ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。廃村襲撃の戦果は上々。『闇鴉』の構成員を抹殺して大半の海賊も討伐。更に海賊船を無傷で確保しました。
残念ながら『闇鴉』会長の所在は分かりませんでしたが、代わりに『海の大蛇』船長のエレノアさんと数人の船員を暁に加えることが出来ました。それだけでもお釣りがきます。
エレノアさんの海賊らしい姉御肌な性格とダイナマイツなお胸が眩しいです。パーフェクト。日焼けを知らないような真っ白な肌は、体質との事。エクセレント。
さて、教会に戻った私達は早速行動を開始します。懸案だった船も確保して『海の大蛇』も事実上壊滅したので、これを手土産に『海狼の牙』との接触を模索する必要があります。そこで先ずは『海の大蛇』が壊滅したことを大々的に宣伝することになりました。我々の知名度を上げて彼方からの接触があれば上出来、そうでなくても暁の名を広めるメリットもあります。
「どうやって宣伝するんだ?」
ベルの疑問も尤もです。
「地道にいくのも悪くはないですが、ここはインパクトの強いやり方でいきます」
「何すんだ?」
「『海の大蛇』の海賊船で港に直接乗り込んで、私達が討伐して傘下に入れた事を知らしめるのです」
「そりゃまた大胆な」
「度胆を抜かれるでしょうね。良い宣伝になります」
シスターも賛成してくれました。
「と言うわけでエレノアさん、初仕事ですよ」
私が声をかけると、部屋の隅に居た青髪の美人さんが遠慮がちに此方を向きます。
そんな隅に居なくても良いんですよ?
「港に船を回すくらいはできるけど、根本的に乗組員足りないよ。補充は面倒見てくれるんだろうね…?」
恐る恐ると言った感じに提案してきます。ううむ、なんだろう。強気な女性が弱々しくしてる姿を見ると、いけない扉が開きそうな気がします。
「開かなくて良いです、シャーリィ」
シスターから注意されました。私は良い娘なので素直に従います。というか、シスターはエスパーさんですか?
「問題ありません、資金等は全て出します」
「おっ、おう……それと、良いのかい…?私は生きてるんだよ…?『海狼の牙』の連中が納得するかね…?」
「何故です?『海の大蛇』はもう居ない。つまり、『海の大蛇』から商船が襲われる心配もない。その事実だけで充分では?」
「合理的だが、それに感情って奴が付きまとうのさ、お嬢。散々邪魔された海賊の船長が生きてるなんてなったら、納得しねぇのが普通だよ」
なるほど。
「でもダメです。エレノアさん達は私の大切なものにしたんです。誰だろうが手を出すことは許しません。納得していただきます。手を出すなら敵です」
当たり前ですよね。簡単な論理です。
「お嬢らしいっちゃらしいが…」
「それがシャーリィです」
「お、おう……そこまで言われちゃ嬉しいけどよぉ…」
「エレノアさん達は暁に加わり、『海の大蛇』は壊滅。私達は『海狼の牙』と揉めるつもりもない。互いの利害は一致する筈です」
「子供の我が儘だな…あ、子供だったわ。お嬢を見てると感覚が狂うな」
失礼な、まだ十四歳ですよ。
「なんでそこまで私らを買うんだい?船や船乗りが欲しいなら、金さえあれば幾らでも手に入るだろう?」
エレノアさんが疑問を投げ掛けてきます。え?だって。
「エレノアさんが欲しいと私が感じたからですよ?」
「へ?」
「諦めな、エレノア。これがお嬢だ。普段は理屈ばっかりの癖に、こう言う時感情を最優先にするんだよ」
「そりゃまた…ははは、随分なお嬢さんに気に入られちまったねぇ」
苦笑いをしてます。何かおかしいこと言ったかな?
「お嬢様の庇護下に入るか死ぬか、それだけです。簡単な論理ですな」
セレスティンも肯定してくれます。
「ははは、分かったよ。改めてエレノアだ。部下共々よろしく頼むよ。後悔はさせねぇさ、シャーリィちゃん」
「シャーリィちゃんかよ」
「あっ、悪かったかい…?」
「呼び方なんてご自由にどうぞ。皆さんから見れば私は子供なので」
そう言って私はエレノアさんと固い握手を結ぶのでした。
翌日、私達は廃村付近に残してきた海賊船に乗り込みました。人員は文字通り必要最低限、なんとか動かせる程度です。
「んじゃ、いくよ!帆を張れっ!錨上げろ!出港だーっ!」
その号令に従い船乗り達が慌ただしく甲板を行き交い、マストには大きな帆が広がりました。それと同時に船が動き始めて、潮風が私達を撫でます。
「気持ちが良いですね、エレノアさん」
「ああ、幸先が良いよ。追い風だ。この調子なら夜には着きそうだね」
舵を操作しながらエレノアさんが教えてくれます。海の上は気持ちいいですね。
「こいつも中々の速さだが、ライデン社で蒸気船って奴を開発してるみたいじゃないか。船も変わるのかねぇ」
蒸気機関と言う燃料を燃焼させて蒸気でタービンを回す機械の噂は私も聞いたことがあります。それを船に積み込み専用の改造を施せば船の速度や大きさは飛躍的な発展を遂げるのだとか。つまり、技術革新です。燃料の調達などの問題がありますが、それでも魅力的に感じます。帝国ではまだ帆船が主流なのですから。
「是非とも欲しいですね、蒸気船。海軍でも採用していないみたいですし」
「なら手に入れておくれよ、シャーリィちゃん。苦労に見合った働きはするからさ」
「もちろんです」
「ただ、いきなり手に入れるのは無理だろうからね。私の船はそんなに多くない。せめて、フリゲートくらいの大きさは欲しいところさ」
「フリゲート、海軍の軍艦ですか」
「ああ、なかなか難しいだろうけど積み込める量が違うし性能も段違いだからね」
「分かりました。先ずはより大きな船を。最終的には蒸気船を手に入れられるようにしなければいけませんね。となると、ライデン社との繋がりも作らないといけない」
ドワーフのドルマンさんから繋がりを辿れるかな。画期的なものは全てライデン社製。あの会社とは深く密接な関係を作らなければなりません。最新技術を手に入れるためにもね。
まだ見ぬ道の新技術に期待を膨らませつつ、私達は束の間の船旅を楽しむのでした。
……ベルが酔ってましたけどね。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!