥意味分かるよね?」
 
 
 少し勝ち誇ったような声に愕然とし、そのまま‥
 
 携帯はするりと手から滑り落ちていった。
 
 
 床に落ちた携帯から、
 
 『いやっ、ち‥‥』
 
 智さんじゃなく‥祐希さんの声が聞こえるが‥
 
 
 
 
 聞く気にはなれなかった‥。
 
 
 あんなにも握りしめて連絡を待っていた携帯を足で蹴飛ばすと‥そのままベッドへと潜り込む。
 
 
 その後、しばらく携帯が鳴り続けたが‥
 出る気になんてなれるわけがなかった。
 
 
 
 ひたすら、
 
 自分が惨めに思えた‥。
 
 
 
 自分にとって都合のいい勝手な解釈をしていただけなんだろうか‥
 
 
 
 
 胸が張り裂けそうに痛い。
 
 
 なのに‥
 
 
 それでも思ってしまう。
 
 
 
 祐希さんに‥
 
 
 愛される俺でいたかった。
 
 
 俺と同じ分だけ、
 
 
 
 愛して欲しかっただけなのに‥。
 
コメント
16件
藍くん〜! おがぴーはどこだ!
うん、ごめん藍ちゃん、流石に我慢出来ひん。智さんの場所教えて。 祐希さんもね。 あっ見つけた⭐️))走 藍ちゃんが可哀想に😢 藍ちゃん、傷つけたらはしごだがが行くからね? まぁ傷つかないことしなければよし☺️ 早く続きが見たいです…

らんらん辛いね、ゆうきくんちょっと酷いかも、、