新人応援大会当日……。大会開催地に予定よりも早く到着しエントリーを済ます。その後、あとから来たアキトと合流しちょっとした世間話をして緊張を紛らわす。
「ふぁぁ~あ。ねみぃ…。」
「おい、当事者が何あくびしとる。」
「朝からは眠いっての。」
「緊張はしてないようだな?」
「いーや?めっちゃ緊張してますが?」
「あくびしてる人間が何を言う。」
「実は昨日ユウナと座学をしまして、そのあと個人的に装備の案をいくつか練ってね。で、睡眠時間が少ないわけですよ。」
「で?出来上がった複数の案は採用されたのか?」
「まぁ、採用したのもあるしないなったのもある。」
「ちなみに大会ルールは把握して、そのうえでの装備案をだしたんだよな?」
「トーナメントでしょ?安心なさいな。」
「いや、トーナメントだけどそのほかのルールに試合ごとの装備変更は今回は無しって書いてるやん。」
「……。え?」
「把握してないじゃんお前さん。」
「うっそだろ!?」
「確認はしっかりしような?」
「エントリー済ませてきちまったよ……。」
「登録した装備は何にしたんだ?」
「昨日の話を得て、近接に寄せた装備だね。覚醒なしで出せるスピードの限界に挑戦しつつ、得意の近距離のレンジに入り込めるように射撃はサブマシンガンを持たせた。欠点は長期戦には向かない装備にしたことかな。」
「使う武器は直剣とサブマシンガンの二種類だけか?」
「あとは、ハンドガン二丁を太もものガンホルダーにしまってるくらいだな。」
「あまりにも近距離に特化させてるな。」
「けど、確か今大会はマップ固定で『シティ』マップのはずだから遮蔽がそこそこあって「虚」を突きやすいから、あながちこの装備は間違ってないはず。」
「まぁ、そうなんだがリナが前使った試作型カノン砲(極太ビーム兵器)を使ってくる戦姫がゼロとは限らない。あれを使われたらさすがに……。」
「その対策もしてるって。例の件でビームを弾く武器を使ってきたやつがいてね。そいつの武器を参考にさせてもらってカナに持たせた直剣もその対ビーム兵器のコーティングをしてる。まぁ、カノン砲はさすがにしんどいけどほかの兵装ならこの剣で事足りるはず。」
「どーだかな。けども、聞いてる限りじゃまだマシな装備で登録してて安心したよ。」
「そうだな。ほかの候補は試験的なものが多いからさ。」
「聞きたくはないが、例えば?」
「射撃特化とか汎用性を求めた装備とか、あとはファンネルを使った近距離装備に機動力に全振りした格闘スタイルとか。」
「うん。やっぱりその兵装で登録して正解だな。」
「……お?意外と緊張はしてないみたいで安心したよ。」
声のした方を振り向くといつか見たスーツを着たミカゲが立っていた。
「ミカゲ……。」
「おはようリナ君に……お友達かな?」
「例の件に参加してるんだよなぁ俺。」
「ふむ……。となると君がアキト君か。あの件に関してはごめんね。リナ君も巻き込んじゃってさ。」
「結果としてあんたの企業は大打撃を受けてるだろ?俺としてはそれですっきりしてるからいいけどね。」
「うんうん。うちの会社はいますごい勢いで下に評価が落ちてるけど僕としてはうれしいかな。」
「はぁ?」
「あの会社は短期間で大きく成長した会社だ。ゆえに天狗になっていたからね。今回の件で失速したからいいお灸だと僕は思ってるよ。」
「……。やっぱりあなたの考えてることは理解できない。自分の会社が危機的状況なのにあなたは何も焦っていない。何か別の目的でもあるんですか?」
「それは内緒さ。あまりプライベートのことは聞いちゃいけないよ?」
「なら、今回のこの大会については聞いても問題はないよな?」
「僕に答えられる範囲でならね?」
「昨日こいつから連絡があって、客として来てるんだがその連絡の中であんたが送り込む刺客について聞いててな。その刺客があんたの後輩らしいが、本当にそいつは初心者か?」
「あぁ、そんなことか。大丈夫安心して。僕が送り込んだ後輩は正真正銘初心者だよ。『戦姫大戦』はね?」
「その言い方だと別枠では初心者じゃないようだが?」
「そうだね。一応僕の後輩って話した通り会社の人間でその子の役職は開発部門の子なんだ。だから、戦姫大戦をプレイヤーとしてやるのは初心者だが、開発部門と話した通り戦姫の武装とかにはかなり詳しい。いわゆる情報キャラみたいなものだと思ってくれて構わないよ。」
「なるほどな。敵の発言だからあまり信用はできないけどな?」
「信じるかどうかは君たち次第だから僕はこれ以上のことはできないさ。それより、もうすぐ時間だよ?リナ君は早くいったほうがいいんじゃないかな?」
「あぁ、わかってるよ。」
「それじゃあアキト君は僕と一緒に観戦しようか。」
「なんで俺がお前なんかと……。」
「まぁまぁ……。これも何かの縁だ。仲良くしようじゃないか。」
「ちっ……。」
大会開始五分前、リナはステージ裏に案内され壇上に上がるのを待機している。表では大会運営が盛り上げてくれており会場はそこそこ熱を帯びてきていた。そんな中裏では冷静に周囲の環境を確認するリナ。辺りを見ると参加者は自分含め八人。一回戦を超えればもう準決勝。やはり小さな大会だから人数は少ないが、その分簡単に開催ができるため集客も楽なんだろう。そして参加者も若い人が多くみられる。大体18~24歳くらいの男女がいるがみなどことなく顔つきは険しく、本当に初めての大会なんだと実感させられる。対する僕はそんな人に囲まれて一周して緊張はしてない。自分より怖がっている人を見ると怖くなくなるように自分よりもみんな緊張しているからそんなに緊張はしなくなっていた。同じ現象になってるのか僕以外にもう一人落ち着いてる選手がいた。
パッと見た感じ身長は158cmくらいの女の子でなぜか白衣を着てるが明らかにサイズはあっていない為ダルっとしているせいで萌え袖みたくなっており、極めつけは丸眼鏡で黒髪ロングといういかにもな人物。この人だけほかの参加者の中で浮いている。恐らく……。いや、ほぼ確実にこいつがミカゲさんの話していた開発部門の後輩だろう。誰がミカゲさんの送り込んだ刺客か分からないという緊張感があるかと思えば拍子抜けではある。しかし、こんな見た目で彼女はおどおどはしておらず冷静に戦況を見ているようだ。
(多分あいつがミカゲさんの後輩で送り込まれた刺客だ。気をつけろよ?)
(大丈夫よ。あんな明らかな奴なんかに私が負けると?)
(だが、あの堂々たる姿勢……。確実に強者の雰囲気があるぞ?)
(ま、まさかぁ?)
(人は見かけによらない。この言葉を彼女は体現しているんだ。)
(そういわれたらそうな気がしてきたじゃん。)
(モールの時以上に気を引き締めろ?今回は覚醒は使えないからな。)
(了解。あんたのその勘信じてるから)
ふたりはこそこそとそんな話をして彼女を『敵』として認識する。
一方で、白衣を着た女性はというとリナの予想通り確かにミカゲも後輩だが、リナ視点だと堂々としているように見えてるが実際は……。
(ふぅ……。ふぅ……。落ち着け私。今日が初陣にして初めての外でのお仕事。最初で転んだらこの先全部転ぶんだ……。実際いつもの研究室で資料をばらまいたり、取り違いしたり、挙句報告書をコーヒーでお釈迦にしたり……。やらかしの連続なんだけど不幸中の幸いはその開発部門のトップ『オダマキ』さんがすごく寛容な人でクビにならないでいる。それに、元の配属先であった情報部の先輩で私の教育係を務めていた『ミカゲ』さんの推薦で開発部に行けたし、今回のお仕事もいただけたんだ。何か一つでも成果出せないと会社に泥を塗ることになる……。それ以上にお二人にご迷惑を……。それだけは絶対いけない!私はここで頑張らないと!
それはそうとして、すごいこっち見てくるあの子の眼光が鋭いよぉ……。
やっぱり戦姫大戦は怖いですミカゲさぁぁん;;
外面はキリっとしてればいいなんて言ってましたけど、怖いものは怖いんですぅ;;)
彼女は内心ビクビクしていた。が、もちろん二人はそんなことつゆ知らず彼女に対して投闘志を燃やし大会運営の指示のもと壇上に向かっていた。