テラーノベル
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ドアが少しだけ開く。
〇〇「ねえ北斗」
北斗「何」
〇〇「一瞬だけ見て」
北斗「……」
北斗「なんだよ」
〇〇「いいから」
ちょっとだけ隙間。
北斗「……」
仕方なく近づく。
北斗「一瞬な」
〇〇「うん!」
ドアがもう少し開く。
浴室の中、
泡がかなり広がってる。
その中で—
〇〇「じゃん」
頭に泡を乗せてる。
丸く二つ。
〇〇「くま」
北斗「……」
一瞬止まる。
〇〇「どう?」
北斗「……」
数秒無言。
〇〇「ねえ」
北斗「……何してんだよ」
〇〇「かわいくない?」
北斗「……」
ちょっと視線逸らす。
北斗「……くだらねえ」
〇〇「ひど!」
〇〇「ちゃんと見て」
北斗「見た」
〇〇「感想!」
北斗「……」
少しだけ間。
北斗「……まあ」
北斗「似合ってる」
ぼそっと。
〇〇「ほんと?」
北斗「一瞬な」
〇〇「やった」
ちょっと嬉しそう。
〇〇「ねえ写真撮って」
北斗「やだ」
〇〇「なんで!」
北斗「後でめんどくせえ」
〇〇「消すから」
北斗「信用ねえ」
〇〇「ひど!」
笑う。
泡が少し崩れる。
〇〇「やば」
〇〇「耳取れる」
北斗「だからやめとけって」
〇〇「やだ」
また整える。
〇〇「ねえもう一回見て」
北斗「もういい」
〇〇「えー」
北斗「冷めるぞ」
〇〇「お風呂だからいいの」
北斗「……」
小さく息を吐く。
でも—
完全にはドア閉めない。
北斗「……満足したら出てこい」
〇〇「はーい」
〇〇「ありがと」
北斗「何が」
〇〇「見てくれて」
北斗「……」
少しだけ間。
北斗「……別に」
ドアがゆっくり閉まる。
北斗「……」
その場に少しだけ残る。
さっきの顔、
ちょっと頭に残る。
北斗「……くまって」
小さく呟く。
でも—
少しだけ、
口元が緩んでる。
〇〇「ねえ北斗ー」
北斗「何」
ドア越しに声が続く。
〇〇「泡めっちゃ増えたんだけど」
北斗「入れすぎ」
〇〇「楽しい」
北斗「よかったな」
〇〇「ねえさっきのくまどうだった?」
北斗「もういいって」
〇〇「えーちゃんと褒めて」
北斗「褒めた」
〇〇「もっと」
北斗「要求多いな」
〇〇「だって」
笑い声。
北斗「……」
壁にもたれる。
視線はどこにも向けない。
でも—
全部聞こえてる。
〇〇「ねえ聞いて」
北斗「聞いてる」
〇〇「泡でさっき滑りそうになった」
北斗「だから言った」
〇〇「でもセーフ」
北斗「だろうな」
〇〇「ねえさ」
北斗「何」
〇〇「今日ほんと変な日だね」
北斗「……そうか」
〇〇「なんかさ」
〇〇「色々あったのに」
〇〇「今こんなことしてるの不思議」
北斗「……」
少しだけ目を閉じる。
北斗「……まあな」
〇〇「でもちょっと好きこういうの」
北斗「……」
その一言に反応する。
でも—
出さない。
〇〇「ねえ北斗」
北斗「何」
〇〇「ちゃんといる?」
北斗「いる」
〇〇「よかった」
その一言がやけに残る。
北斗「……」
視線が落ちる。
北斗「……どこも行かねえよ」
小さく。
聞こえるか分からない声。
〇〇「ねえー」
北斗「何」
〇〇「今度さ」
〇〇「ストの皆ともこういうのやりたい」
北斗「やめろ」
即答。
〇〇「なんで」
北斗「カオスになる」
〇〇「楽しそうじゃん」
北斗「想像できるだろ」
〇〇「できる」
笑う。
〇〇「絶対ジェシー騒ぐ」
北斗「騒ぐ」
〇〇「樹も乗る」
北斗「乗る」
〇〇「きょもは?」
北斗「……」
一瞬だけ間。
北斗「やらねえ」
〇〇「えー」
〇〇「やりそうなのに」
北斗「やらねえ」
〇〇「……」
少し考える。
〇〇「でも誘ったら来そう」
北斗「来ねえよ」
〇〇「来るって」
北斗「来ねえ」
〇〇「……」
また笑う。
〇〇「想像したら面白い」
北斗「……」
その笑い声を聞く。
北斗「……」
さっきまでの重さが、
少しだけ薄れる。
でも—
完全には消えない。
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「ちゃんといるよね?」
北斗「……いるって言ってるだろ」
〇〇「……うん」
少し安心した声。
北斗「……」
壁にもたれたまま。
動かない。
どこにも行かない。
ただ—
そこにいる。
声が続く限り、
ここにいるって決めてるみたいに。
〇〇「……もういいよ」
ドアの向こうから。
北斗「何が」
〇〇「上がる」
北斗「おう」
水の音が止まる。
少し静か。
ガチャ、
ドアが開く。
〇〇「……あったか」
タオルで髪拭きながら出てくる。
北斗「のぼせてねえか」
〇〇「大丈夫」
〇〇「めっちゃ泡だった」
北斗「だろうな」
〇〇「楽しかった」
北斗「よかったな」
〇〇「……」
少し近づく。
髪、まだ少し濡れてる。
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「ほんとに入らなくてよかったの?」
北斗「いい」
〇〇「つまんない」
北斗「知るか」
〇〇「……」
ちょっとだけ笑う。
〇〇「でも付き合ってくれてありがと」
北斗「別に」
〇〇「ちゃんといたじゃん」
北斗「……」
一瞬だけ止まる。
北斗「……言ったろ」
〇〇「……うん」
少しだけ柔らかくなる。
〇〇「ねえドライヤー貸して」
北斗「そこ」
〇〇「ありがと」
コンセント差す。
ブオーって音。
〇〇、髪乾かしながら喋る。
〇〇「ねえ今日さ」
北斗「何」
〇〇「ほんとなんもしてないね」
北斗「それでいいって言ったろ」
〇〇「……だね」
髪揺れる。
〇〇「でもさ」
〇〇「なんかちゃんと時間流れてる感じする」
北斗「……」
少しだけ見る。
北斗「……そうか」
〇〇「……うん」
ドライヤー止める。
静かになる。
〇〇「……ねえ」
北斗「何」
〇〇「今日このままいれる?」
北斗「……」
少しだけ間。
北斗「……いるだろ」
〇〇「……うん」
〇〇「……ありがと」
北斗「……」
返さない。
でも—
否定もしない。
〇〇はそのままソファに戻る。
北斗は少し離れた位置。
距離はある。
でも—
同じ空間にいることが、
ちゃんと分かる距離。
時計の針が進む。
14:00
部屋は静か。
〇〇はソファに座って、
さっき乾かした髪をいじってる。
北斗は少し離れた位置。
スマホを見てる。
でも—
完全には集中してない。
〇〇「……ねえ」
北斗「何」
〇〇「14時」
北斗「見りゃ分かる」
〇〇「今日長いね」
北斗「まだ半分もいってねえ」
〇〇「やば」
〇〇「どうする?」
北斗「何を」
〇〇「この後」
北斗「何もしねえ日だろ」
〇〇「……そうだけど」
少しだけ間。
〇〇「なんかしたい」
北斗「さっき風呂入ったろ」
〇〇「それはそれ」
北斗「……」
小さくため息。
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「昼寝する?」
北斗「勝手にしろ」
〇〇「一緒に」
北斗「しねえ」
〇〇「えー」
北斗「当たり前だろ」
〇〇「つまんない」
北斗「通常運転」
〇〇「……」
少しだけ考える。
〇〇「じゃあさ」
北斗「何」
〇〇「ゲーム」
北斗「何の」
〇〇「なんでも」
北斗「雑だな」
〇〇「暇だから」
北斗「……」
少し考える。
北斗「……まあいいけど」
〇〇「やった」
少しテンション上がる。
〇〇「何する?」
北斗「あるもんで」
〇〇「またそれ」
北斗「文句言うな」
〇〇「言ってない」
笑う。
〇〇「……ねえ」
北斗「何」
〇〇「こういうのさ」
〇〇「ほんと久しぶりかも」
北斗「何が」
〇〇「何もない時間」
北斗「……」
少しだけ止まる。
北斗「……そうだな」
〇〇「……いいね」
北斗「……」
短く息を吐く。
北斗「……たまにはな」
〇〇「うん」
少しだけ柔らかい空気。
外の問題も、
仕事も、
一旦置いてるみたいに。
〇〇「……ねえ早く」
北斗「何を」
〇〇「ゲーム」
北斗「分かったって」
少しだけ立ち上がる。
〇〇はソファで待つ。
その距離。
その空気。
どこか穏やかで、
でも—
いつ崩れるか分からないまま続いてる。
着信音。
〇〇「……あ」
スマホ見る。
〇〇「親戚のお姉ちゃんだ」
北斗「出ろ」
〇〇「うん」
通話ボタン。
〇〇「もしもーし」
お姉ちゃん「〇〇!?今大丈夫!?」
〇〇「大丈夫だけどどうしたの」
お姉ちゃん「ごめん急なんだけど!」
〇〇「うん」
お姉ちゃん「ちょっと仕事でどうしても外出なきゃで!」
〇〇「うん」
お姉ちゃん「△△のとこ今いるでしょ!?」
〇〇「……うん、いる」
お姉ちゃん「子ども見ててほしい!」
〇〇「え」
北斗「……」
横で止まる。
〇〇「今から?」
お姉ちゃん「そう!ほんとごめん!」
〇〇「……」
一瞬考える。
〇〇「……いいよ」
北斗「……」
お姉ちゃん「ほんと!?助かる!!」
〇〇「どれくらい?」
お姉ちゃん「夕方まで!」
〇〇「分かった」
お姉ちゃん「今から送るね!」
〇〇「うん」
お姉ちゃん「ほんとありがと!!」
〇〇「大丈夫」
通話切れる。
静か。
北斗「……」
〇〇「……子ども来る」
北斗「聞こえてた」
〇〇「……ごめん」
北斗「何が」
〇〇「急に」
北斗「別に」
〇〇「……いい?」
北斗「お前の家族だろ」
〇〇「……うん」
〇〇「ちっちゃいよ」
北斗「どれくらい」
〇〇「幼稚園くらい」
北斗「……」
少しだけ考える。
北斗「……まあなんとかなるだろ」
〇〇「……ほんと?」
北斗「お前よりは扱いやすい」
〇〇「ひど」
北斗「事実」
〇〇「……」
ちょっと笑う。
〇〇「……楽しみかも」
北斗「余裕だな」
〇〇「子ども好きだし」
北斗「……」
少しだけ見る。
北斗「……知ってる」
〇〇「……」
ちょっとだけ嬉しそう。
インターホンが鳴る。
〇〇「はや」
北斗「来たな」
〇〇「出る」
立ち上がる。
玄関へ向かう。
北斗は少し後ろからついていく。
ドアが開く。
お姉ちゃん「ほんとごめんね!」
〇〇「大丈夫だよ」
その横で—
小さい影。
〇〇「……いらっしゃい!!」
少ししゃがむ。
空気がまた、
少し変わる。
ドアの向こう。
小さい足音。
そら「〇〇ちゃーん!」
元気に飛びついてくる。
〇〇「わっ」
受け止める。
〇〇「そらくん久しぶり」
そら「ひさしぶり!」
にこにこ。
その後ろから—
つむぎ「〇〇ちゃ……」
ちょこちょこ歩いてくる。
〇〇「つむぎちゃんも」
しゃがんで目線合わせる。
〇〇「おいで」
つむぎ「……!」
ぎゅっと抱きつく。
〇〇「かわいい」
自然に笑う。
そらくんは5歳、つむぎちゃんは3歳。
お姉ちゃん「ほんと助かる」
〇〇「大丈夫だよ」
お姉ちゃん「夕方には戻るから!」
〇〇「うん」
お姉ちゃん「いい子にしてるんだよー」
そら「はーい!」
つむぎ「はーい」
お姉ちゃん、慌てて去る。
ドア閉まる。
静か—
にはならない。
そら「ねえねえ!」
〇〇「なに」
そら「ここどこ!?」
〇〇「北斗の家」
そら「ほくと?」
北斗を見る。
北斗「……どうも」
そら「こんにちは!」
元気に頭下げる。
北斗「……こんにちは」
つむぎ、じーっと北斗見る。
つむぎ「……だれ?」
〇〇「北斗だよ」
つむぎ「ほくと……」
小さく繰り返す。
〇〇「優しい人」
北斗「余計なこと言うな」
〇〇「ほんとだよ」
そら「やさしいの?」
北斗「普通」
そら「ふーん」
じーっと観察。
〇〇「……ねえ2人とも」
〇〇「遊ぶ?」
そら「やる!」
つむぎ「やるー」
即答。
〇〇「元気だね」
笑う。
そら「なにする!?」
〇〇「なにしたい?」
そら「ゲーム!」
〇〇「さっきも言ってたやつ」
北斗「……」
巻き込まれる予感。
つむぎ「これなにー」
リビングのもの触り始める。
北斗「おいそれ」
〇〇「大丈夫大丈夫」
つむぎ「ふわふわ」
クッション抱える。
〇〇「それ好き?」
つむぎ「すきー」
〇〇「よかったね」
自然に頭撫でる。
北斗「……」
その様子を見る。
〇〇「ねえ北斗」
北斗「何」
〇〇「一緒に遊ぼ」
北斗「……」
そら「ほくともやろ!」
つむぎ「やろー」
小さい手が伸びる。
北斗「……」
一瞬だけ間。
北斗「……まあいいけど」
そら「やったー!」
〇〇「優しいじゃん」
北斗「うるせえ」
でも—
断らない。
その空間、
一気ににぎやかになる。
さっきまでの静けさとは全然違う、
でも—
少しあったかい空気。
そら「ねえねえ!」
ゲーム機持ってくる。
そら「これやりたい!」
〇〇「いいよ」
つむぎ「つむぎも!」
〇〇「一緒にやろ」
北斗「……」
少し距離取って見てる。
そら「ほくとー!」
北斗「何」
そら「ここわかんない!」
北斗「貸せ」
自然にしゃがむ。
そらの横に座る。
北斗「ここ押せ」
そら「こう?」
北斗「そう」
そら「できた!」
嬉しそう。
北斗「……よかったな」
少しだけ柔らかい声。
〇〇「……」
それ見る。
ちょっと意外そうに。
つむぎ「ほくとー」
北斗「何」
つむぎ「これ」
コントローラー差し出す。
北斗「持ててねえじゃん」
つむぎ「むずかしい」
北斗「……貸せ」
手を添える。
つむぎの小さい手に合わせて動かす。
つむぎ「うごいた!」
北斗「そりゃな」
つむぎ「すごーい!」
北斗「普通」
でも—
口元ちょっと緩んでる。
〇〇「……」
静かに見る。
〇〇「優しいじゃん」
北斗「うるせえ」
そら「ほくとつよい!」
北斗「普通だ」
そら「すごい!」
北斗「……」
否定しない。
つむぎ、北斗の腕にちょこんと寄る。
つむぎ「ほくとすきー」
北斗「……は?」
つむぎ「すきー」
ぎゅっとくっつく。
北斗「……」
一瞬固まる。
でも—
離さない。
北斗「……勝手にしろ」
そら「ぼくも!」
そらも寄ってくる。
北斗「おい」
でも—
受け入れる。
〇〇「……」
ちょっと笑う。
〇〇「モテモテじゃん」
北斗「やめろ」
でも—
完全に嫌じゃない。
むしろ—
自然に馴染んでる。
そら「つぎこれ!」
北斗「分かった分かった」
つむぎ「ほくとー!」
北斗「はいはい」
さっきまでの静けさが嘘みたいに、
賑やか。
でも—
北斗の表情、
少しだけ柔らかいまま。
そら「ほくとー!つぎこれ!」
北斗「ん、どれ」
少ししゃがんで目線合わせる。
そら「ここむずかしい!」
北斗「大丈夫、大丈夫」
コントローラー持って、
ゆっくり見せる。
北斗「ここ押して、で、こっち」
そら「こう?」
北斗「そう、いい感じ」
そら「できた!」
北斗「ほらな」
軽く頭ぽん。
つむぎ「ほくとー」
北斗「ん?」
つむぎ「つむぎもー」
北斗「おいで」
手招きする。
つむぎ、ちょこちょこ来る。
北斗「これ持てるか?」
つむぎ「うん」
北斗「じゃあ一緒にやるぞ」
手を添えて操作する。
つむぎ「うごいたー!」
北斗「うん、上手」
優しく言う。
〇〇「……」
横で見てる。
ちょっとびっくりした顔。
〇〇「そんな感じなんだ」
北斗「何が」
〇〇「子ども相手」
北斗「普通だろ」
そら「ほくとやさしい!」
北斗「……まあな」
否定しない。
つむぎ、腕にくっつく。
つむぎ「ほくとー」
北斗「ん?」
つむぎ「だっこ」
北斗「……」
一瞬だけ間。
でも—
北斗「いいぞ」
ひょいっと抱き上げる。
つむぎ「わー!」
北斗「落ちんなよ」
優しく支える。
そら「いいなー!」
北斗「お前も来るか?」
そら「いく!」
北斗「はいはい」
バランス見ながら軽く引き寄せる。
〇〇「すご」
思わず声出る。
〇〇「慣れてるじゃん」
北斗「まあな」
つむぎ「ほくとすきー」
北斗「……ありがと」
そら「ぼくもすき!」
北斗「はいはい」
少しだけ笑う。
その空気、
さっきまでよりずっと柔らかい。
〇〇「……」
そのまま見てる。
〇〇「……なんかいいね」
ぽつり。
北斗「……何が」
〇〇「こういうの」
北斗「……」
少しだけ目を逸らす。
北斗「……まあ」
短く。
でも—
その場の空気には、
ちゃんと馴染んでる。
ーー
時計を見ると、
16:30
気づけば時間が過ぎてる。
そら「ねえ」
ゲームの手を止める。
〇〇「なに?」
そら「〇〇ちゃんとほくとってさ」
北斗「……」
そら「いっしょにすんでるの?」
〇〇「え」
北斗「……」
一瞬止まる。
つむぎ「いっしょー?」
〇〇「いや、えっと」
ちょっと言葉詰まる。
北斗「住んでねえよ」
さらっと。
そら「じゃあなんでいるの?」
北斗「遊びに来てるだけ」
そら「ふーん」
〇〇「……そうそう」
つむぎ「おともだち?」
〇〇「うん、お友達」
つむぎ「なかよしー?」
〇〇「……」
ちょっとだけ間。
〇〇「……仲良し」
笑ってごまかす。
北斗「……」
そら「ぼくもいっしょにすみたい!」
〇〇「急だね」
そら「たのしいもん!」
つむぎ「たのしいー!」
〇〇「よかった」
北斗「……」
少しだけそのやり取り見る。
そら「ほくとやさしいし!」
北斗「……普通」
つむぎ「〇〇ちゃんもすきー」
〇〇「ありがと」
ぎゅっとされる。
〇〇「かわいい」
そら「じゃあさ」
〇〇「なに?」
そら「ずっとここいればいいじゃん!」
〇〇「……」
一瞬だけ止まる。
北斗「無理だろ」
そら「なんでー!」
北斗「それぞれ家ある」
そら「えー」
つむぎ「えー」
〇〇「また遊べるよ」
そら「ほんと?」
〇〇「うん」
つむぎ「またくるー」
〇〇「いいよ」
北斗「……」
その会話聞きながら、
少しだけ視線落とす。
“ずっとここいればいいじゃん”
その言葉が、
少しだけ残る。
北斗「……」
何も言わない。
でも—
どこか引っかかったまま。
そら「ねえねえ!」
北斗の背中にぴょんって乗る。
そら「おんぶして!」
北斗「……おい」
〇〇「いいじゃん」
そら「はやく!」
北斗「落ちんなよ」
背中にしっかり乗せる。
そら「やったー!」
つむぎ「つむぎも!」
北斗「一人ずつな」
つむぎ「やー!」
〇〇「じゃあ次ね」
つむぎをなだめる。
そら「いくよー!」
北斗「どこ行くんだよ」
そら「リビング!」
北斗「もういるだろ」
でも—
少し動く。
そら「はやいはやい!」
北斗「走ってねえよ」
〇〇「めっちゃ楽しそう」
笑ってる。
つむぎ「つむぎもー!」
〇〇「じゃあこっち来て」
しゃがむ。
〇〇「おいで」
つむぎ、ぴょこっと乗る。
〇〇「よいしょ」
つむぎ「わー!」
〇〇「重くなった?」
つむぎ「なってない!」
〇〇「軽い軽い」
そのままゆっくり動く。
そら「競争しよ!」
北斗「しねえ」
〇〇「いいじゃん」
北斗「やらねえ」
そら「やろー!」
北斗「……」
少しだけため息。
北斗「一回だけな」
そら「やったー!」
〇〇「いくよー?」
つむぎ「いくー!」
そら「よーい!」
北斗「待てって」
そら「どん!」
〇〇と北斗、同時に動く。
部屋の中をぐるっと。
そら「ほくとはやい!」
北斗「普通」
つむぎ「〇〇ちゃんも!」
〇〇「がんばるー」
笑いながら。
少し息上がる。
〇〇「ちょっと待って」
つむぎ「もういっかい!」
北斗「休ませろ」
そら「やだ!」
北斗「無理」
でも—
そら、まだ楽しそうにしがみつく。
北斗「……一回だけだぞ」
そら「やった!」
〇〇「体力あるね」
北斗「子どもはな」
つむぎ「たのしいー!」
〇〇「よかったね」
笑い声が広がる。
さっきまでの静かな空気とは違って、
完全に賑やか。
でも—
どこかあったかい時間が続いてる。
着信音。
〇〇「……あ」
スマホを見る。
〇〇「お姉ちゃん」
北斗「出ろ」
〇〇「うん」
通話。
〇〇「もしもーし」
お姉ちゃん「今向かってる!」
〇〇「はやいね」
お姉ちゃん「ちょっと巻いた!」
〇〇「そっか」
お姉ちゃん「あと15分くらいで着く!」
〇〇「了解」
お姉ちゃん「2人どう?」
〇〇「めっちゃ元気」
後ろで—
そら「もういっかい!」
つむぎ「やるー!」
お姉ちゃん「よかったー」
〇〇「大丈夫だよ」
お姉ちゃん「ほんとありがとね」
〇〇「うん」
通話切る。
〇〇「あと15分で来るって」
北斗「了解」
そら「えー!」
〇〇「なに」
そら「もうかえるの?」
〇〇「もうちょっとでね」
つむぎ「やだー」
〇〇「大丈夫また遊べるよ」
そら「ほんと?」
〇〇「うん」
つむぎ「またくる?」
〇〇「来ていいよ」
つむぎ「やった」
北斗「……」
少しだけそのやり取り見る。
そら「じゃあ最後!」
〇〇「なにする?」
そら「いっぱいあそぶ!」
北斗「今もやってるだろ」
そら「もっと!」
〇〇「元気だね」
北斗「体力おばけ」
つむぎ「おばけー!」
〇〇「違う違う」
笑いながら。
〇〇「じゃああとちょっとだけね」
そら「うん!」
つむぎ「うん!」
北斗「……」
小さく息吐く。
でも—
そのまま付き合う。
最後の時間、
少しだけ名残惜しい空気も混ざりながら、
にぎやかに流れていく。
インターホンが鳴る。
〇〇「来た」
立ち上がる。
そら「ママ!」
つむぎ「ママー!」
玄関へ走る。
〇〇「待って転ぶよ」
ドアを開ける。
お姉ちゃん「ただいまー!」
そら「おかえり!」
つむぎ「おかえりー!」
ぎゅっと抱きつく。
お姉ちゃん「いい子にしてた?」
そら「してた!」
つむぎ「してたー!」
〇〇「めっちゃ元気だったよ」
お姉ちゃん「よかったー」
中に入る。
お姉ちゃん「お邪魔しました」
北斗「いえ」
軽く会釈。
お姉ちゃん「ありがとうございます」
北斗「大丈夫です」
〇〇「もう帰る?」
お姉ちゃん「うん、今日は一回帰る」
そら「やだー」
つむぎ「やだー」
〇〇「また来れるよ」
そら「ほんと?」
〇〇「うん」
つむぎ「くるー」
〇〇「待ってる」
そら「ほくと!」
北斗「何」
そら「またあそぼ!」
北斗「……ああ」
つむぎ「ほくとー!」
北斗「ん」
つむぎ「すきー」
北斗「……ありがと」
軽く頭撫でる。
〇〇「よかったね」
北斗「……別に」
お姉ちゃん「すっかり懐いちゃって」
〇〇「人懐こいよね」
お姉ちゃん「ほんと助かった」
〇〇「大丈夫だよ」
お姉ちゃん「またお願いするかも」
〇〇「いつでも」
北斗「……」
横で聞いてる。
そら「〇〇ちゃんまたね!」
〇〇「またね」
つむぎ「ばいばい」
〇〇「ばいばい」
ドアが閉まる。
一気に静か。
〇〇「……」
少しだけ空気が抜ける。
〇〇「急に静か」
北斗「だな」
〇〇「……楽しかった」
北斗「……まあな」
少しだけ間。
〇〇「……似合ってたよ」
北斗「何が」
〇〇「おんぶとか」
北斗「……」
一瞬止まる。
北斗「……別に」
〇〇「優しかった」
北斗「普通」
〇〇「……」
ちょっと笑う。
〇〇「なんかいいね」
北斗「……」
返さない。
でも—
さっきの時間が、
少し残ってる空気のまま。
〇〇「……ねえ」
静かになったリビング。
北斗「何」
〇〇「お風呂入ったら?」
北斗「……は?」
〇〇「さっき動いてたし」
北斗「……」
自分の腕を見る。
少し汗。
北斗「……まあ」
〇〇「ほら」
〇〇「まだ泡あるよ」
北斗「いらねえ」
〇〇「えー使えばいいのに」
北斗「一人で十分だろ」
〇〇「楽しいのに」
北斗「知るか」
〇〇「……」
ちょっと笑う。
〇〇「じゃあ普通にお風呂でいいから」
北斗「最初からそう言え」
〇〇「言ってる」
北斗「言ってねえ」
〇〇「言ってる」
北斗「……」
小さくため息。
北斗「……分かったよ」
立ち上がる。
〇〇「やった」
北斗「別にお前のためじゃねえ」
〇〇「はいはい」
〇〇「タオルあるよ」
北斗「分かってる」
〇〇「着替えも」
北斗「分かってるって」
〇〇「ちゃんと温まってね」
北斗「母親か」
〇〇「違うけど」
ちょっと笑う。
北斗「……」
浴室の方に向かう。
その背中に—
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「さっきありがとね」
北斗「……何が」
〇〇「全部」
北斗「……」
少しだけ止まる。
北斗「……別に」
そのまま中へ。
ドアが閉まる。
〇〇「……」
ソファに戻る。
さっきまでの賑やかさと、
今の静けさ。
どっちも残ってるみたいに、
ゆっくり時間が流れていく。
ーーー
北斗side
ドアが閉まる。
静か。
北斗「……」
服を脱いで、
シャワーをひねる。
水音が広がる。
北斗「……」
頭から水をかぶる。
今日の音が、
少しずつ遠くなる。
笑い声。
子どもたちの声。
〇〇の声。
全部—
まだ残ってる。
北斗「……」
目を閉じる。
さっきの光景が浮かぶ。
背中にしがみつくそら。
腕の中のつむぎ。
笑ってた〇〇。
北斗「……」
小さく息を吐く。
北斗「……平和すぎだろ」
ぽつり。
でも—
嫌じゃない。
むしろ、
少しだけ心地いい。
北斗「……」
シャンプーを手に取る。
いつも通りの動き。
でも—
頭の中は静かじゃない。
“ずっとここいればいいじゃん”
子どもの言葉。
北斗「……」
手が一瞬止まる。
北斗「……無理だろ」
低く。
自分に言うみたいに。
北斗「……」
泡を流す。
視線が落ちる。
“仲良し?”
“うん、お友達”
〇〇の声。
北斗「……」
一瞬だけ表情が固まる。
北斗「……友達、ね」
小さく。
分かってる。
最初から。
それでも—
北斗「……」
“ありがと”
“助かってる”
“ちゃんといるよね?”
その一つ一つが残る。
北斗「……」
シャワーを止める。
静かになる。
北斗「……」
壁にもたれる。
北斗「……」
さっきの泡の“くま”、
ふと思い出す。
北斗「……くだらね」
でも—
少しだけ口元が緩む。
北斗「……」
すぐ戻す。
北斗「……」
タオルを取る。
顔を拭く。
北斗「……」
今日一日、
頭の中で整理しきれないまま。
でも—
確実に何かが動いてる。
北斗「……」
深く息を吐く。
北斗「……出るか」
小さく呟いて、
ドアに手をかける。
ドアが開く。
北斗、タオルで髪を拭きながら出てくる。
北斗「……」
洗面台の前に立つ。
ドライヤーを手に取る。
ブオーって音。
鏡越しに自分を見る。
北斗「……」
少し濡れた髪。
さっきまでのことがまだ残ってる顔。
北斗「……」
何も言わずに乾かす。
音だけが響く。
やがて—
止まる。
タオルで軽く整える。
北斗「……」
そのままリビングへ向かう。
静か。
さっきまでの賑やかさが嘘みたいに、
誰もいない空気。
北斗「……」
一歩踏み出した瞬間—
〇〇「わっ!」
ソファの陰から飛び出す。
北斗「っ!」
一瞬ビクッとする。
北斗「……は?」
〇〇「びっくりした?」
北斗「……」
数秒止まる。
北斗「……子どもかよ」
〇〇「成功?」
北斗「微妙」
〇〇「絶対びっくりしたじゃん」
北斗「してねえ」
〇〇「したって顔」
北斗「してねえ」
〇〇「した」
北斗「……」
小さく息を吐く。
北斗「……くだらね」
でも—
完全に怒ってない。
〇〇「待ってた」
北斗「なんで」
〇〇「なんとなく」
北斗「雑だな」
〇〇「いいじゃん」
ちょっと笑う。
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「髪いい感じ」
北斗「……」
一瞬だけ止まる。
北斗「普通」
〇〇「ちゃんと乾いてる」
北斗「当たり前だろ」
〇〇「えらい」
北斗「子ども扱いすんな」
〇〇「さっきしてたじゃん」
北斗「……」
言い返せない。
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「今日さ」
〇〇「まだ終わってないよね」
北斗「……」
少しだけ間。
北斗「……まだな」
〇〇「よかった」
その一言が—
やけに残る。
北斗「……」
何も言わない。
でも—
さっきより少し近い距離で、
同じ空間に立ってる。
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「今日さ」
少しだけ間を置く。
〇〇「ずっと一緒にいたね」
北斗「……まあな」
〇〇「変な感じ」
北斗「何が」
〇〇「最初は避難だったのに」
〇〇「もう普通にここいるの慣れてる」
北斗「……」
その言葉で少しだけ止まる。
北斗「慣れんなよ」
〇〇「え、なんで」
北斗「理由はねえ」
〇〇「変なの」
軽く笑う。
北斗「……」
視線を外す。
北斗「……」
ソファの背にもたれる。
北斗「お前さ」
〇〇「何」
北斗「普通にここで生活してんのな」
〇〇「うん」
即答。
北斗「違和感ないのが一番おかしい」
〇〇「もうないもん」
北斗「……」
少しだけ目を細める。
北斗「……そうかよ」
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「最初さ」
〇〇「怖かった?」
北斗「……」
一瞬止まる。
北斗「怖いとかじゃねえ」
〇〇「じゃあ何」
北斗「……めんどくせえなって思った」
〇〇「正直」
北斗「正直」
〇〇「ひど」
北斗「事実」
〇〇「でも今は?」
北斗「……」
その問いにはすぐ返さない。
北斗「……別に」
〇〇「またそれ」
北斗「うるせえ」
〇〇「ふふ」
軽く笑う。
でもその笑いのあと、
少しだけ静かになる。
〇〇「でもさ」
北斗「何」
〇〇「ここ、落ち着く」
北斗「……」
その一言に、
今度は北斗が少しだけ黙る。
北斗「……勝手にそう思ってろ」
〇〇「うん」
素直に頷く。
〇〇「ねえ北斗」
北斗「何」
〇〇「今日さ」
〇〇「終わるの、ちょっと嫌かも」
北斗「……」
視線が一瞬だけ動く。
北斗「……知らねえよ」
〇〇「冷たい」
北斗「いつも通りだろ」
〇〇「うん」
でも笑ってる。
〇〇「でもさ」
〇〇「また明日もこうならいいのにね」
北斗「……」
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「夜ご飯さ」
〇〇「韓国のラーメン食べたい」
北斗「……また急だな」
〇〇「いいでしょ」
北斗「今から?」
〇〇「うん」
北斗「辛いぞ」
〇〇「好き」
北斗「ほんとかよ」
〇〇「ほんと」
北斗「……」
少しだけ考える。
北斗「あるのか」
〇〇「あると思う」
北斗「適当だな」
〇〇「見に行こ」
立ち上がる。
北斗「おい」
〇〇「冷蔵庫?」
北斗「冷蔵庫な」
キッチンへ移動。
〇〇が勝手に開ける。
〇〇「あった!」
北斗「ほらな」
〇〇「さすが」
北斗「偶然だろ」
〇〇「作って」
北斗「自分でやれ」
〇〇「えー」
北斗「お前辛いの好きなんだろ」
〇〇「好きだけど作るのは別」
北斗「意味わかんねえ」
〇〇「お願い」
北斗「……」
少しだけため息。
北斗「一回だけな」
〇〇「やった」
コンロに鍋を出す。
北斗「見てろよ」
〇〇「見る」
北斗「危ねえから触るな」
〇〇「子ども扱いしないで」
北斗「子どもみたいなことするからだろ」
〇〇「違うし」
北斗「はいはい」
お湯を沸かす音。
ぐつぐつ。
〇〇「いい匂いしそう」
北斗「まだ何もしてねえ」
〇〇「雰囲気」
北斗「雑」
〇〇「ふふ」
少しだけ静かになる。
でも—
隣にいる距離はそのまま。
北斗「……」
ふと横を見る。
〇〇は鍋をじっと見てる。
楽しそうに。
北斗「……ほんと好きだな」
〇〇「ん?」
北斗「こういうの」
〇〇「うん」
即答。
〇〇「一緒に食べるのがいい」
北斗「……」
その言葉に、
少しだけ手が止まる。
北斗「……そうかよ」
小さく。
お湯が沸く音だけが続く。
夜ご飯は、
また少しだけ日常みたいに始まっていく。
〇〇「よし、完成」
テーブルじゃなくてソファにトレーを置く。
北斗「そこかよ」
〇〇「ここがいい」
北斗「行儀悪い」
〇〇「オフの日だからいいの」
北斗「理由になってねえ」
〇〇「ほら座って」
北斗「はいはい」
ソファに並んで座る。
湯気の立つ韓国ラーメン。
赤いスープ。
〇〇「いただきます」
北斗「いただきます」
一口。
〇〇「……っ」
すぐ止まる。
〇〇「からっ」
北斗「だから言ったろ」
〇〇「でもおいしい」
北斗「我慢してんだろ」
〇〇「してない」
北斗「してる顔」
〇〇「してないって」
もう一口いく。
〇〇「……っ、でもうまい」
北斗「強がり」
〇〇「違う」
北斗「無理すんな」
〇〇「無理してない」
でも少しだけ水飲む。
北斗「素直じゃねえな」
〇〇「北斗は余裕そうじゃん」
北斗「慣れてるだけ」
〇〇「すご」
北斗「すごくねえ」
隣で普通に食べてる北斗。
全然表情変わらない。
〇〇「なんでそんな平気なの」
北斗「辛いの好きじゃねえよ」
〇〇「え」
北斗「普通」
〇〇「うそ」
北斗「うそじゃねえ」
〇〇「でも平気じゃん」
北斗「慣れ」
〇〇「ずる」
北斗「何が」
〇〇「かっこいい」
北斗「……」
一瞬止まる。
北斗「やめろ」
〇〇「ほんとに」
北斗「うるせえ」
でも—
少しだけ耳が赤い。
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「これさ」
〇〇「一緒に食べると余計おいしいね」
北斗「……」
少しだけ視線を外す。
北斗「……知らねえよ」
〇〇「知ってるくせに」
北斗「知らねえ」
〇〇「ふふ」
笑いながら食べる。
辛いのに、
ちょっと嬉しそうで、
ちょっと必死で、
でも楽しそう。
北斗はそれを横で見ながら、
何も言わずに食べ続ける。
でも—
さっきより少しだけ、
スピードはゆっくりになってる。
〇〇「……無理」
北斗「だから言っただろ」
〇〇「辛すぎる」
涙目。
箸止まる。
北斗「残せばいい」
〇〇「でももったいない」
北斗「じゃあ食え」
〇〇「やだ」
北斗「わがまま」
〇〇「だってほんと辛い」
ちょっと拗ねる。
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「食べて」
北斗「自分で食え」
〇〇「無理」
北斗「……」
少しだけ見る。
〇〇、完全に諦め顔。
〇〇「お願い」
北斗「……」
ため息。
北斗「貸せ」
〇〇「やった」
そのまま器を少し寄せる。
北斗「ほら」
〇〇「……あーん」
北斗「は?」
〇〇「食べて」
北斗「自分でやれ」
〇〇「辛くて持てない」
北斗「嘘つけ」
〇〇「ほんと」
じっと見上げる。
完全にやる気ない顔。
北斗「……」
一瞬固まる。
北斗「……お前な」
〇〇「ねえ」
北斗「……」
スプーンを取る。
北斗「一回だけな」
〇〇「やった」
北斗「調子乗るな」
〇〇「はーい」
すくう。
北斗「ほら」
〇〇「……」
口を開ける。
〇〇「……あむ」
北斗「……」
少しだけ見下ろす。
北斗「食えよ」
〇〇「うん」
もぐもぐ。
〇〇「……ん、おいしい」
北斗「今さらかよ」
〇〇「やっぱ辛いけど」
北斗「だから言った」
〇〇「でもこれで食べられる」
北斗「甘えんな」
〇〇「甘えてない」
北斗「十分してる」
〇〇「ねえもう一口」
北斗「やらねえ」
〇〇「えー」
北斗「自分でやれ」
〇〇「……」
ちょっと考える。
〇〇「じゃあ半分だけ」
北斗「意味わかんねえ」
〇〇「お願い」
北斗「……」
またため息。
北斗「ほんと面倒くせえな」
〇〇「やった」
スプーンを持つ北斗。
〇〇は横で口開けて待ってる。
北斗「……」
一瞬だけ見て、
スプーンを運ぶ。
北斗「ほら」
〇〇「ありがと」
素直に食べる。
北斗「……」
何も言わずに、
また自分の分を食べ始める。
でも—
少しだけ、
口元が緩んでるのは隠せてない。
〇〇「ふぅ……」
スープを飲み干して、器をテーブルに置く。
〇〇「食べた……」
北斗「だから言っただろ」
〇〇「でも最後までいけた」
北斗「半分以上俺だろ」
〇〇「それは言わないで」
北斗「事実」
〇〇「協力って言って」
北斗「言わねえ」
〇〇「けち」
北斗「はいはい」
北斗も最後の一口を食べ終えて、箸を置く。
北斗「ごちそうさま」
〇〇「ごちそうさまでした」
一瞬、静かになる。
ソファの上。
食べ終わった器だけが残ってる。
〇〇「……お腹いっぱい」
北斗「そりゃな」
〇〇「でもちょっと幸せ」
北斗「何が」
〇〇「一緒に食べたから」
北斗「……」
その言葉で、手が止まる。
北斗「……大げさ」
〇〇「ほんとだよ」
軽く笑う。
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「片付けどうする?」
北斗「後でいい」
〇〇「じゃあ今は休憩?」
北斗「勝手にしろ」
〇〇「じゃあする」
そのままソファに寄りかかる。
〇〇「……あー」
完全に脱力。
〇〇「辛かったけどおいしかった」
北斗「どっちだよ」
〇〇「どっちも」
北斗「雑」
〇〇「いいじゃん」
北斗「はいはい」
少しだけ沈黙。
でも気まずくない。
むしろ、ゆるい。
〇〇「ねえ北斗」
北斗「何」
〇〇「今日さ」
北斗「……」
〇〇「ほんとずっと一緒だったね」
北斗「……そうだな」
〇〇「なんか変な日」
北斗「いつもだろ」
〇〇「うん」
笑う。
〇〇「でも好きかも」
北斗「何が」
〇〇「こういう日」
北斗「……」
返事はすぐ出ない。
北斗「……知らねえ」
短く。
でも否定はしない。
そのまま二人、
片付けもせずにソファに座ったまま。
静かで、
少しだけ満ちた夜の空気が流れている。
時刻はあっという間に20:00
〇〇「ねぇ、恋バナしよ」
北斗「何」
〇〇「恋バナ続き」
北斗「まだやるのかよ」
〇〇「うん」
〇〇「お題変える」
北斗「勝手だな」
〇〇「好きな人と何したいか」
北斗「……」
一瞬だけ間。
北斗「急だな」
〇〇「いいじゃん」
北斗「またそれか」
〇〇「ほら、考えて」
北斗「……」
ソファにもたれたまま、視線を上げる。
北斗「別に」
〇〇「ちゃんと言って」
北斗「普通に過ごすだけだろ」
〇〇「それだけ?」
北斗「それだけ」
〇〇「つまんない」
北斗「うるせえ」
〇〇「えー」
〇〇「でもさ」
〇〇「一緒に何したいとかないの?」
北斗「……」
少しだけ考える。
北斗「……飯食うとか」
〇〇「地味」
北斗「うるせえ」
〇〇「もっとあるでしょ」
北斗「ない」
〇〇「絶対ある」
北斗「お前が決めんな」
〇〇「ふふ」
楽しそうに笑う。
〇〇「じゃあ私言うね」
北斗「何だよ」
〇〇「私はね」
〇〇「一緒にだらだらしたい」
北斗「今と同じじゃねえか」
〇〇「そう」
〇〇「でもそれがいいの」
北斗「……」
少しだけ目線を外す。
〇〇「あとさ」
北斗「何」
〇〇「一緒にご飯食べたり」
〇〇「たまに出かけたり」
北斗「普通だな」
〇〇「普通でいいの」
〇〇「安心するから」
北斗「……」
その言葉で一瞬止まる。
〇〇「ねえ北斗は?」
北斗「何が」
〇〇「そういうの」
北斗「……」
少しだけ沈黙。
北斗「別に変わんねえよ」
〇〇「え?」
北斗「一緒にいるだけだろ」
〇〇「ふーん」
軽く笑う。
〇〇「それが一番いいのかもね」
北斗「知らねえよ」
〇〇「でもさ」
〇〇「そういう人いるのいいよね」
北斗「……」
その言葉に、視線が少しだけ動く。
北斗「お前は?」
〇〇「私?」
少しだけ間。
〇〇「……いるよ」
北斗「……」
分かってる。
何回も聞いてきた話。
相談も、全部。
〇〇「廉」
北斗「……ああ」
もう何度目か分からない名前。
でも—
慣れない。
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「前も言ったけどさ」
北斗「……」
〇〇「まだ好きだと思う?」
北斗「……」
またそれか、って顔。
でも無視はしない。
北斗「思ってるから悩んでんだろ」
〇〇「……」
ちょっとだけ考える。
〇〇「だよね」
北斗「何回目だよその確認」
〇〇「だってさ」
〇〇「分かんなくなるんだもん」
北斗「……」
知ってる。
この流れも、全部。
〇〇「一緒にいたらさ」
〇〇「楽しいし」
〇〇「安心するし」
〇〇「戻りたいなって思う時もある」
北斗「……」
〇〇「でも」
北斗「……」
〇〇「なんか違う気もする」
北斗「……」
〇〇「ねえこれってさ」
〇〇「好きなのかな」
北斗「……」
一瞬だけ目を閉じる。
北斗「……好きじゃねえのにそんな考えねえだろ」
〇〇「……そっか」
素直に受け取る。
その素直さが一番きつい。
〇〇「やっぱり戻った方がいいかな」
北斗「……」
一瞬、言葉詰まる。
でも—
北斗「……お前がそうしたいならな」
〇〇「……」
〇〇は少しだけ考える。
〇〇「北斗ならどうする?」
北斗「……」
この質問も、何回目か分からない。
北斗「……知らねえよ」
〇〇「ちゃんと答えて」
北斗「……」
少しだけ苛立ち混ざる。
北斗「……自分で決めろよ」
〇〇「……」
〇〇、ちょっとだけ黙る。
でも—
〇〇「北斗の意見聞きたい」
まっすぐ。
悪気ゼロ。
北斗「……」
その顔見て、
強く言えなくなる。
北斗「……戻りたいって思うなら戻ればいい」
〇〇「……」
〇〇「でもさ」
〇〇「それって“寂しいから”だったら?」
北斗「……」
刺さる。
北斗「……それでも理由にはなるだろ」
〇〇「……」
〇〇「じゃあさ」
〇〇「今みたいに誰かがいるから迷ってるって場合は?」
北斗「……」
一瞬、止まる。
北斗「……」
視線、逸らす。
北斗「……誰だよ」
〇〇「え?」
北斗「その“誰か”」
〇〇「……」
少しだけ間。
〇〇「……北斗とか」
北斗「……」
空気、止まる。
〇〇「だってさ」
〇〇「今ずっと一緒じゃん」
〇〇「楽だし」
〇〇「安心するし」
〇〇「……」
少しだけ笑う。
〇〇「なんか普通に一緒にいすぎて」
〇〇「分かんなくなる」
北斗「……」
心臓が一瞬だけ強く鳴る。
でも—
北斗「……それは違うだろ」
〇〇「え」
北斗「今のは状況が特殊なだけだ」
〇〇「……」
〇〇「そうかな」
北斗「そう」
即答。
自分に言い聞かせるみたいに。
〇〇「……」
少しだけ静か。
〇〇「でもさ」
北斗「……」
〇〇「北斗といるの、嫌じゃない」
北斗「……」
〇〇「むしろ好き」
北斗「……」
一瞬、息止まる。
でも—
〇〇「友達としてね」
北斗「……」
分かってた。
分かってたのに—
ちゃんと刺さる。
北斗「……知ってる」
短く。
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「私さ」
北斗「……」
〇〇「どうしたらいいと思う?」
北斗「……」
またそれ。
また頼る。
また—
自分に聞く。
北斗「……」
少しだけ黙る。
ほんとは—
言いたい。
“やめとけ”
“戻るな”
“俺にしろ”
でも—
北斗「……」
全部飲み込む。
北斗「……好きなら戻ればいい」
〇〇「……」
〇〇はじっと見る。
〇〇「ほんとにそう思ってる?」
北斗「……」
一瞬だけ詰まる。
でも—
北斗「……思ってる」
嘘。
でも—
これが一番“正しい答え”。
〇〇「……そっか」
少しだけ安心した顔。
その顔が—
一番きつい。
〇〇「ありがと」
北斗「……」
何も返さない。
〇〇「やっぱり北斗に相談してよかった」
北斗「……」
その言葉で、
少しだけ目を伏せる。
北斗「……」
“相談役”
それが自分の立ち位置。
北斗「……」
小さく息を吐く。
北斗「……それでいいならな」
〇〇「?」
〇〇「何?」
北斗「……別に」
それ以上言わない。
言えない。
〇〇「……ねえ」
北斗「何」
〇〇「また相談していい?」
北斗「……」
一瞬だけ間。
断ればいいのに—
北斗「……好きにしろ」
〇〇「ありがと」
〇〇「また相談していい?」
北斗「……好きにしろ」
〇〇「ありがと」
少しだけ笑う。
〇〇「……ねえ」
北斗「何」
〇〇「今さ」
北斗「……」
〇〇「連絡したら迷惑かな」
北斗「……誰に」
〇〇「廉」
北斗「……」
一瞬止まる。
北斗「……好きにしろ」
〇〇「冷たい」
北斗「普通」
〇〇「……」
スマホ見て少し考える。
〇〇「……やめとこ」
北斗「……そうかよ」
〇〇「うん」
軽く伸びする。
〇〇「なんか今日さ」
北斗「……」
〇〇「変にドキドキする日だね」
北斗「知らねえよ」
〇〇「絶対なんかあるって」
北斗「ねえよ」
〇〇「ある」
ちょっと笑う。
その瞬間—
バチッ
電気が落ちる。
〇〇「え」
北斗「……停電か」
真っ暗。
〇〇「うそでしょ」
北斗「落ち着け」
〇〇「見えないんだけど」
北斗「俺もだよ」
〇〇「ちょっと動くね」
北斗「動くなって」
ガンッ
〇〇「いっ」
北斗「おい」
手首を掴む。
〇〇「……あ」
北斗「だから言ったろ」
そのまま引き寄せる。
距離、かなり近い。
〇〇「……ごめん」
北斗「いいからじっとしてろ」
〇〇「……うん」
〇〇、無意識に北斗の服を軽く掴む。
〇〇「暗いね」
北斗「当たり前だろ」
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「懐中電灯とかないの?」
北斗「あるけど遠い」
〇〇「取りに行く?」
北斗「お前が転ぶ」
〇〇「確かに」
少しだけ笑う。
〇〇「じゃあこのままでいいや」
北斗「……」
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「ほんとにいる?」
北斗「いる」
〇〇「ならいいや」
あっさり。
北斗「……」
その軽さに少しだけ止まる。
〇〇「なんかさ」
北斗「……」
〇〇「普通に安心する」
北斗「……そうかよ」
〇〇「うん」
そのまま数秒。
静か。
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「さっきの話さ」
北斗「……」
〇〇「やっぱ今じゃない気がする」
北斗「何が」
〇〇「廉」
北斗「……」
〇〇「なんか今連絡するの違う」
北斗「……」
〇〇「タイミングってあるじゃん」
北斗「……あるな」
〇〇「でしょ」
〇〇「だから今はいいや」
北斗「……そうかよ」
〇〇「うん」
そのまま少し沈黙。
〇〇「……ねえ」
北斗「何」
〇〇「ちょっと寒い」
北斗「……」
北斗、軽く肩を寄せる。
〇〇「……あったか」
北斗「風邪ひくなよ」
〇〇「ひかない」
〇〇、普通に寄る。
北斗「……」
〇〇「こういうのさ」
北斗「……」
〇〇「ちょっと非日常で面白いね」
北斗「面白がるな」
〇〇「だって真っ暗だよ?」
北斗「子どもか」
〇〇「さっきいたじゃん子ども」
北斗「関係ねえ」
〇〇「ふふ」
少し笑う。
その時—
ゴロッ
雷。
一瞬光る。
一瞬だけ顔が見える距離。
でも〇〇は—
〇〇「わ、今見えた」
北斗「……ああ」
〇〇「近いね」
北斗「……」
〇〇「まあいいや」
さらっと。
また暗くなる。
北斗「……」
逆にその反応で少し詰まる。
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「これいつ戻るんだろ」
北斗「知らねえ」
〇〇「長かったら寝るしかないね」
北斗「このままかよ」
〇〇「暗いけど寝れるでしょ」
北斗「お前な」
〇〇「ふふ」
そのまま寄ったまま。
自然に。
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「ほんとにいるよね」
北斗「いるって」
〇〇「なら大丈夫」
またあっさり。
北斗「……」
その言葉だけ残る。
数秒後—
パッ
電気が戻る。
〇〇「お、戻った」
普通に離れる。
〇〇「よかったー」
伸びする。
北斗「……」
少し遅れて距離取る。
〇〇「ねえ見て」
北斗「何」
〇〇「ここぶつけた」
腕見せる。
北斗「だから言ったろ」
〇〇「でも大丈夫」
北斗「……」
軽く腕掴んで見る。
北斗「赤くなってる」
〇〇「ほんと?」
北斗「ほんと」
〇〇「まあそのうち治る」
気にしてない。
北斗「……」
手を離す。
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「さっきの続きしよ」
北斗「……は?」
〇〇「恋バナ」
北斗「まだやるのかよ」
〇〇「やる」
北斗「元気だな」
〇〇「だって暇だもん」
ソファに戻る。
〇〇「ほら座って」
北斗「……はいはい」
隣に座る。
〇〇「でさ」
北斗「……」
〇〇「廉どう思う?」
北斗「……」
さっきの距離も空気も、
なかったみたいに戻る。
北斗「……いいやつだろ」
〇〇「でしょ」
普通に笑う。
でも—
北斗の中だけ、
さっきの距離が消えないまま。
〇〇「もう23時じゃん」
北斗「だな」
〇〇「寝よ」
北斗「おう」
〇〇、立ち上がる。
〇〇「ベッド行こ」
北斗「はいはい」
部屋に入る。
大きいクイーンサイズのベッド。
〇〇「ほんと広いよねこれ」
北斗「お前が言い出して買ったやつな」
〇〇「だって二人で寝るなら広い方がいいじゃん」
北斗「……」
〇〇「正解だったでしょ」
北斗「まあな」
〇〇「でしょ」
当たり前みたいにベッドに乗る。
〇〇「ふかふか」
北斗「毎回言うな」
〇〇「だっていいもん」
〇〇、布団に潜る。
〇〇「ほら北斗も」
北斗「分かってる」
反対側から入る。
〇〇「……あったか」
北斗「まだそこまで寒くねえだろ」
〇〇「気分」
北斗「雑だな」
少しだけ静か。
〇〇「……ねえ」
北斗「何」
〇〇「今日さ」
北斗「……」
〇〇「楽しかったね」
北斗「……まあな」
〇〇「子どもたちも来たし」
北斗「賑やかだったな」
〇〇「うん」
ちょっと笑う。
〇〇「北斗めっちゃ優しかった」
北斗「普通だ」
〇〇「つむぎちゃん懐いてたじゃん」
北斗「……勝手にだろ」
〇〇「ふふ」
少し間。
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「こうやってさ」
〇〇「普通に一緒に寝るのも慣れたね」
北斗「……」
一瞬だけ止まる。
北斗「慣れるなよ」
〇〇「え、なんで」
北斗「なんでも」
〇〇「変なの」
〇〇、少しだけ近づく。
でも自然に。
〇〇「……ねえ」
北斗「何」
〇〇「ちゃんといる?」
北斗「いる」
〇〇「……うん」
それだけで安心したみたいに目閉じる。
少し静か。
〇〇「……あ」
北斗「何」
〇〇「髪乾かしたのにちょっと湿ってるかも」
北斗「ちゃんとやれよ」
〇〇「やったもん」
北斗「甘いんだよ」
〇〇「うるさい」
ちょっとだけ笑う。
そのまま—
〇〇、寝返り打つ。
無意識に。
北斗の方へ。
北斗「……」
距離が少し近くなる。
〇〇「……」
もう半分寝てる。
北斗「……おい」
返事なし。
北斗「……」
少しだけため息。
でも—
離さない。
そのまま。
〇〇の呼吸、ゆっくりになる。
北斗「……寝るの早すぎ」
小さく。
〇〇「……ん…」
少しだけ動く。
そのまま—
軽く腕に触れる。
北斗「……」
一瞬固まる。
でも—
そのままにする。
北斗「……ほんと」
小さく。
北斗「……無防備すぎ」
目線逸らす。
でも—
どかさない。
外は静か。
部屋の中も静か。
〇〇の寝息だけが少し近くにある。
北斗「……」
天井を見る。
今日一日思い出す。
北斗「……」
少しだけ息を吐く。
北斗「……まあいいか」
小さく。
そのまま目閉じる。
北斗「……おやすみ」
届かないくらいの声。
でも—
隣にはちゃんといる。
変わらない距離で、
そのまま夜が深くなる。
ーー
北斗「……」
ふと、目が覚める。
暗い部屋。
時計を見る。
北斗「……3時」
小さく息を吐く。
北斗「……なんで起きた」
ぼんやりしたまま—
違和感。
北斗「……」
視線を横に向ける。
〇〇「……」
寝てる。
でも—
北斗「……は?」
完全に近い。
さっきまでの距離じゃない。
クイーンサイズの意味が消えてる。
北斗「……おい」
小さく呼ぶ。
反応なし。
〇〇、完全に無意識。
しかも—
北斗「……」
腕、掴まれてる。
ぎゅっと。
北斗「……」
少し動かそうとする。
でも—
〇〇「……ん……」
少しだけ力が強くなる。
北斗「……」
固まる。
北斗「……寝相どうなってんだよ」
小さく。
さらに—
〇〇、足も絡んできてる。
北斗「……いや待て」
完全にホールド状態。
北斗「……おい」
もう一回。
北斗「〇〇」
返事なし。
〇〇「……すぅ……」
完全に熟睡。
北斗「……」
天井を見る。
北斗「……嘘だろ」
でも—
振り払えない。
起こすほどでもない。
北斗「……」
少しだけ顔横に向ける。
距離、近い。
近すぎる。
北斗「……」
息止まる一瞬。
北斗「……」
ゆっくり息吐く。
北斗「……落ち着け」
自分に言う。
でも—
〇〇、さらに寄る。
北斗「……っ」
一瞬固まる。
北斗「……お前ほんと」
小さく。
北斗「……無防備すぎ」
でも—
そのまま。
離さない。
というか、
離せない。
北斗「……」
視線泳ぐ。
北斗「……」
どうすることもできず、
そのまま固まる。
〇〇「……ん…」
少しだけ顔動く。
北斗の肩あたりに軽く触れる。
北斗「……」
完全停止。
北斗「……寝てるよな」
確認するみたいに小さく。
〇〇「……すぅ……」
寝てる。
完全に。
北斗「……だよな」
力抜ける。
でも—
状況は変わらない。
北斗「……」
少しだけ目閉じる。
北斗「……3時にこれはきつい」
小さく。
でも—
嫌じゃない自分に気づく。
北斗「……」
小さく息吐く。
北斗「……ほんと」
北斗「……勘弁しろ」
そう言いながら—
結局動かない。
〇〇の寝息をそのまま感じながら、
目を閉じる。
北斗「……」
さっきより近い距離。
でも—
そのまま。
北斗「……寝るか」
小さく呟いて、
ゆっくり意識を落としていく。
静かな夜の中、
少しだけ距離が近いまま—
また眠りに落ちていく。
北斗「……」
目、閉じてるのに—
全然眠れない。
北斗「……はぁ」
小さく息を吐く。
理由は分かってる。
すぐそこに—
〇〇「……すぅ……」
寝息。
近い。
さっきより、さらに近い。
北斗「……」
目を開ける。
暗闇の中でも分かる距離。
北斗「……近すぎだろ」
小さく。
でも—
〇〇、また動く。
無意識に。
北斗の方へ。
北斗「……っ」
距離がさらに詰まる。
顔、ほぼ同じ高さ。
北斗「……おい」
小さく呼ぶ。
反応なし。
〇〇「……ん……」
寝てる。
完全に。
北斗「……」
息、少し止まる。
視線、逸らそうとする。
でも—
逸らしきれない。
北斗「……」
近い。
近すぎる。
北斗「……」
ほんの少し動いたら—
触れる距離。
北斗「……」
無意識に、
少しだけ顔が動く。
自分でも気づかないくらい。
北斗「……」
止まる。
一瞬で我に返る。
北斗「……何やってんだよ」
小さく。
ぐっと視線逸らす。
でも—
〇〇、また少し動く。
北斗の胸元に軽く寄る。
北斗「……っ」
完全に固まる。
北斗「……」
息が浅くなる。
北斗「……無理だろこれ」
小さく。
でも—
離せない。
起こせない。
北斗「……」
ゆっくり息吐く。
北斗「……」
視線、もう一度だけ向く。
すぐそこ。
寝てる顔。
無防備すぎる。
北斗「……」
一瞬だけ—
時間が止まったみたいになる。
北斗「……」
ほんの少しだけ、
距離がさらに近づく。
でも—
北斗「……っ」
止まる。
ギリギリで。
北斗「……ダメだろ」
低く。
自分に言い聞かせる。
北斗「……」
目を閉じる。
北斗「……ほんと」
北斗「……勘弁しろって」
でも—
そのまま動かない。
〇〇の体温、
呼吸、
全部すぐ近く。
北斗「……」
しばらくして、
やっと少し落ち着く。
北斗「……寝ろ」
自分に言う。
そのまま、
無理やり目を閉じる。
でも—
完全には眠れないまま、
ただ時間だけがゆっくり過ぎていく。
北斗「……」
すぐそこにいる。
〇〇「……すぅ……」
寝てる。
無防備なまま。
北斗「……」
ほんの少しだけ、
手が動く。
髪に触れるか触れないかの距離で—
止まる。
北斗「……」
視線、落ちる。
近い。
近すぎる。
北斗「……」
一瞬だけ、
迷う。
でも—
北斗「……やめとけ」
小さく。
自分に言い聞かせるみたいに。
北斗「……」
ゆっくり、
手を引く。
距離はそのまま。
触れないまま。
北斗「……」
目を閉じる。
でも—
すぐには眠れない。
北斗「……」
小さく息を吐く。
北斗「……ほんと」
北斗「……勘弁しろって」
それでも—
離れない。
離さない。
そのまま、
触れそうで触れない距離のまま、
静かな夜が続いていく。
北斗「……」
また、目が開く。
ぼんやりした視界。
外、少しだけ明るい。
北斗「……何時」
手探りでスマホを見る。
北斗「……5時」
小さく息を吐く。
北斗「……寝れてねえ」
そのまま天井を見る。
でも—
違和感。
北斗「……」
視線を横にずらす。
〇〇「……すぅ……」
まだ寝てる。
でも—
北斗「……は?」
さっきと違う。
明らかに違う。
北斗「……なんでだよ」
クッション—
ない。
どっかに落ちてる。
完全に消えてる境界線。
北斗「……」
距離、ゼロ。
いや—
それどころじゃない。
〇〇、完全にくっついてる。
北斗の腕、抱えてる。
北斗「……」
固まる。
北斗「……おい」
小さく呼ぶ。
反応なし。
〇〇「……ん……」
少しだけ動く。
さらに密着。
北斗「……っ」
息止まる。
北斗「……マジかよ」
低く。
しかも—
北斗の腕、
〇〇の下に完全に入ってる。
抜けない。
北斗「……」
試しに少し動かす。
〇〇「……やだ……」
寝言。
ぎゅっと力入る。
北斗「……」
完全にロック。
北斗「……無理だろこれ」
でも—
起こすわけにもいかない。
北斗「……」
顔、少し横に向ける。
近い。
また—
近すぎる。
北斗「……」
さっきより距離がない。
ほぼ重なってる。
北斗「……」
ゆっくり息吐く。
北斗「……落ち着け」
自分に言う。
でも—
〇〇、さらに寄る。
北斗の胸元に顔埋めるみたいに。
北斗「……っ」
完全に固まる。
北斗「……お前ほんと」
北斗「……やめろって」
でも—
声に出しても意味ない。
寝てる。
北斗「……」
天井を見る。
北斗「……なんでこうなる」
小さく。
でも—
腕はそのまま。
どかさない。
北斗「……」
しばらくそのまま。
何もできず、
ただ時間だけが過ぎる。
北斗「……」
少しだけ視線落とす。
すぐそこにいる。
安心しきった顔。
北斗「……」
一瞬だけ、
力抜ける。
北斗「……」
小さく息を吐く。
北斗「……起きたら絶対何も覚えてねえな」
ぽつり。
でも—
それが分かってるからこそ、
余計に複雑。
北斗「……」
〇〇「……ん……」
寝返り。
北斗「……」
また動く気配。
次の瞬間—
〇〇、さらに近づく。
北斗「……っ」
距離がなくなる。
ほぼ触れる位置。
北斗「……おい」
小さく呼ぶ。
でも—
〇〇「……すぅ……」
完全に寝てる。
そのまま—
ふっと顔が寄る。
一瞬だけ—
柔らかい感触。
北斗のほっぺに軽く触れる。
北斗「……」
完全に停止。
北斗「……は?」
理解が追いつかない。
〇〇「……ん……」
何事もなかったみたいに、
また少しだけ動く。
そのまま—
北斗の近くに収まる。
北斗「……」
数秒、固まる。
北斗「……今の」
小さく。
北斗「……いや、寝てるよな」
確認するみたいに見る。
〇〇「……すぅ……」
完全に熟睡。
北斗「……」
視線逸らす。
北斗「……マジかよ」
小さく息を吐く。
でも—
どかさない。
そのまま。
北斗「……」
少しだけ顔触る。
さっきの感触、残ってる。
北斗「……」
目閉じる。
でも—
さっきより余計に眠れない。
北斗「……ほんと」
北斗「……勘弁しろって」
低く呟く。
北斗「……」
さっきの感触、
まだ残ってる。
北斗「……マジかよ」
小さく呟く。
〇〇「……すぅ……」
何も知らない顔で寝てる。
北斗「……」
じっと見る。
少しだけ近いまま。
北斗「……」
手が少し動く。
でも—
止まる。
北斗「……」
深く息を吐く。
北斗「……寝てる相手に何やってんだよ」
自分に言うみたいに。
北斗「……」
視線逸らす。
でも—
完全には離れない。
北斗「……」
ゆっくり、
少しだけ距離を取る。
ほんの少しだけ。
北斗「……」
それでもまだ近い。
北斗「……ほんと」
北斗「……無防備すぎ」
小さく。
そのまま—
目を閉じる。
さっきより心臓うるさいまま、
無理やり落ち着かせる。
北斗「……寝ろ」
その一言で、
なんとか目を閉じ続ける。
でも—
完全には眠れないまま、
朝がゆっくり近づいてくる。
北斗「……」
まだ緊張が抜けないまま—
〇〇「……ん……」
小さく動く。
北斗「……」
一瞬身構える。
でも次の瞬間—
〇〇、くるっと反対向く。
北斗「……」
腕の拘束が外れる。
足も離れる。
完全に—
解放。
北斗「……はぁ……」
思わず深く息を吐く。
北斗「……やっとかよ」
小さく。
さっきまでの距離が嘘みたいに、
一気に空間が空く。
北斗「……」
自分の腕、少し動かす。
自由に動くことに一瞬違和感。
北斗「……」
ベッドの端を見る。
クッション、下に落ちてる。
北斗「……意味ねえな」
小さく呟く。
〇〇「……すぅ……」
反対向いて、
何もなかったみたいに寝てる。
北斗「……」
その背中を見る。
さっきまでの近さと、
今の距離。
差が大きすぎて—
北斗「……」
少しだけぼーっとする。
北斗「……」
ゆっくり体を横に向ける。
距離、ちゃんとある。
北斗「……」
目閉じる。
北斗「……やっと寝れそうだな」
小さく。
さっきまでの鼓動も、
少しずつ落ち着いてくる。
北斗「……」
静かな部屋。
〇〇の寝息は聞こえるけど、
さっきより遠い。
北斗「……」
小さく息を吐く。
北斗「……おやすみ」
今度はちゃんと、
少しだけ眠りに落ちていく。
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第90話、おつかれさまです!読み終えて、心がぽかぽかになりました🫶 最初の「くま」の泡からもう愛おしくて、北斗くんの「似合ってる」がぼそっと出たところで思わずニヤついちゃいました。そらくんとつむぎちゃんが来てからの北斗くんの自然な優しさ、子どもを抱っこしたりおんぶしたりする姿に、〇〇ちゃんが「似合ってるよ」って言う気持ち、すごくわかります。 夜の停電、距離が近くなって「ちゃんといる?」の確認が何度も出てくるのが、二人の空気を象徴してるみたいで切なくて…そして5時の無意識のキス(?)には胸がきゅっとなりました。全体として「何もないけど全部ある」みたいな、あたたかくて苦しくて、でも優しい時間が流れてて、本当に素敵な話でした。いちごみるくさんの繊細な距離感の描き方、大好きです。
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