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《神話を超える双星の勇者》
第一話:「神の加護と呪い」
世界は、神々の手によって創られた。
人々は神に祈り、神の恩恵に感謝し、そして神話に従って生きてきた。だが、その神話は一つの運命を示していた。
「双星の勇者現れし時、世界は繁栄の未来を掴むか、滅びの淵へと堕ちるだろう。」
それは希望であり、同時に恐怖を孕んだ預言だった。
「カイ、リナ、こっちへおいで」
森の奥深くにある小さな村。木々のざわめきと小川のせせらぎが響く中、少年と少女は駆け寄ってきた。
兄のカイは、真剣な眼差しで剣を握りしめていた。幼いながらも、その瞳は強い決意を秘めている。
妹のリナは、兄の背中を追いかけるように走ってきた。華奢な体に少し大きすぎる木の剣を持って、無邪気な笑顔を浮かべていた。
二人は双子だった。
「今日は、どっちが先に木を切り倒せるか勝負だ!」
「えっ、また勝負するの?カイ、いつも勝つくせに!」
リナは口を尖らせながらも、兄の言葉に逆らえない。負けると分かっていても、兄の背中を追いかけるのが彼女の日常だった。
だが、その勝負の結果は、いつも決まっていた。
「やっぱり…僕は勝てないよね」
リナは、切り倒せない木の前で俯いた。
それを見たカイは、申し訳なさそうに微笑んだ。
「リナは頑張ってるよ。少しずつ強くなってる。だから、負けるなんて思うなよ」
兄の言葉は優しかった。でも、リナは知っていた。兄がどれほど自分を気遣ってくれているか。それでも、勝てない現実が胸を刺してくる。
カイは神に選ばれた存在だった。
彼は、生まれた時から「戦の神」の加護を受け、剣の才に恵まれていた。
誰よりも早く、誰よりも強く、まるで生まれながらにして最強の戦士だった。
一方のリナは、何の加護も授かっていない。ただの人間だった。
「僕も…強くなれるかな?」
その問いに、カイは優しく微笑む。
「絶対になれる。努力すれば、絶対に」
その夜、村に神官が訪れた。神託を告げるためだ。
静寂の中、神官は村人たちの前に立ち、重々しい声で語った。
「神の御告げがあった。アストリアの双子、そのうち片方はこの世界を救い、もう片方は滅ぼすと——」
空気が凍りつく。
村人たちは一斉にカイとリナに視線を向けた。
「救いの光は兄に、滅びの影は妹に宿る」
その言葉が、リナの胸に深く突き刺さった。
滅びの影。
それが自分なのか——?
村人たちの目は、もはやリナをただの少女として見てはいなかった。
彼女は「災いの子」として、恐れと嫌悪の対象となりつつあった。
夜。
リナは一人、月明かりの下で座り込んでいた。
「滅びの影…私が、兄さんの邪魔になるのかな」
涙が溢れた。
努力しても報われない。誰よりも兄を信じ、憧れていたのに、自分は兄の足を引っ張る存在だと言われた。
——もし、自分がいなくなれば。
——兄はもっと輝けるのだろうか。
そんな考えが、リナの胸を締めつける。
「バカなこと考えるなよ」
不意に聞こえた声に、リナは顔を上げた。
そこには、カイが立っていた。
「ずっと探してた。お前がどんな顔して悩んでるのか、すぐにわかったよ」
リナは俯き、呟く。
「私…邪魔だよね。兄さんに迷惑をかけるだけ…だから——」
「バカ言うな!」
カイはリナを抱きしめた。
その腕は、強く、優しかった。
「俺は、お前と一緒に世界を救いたい。どんな運命でも、お前と戦いたいんだ」
リナは涙を流しながら、兄の胸に顔を埋める。
「…ありがとう、兄さん。でも、私、努力する。私も…兄さんと一緒に戦えるようになるから!」
カイは微笑み、頷いた。
「それでこそ、俺の妹だ」
次の日。
二人は村を出ることを決意する。神託に縛られず、自らの力で未来を切り拓くために。
「俺たちで神託なんてぶっ壊してやろうぜ」
「うん!兄さんとなら、どんな未来だって変えられる!」
二人は剣を手に、未来へと歩き出す。
その背中は、誰よりも強く、そして確かに輝いていた。
——彼らの旅が、世界を変えることになるとは、この時まだ誰も知らない。
第一話・完