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妖精使役か。俺は使わない魔法だ。
前世の知識で知ってはいる。
妖精とは魔素を使用して生み出された疑似生物。
ある程度の自己判断能力があり、命令を与えて使役することが可能だ。
この自己判断能力が曲者なのだ。
この能力によって、こっちの命令を忠実に実行しなくなる。
自分勝手で幼稚な判断をしてしまう、なんて事が往々にして起こるのだ。
かつての俺の職場では、業務に妖精を使役する事を禁止していた。
それでも便利でローコストなので、妖精を使う奴は絶えなかった。
俺がいた職場でも、妖精の自己判断による現場操作によって、爆発事故が起こりかけた事がある。
別の部署では、水力式大型祈祷装置の破裂という重大事故が発生した事もあった。
だから俺は妖精を使わなかったし、信用もしていない。
なので妖精を使うというのは正直不安だ。
ただし他にもっといい代案なんてのは思いつかない。
仕方ないか、と思ったところで。
「大丈夫かニャ?」
俺ではなく、ミーニャさんから異議が入った。
「前にも妖精を偵察に飛ばした結果、魔物がこっちに押し寄せて来た事があったのニャ」
どうやらこの世界の、そしてクリスタさんが使役する妖精も、俺の知識にあるものと同様なもののようだ。
「ええ。ですが見つかっても、こちらへ敵がやってきても問題ありません。むしろ変異しているおそれがある穴の向こう側より、こちらで戦った方が安全でしょう。今の状況と穴の大きさから考えて、あの穴を通ってくる事が想定される敵は、スケルトンの上位種までです。その程度ならミーニャさんがいれば問題ないでしょうから」
確信犯だったか、クリスタさん。
そしてミーニャさんは、憮然とした表情だ。
「私でもスケルトンが20体を超えると面倒なのニャ。そもそも猫獣人は持続力が無いのニャ」
「ゴブリン掃討戦の時よりは、ずっと楽だと思います」
「あれはもう勘弁なのニャ。40体以上倒した後に、ゴブリンジェネラルとタイマンなんて、二度とやりたくニャいのニャ」
何かとんでもない魔物の名前が出た気がする。
それでもミーニャさんの戦闘能力がとんでもレベルだとわかっているので、突っ込まない。
「今回はジョンさんがいるから、もっと楽でしょう。ある程度距離を置いて、穴から出てきた敵を片っ端から弓で倒して貰えば、ミーニャさん一人で戦うよりは、ずっとましな筈です」
そういう作戦だったわけか。それなら俺も納得だ。
ミーニャさんは、ふうっとため息をついた。
「クリスタと組むと、往々にしてこういった無茶ぶりをされるのニャ。ジョンは気張らず、出来る範囲でやってくれればいいのニャ。弓での魔物減らしを頼むのニャ」
それならばだ。
「何なら俺が雷撃魔法を連射しましょうか。60m位なら、スケルトンでも倒せますけれど」
「エイダンは魔法を温存するべきなのニャ」
クリスタさんではなく、ミーニャさんから反対意見が出た。
「雷撃魔法はアンデッドを含む闇属性に特効があるのニャ。そして穴の先には何がいるかわからないのニャ。だからエイダンには、可能な限り強力な雷撃魔法が撃てるよう、魔力をセーブしておいて欲しいのニャ」
今の状況を考えると、正しい意見だろう。
「わかりました」
「という事で、おにぎりの追加が欲しいのニャ。甘い方と塩味の方、両方希望なのニャ」
最初におにぎりは10個出した。
そして俺、クリスタさん、ジョンは2個ずつ食べた。
それで充分お腹が膨れる程度には、大きくしっかり握ってあった筈だ。
そして皿におにぎりは残っていない。
つまり、2個で充分腹が膨れるおにぎりを、ミーニャさんは4個食べている事になる。
ただ、今までの経験でミーニャさんの胃袋の大きさは、充分わかっている。
俺達の3倍くらいなら、許容範囲だろう。
「わかりました。ただしこれは間食なので、1個ずつまでです」
「ありがとニャ」
◇◇◇
しっかり休憩した後。
50m先に穴が見える場所まで移動して、そこで魔物を待ち構える。
偵察にある程度時間がかかるそうなので、テーブルセットの椅子だけを出して並べておいた。
横並びに座っているが、ジョンは弓を左手に持ち、ミーニャさんは今度は、手が届く範囲に斧二丁を置いている。
「10m先、あの岩の出っ張りから先はジョンに任せるのニャ。混戦になった際は、私を気にせず矢を射って欲しいのニャ。後ろから来る程度の矢なら避けられるから、気にする必要は無いのニャ」
大丈夫なのだろうか、そう思ったらクリスタさんが頷いた。
「ミーニャなら心配いりません。狙って撃っても大丈夫です」
「流石にジョンに狙われると厳しいのニャ。速射が出来るから、5射目くらいで逃げ場がなくなるのニャ」
どうやら問題無さそうだ。
「それでは妖精を飛ばします」
クリスタさんの手元に魔力が発生した。
不可視属性をかけているようで目には見えない。
しかし魔力探知で、1体ではなく3体ほど発生させたのがわかる。
3体の魔力はゆっくりと穴の方へ進んでいき、そして穴の先へと消えた。
「妖精を送り込みました。上手くいけば時間差で戻ってきて、こちらに状況を報告する筈です」
「それでは臨戦態勢で待つのニャ。臨戦態勢と言っても、疲れたらまずいのニャ。この距離があれば、1秒くらいは準備にかけて大丈夫なのニャ。だから座ったまま、弓を手元に置いて、矢は矢筒の中に入れたままでいいのニャ」
「わかりました」
ミーニャさん、実戦的だし、随時出てくる説明も親切だ。
ジョンには勉強になるだろうなと思いつつ、俺は坑道の先にある穴を、目と魔力探知で警戒し続ける。
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