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『第二ボタンの代わりに』
「……好きです」
誰もいない帰り道で、 ようやく零れた本音。
でも、言った瞬間にわかった。
これじゃだめだ。
届かない場所に向かって言う
“好き”なんて、
ずるい。
名札を握りしめたまま、私は顔を上げる。
__まだ、間に合う?
先輩は電車で帰る。
駅までは、走れば五分。
考えるより先に、足が動いた。
スカートを押さえながら、
ローファーでアスファルトを蹴る。
苦しい。
息が痛い。
涙で前がにじむ。
でも止まれない。
だって、今日を逃したら、
本当に終わる。
駅前が見えた瞬間、
ちょうど発車メロディーが流れた。
「……っ、先輩!!」
人混みの向こう。
振り向く背中。
驚いた顔。
ドアが閉まりかける。
私は最後の力でホームに飛び込んだ。
「待ってください!!」
先輩が咄嗟にドアを押さえる。
駅員さんの笛の音。
周りのざわめき。
時間が、止まったみたいだった。
「……どうした」
息が整わない。
涙も止まらない。
でも、今度はちゃんと。
ちゃんと、言う。
「名札の……裏、見ました」
先輩の目が、わずかに揺れる。
「私、気づくの遅くて……でも……」
胸が苦しい。
声が震える。
それでも。
「好きです」
今度は、 ちゃんと先輩に向かって。
数秒。
沈黙。
やがて、先輩が困ったように笑う。
「ほんとに遅いな」
そう言って、私の頭を軽く撫でた。
「だから言っただろ。返さなくていいって」
胸の奥が、じんわり熱くなる。
「名札はやるよ」
「……え?」
「その代わり」
少しだけ近づいて、 小さな声で。
「次会うときは、ちゃんと俺の隣な」
電車のドアが閉まる。
先輩は窓越しに笑って、
指で“電話”のジェスチャーをした。
動き出す車両。 遠ざかる姿。
でも今度は、寂しくない。
手の中の名札が、 やけにあたたかい。
春は、終わらなかった。
第二ボタンの代わりに、 もらったのは、
ちゃんと、 未来だった。
コメント
3件
え待って待って待って、、 あ、考察長文コメですごめんなさい 名札をもらって未来も貰えるってことは、先輩の苗字を主人公ちゃんは貰ったってことになる、なら先輩は主人公ちゃんにプロポーズしたってことになる???💍
前回の『第二ボタンの代わり』の後半です