テラーノベル
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親父のライターから放たれた小さな火種が、スプリンクラーの制御盤を直撃した。
一瞬のショート。
バチバチと青白い火花が散り、直後、天井から冷たい水が豪雨のように降り注ぐ。
「……ッ、何をしやがる!」
中臣の部下たちが視界を奪われ、たじろいだ。
降り注ぐ水は、組長室の豪華なペルシャ絨毯を瞬く間に泥の色に変えていく。
「志摩!目を覚ませ!」
俺は水飛沫を切り裂き、志摩に向かって一直線に踏み込んだ。
志摩は反射的に銃口を向けたが、俺の殺気に気圧され、引き金を引く一瞬が遅れた。
俺は志摩の手首を掴み、そのまま壁に叩きつける。
銃が床に落ち、水溜りに没した。
「……黒嵜、逃げろと言ってるんだ!お前一人でどうにかできる相手じゃない!」
「一人じゃねえよ。俺の背中には、拓海と親父が張り付いてんだよ!」
俺は志摩の胸ぐらを掴み、その耳元で怒鳴りつけた。
「あんたの家族は、俺がなんとかしてやる。だから今は、その『正義』ってやつを一度捨てて、俺と一緒に地獄を這いずり回れ!」
志摩の瞳に、一瞬だけかつての鋭い光が戻った。
だが、猶予はない。
背後から私設部隊のサブマシンガンが火を噴いた。
「黒嵜!死ねえええええ!」
俺は志摩を抱えるようにして、親父の巨大なデスクの陰へ転がり込んだ。
分厚いマホガニーの板を銃弾が削り、木片が顔に刺さる。
「……志摩、無線を貸せ」
俺は志摩の腰から、警察用ではなく奴らが持たせていたであろう無線機を奪い取った。
チャンネルを合わせ、叫ぶ。
「山城!下にいる連中に伝えろ!今すぐこのビルを封鎖しろ!警察だろうが中臣の犬だろうが、一歩も通すんじゃねえ!」
無線から山城の困惑した声が返ってくる。
『兄貴……でも、警察が周りを固めて……』
「関係ねえ!榊原組の看板を守りてえなら、意地を見せろ! 俺が今から、この帳簿の中身を街中にバラ撒いてやる!」
俺はジャケットの中から『真の裏帳簿』を取り出し、高く掲げた。
これこそが、この国の闇を暴く唯一の爆弾だ。
「さあ、見世物の始まりだ」
俺は窓ガラスに向けて、親父のドスを力任せに投げつけた。
砕け散る強化ガラス。
新宿の夜景と、吹き込む雪風が、俺たちの戦場をさらなる混沌へと突き落とした。
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