テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
誰も知らない、高嶺の花の裏側4
第7話 〚第6話の続き/海翔視点〛
放課後。
チャイムが鳴って教室がざわつき始めても、海翔の胸の中だけはずっと落ち着かないままだった。
(なんで…こんなにモヤモヤするんだよ…)
鞄を閉じる手つきもいつもより遅い。
深呼吸して気持ちを落ち着かせようとしたけど、余計そわそわする。
(澪が恒一たちと話してたの、別におかしくないのに…)
(でも、なんか嫌だって思うんだよな…なんでだよ…)
自分の気持ちが分からなくて、ただ“落ち着きたかった”。
だから海翔は、ひとりで先に帰ろうと立ち上がる。
その時——
「海翔」
名前を呼ぶ小さな声。
振り向くより先に、教室の前の扉から澪が近付いてくる気配がした。
いつもの静かな足音。
でも今日の海翔には、その音だけで胸が跳ねる。
澪が目の前に立つ。
「今日さ……二人で一緒に帰ろ?」
たったそれだけの言葉なのに、海翔の中で何かが一瞬で“ひっくり返った”。
ずっと身体の中にあったモヤモヤが、全部溶けて消えていく。
代わりに来たのは、どうしようもない気持ち。
——好き。
——好きすぎる。
——これが全部の理由なのかって思うくらいに。
海翔は悟ってしまった。
(俺…澪のこと、前よりもっと……完全に沼ってる。)
「……うん。帰ろ、澪」
声が少しだけ柔らかくなっているのを、自分でも分かった。
澪はほっとした顔で微笑む。
その笑顔にまた心臓が跳ね上がって、海翔は耳の先が熱くなる。
二人で並んで廊下を歩いて校門を出る。
冬の夕方の空はうっすらオレンジで、風が少し冷たい。
でも海翔には、それすら心地よかった。
(澪と一緒に歩いてるだけで、なんでこんなに嬉しいんだよ…)
モヤモヤしていた理由も、寂しさも、不安も全部一つに繋がっていった。
“好きだから”だ。
ただその一つだけだった。
二人の影が並んで長く伸びる帰り道。
海翔の心は初めて、今日一日でいちばん穏やかだった。