(さて、暴走気味のこの子をどうやって止めるかだけど簡単なのは私の得意を押し付けるだけでいい。魔力量が上がったとはいえ使える魔法は恐らくそんなに多くはない。それに対して私は馬鹿にされていても妖精族の子供。扱える魔法は人間の子供よりも数は圧倒的に多い。だからそれを駆使して戦うだけで優位が取れる。大丈夫何も焦ることはない。)
「あんたのお仲間の一人をちょっと戦闘不能にしただけでそんな怒ることはないだろ?」
「分かってない……。お前は失う辛さを分かってない。」
「なに?」
「あくまでこれは模擬戦…。確かに命までは取らないかもしれない。でも、この後起こることは模擬戦じゃなくて実戦。本当に人が死ぬんだよ?ヘラヘラして覚悟のないあなたにはそのことの大きさが分かってないのね。」
「私が言うのもなんだけど子供が何を言ってるんだ?」
「……私は親に捨てられた。」
「!?」
「親に捨てられて奴隷商人の元で人とは思えない扱いを受けてきた。同じ境遇にあった子たちが居なくなるのを見てきた。……衰弱していく姿も、そして息を引き取った瞬間も私は見てきた。自分もそうなるのが怖くて私は隙を見て奴隷商人から逃げて運よく逃げた先で私を『人』として扱ってくれる人に出会えた。その人のおかげで今の私がここにいる。そんな大切な人が目の前で失われたら?模擬戦でも何でも守れた命がそこにあったのに守れなかったら?後悔なんて言葉一つで表せる感情があるの?」
「……。」
「私が今ここに立っていられるのはミナルお兄ちゃんがいたから、ルナベルおねえちゃんが居たから。恩人がやられて怒らない人なんて絶対いない。だから私は貴女に対して怒ってる。この大会の真意もあなたは聞いてるんじゃないの?アリサちゃんとミクナちゃんから。」
「……真意なんて知らない。私はただ、自分の力を誇示したかったんだ。無駄に過保護で、でも子供とは距離を置いてくる大人たちに自分たちの可能性を見せてやりたかったんだ。何より、里のためにずっと頑張ってる大妖精様の肩の荷を少しでも降ろしたいから私はここにいる。あんたもこっちの事情は知らないでしょ!」
「知らない。でも確かなのは私もこの里の人たちを守りたい。自分と同じ境遇にあってほしくない!だからこうして私は怒ってこの場に立ってる!あんたも本当に里を守りたい変えたいとかいう気持ちがあるなら大人ぶってないで子供らしく感情を表にさらけ出してよ!その感情が出せないなら私が引き出してあげる!」
「…何する気だ?」
「貴女の相棒を殺す。」
「!!」
「それで初めて覚悟が芽生えるなら私も非道になる。それくらい私はこの里を何とかしたいと思ってる。同時に貴方みたいな腑抜けなんかが里の代表であることを恥じてもらおうとも思ってる。いやなら、本気で戦ってよ!」
「……ガキがあんまり調子に乗るんじゃねぇぞ!!」
マリンの言葉に激情し彼女は自身の背から弓を構えマリンの額に狙いを定めて矢を放つ。
「私だってこんな里くそくらえって思ってるわよ!ひな鳥みたいにずっと扱ってくる大人たちばっかりで!!でも、それでも大人がどれだけクソでもこの里に非はない!それにそんな大人たちが嫌いだって言っておきてを破ってる私に気が付いてる大人だって何人かいるだろうに、それでも何も言わないで見守ってくるそんな奴らも私は大嫌いだ!里の掟も意味わかんないし嫌いだ!その全部をぶっ壊して私がこの里はイカレているって証明してやる!そのためにあんたをぶっ倒す!!」
「やっと子供らしい感情が聞けた。」
そういい飛んでくる矢を腰に巻いた鞭で叩き落とす。
「私にも守りたいものがあるようにあんたも守りたいものや叶えたい願いがある。私の今の願いはこの里を何とかしたいって願い。この願いは一緒のはず。でも、ルナベルおねえちゃんが言ってた。里の大人は頭が固いから言うことをすんなり聞くとは思えないって。この戦いに私たちが勝って里を変える。貴女もその気があるなら力を貸して!」
「私は私の力で里を変える変えて見せる!あんたら人間なんかに借りる力なんてない!!」
今度は矢に風の魔法を纏わせて貫通性を高め再びマリンに向けて放つ。
「模擬戦といえどあんたには怪我をしてもらう!」
「温室育ちのエルフさんとは潜ってきた修羅場の数が違うんだよ私は!!」
そう言い放ち再び飛んでくる矢を鞭で弾き落とす。そして今度はマリンが床に描いた魔方陣を起動させてトラップを起動させ相手を追いこんでいく。
「くっ!?この程度の魔法で私が何とかなるとでも思ってるの!?」
「私はまだこれくらいしか使えないけどそれでもあなたに勝てる自信がある!」
「私は妖精族なのよ!魔法の知識も質も威力だって桁違いなのよ!そんな私にこんなこざかしい罠だけで私が倒されると思ってる時点で甘ちゃんはどっちかわかるって話!!」
「別に私はこれしか使えないなんて言ってないよ?これくらいって言っただけで他にも手札は残ってる!」
瞬間妖精族の子供が地面に叩きつけられてそのまま身動きが取れなくなる。
「な、何よこれ!?体が動かない!!?金縛りや麻痺とは違うこの感じは…。」
「重力魔法グラビティだよ。鉛のように体が重くなって動きにくくなる魔法。妖精族と言えど子供だからこれがかけられてる状態じゃ満足に動けないでしょ?」
「くっ!それでも…片腕だけでも動くならまだ私は……。」
最後のあがきをしようしたが彼女の眼前にナイフが向けられる。
「この戦いの勝利条件は降参させるか相手に詰みの状態を押し付けるかの二択。今のこの状態は詰みになるでしょ?」
「……。」
「大丈夫、絶対里のみんなの考え方を変えるから。私だけじゃなくてルナベルおねえちゃんやミナルお兄ちゃん、そして大妖精様と一緒にね。」
こうして妖精族代表の少女二人は人間に敗れ、彼らの要望を聞くことになるのだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!