「ッひゅっ…ヒュッカヒュッ…ッ」
どうしよう、どうしよう……ッ
どうすればッ…!!
「ッこた…!!」
言うべきじゃなかった、分かってた。
分かってたのに…俺はまた自分を、自分の気持ちを優先して…
「くにおが元凶だと思う、」
また、苦しめた。
「ゆさん、ちゃんとこたの家着けたかな…」
部屋はこたの呼吸音が絶え間なく響き、通話時間だけ長く長く過ぎていく。
「ヒュッ…ゲホッ」
「……ッ!、…」
本当は…声をかけたい、安心させてあげたい、でも俺が喋ったらこたはもっと取り乱してしまうと分かっている。
いや、ほんとにな…、分かってたじゃん。
何も出来ない不甲斐なさで、自分を押し殺したい気分だ。
«こったん…ッ!!
ゆうくんの声がこたの画面から聞こえる。
なんで頼ることばかりしかできないんだろう、俺。
俺とこたの…というか…、俺の問題のせいでゆうくんを巻き込んでしまった後悔が襲ってくる。
こたの激しい呼吸音が画面から聞こえなくなった。
……とにかく自分も落ち着くためになにか飲もう。味はしないけど。
おもむろにキッチンに行く足取りは鉛のように重い。
「…」
とりあえずお湯を沸かして、その間の数分、なにか考える訳でも無く、キッチンマットの小さなシミに1点集中する。
カチッとお湯が湧いた音が鳴り、棚の中をあてもなく漁る。
「…えっと、確かこの辺に」
そう言って手に取ったのはコーヒーパック。
コーヒー…、コーヒー好きだよな、こた。
「、あつッ」
余計なこと考えてたらこぼしちゃった…
意味もなく砂糖を入れる、スプーン3杯分。
もしかしたら…って気持ちを、いつもいつも願うように入れて、混ぜる。
コクッ
1口飲んでみるけど、やっぱり味はしない。
でも、あのとき……こたを噛んでしまったあの時だけは…
甘かった。
あー、良くない、何でそういうことばっか考えるかな俺は。やっぱり自分勝手だ。
心の奥底に、まだあの甘さが残っている。時折またあの甘さを、、求めてしまうことがある。
そんな最低な俺はこたを好きでいる資格なんて無い。
でも、でも……
心の隅で、ずっとこたの事考えてる。どうしようもないくらい。
天然で、人の話を聞かなきとこもあるけど、メンバー1努力家で、悔しいけどリスナーさんのことを誰よりも大事に思っている。
頼りがいがあって、歌が上手くて、かっこよくて、皆んなのお兄さん。本当は、俺だけのこたでいて欲しいけど。
あぁ、俺はどうしようもなくこたが大好きなんだ。
これだけは誰にも変えられない事実なんだ。
だから、だから……
こたともう一度ちゃんと話したい。
苦しめてしまうかもしれない、嫌われてしまうかもしれない、でも、好きの気持ちは変えられない。
「…よし」
電話しよう。
明日になったらきっと、この決心は揺らいでなくなってしまう。
こたに無理させるかもしれない、でも、、
ここはゆさんの対応力を信じたい。
あれから時間は3時間は経っている。こたも落ち着いた頃だと想定して、あと1時間経ったらまずはLINEをしよう。
それまで、こたに話すこと、伝えたいこと、全部まとめよう。
「こったん、落ち着いた?」
全てを話し終えた俺は、抜け殻のようにソファーに沈んでいた。
呼吸も落ち着いて、だいぶ楽になった。
「…うん、ありがとうゆうくん。」
「全然いいんだよ」
「……でも、そっか、」
「ん、?」
「こったんは、今まで色んなことを抱えてここまで頑張ってきたんだね、」
「、えっ」
予想もしなかった言葉に、おもわず動揺が口に出る。
「ゆさん、こったんの気持ちをちゃんとは理解できないけど、ここまで1人で抱えてきたこったんのことを思うと、なんか、、うん」
「………そか」
ぽんぽんっ
「えっ、?」
「よしよし、」
「ゆ、ゆうくん?」
撫でられてる、?
「ゆさん、こったんのこと慰めることは出来ないけど、こうやって癒してあげることは出来るかなって思って。」
ゆうくんの手が触れるとこがぽかぽかと暖かい。
もう大の大人である自分が頭を撫でられている現状に気恥ずかしさを感じる。
でも……それでいて、甘えたくなるような、切ない気持ちにもなる。
「、ありがとう」
どれくらい撫でられていただろう、気恥ずかしさはあっても、不思議と嫌な気はしなかった。
ピコンッ
「あ、こったん、通知来てるよ」
「あ、うん」
「まってね~、取ってあげる」
「ありがとう」
スマホを手に取って、ゆうくんがふと画面に目を落とす。
その瞬間、ゆうくんの大きな目がもっと見開かれた。
俺に渡しかけたスマホを1度自身へ引き戻して、落ち着いた声色で俺にひと言。
「くにおから」
「!!!」
ど、どうしよう、え、あ、嘘、
「こったん、大丈夫、落ち着いて。」
「え、ぁ、どうしょ、」
ぎゅっ
「っ、」
「大丈夫だから」
ゆうくんが俺の手を強く握る。
「こったん、ゆさんさっきの話聞いててさ、」
「ん、」
「こったんはさ、くにおのこと嫌い?」
「っ、!」
俺は……くにおのこと、
さっきみた夢の中でも俺が行き詰まった返答。
正直分からない。
でも、くにおにデレられたり、優しくされると胸の奥がきゅっとなる。
「好き?嫌い?」
「…」
「……嫌いでは、ない」
「ん、そうだよね」
「じゃあさ、くにおのこと、怖い?」
「っ………」
怖い…怖いに決まってる…
だって、だってあの時…っ
「…それってさ、本当に全部くにおだけが怖いの?」
「……」
こわい………のは、
くにお、、だけじゃない、はず。怖さの大半は、過去から来るものだ。
「…ち、がう」
「うん、ならさ、これからくにおとどうしたい?」
どうしたい、?今は、あの出来事、あの時のことだけでくにおを恐怖の対象としている。それは良くないことだって自分でわかってる。なのに今の今までくにおのことを決めつけて、自分から逃げてきた。だから、ちゃんと…くにおと向き合いたい。
「……話し、たい。」
「うん、じゃあ」
ゆうくんがスマホを優しく手渡す。
「はい、きっと大丈夫だよ。」
「、うん…ありがとう。本当に。」
ここまでしてくれたゆうくんに、俺の本当の気持ちを抜き出してくれたゆうくんに、本当に感謝しなければならない。良い仲間に恵まれて、俺は幸せ者だ。
「じゃあ、ゆさんこれでおいとまするね」
「ありがとう、ゆうくん」
「困ったらいつでも相談して、ゆさんはこったんの味方だよ!」
「うん、うん……ありがとう。」
ありがとうしか言葉に出来なかったけれど、今はそれしか出てこなかった。
俺、頑張るよ、ゆうくん。
パタン
ぎゅ…
「………」
スマホを握りしめる手が、緊張で震える。
「…大丈夫。」
そう自分に言い聞かせて、俺を悩ませる通知をタップした。
コメント
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マジ涙出そうだった‼️ ゆさんナイスすぎ 続き楽しみにしている‼️
ゆさん、、、最高すぎますよ、、