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yuka @猫耳メイド
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#あべさく
めかぶぷりん
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29
雪月❄️
365
食事を終えてから、また数時間後には衣吹に固定され、柊による催眠が遂行される。
「『実際に他者の異能を使用する場合のリスクはありますか?』」
💚「ある……自分の異能よりも、ずっと大きい……自分の異能と組み合わせて使った場合でも、数秒の使用ですら、疲労を感じる……めめの蔓を大量に出して数十分使ったら、熱暴走、した……」
「『全て、負荷がかかる時間や使用回数などは同じですか?』」
💚「違う……一般的な、疲労だけで制約のない異能は、使いやすい。でも、事象操作とか、制約の重いものは、数秒が限度……それ以上使えば、飽和暴走して、止められなくなる……」
「阿部亮平自身を壊しかねないから慎重にならないといけませんね。では最後。『使用には、あなたの意思は必要ですか?』」
💚「ない……基本は自分で選ぶ。でも、危険だと思って、無意識に使ったこともある……ただ、その時は、制約の強い異能が立て続けに使われて、飽和暴走になった……」
「衣吹。ここまでです」
パチンと指を鳴らせば、阿部の体が弛緩して、目の前にいた柊に寄り掛かる。
💚「あ、ごめ……」
「いいですよ。タイミングを誤ったのは衣吹ですから」
「ちょっと! オレになすりつけないでもらえる!?」
「ですが、これで大分、絞られましたね」
「無視すんな!」
「静かにしてください。君は久世に報告を」
ドアが開き、コツ、コツ、と靴音が響く。
「その必要はないよ、柊。ご苦労だった」
入って来たのは久世だ。ピリッと、空気が引き締まる。
「……久世。どのような御用で?」
「いえ。柊のおかげで、重要な情報を得られたので、次の段階へ移行しようと思ってね。衣吹、第二段階へ」
もう一度、衣吹がパチンと指を鳴らすと、両手首に巻き付いている鎖が明らかに長くなった。一体、何をするつもりなのか。そう思っているとドアが開き、茉奈とは別の少女がガラガラと音を立てながら椅子を運んできた。
無機質な目をした、色素の薄い水色の髪が特徴的な子。茉奈よりも年下だろうか。チャイナ服のようなワンピースを着ている、まるで人形のような雰囲気の少女だ。
「持って来た」
「ご苦労だったね、ルイ。では衣吹」
「へいへい」
衣吹が指を鳴らすと、阿部を拘束している鎖が波打ち、体が後方に引っ張られて椅子に座らされた。
鎖は両手首を体の前で一纏めにしたまま、腕ごと体を椅子に縛り付ける。更に鎖は這うように動き、足を開いた状態で左右の椅子の脚に縛り付けた。
💚「っ……毎度、乱暴にしてくれる……言えば自分から行くよ」
「これがオレのやり方なんでね」
💚「ホンット趣味悪」
「言ってろ。その余裕もここまでだ。ルイ」
そうして衣吹がルイの名前を呼ぶけれど、ルイはそこから微動だにしなかった。
「ルイ、来いって!」
「……」
「ルイ!」
「行きなさい、ルイ」
「はい」
いくら衣吹が声を張り上げても動かなかったルイは、久世の一言だけで簡単に動き、阿部の前に立つ。
「くっそ、面白くねえ」
吐き捨てるような衣吹の言葉に耳も貸さず、ルイは阿部に顔を近づけた。
そして、そっとルイの手が阿部の口と鼻を塞ぐように添えられる。逃れようと頭を振るけれど、椅子の背もたれに押し付けられていて、上手く外すことができない。何かが空気と一緒に入ってくるのがわかる。それと同時に、体の力が抜けた。弛緩したわけじゃない。体がビリビリと痺れている。
そこで阿部は、事務所の襲撃事件を思い出していた。あの時、爆発と共に粉のようなものが舞ったと深澤は言っていた。そして、体が痺れたと。同じだ。
つまり、あの時の粉はルイの異能によるもの。
阿部の抵抗が完全になくなったのを見計らって、ルイが手を離す。
「できた」
「いい子だ。では、異能封じの首輪を外してあげなさい」
言われるままにルイが阿部の首に手をかけ、異能封じの首輪を取り外す。
瞬間、阿部の目が碧色に変わり、バチバチと阿部の体を電気が取り巻いた。
「ほう。ここまで封じてもまだ、抵抗をするのか。実に素晴らしい。諦める気はないという意思をハッキリと感じる」
碧色の目で久世を見据える阿部。浅い呼吸を繰り返し、喋ることもできない。それでも、その目の輝きは消えない。
「いいでしょう。茉奈、マロウをここへ」
少しすると茉奈が一体の人形を持って部屋の中に入って来た。
精巧な作りのその人形に、阿部が目を丸くした。見覚えのある人形。それは、夏音と初めて会ったダイニングルームで持っていた人形と同じだった。
茉奈に差し出された、マロウと呼ばれた人形は滑らかな動きで久世の右腕を上って行くと、その肩にちょこんと座った。
「マロウ、阿部亮平のマテリア鑑定を」
〔分かった〕
少年のような少女のような、どこか冷めたような声が響く。それは、マロウから発せられていた。マロウの銀灰色の瞳がキラキラと輝く。
マテリア鑑定という言葉に、阿部の中で嫌な予感が脳裏に浮かんだ。それでも、動けないから止められない。
〔阿部亮平。マテリアの色は碧色。異能は《電磁気流》。電気を放出して操るのが基本。けれど、そこから応用して電磁波を操り、電磁シールドや電磁浮遊もできる。電波を扱うこともできるので、電波を張り巡らせて罠を探知したり、電波を発信して位置情報を特定の機器に送信したりもできる〕
「ふむ。フェデレートのおかげで精度がかなり増している。しかし、そうか。現段階で電気しか見えないということは、表に出ている異能を鑑定することしかできないのだろう……では、見せてもらおう。君の電脳を。その力を……」
阿部の体の周りで弾ける電気を気にも留めず、久世は阿部の額に触れる。
「Dominate」
その瞬間、阿部の視界が真っ暗になった。
久世が触れると、阿部の目の輝きが消えた。弾けていた電気は消え、元の黒目に戻っている。そして目は虚ろになり、表情も消え失せる。
これが久世の異能《支配》。柊が久世に視線を向けていると、久世は阿部から手を離した。
「……やはり、無理やり支配するのは、体に負担がかかる。支配を入れただけでこれでは、どちらが先に根負けするか……だが、これも試練なのだろう。マロウ、もう一度、鑑定を」
〔了解。阿部亮平。マテリアの色は緑。《電子回廊》の異能を持つ。電脳空間と呼ばれる場所で、様々なネットワークと繋がることで情報を得ることができる。ただし、ネットワーク上に存在しない情報は得られない。防犯カメラや車載カメラなど、電波を発する機器に接続し、その映像を見ることもできる〕
「ということは、通常は電子回廊で、電磁気流は使用時にしか現れないようだ。であれば、電脳を使う時にも変化は見られるということ。柊、阿部亮平の仲間に目黒蓮がいたね。彼の異能のデータを」
言われて、柊は茉奈からタブレットを受け取った。人形だけではなく、タブレットも一緒に持ってきていた。
「……目黒蓮の異能は《葉植》。蔓を出現させて操ることができます。蔓の先端の感覚を共有しているのか、蔓を伸ばした先のことを見聞きできるようです。木に触れると、その木が見ていた記憶を辿ることができます。ただし、葉のついている植物に限りますが。特定の制約はありません」
「では、それを見せてもらおうか。先ずは制約がない方がいい。阿部亮平。君が持つ電脳の本の中から、目黒蓮の異能を使用しなさい」
すると阿部の目がこれまでの二つと違い、翡翠のような翠色に輝く。
そして―――阿部の周囲に数十本の蔓が足元から生えてきた。
その光景に目を見開いたのは、久世だけではない。衣吹は恍惚とした表情になり、茉奈は思わず口を手で押さえ、柊は少しだけ眉間に皺を寄せた。
「素晴らしい。マロウ、鑑定を」
〔阿部亮平。マテリアの色は翠。異能とは違う、特殊な力、《電脳総命》。電脳総命とは、電子の異能、電気の異能、そして、阿部亮平の頭脳と探求心、記憶力、情報収集能力などあらゆるものが作用して生まれた未知の力。見た異能を探求し、考察し、阿部亮平の中で理解が出来た時に初めて、異能を蓄積する本《アルカナム》に追加される。アルカナムにある異能しか使用できず、使用も理解できた部分のみ〕
「ああ……だから、彼にしか使えないのか。異能もそうだが、頭脳だけでもいけない。その異能を根本から理解できなければ、蓄積すらされない。そして、理解できないと異能の全てを使うこともできない。とても魅力的で、とても厄介だ……阿部亮平、異能を解除しなさい」
久世の言葉に従うように、蔓は消えて目の色も黒に戻る。
それと同時に、久世の足から力が抜けたようにその場にしゃがみ込み、傍にいたルイが肩を貸している。
「……やはり、負荷が大きい。電脳総命の負荷は通常よりもずっと大きいと本人も言っていたが、それら全てがこちらへ返ってくるのも考え物だな。しかし、これで近づいた。あとは探し出せば良いのだから。琴波を、消さない方法を」
口元に笑みが浮かぶ。
それは恐らく、無意識のもの。それでも久世は立ち上がり、阿部を見下ろす。
「では、最終局面に移行するとしよう。ルイ、異能封じの首輪を付けてから、彼の粉を抜きなさい」
「わかった」
それだけを言い残して久世と茉奈は部屋から出て行き、好奇心に満ちた表情の衣吹と、阿部に首輪を付けているルイに視線を向けてから、柊もドアの方へと向かって行った。
その手にはスマホが握られている。
「ここまでです。あとは頼みますよ」
そう言って、柊はメッセージを送信した。
芙蓉―――月ノ宮琴波から語られたのは、久世朔哉との話だった。許嫁として生まれ育った二人は、お互いに惹かれ、二人だけが大切な存在になっていた。
「幸せが崩れたのは、わたくしが七歳の時。満月の夜、高熱にうなされたわたくしが授かったのは《成就》の異能。他者の願いを叶えることでわたくしの願いを叶えられる異能。その代償は、月の出ている間しか動けない、というものです」
🤍「……阿部ちゃんが言ってたね。月下美人みたいなんだろうって。だから、昼にも少しでも動けるように芙蓉って名乗ってるんだろうって」
「正解ですわ。さすが亮平様ですね。けれど、芙蓉と名乗り始めたのは数年前で、その頃のわたくしは、昼間は存在が認識されないほどに希薄でした。不安になった久世は、どこかから聞いた命の霊薬を探し始めたのです。命の霊薬とは神の如き力を持つ薬で、飲めばどんなものでも治り、不老長寿のようになれると、そう、久世は言っていましたわ」
💙「……俺が誘拐されたのも、あんたのせいか」
「結果的にはそうですわね。あの時は本当に、申し訳ないことを致しました」
💙「別に。あんたに謝ってもらうことじゃねえだろ」
「ありがとう存じます……それから久世は、しばらく実験を繰り返しておりました。命の霊薬に関係がありそうな異能力者を捕まえては実験し、失敗すると、また異能力者を捕まえて、と繰り返す。わたくしは、知りながらも止められませんでした。久世がわたくしのためにとしてくれている気持ちを、どうしても無碍にはできなかったのです」
💛「やってることは悪いこと。でも、気持ちを考えたら止められない……夏音の時と同じだな」
🩷「そうだね。夢幻ノ杜を経験したら、その考え方が分かっちゃう。でも、俺らは止めて芙蓉は止めなかった。その違いだね」
淡々と告げる佐久間に、芙蓉は少しだけ目を伏せた。
先ほど、自分の行動を恥じていると言っていた芙蓉は今も、その時のことを後悔しているのかもしれない。
「それから数年が経ったある日、わたくしと久世は不思議な現象に見舞われました。気が付いたら横断歩道の手前で、二人で立っていたのです。横断歩道の先には、不思議そうな親子。近くに停まっている車の運転手も辺りを見回していて、全員が、よく分からないという表情をしていたのです。記憶が曖昧で、何かとてつもないものを見たということしか思い出せませんでした。いくつもの異能が使われていたような気がしたのです。それは複数人ではなく、大人ではない人物が使用していた、と」
あっ、と、誰からともなく声が聞こえた。
けれど、その先を口にはしない。
「そこから久世は命の霊薬ではなく、三つ以上、複数の異能を使える者を捜し始めました。そして一年ほど前、彼が思わぬ情報を持って久世の許に来たのです。それが、相原衣吹。彼は高校の時に、異変の調査で来ていた男が、暴走しかけた女子生徒を謎の異能で止めた、と仰ったのです。それは男が持っている異能では説明がつかず、男は翡翠のような瞳をしていた、と」
🖤「まさか……阿部ちゃん? ってことは、あの時、あいつもあの視聴覚室にいたんだ……」
「ええ。本人が言っていましたよ。目黒蓮とは同じ高校だった。その時に、特務調査局の阿部亮平と渡辺翔太が調査に来て、阿部亮平が女子生徒の暴走を止めた、と。そこからです。久世が亮平様のことを調べ始めたのは」
そんなところで、久世と繋がるとは思っていなかった。
それに、今の話を聞いて思い返した目黒は、確かにあの時の阿部の目は電子の緑でも、電気の碧でもなく、電脳を使う時だけに見せる翡翠のような翠色をしていたことに気が付いた。あの時の視聴覚室から漏れた光は阿部の異能だったとしても、その他にアルカナムから拾って使用したのだろう。
「あとは皆さまもご存じでしょう? 様々な事件に、久世の手か、わたくしが介入しておりました。亮平様のことを知るために。亮平様の電脳を確定させるために。そして夢幻ノ杜で久世は、実際に亮平様が電脳を使うところを見てしまいました。その結果が、これですわ」
そうして芙蓉は言葉を締めくくった。
けれどこれで、全てが一本に繋がった。どうして阿部が狙われ続けたのか。どうして、阿部でなくてはならなかったのか。
全ての引き金が、阿部の飽和暴走にあったということも。
💜「で、なんで俺らにそんな話したの?」
「わたくしは止めたいのです。久世を。今の久世の目的は、わたくしのためではありません。命の霊薬の実験の中で、彼の精神はとうに壊れてしまったのです。今の久世は、わたくしを救うという目的のために動いていると、そう思い込んでいるだけなのです。わたくしの心は、ファントムを消した時に決別したというのに」
🤍「だから、久世側の人間であるファントムを消滅させたのか。芙蓉にとってあれは、久世への意思表示だったんだね」
「その通りです。ですから、皆様のお力を貸していただきたいのです。久世を止めるために。皆様の邪魔など致しません。どうか、お願いいたします」
そこで、芙蓉が頭を下げた。
心から信用できるわけではない。それでも、久世側の事情を知る芙蓉と行動を共にするのは特務調査局にとっても利点しかないのは明らかだ。
すると、目黒のスマホが僅かに震えた。着信ではなく、メッセージ。
スマホを取り出して画面を見た目黒が、眉間に皺を寄せた。
🖤「行くなら今しかない。合図を送ってきたってことは、もう時間がないんだ」
🧡「合図って、誰から?」
皆に見えるようにスマホの画面を向ける。そこに書かれているのは「お迎えの時間ですよ」という一文だけ。
🖤「柊さんから。多分、柊さんが催眠を使う仕事は終わった。ってことは、久世が阿部ちゃんに異能を使わせてるんだと思う。それも、電脳総命のアルカナムから」
💛「となりゃ、躊躇する理由はねえな」
💜「ふーちゃんで移動しよう。その間に、芙蓉、久世側にいる異能力者を教えて」
「承りましたわ」
💛「行くぞ!」
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