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襲い掛かってくるキラに対し、リリムを咄嗟に遠ざける。
「また幻花を頼む!!」
「え、えぇ…………!」
その瞬間、キルはニヤリと笑みを浮かべる。
「そうはさせない…………」
“水放銃魔法・水針”
シュン! と飛び出した鋭い水撃が、ヒノトに命中した途端、ヒノトは途端に凍り付く。
そして、全員が驚愕に声すら出ずに目を見開く。
「どうして……!? 氷魔法なんて誰も…………!」
「兄さんは……馬鹿だけど天才。本能で動いてるから」
その瞬間、キラの目付きが変わり、今まで全く魔力を込められなかった大剣に、雷魔力がバチバチと光る。
「兄さんが雷魔力を剣に溜めず、威力が落ちる代わりに物理だけで大剣を振るっているのは、“ニアの支援魔法” で自身に微弱な氷魔力が纏われているのを感じているから。相手のソードマンは、既にシールド越しでも兄さんの氷魔力の込められ剣に当たってしまった。その時点で、微弱な氷魔力は彼に感じられない程度に流れ込む。そこで、僕の放つ水放銃魔法が当たれば、“凍結” は完成する」
雷を纏った瞬間、キラは目を見開き、笑みが消え、獲物を真剣に狙う狩人のような目付きへと変わっていた。
氷状態の敵に対し、雷が当たると、“超伝導” という属性反応が起こり、相手の『物理攻撃防御耐性』を弱くさせる。
それは、キラの、破壊力が抜群な大剣の物理攻撃にズバ抜けて相性が良かった。
それを、キラは頭を使わずに行う。
「凍結した対象を目前にした時、兄さんの独善は更に進化する………… “獲物を狙う狼” へと…………!」
“水放銃魔法・水葬”
ゴォゴォゴォゴォ!!! と、リオンは咄嗟に、自分たちに向けて大量の水撃の雨を降らせる。
(グラムくんが全員にシールドを張っていてくれて助かった…………! シールドの割れてるヒノトくんにはダメージが入っちゃうけど、相手の攻撃をモロに喰らって戦闘不能になるよりかはマシだ…………)
その瞬間、三人のシールドはミィン……と音を立て、猪突猛進に突っ込んできたキラは、ヒノトの眼前で凍り付いた。
「わああ! キラさんも凍り付いちゃいましたよ!!」
前代未聞、前衛剣士二人が、揃って凍結されてしまう。
そして、リオンは豪雨の中でキルを睨む。
「キルロンド家長男、リオン様…………。ふふ、少し甘く見すぎていました……。まさか微弱に流れるニアの氷魔力を察知して、自傷ダメージを覚悟しながらも兄さんに水撃をぶつけることで、同じく凍結させるとはね……」
激しい水撃により、ヒノトの凍結は剥がれたが、リオンの攻撃を喰らって少しだけ吹き飛んだ。
「痛え……けど、助かった、リオン…………。あのままなら本当にやられてた…………」
ボン!!
そして、すかさず凍結したキラに襲い掛かる。
全員が同時に考えることは同じ。
“岩魔法・砲岩”
“水放銃魔法・水針”
“陽飛剣・魔力豪弾”
(倒すチャンスは今しかない ―――――― !)
“氷防御魔法・氷波陣”
“水放銃魔法・霞”
ズパン!!
大きな音と共に、キラから激しい衝撃波が放たれ、再びヒノトは吹き飛ばされてしまい、キラに向けられた魔法も全て掻き消されてしまった。
そして、キラは再びニヤリと笑いながら凍結が終わる。
「ナイスだ!! 我が弟、それにクラウドよ!!」
「クソッ……! クラウド・ウォーカー…………キャンディスくんの弟…………! キラくんは猪突猛進だけど、頭がキレる者が二人も控えてる…………! だからこそ、縦横無尽に彼が突っ込んでも対応できる、臨機応変さが彼らの本当の武器か…………!」
経験値が違う、シンプルな強さが違う。
(今のヒノトくんでは……キラくんには…………)
ボン!!
しかし、ヒノトは目を見開き、キラへ突っ込む。
「色々考えるの…………やめた」
「ガハハ!! いい速度だ!!」
しかし、ニアにより身体能力を上げられているキラには簡単に防がれてしまう。
そしてそのまま、シンプルな力の差で、再びヒノトは吹き飛ばされる。
「これじゃ……魔族と戦った時の二の舞だ…………」
リオンは、打つ手無しと脳が判断してしまい、露骨に苦い顔を浮かべる。
グラムも、再びヒノトに岩シールドを張るが、簡単に壊されることを考え、汗を滴らせる。
リリムの闇魔法には、やはりそれぞれに代償がある為、自分たちより格上相手には、頭が追い付かなかった。
ボン!!
しかしヒノトは、考えることを放棄して飛び出す。
ドォン!!
そして再び吹き飛ばされ、
ボン!!
再び、ヒノトはキラに向かって飛び掛かる。
「勝負あったね。あとは兄さんだけで勝てる……」
ヒノトはボロボロになりながらも立ち上がり、満身創痍な中で剣を構える。
「ヒノト…………もう無理だよ…………」
リリムは、ヒノトに届かない声量で、小さく呟く。
ボン!!
「流石に、笑えんぞ、お前。もう終わりにしよう」
“雷狼剣・牙突”
キラは大剣を地面にゴトっと落とすと、バチバチと剣を光らせ、雷魔力を溜める。
向かってくるヒノトに合わせ、
「さらばだ、弱者よ……!!」
「あー………… 魔法、邪魔」
ズォ…………
その瞬間、ヒノトの影からは悍ましく黒々しい陰がキラを包み込み、直後、キラに付与されていた氷魔力、シールド、自身の溜めていた雷魔力、全てが消え去った。
“陽飛剣・魔力豪弾”
ボォン!!
そして、生身のキラに、魔力暴発を直撃させると、キラは壁まで思い切り吹き飛ばされ、大きな音を立てた。
「今…………何が起こって…………」
その直後、ヒノトもバタリと倒れる。
両者、前衛剣士二人、同時に気絶してしまった。
「お、おい、貴様ら!! 今何をしたんだ!!」
声を荒げ、怒りながらキルはリリムたちに近寄る。
「僕たちも……何が起きたのか…………」
「私……分かるかも知れない…………」
そんな、全員が困惑する中で、試合の決着も未だ付いていない状態で、リリムは呟く。
「ヒノトなら大丈夫って思っていたけど…………闇魔法を使う代償…………だと思う…………」
「闇魔法の代償だと…………?」
「はい……。闇魔法は、魔力を吸ったり、ダメージを落としたり、仲間にマイナスの要素を加える力が働く……。でもそれを繰り返しすぎると、たまに、仲間の理性を奪って魔族のような思考に陥れるまでになることがある……って言われたことがあります…………」
「魔族のような思考…………? だが、思考が変わったからと言って、彼は闇魔法は扱えないだろう!?」
「そうなんです…………! 普段のヒノトなら絶対に有り得ないけど、意識が朦朧としていたし、少し前に言われたことを思い出して怖くなりました……。かと言って、ヒノトには闇魔法は扱えないし、あの力がなんなのか、までは私にも…………」
そんな中、MCも慌てて駆け寄る。
「試合はどうされますか?」
全員が黙りこくる中で、キルが手を挙げる。
「ブレイバーゲームのルール上、前衛の剣士がやられても僕たちが残っていれば未だ試合は続行される。だが、彼らは僕たちのキーマン。彼らがいなくして勝利を収めたとして、それは互いに、勝利と言えるだろうか?」
「恐らく……君のチームのキラくんも、ヒノトくんも、絶対に納得はしないだろうね…………」
「両者敗退…………現状、それが正しいと考えている」
涙ぐむキルに、三人は真っ直ぐな目線を送る。
キルも、勝ち上がりたい気持ちは同じな中で、自分たちのリーダーの意思を汲む為に、この提案をしているのだと。
「僕も…………それに賛成だ…………」
互いの副リーダーが共に棄権という形で、MCからは、両者同時敗北としてアナウンスが鳴り響いた。
それでも、いい戦いだったと、歓声は響くが、両パーティ共に、苦い顔を隠すことはできなかった。
気絶から回復したヒノトは、全員に「ありがとう」と一言伝えて、一筋だけ涙を流した。