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第二十五章
夢堕蟻牢
夜の砂漠を、私たちは車で進んでいました。
窓の外には、月明かりに照らされた砂丘が広がっています。
「……なんだか、僕、眠くなってきた」
後部座席から声がしました。
「うちもや……」
「今日、そんなに疲れたことあったかしら」
みんな、いつもより口数が少なくなっています。
私は隣に座る歌名を見ました。
小さな女の子が横で歌を歌っています。
次の街に向かう途中、砂漠で倒れてるのを薪拾いに行った御厨くんが見つけ保護してきました。
「親に棄てられたそうよ」
こんな時代です。
私たちは『そうなんだ』くらいにしか思わず次の街まで連れて行くことにしました。
そして歌名は先ほどから、ずっと窓の外を眺めながら歌っています。
「……どうしたの?」
「ううん。なんでもないよ」
歌名は笑いました。
そして――
「お姉ちゃん、疲れたでしょ?違う歌を歌ってあげるね」
「え?」
「眠くなる歌を…」
そう言って、歌名は歌い始めました。
静かで、綺麗な歌声でした。
けれど。
しばらくすると、みんなの様子がおかしくなってきました。
「……あれ?」
「どうしたの綺ちゃん?」
「何を話してたか、分からなくなってきた、かも……」
「うちも……」
ぼんやりとした声。
眠いというより、何かを考えることそのものが億劫になっているようです。
私は歌名を見ました。
「歌名…」
「なに?」
「その歌、止めてくれるかな?」
歌名が、こちらを向きます。
「どうして?」
「……なんとなく」
「ふふっ」
歌名は笑いました。
そのまま、歌を続けます。
そして――
ぐらり。
車体が大きく揺れました。
「きゃっ!」
「何なの!?」
次の瞬間。
タイヤが、砂の中へ沈みました。
「……砂?」
車が傾きます。
そして周囲の砂が、一気に崩れ始めました。
「うわっ!」
「ちょっと待って!」
車体ごと、私たちは砂の中へ滑り落ちていきます。
やがて車が止まると、辺りは静かになりました。
「……みんな、大丈夫?」
返事はありません。
みんな、ぼんやりとしています。
私は外へ出ようとしました。
そのとき。
『……やっと』
歌名の声が聞こえました。
『食べられる…』
振り返ります。
そこにいたのは――
もう、子どもの姿ではありませんでした。
身体が膨れ上がり、巨大な蟻地獄の姿へと変わっていく。
砂の中から現れた巨大な身体。
そして口元には――
二本ではなく、四本の大顎。
「……蟻地獄」
私が呟くと、化物は嬉しそうに笑いました。
『そう…』
その声だけは、歌名のまま。
『私の名前は――夢堕蟻牢』
砂が、再び崩れました。
私たちの足元を、さらに深くへと引きずり込んでいきます。
『逃げられないよ♪』
夢堕蟻牢が笑います。
『ここは、私の巣だから』
私は四本の大顎を見上げました。
……なるほど。
どうやら、厄介な化物に捕まってしまったようです。
コメント
1件
第25話「夢堕蟻牢」、読みました。最初の穏やかな雰囲気から一転、歌名ちゃんが巨大な蟻地獄の化物になる展開にぞくっとしました。特に「眠くなる歌」から車ごと砂に飲み込まれていく流れが不気味で惹きつけられますね。四本の大顎というビジュアルも強烈で、蟻地獄の巣という設定が世界観に合っていて素敵です。この化物の生態や目的が気になります。続きが楽しみです。