「人生を賭け事にするようでは勧められんな」
ダメなの?
恥ずかしいけど聖奈さんに頼るしかないのか……
「だが、どうしてもそうしたいのなら、結果を示せ。
それまでの休学なら認める。
もちろん学費もすべて自分で払いなさい」
これは…どーなの?
退学はダメってことか?
「結果って、例えば?」
「そうだな。社長とはリスクが付き物だ。これは雇われにはない。
じゃあ何故社長になりたがるのか。そこには色んな理由があると思う。
問題はリスクに対してのメリットだ。
リスクに見合った収入や地位、人脈が作れるのか。
それが結果だな」
「具体的な収入っていくらだよ?」
こんなの無理があるぞ……
「そうだな。せめて俺の倍だな。中小企業の社長ならそんなもんだろ」
「親父は月にいくら貰ってるんだ?」
初めて聞く親の収入。低くてもなんか嫌だけど、今だけは高くあって欲しくない。
「50万だ」
えっ?微妙なラインを突いてきたな。だが、この田舎で50万円なら胸を張れるな。やるな親父。
だが……
「それならすでに倍は貰っている。今カバンに100万円以上の現金もあるし、外には一括で買った車もある。
税金対策で会社名義だけどな。
流石に会社の内部情報は社長と言えど持ち出しづらいし、給与明細なんて簡単に偽造できるから意味ないしな。
これで証明したことになるか?」
俺は現金1,000,000円を親父に渡して外の車へと案内した。
部屋へと戻った親父は、ため息をついてテーブルに現金を置いた。
「儲けてるな……まさか、学生の内に収入が抜かれるとは思わなかったぞ…」
「お父さん!息子が社長なのよ!凄いじゃない!
という事は…お母さんは社長夫人ってこと?!」
お袋。後押ししてくれてありがとう。だけどな、社長夫人ではないぞ。
社長母だな。
お袋の盛り上がりを訂正していると、親父が考えを纏めたのか、話を続ける。
「わかった。好きにしなさい。だけど責任は自分で取るように。俺も母さんも一切援助はしないからな?」
それは勿論だよパパ。
「ありがとう。お金が出来たら大学費用は返すよ。
多分今年中には返せると思うけど、余裕を見て一年欲しい」
「それはいい。親が子にしたことを返せなんて恥ずかしいことは言わない。
だが、母さんと俺を温泉旅行に連れて行け。
いいな?」
これは親父が難しい話は終わりだって合図だ。
その合図に胸が熱くなったが、お袋がしっかりと冷ましてくれた……
「えー。温泉?だって聖は海外に仕事で良く行くんでしょ?
それならハワイ旅行くらい頼めるんじゃない?」
いや、構わんけど…お袋の社長像は怖くて知りたくないな……
「俺はどっちでもいいよ。二人で話し合って決めてくれ。
もちろん一度限りじゃない」
沢山迷惑と心配を掛けたんだから、これくらいの孝行はしないとな。
「デカく出たな!良し!母さん。とりあえず長い休みが取れるまでは温泉で我慢してくれ。
海外は定年後にゆっくり行かせてもらおう!」
「そうよね!聖を産んでいて良かったわ」
この親はもう放っておこう……
「この後も仕事があるから行くよ。お土産は食べてくれ。
また近いうちに帰る。温泉に行く日が決まったら連絡をくれな。こっちで段取りするから」
矢継ぎ早に告げ、実家を出る。
あっ。引っ越したの伝えてないな。まあ、またでいい。
俺は恐る恐る車を運転して会社へと向かった。
「ただいま。何とか許可は降りたよ」
そして、何とか事故らずに帰れたよ……
「よかった!聖くんが説得出来なかったら私が行くところだったよ」
だろうね。そして君なら説得しちゃうんだろうね。
「まあ、条件は出されたけどな」
「…どんな?」
なんか怖くない?
「旅行に連れて行けって。とりあえず国内の温泉旅行で、定年になったら海外旅行だとさ」
「なーんだ!そんなことなら簡単だね!じゃあ、私が用意すればいいね?」
「いや、俺の親のことなんだから俺がするよ」
流石にそれは任せすぎだ。
「でも聖くん。リサーチとか出来るの?」
「そ、それくらい、出来るっ」
「本当に?下手な所に連れて行ったら、また心配されるんじゃない?」
た、確かに……
「ねっ!任せて。得意な事は得意な人に。聖くんは聖くんにしか出来ないことをしてくれたら、私もミランちゃんも助かるの!」
仕方ない…出来ることをしよう。
「わかった。任せる。また日にちがわかれば連絡してくるから、その時に日にちを伝える」
「はーい。それじゃあ月が出るまでに準備しちゃお?」
「ああ」
俺たちは白砂糖やらなんやらを転移しやすい所へと運んだ。
今日は低い位置に月があるから下からは見えないので、2階の事務所へと移動する。
「じゃあ行くぞ?」
「うん!」
聖奈さんが抱きついてきたのを確認して、転移した。
やっぱ、抱きつくまでしなくてもいいよな?
転移した俺は聖奈さんを剥がしながら思った。が、声には出さなかった。
「それじゃあ並べておいてね。私はミランちゃんを連れてくるから」
「えっ?寝てるんじゃないか?深夜だぞ?」
そう言ったが聖奈さんは笑顔で退室して行った。
瓶を並べ終わる頃、部屋の扉が開いた。
「セイさん。おかえりなさい」
ミランだ。
「起きてたのか?」
「前回の手紙にこの時間に来るって書いてありましたから」
聖奈さんか……まあ、いい。
「そうか。疲れているだろうにわざわざすまんな」
「ごめんねミランちゃん。はい、これ。デザートだよ」
だから会社に行く前に、コンビニでデザートを買ってたんだな。
会社に冷蔵庫があるのを初めて知ったぞ。
「それと、私達明日からこっちに来るよ!」
デザートを貰って喜んでいた顔が、さらに笑顔になった。
「ホントですか!?早かったですね!」
「ほとんど予定が狂わなかったからね!でも来れるのは二、三日は一人ずつかな」
「そうですか…でも、嬉しいです!」
素直な子は見てて飽きないな。前より表情が豊かになったし。
「これは明日、運べるだけで良いから商人組合に持って行ってくれないかな?」
「もちろんです!」
「ありがとう。これは今の預り証ね。お金は怖いだろうから、私達のどっちかが来た時に受け取ることにするね」
俺以外でも受け取れるのか?
ガバガバか?異世界?
積もる話もあるが、時間が時間なので俺達はすぐに帰った。
翌日。マンションでいつも通り起こされた俺は、朝食を食べてから大学へと向かった。
「この道を通るのも、今日で最後かな?」
大学の駐車場は借りていないので、今日は電車だ。
大学の最寄り駅で降りた俺は、感慨深く道を行く。
しかし…この後、衝撃の事実を知ることになるとは……
「えっ?じゃあ、もう一度来ないと行けないんですか?」
学生課に出向いた俺は退学届を貰ったが、親のサインがいると知った。
聖奈さんはどうしたんだ!?
どうとでもしたんだろうな。
驚愕の事実を知った俺は、感慨深くなった気持ちを返せっ!と思いながら帰路についた。
「おーい!」
あれ?須藤か?
「よお。何してんだ?」
「何って退学の手続きに来たんだよ」
「遂にか…」
「悪いな」
何もこいつに悪いことをしていないが、何となくそういった。雰囲気だよ雰囲気。
「長濱さんから聖が大学にいるって連絡が来てな。
ところでお前は長濱さんと付き合っているのか?」
何で連絡してんの?
それに付き合ってるかは否定したろ!
「付き合ってねぇよ。俺みたいな奴と長濱さんが付き合うわけないって、前にも言ったろ?」
「そうだけど…見た奴がいるんだよ。
そいつ曰く、長濱さんと仲良さそうに買い物をしているお前をな」
誰だよそのストーカー……
「買い物くらい友達ならするだろ?」
「そいつだけじゃない。他のやつは、お前と長濱さんが腕を組んでマンションに入るのを見たって」
何人ストーカーがいるんだよ。
「聖奈スキンシップ多いからな……ふざけてそういうことをしたところを偶々見たんだろ?」
「よ、呼び捨て…やっぱり付き合ってんじゃねーかよ!
やったな!聖!」
しまった。いつも通り名前で呼んでしまった……
「おい!勘違いするな!名前で呼ぶように言われただけで、ホントに付き合ってないぞ!わかるだろ?!」
「わかった。わかった。そんなにムキになるなよ。
黙っておくって!」
わかってねぇじゃねーか。
「俺は黙っておくけど、気をつけろよ。
長濱さんは人気だからな。変な因縁をつけられないようにな。
ところで、その長濱さんを最近見かけないけど、どうしたんだ?なんか知ってるか?」
えっ…長濱さん友達に言うって言ってたじゃん……
まあ、どうせバレるし言ってもいいか。
「大学は辞めたらしいぞ。理由は聞いてないから知らんが」
「そうなのか……やっぱり原因は…」
ん?なんだ?何の話だ?
「なんだよ?何かあるなら言えよ」
「いや、確かなことじゃないから、本人から聞いてくれ」
いや、それじゃあ聞くこともわからんくね?
「まあ、聖に会えて良かったよ!元気そうだしな!
どうだ?飯でも行かないか?暗い話はなしでな!」
朝飯を食ったばかりだが、せっかく誘ってくれているし、川崎さんもいないから行くか。
そうと決まれば、俺達はよく行っていた大衆食堂へ向かった。
異世界転移やそれにまつわる話は避けて話をした。
やはり同年代の同じ世界の男だと話が合う。
見逃したスポーツの話を聞いたり、悩みを聞いたり。あれ?聞いてばっかだな。
そんな楽しい時間も終わりを迎える。
「じゃあな。長濱さんによろしくな」
「ああ。また連絡する」
聖奈さんとの誤解はもう解けそうにないので諦めた。
須藤と別れた後、家へと帰る。
「ただいま」
「おかえりなさい」
家で出迎えてくれた聖奈さんに、俺は気になっていたことを聞く。
「分かってて大学に行かせたのは、何でだ?」
尋問タイムの始まりだ。
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