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車で30分ほど走っていたと思う。高柳はパーキングに車を停めて助手席の扉を開け、座る真衣香に手を差し伸べた。
それを避けるのも、おかしな話なので素直に手を取り車から降りる。
数分ほぼ無言で歩き、高柳に促されるまま店内に入った。
入る前、入り口横にチラリと見えた小さな看板には創作料理と書かれており、もちろん初めて入る店だ。
(わ、綺麗……というか、オシャレだ)
目の前に広がった光景を、思わず見渡した。
店内は全席が半個室となっており、グレーの大理石調の床を、オレンジのライトが優しく照らす。
壁や天井、ライトのまわりなど。至る所に観葉植物や花が飾られていて可愛らしい雰囲気も受けた。
店員に案内された席へ向かう高柳のうしろを、きょろきょろとしながらも。真衣香はやはり無言でついて行った。
「どうぞ、立花さん」
「……あ、す、すみません」
「そうかしこまらないで。今は、仕事中ではありません」
仕事の話があるのなら仕事中ではないのだろうか?浮かんだ疑問をすぐに頭の隅に追いやって、高柳がスマートに引いてくれたイスに素直に従い座った。
続いて高柳が真衣香の正面に座る。「どうぞ好きなものを頼んで下さい」と、メガネの奥の瞳が細くなり笑みを作っていた。
高柳に手渡されたメニューには色とりどりの野菜とフルーツを使った写真が目立つ。
(た、高柳部長のイメージじゃないというか)
メニューもヘルシーなものが多いし、それなのに可愛いし。女の子が好きそうなお店だなぁ、と。感じていると、高柳が口を開いた。
「同伴者が女性の場合はここに来ることが多いです、どうでしょう。何か食べられそうですか」
「あ、と、とても素敵なお店ですね!さ、サラダとか……このピザもおいしそうです」
考えを読まれたのかと、真衣香は咄嗟にメニューをまじまじと見つめて目についたものを声に出した。
「では、そのあたりを適当に頼みましょうか。飲み物はどうしますか」
「こ、この野菜とベリーのスムージーで……」
呼び出した店員に高柳はにこやかに、2人分にしては多いのではないかと思う量をオーダーして、再び真衣香を見た。
「では、時間もありませんし手短に話しましょう」
たくさんの料理を注文して「手短に」と言う、そんな高柳に再び疑問を抱きつつ。彼の言葉に耳を傾けた。
「まず、最初に。申し訳ありません」
「え?」
「先に謝っておきます。今から君を不快にさせますが、許して下さい」
清々しい先手に、真衣香は不思議と恐怖はなく呆気に取られるばかりだ。
「次に、前提として。俺は君に嫌われても全く問題がありませんので、そのあたり気を遣いません」
「……は、はあ」
言われるまでもなく、真衣香の気持ちなど高柳が気にするところではないだろう。
発言自体にではなく、目の前の高柳が何を考えているのかがわからず戸惑っていた。
「では単刀直入に。君と坪井の関係は、どのようなものだったんですか」
穏やかな口調、にっこりと作られた笑み。
そこから出てきた質問に驚き、ピンと背筋が伸びた。
「ど、どのような……。と、いいますか。あの、顛末書の件は?」
「ああ、何も問題はありませんでしたよ。何より形式的なものですし、定型分があればそれで結構です」
「そうでしたか……」と消え入りそうな声で返した真衣香の声が届いていたかは、わからない。
「ただ、君が確実に足を止めてくれると思って発言したのみです」
「足を止める……」
「はい。ちなみに、坪井の件をお話ししたかったのは本当です。今お聞きしてるとおり」
(なるほど……)