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翌日。
私はカフェで、友人の|千田望央《ちだみお》に昨日の出来事を報告していた。
「で、玄関で靴を揃えすぎてた」
「揃え“すぎ”?」
「角度がさ、
“これから写真撮ります”みたいな」
望央はアイスラテを一口飲み、
無言で私を見た。
「……あんたさ」
「なに」
「それ、人?」
「人。
たぶん」
「会話は?」
「成立する」
「感情は?」
「最適」
「腹立つ?」
「立たない」
「……怖」
望央は即座に言い切った。
「ていうかさ」
彼女は身を乗り出した。
「それ、夫じゃなくて
最新型空気清浄機じゃない?」
「ちょっと」
「だって
・部屋の空気読んで
・不機嫌検知して
・自動対応で
・音もしないんでしょ」
「音はする」
「どんな?」
「“承知しました”」
「ほぼ無音じゃん」
私はスプーンでケーキをつつきながら言った。
「でも楽だよ。
こっちが気を遣わなくていい」
「それ、最高じゃん」
「でしょ」
「……で?」
望央は首を傾げた。
「あんたは、いつ気を遣うの?」
「……」
私はケーキをもう一口食べた。
「いまじゃない」
「ちなみに」
望央は追撃してくる。
「嫉妬とかするの?」
「する」
「え、するの?」
「するけど、
不快にならないレベル」
「何それ、
量り売り?」
望央は急に笑い出した。
「ねえ、あんたさ」
「なに」
「それ、
夢の男じゃん」
「うん」
「夢ってさ」
彼女はストローをくるくる回しながら言った。
「起きる前提で見るもんじゃん」
「……やめてよ」
「やめない」
「まだ楽しいんだから」
「知ってる」
望央は即答した。
「顔、楽しい顔してるもん」
しばらく沈黙。
カフェのBGMが、
やけに現実的な音で流れていた。
「まあ、でもさ」
望央は立ち上がり、
伝票を持ちながら言った。
「壊れない男って、
ネタとしては最高だから」
「ネタ?」
「そのうち教えて」
「なにを」
「どこまで安全か」
彼女は笑って手を振った。
「報告、待ってる」
私は一人残されて、
スマホを見た。
ちょうど通知が来ていた。
《体調はいかがですか?
本日の水分摂取量、足りていますか》
「……家電だ」
そう呟きながら、
なぜか私は、
水を飲んだ。