「運命というものは…何の予兆もなく訪れる
それは”幸せを与える”こともあれば…
”牙をむく”ことだってあるんだ…」
「ティエラーッ!召集~!」
「分かったよ。ルナ」
ルナの呼びかけで部屋から出たティエラは、2人で司令室へ移動した。
2人が入ってくると、司令官が作戦内容を伝え始めた。
「今回の作戦は、南部地方の『アフリカ民族解放戦線』の殲滅だ。前回に続き、基地はルナが―」
「待ってください」
「?何か問題でもあったか?ティエラ」
「ルナは先の戦いにおいてかなり体力を消耗しています。なにせ、パルチザンの力は比較的強大なものでした。それに、今回の敵の基地はそんなに大規模なものではありません。そこで、空爆かミサイル攻撃を推奨します」
「!?ティエ―」
動揺しているルナをティエラが抑える。
「そうだったのか…。ならば仕方あるまい。近いうちに行われる”作戦”に向け、力は温存しておかなければな。よし、そうとなれば、空爆だな。ヤツらが空爆で混乱しているところを我々で奇襲しよう。これにて、一旦解散」
「ハッ!!」
軍たちは皆退室し、その様子を見送った後、2人は退室した。
「あ、あのさ、ティエラ」
「?どうした」
「その……ありがとう」
「気にするな」
こうして2人は輸送機に搭乗し、南部地方へと向かった。
基地は空爆によって既に焦土と化していた。
「作戦開始」
隊長のその一言の後、軍とともに2人は一斉に降下し、奇襲を仕掛けた。
結果は、世界国家の圧勝だった。
アフリカ人にとっての希望であった『アフリカ民族解放戦線』は、2人のセイレーンを含む部隊によって一瞬で消し去られた。
その後、エレノイアにて、2人はケンと会った。
「ケン。無事だったか」
「よかったー…。心配したんだよ」
「ご心配おかけしました…えへへ…」
ケンは照れくさそうに笑う。
「そういえば…」
「?」
「どうしてケン君は少年志願兵になったの?」
「自由になりたいからです」
「自由に…?」
『自由』という言葉にティエラが反応した。
「俺、家族が貧乏で…。父は農家、母と姉は工場で働いてて、俺と妹はゴミ拾いで今までなんとか生計を立てていたんです。お金がないから、みんなやりたいことができないんですよ…。でも!少年志願兵になって、17歳になるまでにたくさん軍功を上げたら、一生自由に暮らせるほどの賞金が手に入るんです!だから、俺、めちゃくちゃ頑張って賞金を手に入れて…家族みんなで自由になりたいんです!そうすれば、今まで俺を養ってくれた家族への恩返しにもなるし!」
「もし自由になったら…何がしたいんだ?」
「う~ん、まずは世界一周…そんで飽きるまで食いまくって…それで…。…。まあ、いろいろです」
そう言ってケンはニッと微笑む。
「そうか。俺からも、一ついいか?」
「?はい!もちろん!」
「お前にとって…”自由”とは何だ?」
「やりたいことが何でもできる、ですかねぇ…。行きたい場所にいつでも行けたり、食べたいものがいつでも食べられたり、休みたいときにいつでも休めたり…そんな毎日を送ることです!まあ、とにかく”幸せ”ってことですね!」
「”幸せ”…か。なるほど…」
その日の夜、ティエラは独り、考え事をしていた。
(やりたいことがなんでも…か。何の前触れもなく召集命令が下されることも、何者かに恨まれることも、命を狙われることもないのか…。確かに…幸せなのかもしれないな…。そんな毎日を送れるなら送ってみたいものだ…。それが自由ならば…俺は…)
気づいた頃には朝になっていた。考え事をしているうちに寝てしまっていたようだ。
それから一週間、多くの戦場を転々とした。
「ティエラさん!俺、今日は砲兵をやったんです!初めは慣れなかったけれど…だんだん慣れてきて…上官の人にも『覚えるのが早い』って褒められたんですよ!」
「へぇー!ケン君はスゴイね!!」
「そうか。それはすごいな。これからも精進するといい」
「はいッ!!」
ティエラ、ルナ、ケンの3人は作戦の後、よく会い、よく話すようになっていた。
ティエラも、ケンと話すことに関しては、全く悪い気がしなかった。
「今日でお前が部隊に配属されて一カ月だな。ケン」
「あッ!!確かに!」
「つまりそれって、今日が『私たちが出会って一か月記念日』ってことだよね!」
「そういうことになるな」
「それならさ!今日、皆でご飯食べに行こうよ!ケン君、この後予定ある?」
「ないです!行きます!!」
「ティエラは?」
「ない。行く」
「………」
「…何だ。そんなに驚いた顔して」
「来てくれるんだ…」
「暇だからな」
「…フフッ」
「何がおかしい」
「別にィ~?じゃ、行こっか!!」
ティエラ、ルナ、ケンの3人は夕食を共にした。
「それで俺!上官の人にこう言ってやったんですよ~!」
「へぇ~!ケン君も言うね~!」
「えっへへ~!」
「そうか、それはすごいな」
「もうッ!ティエラったら!もうちょっと楽しそうにしようよ!」
「…悪かったな」
…実をいうと、ティエラはこのとき、充分楽しんでいた。
誰かとこうして時間を過ごすことがこんなに楽しいことだとは、ティエラは知らなかった。
こうしてティエラは”幸せ”を知った。
知らぬ間に、ティエラの口角は、少しだけ上がっていた。
それとともに、彼は不安を感じていた。
いつまでこの幸せが続いてくれるのだろう、と。
運命は、必ず訪れる。
それが吉と出るか、凶と出るか、はたまたそれがいつ訪れるかは、誰にもわからない。
「ティエラさん!ルナさん!今日はありがとうございました!」
「うん!また明日!」
「またな」
「はいッ!!」
次の日、
「ついに”あの日”が近づいてきた。そう、『対馬上陸作戦』の日だ。この作戦は、じきに来るであろう極東公国との”決戦”のための重要な作戦だ。そして今日はその下準備のため、釜山、カムチャッカ半島に拠点を設ける。油断はするな。また新たな反乱勢力が奇襲を仕掛けてくる可能性もある。いいな!」
「ハッ!!」
「あと、我々の部隊はカムチャッカ担当となっている。釜山はヴィーナス・テティス部隊が担当する」
総員、輸送機に乗りカムチャッカへと飛び立った。
カムチャッカへと降り立つと、全軍、着々と準備を進めていた。
準備を終えると、皆、休憩し始めた。
「寒いね…」
「そうだな…」
ルナはさっきから何度も両手の平に息を吹きかけている。ティエラもその横で身体を縮こまらせていた。
そんな2人の横で、ケンはピンピンしていた。
「ケン君、寒くないの?」
「はい!これぐらいの寒さ、大したことないですよ!」
「そうか、おまえは旧モンゴル地域の者だったな。寒さに強いわけだ」
「へぇ~。ケン君はスゴ―」
そのときだった。突然全身を白い布で包んだ集団が軍に奇襲を仕掛けてきた。
「あれはッ…!パルチザン…!?まだ生き残りがいたのか…」
突然の奇襲で軍は押され気味となった。
ティエラ、ルナも反撃に出たが、なかなか思い通りに戦うことができなかった。
極寒の気候に2人の身体が完全に適応してなかったからだ。
(前回は少し温暖なところで戦えたが、今回はそうはいかなそうだな…どうしたらいいものか…)
そんなときだった。
「おい!こんなところでモタモタしてんじゃねぇ!!そこのアンタ!!アンタはヘルシンキ出身だったろ!?北欧人なら、こんな寒さ大したことないはずだ!!アンタも…」
(あれは…ケン…!?仲間を奮起させているのか…!?)
「よーし!皆、冬男の底力、みせてやろうぜ!!」
「おうよ!やってやろーじゃねぇか!!」
その後、北欧などの冬国地域出身の軍の大活躍により、パルチザンによる奇襲は失敗に終わった。
そして、
「よくやった。ケン」
「いえ…それほどでも…」
「本ッ当にすごかったよ、ケン君!!ケン君がいなかったら私たち負けてたかも!!」
「その通りだ。お前は誇りを持っていい」
「えへへ…」
ケンは照れくさそうに笑った。
その後の休日、ルナに連れまわされながらティエラとケンは、様々な場所へ行った。
そして、ついにその日はやってきた。
「いよいよだ…。対馬上陸作戦は我々の部隊に託された。これは、越えなければならない大きな、大きな壁だ。総員、心してかかれ!!」
「ハッ!!」
「それでは、作戦の概要を説明する。まず、半分に分かれる。片方の部隊は艦艇で浜から上陸。戦闘中にルナは輸送機から敵基地を破壊」
ティエラはルナの顔を見た。
視線に気づいたルナはうなずくと、ティエラに微笑んで見せた。
彼女は覚悟を決めたのだ。
生涯の責務を全うすることを。
彼女はもう怖くない。
なぜなら、横にティエラがいてくれるのだから。
「基地を破壊後、パラシュート降下で対馬南部へ上陸。ヤツらを挟み撃ちにする。相手は『極東防衛軍(旧自衛隊)』だ。ヤツらは少数『超』精鋭…。絶対に気を抜くな」
「ハッ!!」
ケンは艦艇での北部上陸部隊に配属された。
「それじゃ、皆、後でエレノイアで会おうね!」
「はいッ!!」
「一瞬で終わらせるぞ」
ティエラとルナの二人は輸送機に搭乗し、ケンは艦艇に乗った。
作戦が始まった。
多国籍軍が対馬北部の浜から上陸し、数分歩いていたそのとき、一発の銃声とともに相互の軍による総攻撃が始まった。
「うおおおおおおおーッ!!!!」
ケンは咆哮を上げなら仲間たちとともに、敵地に突っ込んだ。
一方その頃、
「射程距離内に入りました!」
「ルナ。出番だ」
「了解」
「ルナ…」
「ありがとう、ティエラ。私はもう大丈夫だから」
そう言ったルナの目に迷いはなかった。彼女には断固とした覚悟が定まっていた。
ルナの『幻月(例の光弾を飛ばす技)』で基地を吹き飛ばすと、全軍、パラシュート降下で奇襲した。
終始、世界国家が優勢ではあったものの、極東防衛軍の激しい抵抗により、予想以上の犠牲が多国籍軍から出た。
作戦終了後、突然大雨が降ってきた。軍は輸送機へ雨宿りしに行った。ルナもそれに続こうとした。
しかし、
「?ティエラ?早く行こうよ。風邪ひいちゃうよ?」
「いや…お前は先に行っててくれ」
「えッ?ちょッ、ちょっと!ティエラ!」
ティエラは胸騒ぎを感じていた。胸騒ぎがして止まらなかった。
ティエラは独り、土砂降りの中、大量の死体の中を歩いた。
どれほど歩いたのだろうか。
そのときだった。
”ソレ”は、そこにいた。
ティエラは土砂降りの中、”ソレ”を見つめながら立ち尽くした。
大雨に打たれながらティエラが見下ろし続けた”ソレ”。
”ソレ”は大量の死体の中、倒れていた。
ティエラには”ソレ”以外のものは、もはや目に入ってなどいなかった。
”ソレ”は、見るに堪えない姿となった、ケンの死体だった。
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