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「なんで大学に行かせた?」
尋問タイムの始まりだ。
とりあえずこっちの質問からだ。
「だって、聖くんは友達と話す時間がなかったじゃない?
だから無理矢理時間を作ったの。そうしないと自分だけ働いてないって考えちゃうでしょ?」
「なるほど。確かにそうかもな。じゃあ、何で周りに付き合ってるって言ってるんだ?」
これは間違いないだろう。ここまでの行動がそれを示しているからな。
「あれ?ばれちゃった?おかしいなぁ。バレるのはそっちじゃなかったんだけどなぁ」
「いじめのことか?」
「そっちもバレてたんだ。じゃあもう、私の事で隠し事は無くなっちゃったね!」
いや、明るく言われても……
「いじめは須藤くんから聞いたの?」
「いや、須藤は言っていない。確信がないから何も言えないって言われた」
「じゃあ、どうしてそう思ったの?」
聖奈さんは珍しく不思議そうな顔をしている。
「須藤が言い淀むことだからだ。アイツは人の悪口は言わない。それが事実でもな。
それが言えないってことは聖奈が何か悪いことをしたか、若しくはされているかだ」
「じゃあ、いじめかどうか判断できないんじゃない?」
「そうだな。だけど、俺は聖奈を知っているつもりだ。
聖奈は理由もなく人を傷つけることはしない。じゃあ、されてる方だってな。
女子達からいじめを受けていたんだな?
話せないなら話さなくていい。なんて言わないぞっ!
何で話してくれなかったんだって言いたい」
俺がイラついていた原因はこれか……
まだ苛立ちが収まらないな。なんでだ?そこまでイラつくことか?
俺は聖奈さんと過ごすうちに、自分のことがわからなくなってきたみたいだ。
「ごめんなさい。でも、イジメはどうでも良かったから報告も相談もしなかったの。
心配させちゃうからね」
「いや、するだろ!今なら相手を殴り飛ばしたいくらいだ」
「ありがとう。でも、ホントに気にしてないんだ。
私をいじめてきた女子達は、私がチヤホヤされるのが気に入らなくてしてきたの」
聖奈さんがチヤホヤされているのは入学からだ。
オタクのサークルに入っていたこともあり、特にオタク達の人気が高かった。もちろん普通の奴からもな。
「じゃあ、入学直後からいじめを?」
「ううん。もっと前。高校の時から。
だから慣れていて気にしてないの。前は凄く気にしてたけど、オタクの私は変えられないし、見た目も変えられないしね。
そう気付いてからは気にしなくなったの。
私も女の子だから、その理由でいじめる気持ちもわかるしね!
でも、ホントにチヤホヤされるつもりはなかったの」
「知ってる。好きなこと以外には興味無さそうに相手してたもんな」
そう。いくらイケメンが声を掛けても、聖奈さんの興味がない話にはそっけなかったもんな。
逆に興味のある話なら、どんな人にも同じ対応をしていたな。
「だから退学の理由はホントに前に話した通りで、イジメは関係ないよ。
それに私がイジメを気にしてない時点で、イジメなんてなかったのと同じだよね」
「それは聖奈だけにしか言えないな。
俺は聖奈が気にしていなくても殴りたいけど。
わかった。気にしていなくて、心配させたくもなかったから言わなかっただけなんだな?」
「そうだよ。でも、怒ってくれてありがと。
さっ、会社に行こう」
「まだだ。まだ、全部聞いていない」
そう。聖奈さんをこんなに無鉄砲……刹那的な生き方に変えた原因はなんだ?
普通、異世界に行けるからってだけで、やばいところから銃を買ったり、退学したりなんて女子大生が考えないし、考えたとしても行動に移さないだろ?
いつ死んでも構わないくらいの覚悟がなきゃ、こんなに大胆な行動は取れないだろう。
俺のような呑んだくれじゃあるまいし……
「何で俺なんかと付き合ってるって噂を流したんだ?」
ここまで考えて行動してきた聖奈さんが、わざわざ噂を流したんだ。これが意味のない行動だとは思わない。
「うーん。正確には噂を流すように仕向けた。かな?
ごめんね。聖くんを利用して」
「かまわない。俺も助けて貰ってるし、仲間なら当然だろ?だから利用なんていうなよ」
何故この子はわざわざ俺の心を掻き回す言葉を使うんだ?
「ううん。利用したの。最初から」
…なんだ?何か見落としているのか?
「嘘をついてたというよりも、隠し事があっただけ。あっ!嘘泣きもあった!」
嘘泣き?まさか…ボロアパートの時の!?
「思い出した?初めて胡椒詰めをした時に泣いたのは、嘘泣きだよ。
でも、私が今まで話した聖くんのことはホントだよ。
何も否定せずにずっと話を聞いてくれる聖くんが安心できたの。
・
・
私、ストーカーされてるの」
ストーカー?
「いつからだ?」
「半年前くらいから。
いきなり殴られたりもしたの。あの時は痛いとか恐怖よりも、驚きの方が大きかったなぁ」
何、その思い出話な感じ……
「恐怖は後からやってくるんだね。
しばらく家から出られなかったし、親もその方がいいって言ってた。
犯人は同じ大学の人で、すぐに捕まったよ。
外聞が悪いからって事件は公にはならなかったけどね。
暫くしてから大学にまた通い出して、ストーカーが複数いることがわかったの」
それは怖いな。いくら倒してもGが出てきたら怖いもんな。
人なら尚のことだ。
「だけど親は世間体を気にするし、もし相談して私のことを考えてくれなかったらって思うと、出来なかったの。
もちろんそんなことはないって信じたいんだけどね」
この子はただ親の言う通りにしてきて、自分のしたい趣味をいじめられても辞めずに続けて。
なのになぜ、これ以上苦しめられているんだ?
「聖くんだけなの。私の話を聞いてくれるのは。
他の人は自分のことばかり。そして、疑ってばかり」
聖奈さんはそう言うが、俺も嘘つきで自分勝手だぞ。
楽な方へ逃げてばかりだ。未だに。
「俺はちゃんと聞けていたか?」
「うん。私の聞きたくない話はしなかったし、それでもちゃんとこうして気付いてくれるし」
それは偶々だよ。
もし、気付かなかったらと考えたらゾッとする。この子は誰にも相談出来ずに、自分で考えてまた刹那的に行動するんだろう。
「聞くよ。全部話してくれ」
過去に一度背負うと決めたんだ。今更投げ出したりはしない。
「うん。嘘泣きは、聖くんにそうすれば優しさに付け込めると思ったから。
銃を手に入れたのは、もし次に襲われた時に反撃するため。
流石に21の女の子が銃を持ってるなんて思わないでしょ?
それにその筋の人達でも入手困難な銃だしね。
聖くんと付き合ってるって噂が流れるようにしたのは……
ストーカーを牽制する意味も確かにあったんだけど……
気付いて欲しかったから、かな?
自分でもよくわからないんだ。
大切な聖くんも危ない目に遭うかもしれないのに、なんでそんな事をしたのか。
男の人は怖いのに、何故か聖くんだけは怖くないの」
「そうか。まあ、俺なら異世界に転移して逃げれるから最悪な事にはなり難いと、無意識のうちに思っていたんじゃないか?
でも、次からは教えてくれ。
じゃないと仲間も守れない。何かあれば悔やんでも悔やみきれない。
俺のことが大切なら後悔させないでくれ」
「うん。もう大丈夫です。貴方に隠し事はしません」
ふぅ。やっとこれで聖奈さんの今までの行動が理解できてきたな。
わからないことはメンヘラ…ヤンデレだからだと思おう……
その原因(ヤンデレの)となったいじめた奴とストーカーは許せんな。
どうにか出来んものか……
いや、本人が望んでないことをするのは、独り善がりが過ぎるか。
そもそも異性として好かれてはいないし、デレてはいないから違うか。なんていうんだ?
おかしな思考の渦に飲み込まれそうになった俺を止めたのは聖奈さんだ。
「でも、ミランちゃんには伝えないで欲しいの。ただ心配させるだけだから」
「そうだな。何も出来ないのは辛いだけだからな」
俺にはいざとなれば聖奈さんを異世界に連れて行ってこっちの世界の悪意から守ることが出来る。
今までの俺に対して聖奈さんの過ぎた行動は、いざとなれば俺が異世界に逃してくれるって保証が欲しくてしてた部分も大きいだろう。
そういったことも踏まえ、仕事量も負担のないように調整して雑用も減らして無駄なスキンシップもなくすように話をしよう。
呼び捨てもなしだな。
「聖奈さん。これからは仕事量も減らして『なんで?』えっ…?」
「好きでしているんだよ?もしかして……
聖くんに負い目を持たせたりして言うことを聞かせるために、私が頑張ってるって思ったの?」
「……はい」
「はぁ。それは違うから。ホントに好きで、役に立ちたくてしてるだけだから。
それにそんなことをしなくても、聖くんは私が困っていたら助けてくれるのは信じてるから。昔から」
「昔?」
「やっぱり覚えてないんだ!」
何のことだ?いつの話だ?
「大学の説明会の時に、私達出会ってたんだよ?」
説明会?んー記憶にないな。すまん!酒飲んで忘れたのかも!
「はぁ。思い出しそうにないね。じゃあ、これを新たな秘密にするね!
嘘じゃないし隠し事でもないからいいよね?」
くそっ!忘れた手前聞けないやないかっ!
嫌なことじゃないみたいだし、どうでもいいけど。
「まあ、いいよ。忘れた俺が悪いし、お互いに困ることじゃなさそうだしな」
「聖くんって、ホントに乙女心には興味ないよね?」
当たり前だろ。俺が乙女心に興味あったら、ただの変態だ。
「でもありがとう。スッキリしたよ」
「他のストーカーはどうする?」
「放っておけばいいよ。みんな学生だし、大したことは出来ないから。
それに移動は車だし、後をつけられていないかの確認は、ストーカーがいなくても私達には必要だしね」
俺にはそんな『後ろに気配がっ!』なんてカッコいい技術はないぞ!?
「わかった。俺も気をつけるよ。いざとなった時の転移はいつでも言ってくれ。それがこっちの仕事に影響したとしても構わない」
「うん!頼りにしてるよ!」
「そしたらこっちに聖奈さんだけ置いていくのは心配になるな……
やっぱり一緒に行こう?もしくは俺が出来ることなら俺だけ残る」
最初から俺だけ残れば良かったんや!そうや名案や!
「ダメだよ。ストーカーは怖いけど、逃げたくはないの!
異世界に逃げるのは最終手段だよ。
ストーカーを返り討ちにした時とかのね」
ストーカーさん逃げてっ!
いや、冗談じゃないぞ?聖奈さんを人殺しになんてさせたくない。
「足止め程度にしておかないか?」
「そんな余裕があればね。
それと、『さん』付けをやめないと、いい加減怒るよ?」
くそっ!気付いてないか許されてると思ってたのに…甘かったか……
聖奈さんの悩みはストーカーでもあったけど、一番は親や友人だな。
イジメを止める友人が居ない。
親は悩みや話を聞いてくれない。
そりゃこの世界で一人ぼっちに感じるよな。
聖奈さんの話を総合したら、俺という存在が一人ぼっちを感じさせなかったってことかな?
自分で言うのは恥ずかしいけど。多分、合ってる。