配信者さとくんとリスナー兼恋人りぬくんのおはなし
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「なーなー、やっぱ同棲しない?」
「なんで?」
「毎日会えるから」
「毎日会ってたら、すぐに俺に飽きちゃうよ」
「飽きるわけないだろ」
「俺は飽きられない自信ないなぁ…、それに職場が遠くなるのも嫌だし」
「毎日車で送り迎えしてやるから」
「みんなのさとみくんに毎日送迎させてるなんてバレたら、俺クビになっちゃう」
割と職場にもリスナーさん多いんだよ、と言いながら、彼の骨ばった手を撫でる。
クビはさすがにないけど
さとみくんの恋人であることが知られてしまえば、嫌がらせは免れないだろう。
だけど、クビになっちゃう、という言葉を聞いた途端、さとみくんは目を輝かせた。
「クビになったら俺がりいぬのこと養うよ」
「えー?」
「なんなら今すぐ仕事辞めて、同棲してくれてもいいんだけど」
「やだよ」
「それでもしさとみくんに捨てられたら、俺ニートになっちゃうじゃん」
ピクリとさとみくんの肩が揺れ、腰に回っている手に力が入った。
あぁ、怒っているんだな。
なんて、冷静に考える。
冷静だけど、頭の片隅で、彼が怒ってくれることを嬉しく思う自分がいた。
「なんで別れることとか考えんの?」
さとみくんと知り合えて、告白されて、お付き合いして。
浮かれていた俺でも、「いつか」が来ることはちゃんと分かっているのだ。
「…さとみくんは魅力的な人だから、この先、俺よりずっと素敵な人とたくさん出会うよ」
「男性とか女性とか、もう気にする時代でもないと思うけどね、」
「それでもまだ、やっぱり世間の目は厳しいし」
「しかも俺、さとみくんに釣り合ってないし」
「いつか、俺じゃない人を選びたくなる日が来るんだから」
腰に回されている手を撫でながら、あやすように彼に語りかけた。
「その時に同棲なんかしてたら、”やめておけばよかった”ってお互い思うに決まってる」
綺麗な瞳が、何か言いたげにこちらを見つめている。
「中途半端に将来を約束するのは、自分の首を締めることになっちゃう」
だから、やめとこ。
そう言うと、さとみくんは不機嫌そうな顔で立ち上がり、今度は覆い被さるように俺を抱きしめた。
普段お喋りな彼が口をつぐんでしまったから、この話は終わり。
同棲したいと思ってくれるのは嬉しい。
俺と毎日会いたいと言ってくれるのも。
だけど結局、自分が傷つかないように防衛線を張っているだけの俺には、いずれ終わりが来るべきだ。
「いつか」が来ると信じて疑わない俺が、
さとみくんが俺では扱いきれないような執着心を抱いているなんて知る由もなく。
近い将来、正装した彼が俺の前に跪いて、
指輪を渡してくれる日が来るなんてどうして考えられようか。
Fin.
コメント
21件
初見なんですけどほんとにお話の書き方がすごくきれいというかなんというか素敵でだいすきです🥹 ぶくまとフォロー失礼します!!
ごめんなさい、違う方と勘違いをしていました🙇🏻💧 でもせいなさんの相変わらずの語彙力と国語力流石だと思いましたほんとにだいすきです😭💞💭
うううううちょうどいい感じに重くて好き