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12月24日
街は、何時にも増して、カラフルな光に溢れていた。周りには、笑顔で手を繋ぎながら歩く二人組ばかりだ。楽しそうな声が、何処からでもする。笑顔で浮き足立つ周りとは対極的に、五条は、何時もの馬鹿みたいに明るい笑みが、表情から消え去っていた。
今日は12月24日、クリスマスイブだ。そして、五条が、唯一無二の親友を、自らの手で殺めた日だ。
光が強ければ影もまた濃いとは、よく言ったものだ。今日は、チカチカと五月蝿い光のせいか、呪い(かげ)が良く目立つ。其処等辺に湧いている呪霊を横目に、任務帰りの五条は、高専へと、足を進めているつもりだった。だが、無意識に高専では無い所へと、足を進めていた。
「…彼れ。」
やっと、高専で無い所へ向かっていると気が付き、場所を確認しようと周りの建物を見回す。右に視線を向けると、ケーキ屋が有った。クリスマスなのに、派手な装飾は無く、落ち着いた雰囲気の店だ。
「懐かしいなぁ。そう言えば、暫く来てなかったね。」
以外にも、まだ、店までの道を憶えていたんだなぁ。と、率直に五条は思った。其処は、クリスマスの時期になったら、毎年ワンホールのショートケーキを買いに来ていた店だった。
「アイツと毎年来たなぁ。」
この店は、量の割に値段が安い。しかも、中々美味しく、お気に入りの店だった。だが、教師になり、特級呪術師になってから、学生の頃とは比べ物にならないくらい仕事が忙しくなり、クリスマス等、関係無く仕事が有る。其れで、かなりの間、此の店には来ていなかった。
「………。」
学生時代の感傷に浸る前に、此の場を去ろうと、五条が店に背を向けた時だった。
「あ、あの!!」
「え。」
「何時も、クリスマスにショートケーキを買いに来てくれてた人ですよね!」
声を掛けて来たのは、顔馴染みのパティシエールさんだった。慌てて店から出て来たのだろうか。白い息が、途切れる事無く、口から漏れている。
「あ、うん。そうだよ。」
「久しぶりだね。」
「お久しぶりです!」
「…彼れ……。お一人ですか?」
何の意図も無い問い掛けなのだろう。其れでも五条にとっては、今一番聞かれたく無い問いだった。
「…うん。」
「えっと、如何したの?」
「あ、あの!折角なので、此れ、何時ものショートケーキ何ですけど…。」
そう言い、パティシエールさんは、手に持っていた白い箱を五条に差し出した。
「え、良いの?」
「はい!」
「幾ら?」
「いえ!余ってしまったケーキなので、お代は大丈夫です!寧ろ貰って下さい!」
「あ!ちゃんと苺増し増しですよ!」
明るく微笑んで、パティシエールさんは、丁寧に、ケーキの入った白い箱を手渡してくれた。
「ありがとね。」
久々の再会だが、さらっと会話は終わり、ケーキを崩さないように、丁寧に箱を持って、五条は高専迄の帰り道を歩いた。
五条は、自分の部屋に帰ると、早速、ケーキの入った箱を開けた。箱の中には、艶やかな苺が沢山トッピングされたショートケーキが入っていた。
「苺増し増しショートケーキ懐かし。」
『なぁ。何時もショートケーキの苺で喧嘩になるからさ、ショートケーキの苺の量増やしてよ。』
『コラ!悟!』
「…ほんと懐かし…。」
「折角貰ったんだし、早速食べちゃおう。」
一人分の、皿とフォーク。何時もなら、二人分の皿とフォークが、机に並んでいた。
誰にも注意されないのを良い事に、何も言わずにショートケーキの苺にフォークを刺した。
「甘い…。」
今の時期で無い筈の苺が、意外にも甘い。其れでも、ケーキのスポンジと苺を一緒に食べると、苺がケーキの甘さを抑えてくれる。スポンジの中にも苺が入っていて食べ易く、パクパクと、かなり速く食べ進めていた。
昔は、流石にワンホールも一人では食べきれなかった。二人で食べて、丁度食べきれていた。でも、意外にいけそうだと、五条は思った。
「ワンホール普通に食べきれそう。」
独りのクリスマスなんて、初めての事では無い。年中仕事だって有る。そもそも、クリスマスが先ず無いと言っても過言では無い。其れなのに、柄にも無く寂しいと感じる。何時もの部屋に、何時ものショートケーキ、何時もの皿とフォーク、そして何時も通りアイツも居ない。何もかもが何時も通りなのに、何だかサッパリしている様に感じて。
只、少し、何となく、口にしてみただけ。
「全部一人で食べちまうぞ。」
何時もの面倒臭い小言が、返って来る様な気がした。