テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
静まり返った組長室に、志摩の構える銃の撃鉄が上がる音が残酷に響いた。
俺の背後には中臣の私設部隊。
そして正面には、唯一信じた「相棒」であるはずの男。
「……志摩。あんた、中臣に買われたのか?」
俺は桐の箱を抱えたまま、低く問いかけた。
視界の端で、志摩の指先がわずかに震えているのが見える。
「……黒嵜、俺には守らなきゃならない『正義』があるんだ。その帳簿は、個人が復讐のために使うべきもんじゃない。警察の、しかるべき部署が管理すべきものだ」
「しかるべき部署だと?」
俺は吐き捨てるように笑った。
「その『しかるべき部署』が、中臣の犬だってことは、あんたが一番よく知ってるはずだろ!渡せば全部闇に葬られる。拓海の死も、親父の死も、全部な」
「それでもだ!法の外でお前が暴れれば、ただの殺戮で終わるんだぞ」
志摩の声は悲鳴に近かった。
だが、その背後に立つ私設部隊のリーダーが、志摩の肩に冷たく手を置いた。
「志摩刑事、御託はいい。さっさとその箱を回収しろ。さもなければ、あんたの家族がどうなるか……分かっているな?」
家族。
その言葉が出た瞬間、志摩の瞳から光が消えた。
そうか。
中臣の奴、志摩の弱みまで握ってやがったのか。
正義感の強い男ほど、身内の情には脆い。
「……悪いな、黒嵜」
志摩が引き金に指をかけた。
だが、俺の方が一瞬速かった。
俺は親父の椅子を力任せに蹴り飛ばし、志摩の視界を遮った。
同時に、床を転がりながら親父のドスを抜き放つ。
乾いた銃声が室内を切り裂き、椅子の背もたれに穴を開けた。
「撃て!全員殺せ!」
部下たちの怒号と共に、一斉射撃が始まる。
俺は重厚な親父のデスクの影に滑り込み、桐の箱の中身…
『真の裏帳簿』をジャケットの内側に叩き込んだ。
「志摩!あんたの正義が、家族を盾に取るような奴らに屈するなら、俺がその鎖ごと断ち切ってやるよ!」
俺はデスクの端に置かれていた、親父が愛用していた高級ライターに火をつけた。
狙うは、部屋の隅にあるスプリンクラーの制御盤だ。
裏切りの連鎖は、もはや止まらない。
ならば、このビルごと、すべての膿を焼き尽くすまでだ。
ドスの刃を噛み締め、俺は銃弾の雨の中へと再び躍り出た。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!