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何だろう?身体が揺れている。いや、誰かが叫んでる?。そうだうずめさんはどうなったんだろう?。俺の腕の中にはいないみたいだ。庇ったはずなのに手を離したのか?俺の馬鹿野郎!。まさかあのデカすぎる大蛇に喰われたりしてないよな?。…それにしても身体が揺れる。何してんだよ?
「レオくん!息をして!しっかりしなさいっ!!。帰ってくるのっ!!。勝手に死んだら許さないわよっ!。片思いなままで死なせないからっ!」
「ごふっ!?。…はぁ!はっ!?はぁはぁはぁ。…あれ?。ん?うずめさん。と初神さん。え〜っと。俺…もしかして倒れてました?。ヤバいなヤバいなーって思う間もなく気を失ったんで…ひ、貧血かなぁ?。あはは…」
あの大蛇が俺を食おうと大口を開けて襲いかかって来たと同時に、突如として闇になった。しかし大きく息を吸った途端に肉体が目覚める。俺の腰に跨り、苦悶の表情で胸をタイミングよく押し続けていた初神さんが、その手を止めて身を起こすとペタンと座り込んだ。むにっと乗った彼女のお尻と生足な両太もも。股間が乗っているソコはかなりヤバいんですけど…
「はぁはぁはぁ。…はぁ…良かったあ。身体は何ともない?。顔色も戻ったわね。それよりも誰よ?うずめって。あたしはハジメですけど?。ったく、助けてもらってて他の女の名前を呼ぶなんて。あ〜あ、スカートが破れちゃったわぁ。…レオくん?べ・ん・しょ・う・してくれるわよね?」
「それは…勿論ですけど。それとハジメさん、そろそろ降りてくれませんか?。(あの、俺のに…モロに…乗ってるんですけど。スゴく、柔らかいところが俺のを圧してて…ちょっと…気持ち良くなりそうで…やばいです…)」
「え?あれれ?。これかな?。こうするとぉ気持ちいい?。ジャージだもんねぇ。…ん♡。ホントに♡相性が良いのかも♡。いっそ入れちゃう?」
俺が逃れようとしている事に気付いていたのか、ハジメさんが腰をクイックイッとスケベに前後した。彼女の言う相性がどうとかは知らないが、俺の薄灰色なジャージと黒いボクサーパンツと、彼女の何色かは解らないパンツだけが遮るソコはとても絶妙に密着して腰がゾクリとしてしまった。
この初めての感覚は自慰行為とは違い、やはり人間の男女とゆう対の肉体が重なってからこそ感じる快感なのだと思い知らされる。しかし俺が欲しい快楽はハジメさんとではなく、うずめさんと叶えたいのだ。生体とそうでない体が適合するのかはどうあれ、感じ合うのならうずめさんが良い。
「いーえ。ハジメさんとそーなると癖になるかもだからやめておきます。よっと。…何にしてもありがとうございました。でも何で解ったんです?俺が死にかけてるって。…あ。すみません。…当たっちゃいましたね。(女の子って不思議だなぁ。同じおっぱいでも感触がそれぞれ違うんだし。だとするならば、やはり○マ○コも違うんだろうなぁ?。って!?こら!)」
とにかく。ハジメさんの背後にはうずめさんが立っているのでとにかく腰からハジメさんを下ろした。俺が身を起こして、細いくびれを両手で掴んで降ろそうとした時に彼女の胸が俺の肩にふにゅんと乗り上げた。その感触たるや殆ど生乳だ。薄青色なブラウスの下はキャミソールだろうか?。何となくだが、肩紐が細い下着を着けているのが軽く透けて見えていた。
うずめさんと出会っていなければ、俺はきっとハジメさんとお付き合いしたのかも知れない。しかし俺みたいなガキでは不釣り合いな気もするし、彼女が望む距離でいたのかも。何にしても、とても魅力的な年上の女性であることに変わりはないし、これからも『つかず離れず』で充分だろう。
「ん♡。あら?もうおしまい?。揉まないの?。…ああ。それね。何だか誰かに呼ばれた気がしたのよ。それで来てみたらぁレオくんが倒れてたのね?息もしてないし心臓も止まってたから蘇生術をやってみたのよ。何となく微妙な反応があったから続けてたら目を覚ましてくれたって訳♡。ほらぁ生命の恩人なお姉さんに感謝のキッスはぁ?。それともセクるぅ?」
「いーえ。セクりませんしキスもだめです。…そもそも会って三日ですよね?それにハジメさんってそんなに軽い女性じゃないでしょう。ガキだからって誂うのはやめてくださいよ。…(セクるって何?。何かの隠語?)」
「あ〜ら失礼しちゃう。あたしはいつだって大真面目なんですけどぉ?。レオくんになら買われちゃっても良いなぁ♡って本気で思ってるんだからねぇ?。うふふっ♪。…あ、ついでだから、ね?スマホ持ってるんでしょう?。連絡先を交換しましょ♡。それと…明日、頼まれていた飲食店の面接だから。『ド素人な方が教え甲斐がある』んだって。ほら?スマホは?」
「………あ。(しまったぁ…そうだよ。…日本人の必需品なのに…)」
う。そうだった。ずっと何かを忘れていた事にようやく気づけた。今や普及率が90%を越えているスマートフォンは、もはや日本人としての必須アイテムだと言っていい。そう。俺は18歳にもなって、過去に1度も持ったことが無い。連絡先はいつも寮の固定電話で、使用する際には寮母さんの許可が必要で、その連続使用時間も…10分までと決められていた。
それも俺に友人がいなかった理由のひとつだと言える。クラスで持っていないのは俺だけだったし、高校内でも持っていないのは俺と幼馴染みのカリンだけだった。しかしアイツは女の子の友達がやたらと多かった。そのきっかけは学園祭の演劇で、準主人公である敵ボス男子を演じてからだ。俺は生徒会の手伝いで見に行けなかったのだが、確か1年生の頃だろう。しかしアイツは他人の目を全く気にしないから嫌いだ。会いたくもない。
「いや…スマホ持ってなくて。今日契約に行くつもりだったんですけど、ちょっと無茶ぶりされて徹夜しちゃって。さっきまで寝てたんですよね。あはは…(しまったあ。最低でも連絡先は必要なのわかってたのに…)」
「持ってない!?。ますます貴重な子だわぁ♡。ネットの世界に穢されていない18歳の黒髪な美青年♪。いい?ネットの世界は汚物まみれなんだからね?。自分が知りたい事だけを調べる手段にするのよ?。他人の言葉に惑わされたりしたら人生を損するんだからね?。…いい?わかった?」
「はい。気をつけます。とにかく面接は明日なんですね?どんなお店なのか教えてもらえると有り難いんですけど?。(近いですハジメさんっ!。うずめさんが後で見てますから!。…でも無事だったんだ。…良かった。)」
そんな感じで落ち着いた所にけたたましいサイレンが聞こえてきた。それは通り過ぎるのだろうと思っていたのに、すぐそこで音が消える。そして車のドアを開ける音と同時にバタバタとした慌てる足音が聞こえてきた。それは通りに面する俺の部屋に集まっているように聞こえる。まさか…
「ふぅん?。獅子神獅子ねぇ?。県立高校卒の18歳。…あ。中型二輪の免許はあるのかぁ。…え?。ラ・白姫に住んでんの?。あそこは白い着物の女の幽霊が出るって有名だけど、アンタはなにか見たことあるのか?」
「え〜と。…いえ、特には。(一緒に暮らしてるなんて言えないよなぁ…)」
「ふぅん。…まぁ見た目は合格をあげるけど、接客が苦手なのはちょっとねぇ?。それに特技が無しとか、今どきの子は書かないわよぉ?。志望動機が料理の勉強だなんて。ここで働くよりも調理師学校にでも通えば?。ああ、予算的な問題だねぇ?ゴメンごめん。…んで?包丁は使えるの?」
そこは歓楽街の外れにある小さな焼き鳥専門店。四人がけのボックス席が四つと、L字型なカウンターには八席ほどあった。中規模と言える店内なのだがメニューは多くない。しかし全ての席が埋まれば24名のお客様となる。それをこの人はひとりで賄っていたとするなら尊敬できなくもない気がした。銀色な髪をお団子にして後ろ頭に着けていて、紺色の作務衣とゆう出で立ちで『The職人』を醸し出している。見下す態度にムカつく。
「プロのようには使えませんけど…最低限にならなんとか。(高圧的な奴だなぁ。コイツ。…まぁ…雇う側だからこんな態度ができるんだよな。見た目はハーフ系の美少女だけど、けっこう性格破綻してるみたいだし…)」
「はぁ。それも基本から教えないとイケないのねぇ?。あのね?この店はプロが回してるの!すずめとゆうプロがねっ!?。美味しい物を出してお金もらってるんだから!?。まぁいいわ。今日から入りなさい。いい?」
「!?。は、はい。ありがとうございます。(コレだけ高飛車にモノを言っておいて結局は雇うんかーいっ!。大神すずめ《オオガミ・スズメ》さん!。俺はアンタを絶対に超えて見せるっ!。…吠え面かくなよっ!?)」
高校の頃の就活に全敗した俺が、社会に放り出されて初めて受けた面接に簡単に通ってしまった。会社の規模は違えども俺は社会人1年生としてようやく発進できる気がする。面接時間は僅か8分。上の会話がその全貌なのだが歳下な女の子の気遣いなど全くなかった。そして俺は雇われる身だ少々の忍耐は必要だろう。なぁに、施設と比べれば天国みたいな職場さ。
「ありがとうございました♪ハジメさん。わざわざ着いてきてもらって。これで俺もスマホデビューできました。これで連絡先もちゃんとできたしホッとしましたよ。…そうだ。このお礼は改めてさせてもらいますね?」
「いいのよ、気にしないで?。それよりもいいの?このお金を貰っちゃっても。…まだ引っ越したばかりでしょ?。お金は必ず必要になるわよ?。(なんだかレオくん…凄い高級な腕時計してない?。ちょっと古いけど、よくお金持ちとかが着けてるやつよねぇ?。まさか買ったのかしら?)」
「約束ですからね。それにスマートフォンの契約でも色々と助けてもらったし。出会ってからほんの4日なのに…なんだか世話になりっぱなしで本当に申し訳ないです。…あと3時間以上ありますね。一旦帰りますか?」
「そうね。あたしは今日はお休みたけど。あ、そうだ。あたしの部屋に寄ってくれない?。天井に埋め込まれてる照明の電球が切れかかってて手が届かないのよ。ほら、レオくん背が高いし、替えてくれると助かるわ?」
「そうゆう事だったらいつでも言って下さい。背が高いくらいで他に取り柄もないんで、それでも何かの役に立てるなら嬉しいです。行きましょ。」
ようやく落ち着いた気がした。なにはともあれ、望んでいた業界で仕事にもありつけたし、ハジメさんとの約束も破ること無く果たしたと思う。買ったとか買ってないとかではなく、生命の恩人であることには変わりはない。うずめさんが彼女を呼んだのだのだ。自ら放った罪の言霊に貫かれ、昏睡に陥り、心肺停止になった俺を蘇生させる術を彼女は知らなかった。
「……よっと。…ハジメさん?他にはありませんか?」
「うん♪ありがとう。…お茶を入れたわ、少しあたしと話しましょ?」
「ああ…はい。…ありがとうございます。(う〜ん。直に来ちゃったな。うずめさんにも面接受かった報告したいのに。まぁすぐ隣だし、一人暮らしの女性の部屋に、そんなに長居するのも良くないしな。お茶を飲んだらさっさと帰ろう。…店に入るのが3時30分だから、まだまだ余裕だな…)」
俺は照明のカバーを取り付け終えると腕時計をチラリと見た。現在12時17分。面接を終えスマートフォンの契約を終えたにしては時間が余ってしまった。しかし初めて他人に認められた気がして変な高揚感がある。まだ働いてもいないのに厚かましくないか?。そう思ってもやはり嬉しい。
初神ハジメさんの部屋はすごく綺麗に片付けられていて、大人な女性の甘い雰囲気を香らせていた。化粧用の鏡台の縁にはぐるりと丸い電球が嵌め込まれている。置かれた大型テレビと低いソファーセットもどこか優雅で天井から吊るされたシルクのカーテンで仕切られた先は、どうやらベットルームみたいだ。真っ白で楕円型なローテーブルが部屋に馴染んでいた。しかし部屋そのものは確かに古い。俺の部屋は…やはり事故物件なのだ…
「真面目な話よ?。レオくん…あの部屋に誰かいるわよね?。そして君はそれを知りながら放置している。いいえ、もしかしたら共同生活をしているんじゃないかしら?。…根拠は昨日の声よ?。『レオを助けて。』彼女はアタシの脳に直接話しかけたの。キミの名を知り…そして慕っているわ。つまり最低でもキミは彼女を認識しているはずよね?。…違うかしら。」
「う。それは。(いきなりの核心っ!?。しかもド真ん中に突き刺さってるしっ!。そしてこの真っ直ぐに見る明茶色な瞳はっ?。どうする!)」
「いーかな?レオくん。…あの部屋ではね?この5年で12人の女の子たちが入れ替わっているの。そもそもこのラ・白姫は、名前の通り女性専用のコーポなのよ。でも悪い噂が広がって、女性の入居希望者は二年前から一人もいない。だからキミがきたんだけど…どんな女なの?その怨霊は。」
「うう。どーゆー女と聞かれても。(みんなには怨霊あつかいされてるんだ…うずめさん。オレ以外の人達がまともに見られないし話せないだけなのに、うずめさんを悪く言われるのは何か嫌だなぁ。でも擁護すると…)」
「でもレオくんには、そんな怨霊に取り憑かれている感じがしないのよねぇ。前の住人の女の子は半狂乱になって部屋中にハーブ入りの油を撒いたり魔除けの札を貼りまくったり凄かったのよ。最後は自分の首を…ね?」
「…自分の…首を。(やっぱり死者が出てるんだなぁ。そりゃ知らなきゃ怖がられても仕方ないけど、うずめさんはそーゆー子じゃないんだよなぁ。でも俺と同居してもらっているのは事実だし、どう説明したらいい?きっとどう言葉を選んでも理解なんてして貰えないだろうし。困ったなぁ…)」
う〜む。これはどうしたものだろう?。自ら命を絶った前の住人には気の毒な気もするけど、何も知らずに怨霊あつかいして勝手に怖がっていた彼女にも問題があるような気がするし。そんなことを考えているうちに、正面に座っていたハジメさんが俺の隣に腰を下ろした。鼻腔を擽る大人な女性の甘い薫り。あまりの近さに身体が硬直してくる。もしかしてヤバい?
「もしかして話せないのかなぁ?。そりゃ幽霊か怨霊と同棲してるなんて言えないわよねぇ?。…可愛い人なの?。それともレオくんが夢中になるような綺麗な人?。アタシの霊感が正しいとして、祟られていない君は彼女を受け入れている事になるわね?。でもひとつだけ忠告させて。彼女に触れても良いけど男女として交わらないこと。霊とは命に固執するわ。その命は精に繋がっている。…愛しているとしてもセックスをすれば、レオくんは生命そのものを削り取られるのよ?。解りやすく言えば…死ぬわ。」
「………そうなんですね。…はぁ。全部お見通しか。そう、昨日オレが死にかけたのも彼女を好きになったからです。愛しているとか好きだとか、その想いを言葉にするとそれは穢れた言霊となって俺の命に直接攻撃してきます。それは心臓だったり脳だったり。その時々で違うらしいです。それでも俺は彼女と約束したんですよ。必ず成仏させてやるって。だから彼女が望むなら、成仏に必要ならなんだってやります。セックスだってね?」
俺の肩に頭を乗せていたハジメさんが、異常すぎる俺の告白に驚いたように顔を上げた。俯いたままの俺の顔をすぐ横から覗き込むと、何かを確信したかのように小狡く笑んだ。その時、俺の背中に悪寒が鋭く走る。しまった!墓にまで持っていくべき秘密を俺は漏らしてしまったのかも知れない!。そうは思ってみても、発した言葉は二度と戻らない。しくじった!
「あらら。本当だったのねぇ。…222号室の野々神ちゃんに聞いたとおりだわ。彼女も霊感を持ってるのよ。アタシよりは弱いけどね?。キミの部屋で一晩中仕事をした後、キミが眠ってしまった直後に、その恋人が突然現れたんですって。まぁ…ののかちゃんがレオくんにヤラシイ事しようとしたのが我慢ならなかったんだと思うわ。すごく睨まれたそうよぉ?」
「そんな事があったんですね。…それで?ハジメさんはどうしたいんですか?。俺が心を許し、同棲しているその怨霊を祓う気ですか?。だとするなら俺は迷わず彼女を守ります。俺が噂されるのは構いませんけど…彼女のことは穏便にできませんか?。…いつ消えてしまうか解らない人なんです。俺はその日が来るまで傍にいると誓いました。だからその日まで…」
俺は初神ハジメさんに見事に誘導されてしまった。つまりはカマを掛けられてバカ正直に応えてしまったのだ。これは一大事だと捉えて間違いないだろう。まぁ…俺が変態あつかいされる程度ならなんてことは無い、だけど心配なのは、うずめさんの身に悪い何かが降りかかること。あの荒涼とした場所で、浮島に寂しく佇んでいた彼女の姿が思い出されてならない。
ただでさえ寂しく悲しく一人で過ごしてきたのだ。話を聞いて欲しくて姿を現しても、誰の目にもひどく醜く映り、誰の耳にもあのコロコロと可愛い声は届かなかった。想像を絶する孤独の中で自我を保つことは並み大抵な精神力では難しい。それ故に恨み辛みが募る物なのに、怨霊と呼ばれるうずめさんはその欠片さえ俺には見せない。だからこそ尊い女性なのに。