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カテリナです。湧き水で一息ついたところで立て続けにトラップ発動、三人が追加で死にました。こうなるとどうなるか。
「もう嫌だ!俺はここから動かねぇぞ!」
「簡単な仕事の筈じゃなかったのかよ!?キッドさん!」
「こんなの聞いてねぇよ!」
残った三人は恐怖に支配されて泣き喚く始末。これ以上先に進むのは無理でしょうね。
「シスター、済まねぇがこれ以上の調査は無理だ。このままだと全滅する。残念だがここで引き返そう」
キッドも同じ意見みたいですね。さてどうするか。こいつらは私を殺ろうとしていたはず。今さらそんな気力もないでしょうが、引き返せば少し面倒なことになります。
先ほどから絶妙なタイミングでトラップが発動していることから、原理は分かりませんがシャーリィはこの状況を見ている筈。
私が今ここで始末しても構いませんが、あの娘の判断を待ってみますか。
私はキッド達に見えないよう右手を少しだけ上下左右に揺らしてみます。
ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。湧き水を使った関連するトラップは侵入者の心を完膚なきまでにへし折ってしまったみたいです。
如何にも厳つい男性三人が座り込んで泣き喚く姿は見るに耐えませんね。
「安心したところで立て続けに惨劇が起きて仲間が死ぬんだ。そりゃあ心も折れるさ。それに、奴らはダンジョン調査に来た訳じゃないんだからな」
ベルが呆れながら私を見てきます。はて?
「首を傾げんなって、お嬢。連中の心をへし折ったのは、お嬢何だからな?」
『よくもまあ思い付くものよ。我もこの様な辛辣極まるトラップは久しく見ておらぬ』
マスターに感心されました!
「しかしながら、これでは引き返す道を選ぶでしょう。そうなると、シスターの危険が増すことになります」
セレスティンの言う通り、帰り道にもトラップはありますがこれは万が一に備えたもので効果範囲が広いものばかり。シスターを巻き込んでしまう可能性があります。既にお説教が確定している身としては、これ以上の怒られる要素は避けたいところ。
……ん?
「なんだ、シスターが右手を動かしてるぞ」
「何らかの合図でしょうか?」
あれは……。
「速やかな行動開始を要請する。シスターの合図ですね」
「なんだそれ?聞いたことがないぞ。セレスティンの旦那は?」
「私も存じ上げませんな」
「私とシスターだけの暗号みたいなものです。小さな頃に学びました」
『興味深い』
「マスター、それについては後程」
『うむ』
シスターは速やかな行動を、アクションを望んでいます。ならば、ここでやりますか。
「マスター、アンデッド投入をお願いします。彼らを出口へ追い立てるように」
『狩りのように、であるな?』
「はい、今こそ投入の好機です。くれぐれもシスターは襲わないようにお願いしますね」
『容易いことよ』
私も残されたトラップを用意しますか。
映像を見ながら私は思案に耽るのでした。
カテリナです。シャーリィに合図が伝われば良いのですが。そう思いながら腰を上げる男達をじっと観察します。
キッドにはまだ覇気がありますが、他の三人はもう使い物にならないでしょう。
「シスター、先頭を頼めるか?俺はこいつらを見なきゃ行けない」
「構いません」
後ろから撃たれる心配がありますね。早撃ちキッドに背中を見せるのは不安ではありますが……。
ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッッッ!!!!!!!!!!!!!
「「「「!?」」」」
突如ダンジョン内部に叫び声が響き渡ります。まるであの世声。これは。
「きっ、キッドさん!来やがった!来やがったぁ!」
男が指差した先には、薄暗くても分かるくらい大量の人形アンデッドの群れが現れました。これ、本当に私は大丈夫なんですよね?不安しかありませんよ?
「アンデッドだとぉ!?ここはアンデッドの巣穴だったのか!?」
「良いから走れぇ!奴らに襲われたら終わりだぁ!!」
私達が走り出すのとアンデッドが追い掛けてくるのは同時でした。これは速い!追い付かれますね!
「ようやく本領発揮できる!任せろ!」
キッドはホルスターから素早くリボルバーを二丁抜いて構え、ズドンッと銃声を響かせながら連射します。
ふむ、流石は早撃ちキッドですね。
ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッッッ!!!!!!!!!!!!!
それにより何体かのアンデッドが倒れますが、あれでは意味がありません。
「くそっ!銀の弾丸なんて持ってないぞ!」
仕方ない、私は担いでいたMP40を構えます。弾はもちろん銀の弾丸。ドルマンが少数ながら生産したものを拝借してきたものです。後で酒を差し入れるとしましょう。
アンデッド達に銃口を向けて引き金を弾くと、軽快な銃声と共に銀の弾丸を雨のように浴びせかけます。
集団相手には最大の効果が発揮できますので、アンデッドは次々と薙ぎ倒されていきます。
「何だそれは!?」
「『ライデン社』の新型ですよ」
六年前のものですがね。
「それよりも早く行きなさい、足止めは私がします」
「済まねぇ!」
キッド達を先に向かわせて私は残りました。そして銃を降ろしてじっとアンデッド達を見つめます。さて、シャーリィの言葉は正しいのか。
ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッッッ!!!!!!!!!!!!!
アンデッド達は底冷えするような声を上げながら迫ってきました。
どうだ?
身構えていると、アンデッド達は私には眼もくれず脇を通ってキッド達を追い掛けていきました。
なるほど、シャーリィの言う通りですね。
そうしてしばらく待っていると……来ましたね。
「言ったでしょう?シスター。アンデッドは貴女を襲わないって。トラップの数々は楽しんでいただけましたか?」
暗闇から現れる無表情の令嬢、我が最愛の娘シャーリィ。
「ええ、刺激的で退屈しませんでした。刺激的すぎて彼らの心をへし折ってしまいましたがね」
「それについては謝罪を、シスターの見せ場を奪ってしまいました」
「まだ終わりではありません。アンデッドはキッドも襲わないのでしょう?」
「もちろんです」
「ならば、ゆっくりと追い掛けましょうか。キッドに娘を自慢するとしましょう」
「種明かしからの自慢ですか、シスターも素敵な感性をお持ちですね」
「誰かに似たのかもしれませんね」
「誰ですか、趣味が悪いですね」
「全くです。さて行きましょうか。狩りの時間です」
「シスターと一緒にですか?それは楽しみです」
娘と二人で微笑みながら私達はダンジョンを進むのでした。たまには、こんな日も良いですね。